短編
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「あ」
晩御飯のおつかいの帰り。
スーパーの袋を持った私は暗い夜道を1人で歩いていた。
まだ6時をまわってまだちょっとしかたってないのに暗い。
いつもの道も人通りが少なくなり、ひっそりとしている。
ふと、公園の方を見たとき、灰色の何かが目に入った。
あの上着…
間違いない
「なにしてるの、不二」
「あ、名前」
ひとり、寂しい街頭の光を受け、ブランコに座っていた不二に声をかける。
「やけに余裕ね?天才さん」
「勉強の息抜きだよ」
「明日…でしょ?私立は。」
「うん。」
高校受験。
そんなのまだまだだと思っていたのに。
時は本当にあっという間に過ぎる。
「…明日は学校行かないけど、テスト頑張ってね」
「不二もね。」
内部進学の私たちは外部の子たちと同じ試験を受ける。
それでよっぽど点が悪くなければ大体がそのまま高校に上がれる。
不二みたいに外部進学の生徒は明日は休み、都内の私立高校は明日一斉入試で、公立入試はその一週間後。
私たちは別に緊張もしてないし、普通にテストを受けるだけ。
不二は入学がかかった本気の受験。
「受かるよ」
「え?」
「不二なら受かるよ。」
もし、落ちたら、私と同じ、内部進学で一緒にまた青学に通えるんじゃないか、とか
そんな甘い考えは、不二が青学に進学希望書を出さなかったことを知ってあっけなく消え去った。
ついこないだまで、あけましておめでとうとか言ってた気がする。
でも、もう二月。
そして、すぐ三月がやってくる。
お別れの時が、すぐ、やってくる。
もうちょっと喋っとけば良かった。
もうちょっと一緒にいればよかった。
恥ずかしいから、勇気がないから、そんな理由で話しかけるのを断念したこと、班分けで同じ班になれたのに自分からならなかったこと、修学旅行で新幹線、隣の席の子と変えてもらえば良かったのに言えなかった事。
全部、バカみたいだ。
長いようで短い三年間。
時は無情にもスピードを緩めたりしない。
「明日、頑張ってね。」
「うん。」
そんな事しか言えない私。
告白しちゃえばいい。
2人きり、夜の冷たい風に吹かれ、人のいない公園に2人きり。
チャンスだ、わかっている。
でも、言えない。
どこまで臆病者なんだろう。
もし、気持ちを受け止めてすらもらえなかったら、もう見つめることも辛くなってしまう。
このままお別れするのと、どちらが楽か。
あと三年あると思っていた。
不二を初めて見たその日から、初めて喋った一年の頃から、まだ時間はあると思っていた。
気が付いたら、もう時間などなかった。
言うんだ名前。
言って反省するのと、言わずに後悔するのと どちらが辛いかわからないのか。
「不二」
「名前」
私がやっと口を開くと同時に不二も口を開いた。
目配せで先に話すよう促すと、一度俯いたが、顔を上げて不二が言う。
「土曜に合格発表なんだけど、一緒に行ってくれない?」
「私?」
「うん」
いいけど、別に。
あ、あの文化祭の、可愛い同小の子もいるんじゃないのかな。
だって同じ塾なんでしょう?
仲いいんでしょう?
「それで、受かってたら、言いたい事があるんだ。だから、一緒に来てくれない?」
不二の白い顔が、白い街頭の光でいっそう白くなって
いつもの優しげな目は、真剣で
そんな見つめられ方したら 断れるわけがない
「言いたいことって?」
「それは秘密。」
「…いいよ。行く。」
「ありがとう。」
なに 言われるんだろう
「名前」
「なに?」
「試験前に名前に会えてよかった。」
「偶然通りかかっただけだよ。」
「うん」
「受験、頑張ろうね。」
「ねぇ名前」
「ん?」
「送ってくよ、暗いから。」
「大丈夫、まだ遅い時間じゃないし。あ!お母さんに怒られる!じゃあ土曜日にね!」
「…うん」
スーパーの袋を持ち直し、公園を早足で出た私の耳には届かなかった。
不二の言葉。
「…受からなくちゃ、言えないな…好きって。頑張らなくちゃ。」