短編
はじめにお名前変換してください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうしよう」
どうしよう
これほどこの言葉にぴったりな気持ちになったことはない。
今日はオトメの最大イベント。
聖バレンタインデー。
「知らなかった、じゃすまないよ…」
今日は一大決心をして、すっごい苦労もして手作りのチョコを作って、テニス部の朝練にも間に合うよう早起きして、寒い中来たというのに。
テニスコートに向かって歩いてると宍戸が見え、見つかると何かと面倒だと思い、ちょっと歩調を緩め、隠れるところはないかと思っていた矢先に宍戸と並んで長太郎が見えた。
心臓が跳ね上がる。
委員会が一緒な長太郎は図体でかいくせに可愛くて、でもかっこよくて、優しくて、いい子だ。
今日は、前々から思い立っては諦めの繰り返しだった告白というものをしようとこんな朝っぱらから学校にいるのだ。
宍戸が邪魔なので早くどっかに行ってくれないか、と思っていると予想外のことが起きた。
「ん。」
「!! えっ俺にですか!?」
「世話になったしな。」
「ありがとうございます!」
あろうことか宍戸が長太郎に包みを渡した。
ラッピングはされておらず、半透明なコンビニの袋だが、中身はお菓子っぽい。
え?
今日はバレンタインで。
えっ?
好きな人にチョコを渡して思いを伝えるチャンスな日で。
なのに宍戸が長太郎に…?
ええええええ??????
「何してんだよ」
はっと顔を上げると目の前に宍戸。
長太郎はもういなかった。
「!? 何泣きそうになってるんだよ!」
「宍戸が…ライバルだとは…っ!」
「はぁ?なんのライバル…あ、お前今の見てた?」
見てた?じゃないわよ!
宍戸は私を一瞥し、鞄とは別に持っている紙袋を一瞥し、ははーんとほくそえんだ。
「お前誤解してるぜ。別に俺はお前みたいにバレンタインだから渡したんじゃねぇよ」
「じゃあなんなの!」
「今日、誕生日だぜあいつ。」
え?
「特訓とか手伝ってもらったからな。礼も兼ねて、大したもんじゃねぇけど渡しただけだ。
お前は…誕生日関係ないみたいだけど?行くなら行けよ。今なら部室にあいつだけだぜ。」
宍戸はポンと私の頭を叩き、そのまま行ってしまった。
どうしよう。
誕生日だったなんて。
いや、チョコを渡して、バレンタインと誕生日を一緒にしちゃえばいい。
けど、やっぱり一緒にしたら失礼だろうか。
クリスマス生まれの子が誕生日と一緒にされてあまり快く思わないのと一緒で、バレンタインと一緒にされたら嫌なのではないか。
でも、チョコしか用意してないし、今の時間じゃコンビニくらいしか開いていない。
どうしよう。
もう告白どころではない。
しかも、もし告ってふられたら私だけでなく長太郎も気まずいのだ。
好きな人を誕生日に気まずくさせるなんて。そんなことは出来ない。ていうかこれじゃ振られるの前提じゃん!
紙袋から箱に入ったチョコを取り出す。
大きさの不揃いなトリュフ。
「ハッピーバレンタイン」と描かれたチョコよりはマシだが、誕生日おめでとう!という感じではない。
誕生日がバレンタイン。
「これ、バレンタインだから…」と渡したら「誕生日は?」となる。
「誕生日おめでとう!」と渡したら「義理チョコか」になる。
長太郎のことだ、口や表情には出さないだろう。
でも、きっとそう思われる。
いっそのこと告白もチョコを渡すのも誕生日プレゼントも全部無しにしてしまおうか。
「名前さん?どうしたんですか、こんな早くに…」
振り返ると長太郎。
どうしよう。
見つかった。
まだどうするか決めていない。
なのに私の手にはしっかりとチョコレート。
明らかにバレンタインだから朝練中のあの人に渡しに来たんです、という女子の図だ。
「あ、誰ですか?呼んできますよ?」
「え?」
「コートに入れないけど、声をかけるのもアレですもんね、いっぱい人いるわけだし。こっそり連れてきますから。誰に渡すんですか?」
金ダライが頭の上に落ちてきたような衝撃。
もう告白はしない。できない。
だって、長太郎は私が何も言っていないのに私が渡す可能性の中に自分を入れないで喋っている。
渡されると思っていない。
でも沈んだ様子はない。
完全に脈無しだ。
「長太郎に。」
箱をぶっきらぼうに突き出し、ぶっきらぼうに言う私に目を丸くする長太郎。
「誕生日、だから。」
バレンタイン関係ないから。というニュアンスを含めるように言って無理やり受け取らせる。
結局逃げに使った「誕生日」。
今にも泣きそうな思いをぐっと堪え、無表情で、長太郎を見ないようにしながら、箱から手を離す。
「え、と、ありがとうございます…」
「うん」
「…バレンタインはないんですか?」
は?
長太郎を見ると真面目な顔をしている。
「バレンタインですよね今日。義理…でもいいんで…厚かましいですか?」
「…えっと…それ、中身チョコだから…」
「あっ…誕生日と合同でしたか…」
なにその反応
どうしたらいいんだ
私は咄嗟にコートのポケットに入っていたココア味のミルキーを長太郎に押し付けた。
「じゃ、これ、バレンタイン…」
「…本命?」
こいつは。
私が見上げると真面目な顔をしていた長太郎がふっと微笑んだ。
「いじめてすみません。本命、ですよね?」
「自惚れるな」
「あれ、違うんですか?」
「…違くない。」
私がミルキーを押し付けている手を握りそのまま引っ張って引き寄せられる。
一気に距離が近くなり、そのまま抱きしめられ。
「知ってたんです、俺のこと、好いてくれてるって。」
「?!」
「友達に、話してたでしょう?俺に渡すって。」
「…聞いてたの?」
「聞こえたんです。女の人って興奮すると声大きくなりますよね。しかも自分たちは気付いてない。」
どうやら友達と恋バナに興じているうちに大きな声で秘密を明かしていたらしい。
どこから聞かれていたんだろう。
もしかしていかに長太郎を好きか語ってたのも聞かれてたんだろうか。
「朝もらえる、ってわかってたんですけど、練習始まる時間ギリギリになってもいないから部室から出たら宍戸さんに会っちゃって。
誕生日プレゼント持ってたら誰かに先にバレンタイン貰ったと勘違いされると思って部室に置きに行ったんです。
そしたら宍戸さんが名前さん来てた事教えてくれて。走って戻ってきたのに「誕生日だから」って渡されて軽くショックだったんですよ?」
にこやかに言うこいつが憎い。
じゃあなんで茶番を挟んだの。
私の苦悶はなんだったの。
「好きです、名前さん」
「普通女から告るんじゃないのー?バレンタインって。」
「あっスミマセン…つい…我慢できなくて」
「…いいけど」
あったかい。
寒い朝の空気の中、長太郎はあったかくて。
ぎゅっと抱きつくとさっきまで力強く抱きしめていた長太郎の腕が緩んだ。
なんだこいつ。
さては照れてるな?
「ねぇ長太郎?」
「はい」
「好きだよ」
自分からは告ってきたくせに私がそう告げると耳まで真っ赤にしていきなり私を離した。
「あっいけね!とっくに朝練始まってる!スミマセン俺行きますね!!」
早口に捲し上げるとぎこちなくニコっと笑い、そのまま凄い速さで走って行ってしまった。
どうしよう凄い可愛い。
この時の私は、朝練の後に宍戸や忍足に散々からかわれる事をまだ知らない。
どうしよう
これほどこの言葉にぴったりな気持ちになったことはない。
今日はオトメの最大イベント。
聖バレンタインデー。
「知らなかった、じゃすまないよ…」
今日は一大決心をして、すっごい苦労もして手作りのチョコを作って、テニス部の朝練にも間に合うよう早起きして、寒い中来たというのに。
テニスコートに向かって歩いてると宍戸が見え、見つかると何かと面倒だと思い、ちょっと歩調を緩め、隠れるところはないかと思っていた矢先に宍戸と並んで長太郎が見えた。
心臓が跳ね上がる。
委員会が一緒な長太郎は図体でかいくせに可愛くて、でもかっこよくて、優しくて、いい子だ。
今日は、前々から思い立っては諦めの繰り返しだった告白というものをしようとこんな朝っぱらから学校にいるのだ。
宍戸が邪魔なので早くどっかに行ってくれないか、と思っていると予想外のことが起きた。
「ん。」
「!! えっ俺にですか!?」
「世話になったしな。」
「ありがとうございます!」
あろうことか宍戸が長太郎に包みを渡した。
ラッピングはされておらず、半透明なコンビニの袋だが、中身はお菓子っぽい。
え?
今日はバレンタインで。
えっ?
好きな人にチョコを渡して思いを伝えるチャンスな日で。
なのに宍戸が長太郎に…?
ええええええ??????
「何してんだよ」
はっと顔を上げると目の前に宍戸。
長太郎はもういなかった。
「!? 何泣きそうになってるんだよ!」
「宍戸が…ライバルだとは…っ!」
「はぁ?なんのライバル…あ、お前今の見てた?」
見てた?じゃないわよ!
宍戸は私を一瞥し、鞄とは別に持っている紙袋を一瞥し、ははーんとほくそえんだ。
「お前誤解してるぜ。別に俺はお前みたいにバレンタインだから渡したんじゃねぇよ」
「じゃあなんなの!」
「今日、誕生日だぜあいつ。」
え?
「特訓とか手伝ってもらったからな。礼も兼ねて、大したもんじゃねぇけど渡しただけだ。
お前は…誕生日関係ないみたいだけど?行くなら行けよ。今なら部室にあいつだけだぜ。」
宍戸はポンと私の頭を叩き、そのまま行ってしまった。
どうしよう。
誕生日だったなんて。
いや、チョコを渡して、バレンタインと誕生日を一緒にしちゃえばいい。
けど、やっぱり一緒にしたら失礼だろうか。
クリスマス生まれの子が誕生日と一緒にされてあまり快く思わないのと一緒で、バレンタインと一緒にされたら嫌なのではないか。
でも、チョコしか用意してないし、今の時間じゃコンビニくらいしか開いていない。
どうしよう。
もう告白どころではない。
しかも、もし告ってふられたら私だけでなく長太郎も気まずいのだ。
好きな人を誕生日に気まずくさせるなんて。そんなことは出来ない。ていうかこれじゃ振られるの前提じゃん!
紙袋から箱に入ったチョコを取り出す。
大きさの不揃いなトリュフ。
「ハッピーバレンタイン」と描かれたチョコよりはマシだが、誕生日おめでとう!という感じではない。
誕生日がバレンタイン。
「これ、バレンタインだから…」と渡したら「誕生日は?」となる。
「誕生日おめでとう!」と渡したら「義理チョコか」になる。
長太郎のことだ、口や表情には出さないだろう。
でも、きっとそう思われる。
いっそのこと告白もチョコを渡すのも誕生日プレゼントも全部無しにしてしまおうか。
「名前さん?どうしたんですか、こんな早くに…」
振り返ると長太郎。
どうしよう。
見つかった。
まだどうするか決めていない。
なのに私の手にはしっかりとチョコレート。
明らかにバレンタインだから朝練中のあの人に渡しに来たんです、という女子の図だ。
「あ、誰ですか?呼んできますよ?」
「え?」
「コートに入れないけど、声をかけるのもアレですもんね、いっぱい人いるわけだし。こっそり連れてきますから。誰に渡すんですか?」
金ダライが頭の上に落ちてきたような衝撃。
もう告白はしない。できない。
だって、長太郎は私が何も言っていないのに私が渡す可能性の中に自分を入れないで喋っている。
渡されると思っていない。
でも沈んだ様子はない。
完全に脈無しだ。
「長太郎に。」
箱をぶっきらぼうに突き出し、ぶっきらぼうに言う私に目を丸くする長太郎。
「誕生日、だから。」
バレンタイン関係ないから。というニュアンスを含めるように言って無理やり受け取らせる。
結局逃げに使った「誕生日」。
今にも泣きそうな思いをぐっと堪え、無表情で、長太郎を見ないようにしながら、箱から手を離す。
「え、と、ありがとうございます…」
「うん」
「…バレンタインはないんですか?」
は?
長太郎を見ると真面目な顔をしている。
「バレンタインですよね今日。義理…でもいいんで…厚かましいですか?」
「…えっと…それ、中身チョコだから…」
「あっ…誕生日と合同でしたか…」
なにその反応
どうしたらいいんだ
私は咄嗟にコートのポケットに入っていたココア味のミルキーを長太郎に押し付けた。
「じゃ、これ、バレンタイン…」
「…本命?」
こいつは。
私が見上げると真面目な顔をしていた長太郎がふっと微笑んだ。
「いじめてすみません。本命、ですよね?」
「自惚れるな」
「あれ、違うんですか?」
「…違くない。」
私がミルキーを押し付けている手を握りそのまま引っ張って引き寄せられる。
一気に距離が近くなり、そのまま抱きしめられ。
「知ってたんです、俺のこと、好いてくれてるって。」
「?!」
「友達に、話してたでしょう?俺に渡すって。」
「…聞いてたの?」
「聞こえたんです。女の人って興奮すると声大きくなりますよね。しかも自分たちは気付いてない。」
どうやら友達と恋バナに興じているうちに大きな声で秘密を明かしていたらしい。
どこから聞かれていたんだろう。
もしかしていかに長太郎を好きか語ってたのも聞かれてたんだろうか。
「朝もらえる、ってわかってたんですけど、練習始まる時間ギリギリになってもいないから部室から出たら宍戸さんに会っちゃって。
誕生日プレゼント持ってたら誰かに先にバレンタイン貰ったと勘違いされると思って部室に置きに行ったんです。
そしたら宍戸さんが名前さん来てた事教えてくれて。走って戻ってきたのに「誕生日だから」って渡されて軽くショックだったんですよ?」
にこやかに言うこいつが憎い。
じゃあなんで茶番を挟んだの。
私の苦悶はなんだったの。
「好きです、名前さん」
「普通女から告るんじゃないのー?バレンタインって。」
「あっスミマセン…つい…我慢できなくて」
「…いいけど」
あったかい。
寒い朝の空気の中、長太郎はあったかくて。
ぎゅっと抱きつくとさっきまで力強く抱きしめていた長太郎の腕が緩んだ。
なんだこいつ。
さては照れてるな?
「ねぇ長太郎?」
「はい」
「好きだよ」
自分からは告ってきたくせに私がそう告げると耳まで真っ赤にしていきなり私を離した。
「あっいけね!とっくに朝練始まってる!スミマセン俺行きますね!!」
早口に捲し上げるとぎこちなくニコっと笑い、そのまま凄い速さで走って行ってしまった。
どうしよう凄い可愛い。
この時の私は、朝練の後に宍戸や忍足に散々からかわれる事をまだ知らない。