短編
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ピンポンパンポンー…
「きたー!」
「机の下に隠れろー!」
どんなにクールぶっていてもやっぱり中学生なんです。
つい二、三年前まではランドセル背負っていたんです。
こういうバカみたいな事が楽しくてしょうがない。
『…避難訓練、避難訓練、ただいま西校舎から火災が発生しました、生徒の皆さんは教員の指示に従って速やかに校庭に集合して下さい、繰り返します―…』
「「「…」」」
「おい誰だよ机の下に隠れろって言った奴」
「誰だよ地震訓練だって言った奴」
机の下に潜っていた男子達はガタガタと物音をたてながら文句をたれている。
女子が誰一人として潜らなかった時点でおかしいとか思わなかったのか。その前に今朝担任が今日は避難訓練です、と言った時点で誰かが「地震だー!」と叫んだのが悪いんだけど。あの後男子は勝手に盛り上がってしまって担任が火災だと訂正しているのを全く聞いていなかったのだ。
頭をぶつけたり、足が絡まったりで机の下でもごもごしている男子を眺めながら、やる気なさそうに出席番号順に並べ、と声をかける担任。いいのかそれで。
クラス委員がてきぱきと、ハンカチを口に当てて下さいだの何も持っていかないで下さいだの背の順に並べだの言っている。(あれ、出席番号は?)
後ろの方の席の私は、黒板の前に出来始めた列がなんとなく背の順に見えたので、背の近い向日の方へだらだらと歩いていった。
「お、名前、ハンカチ持ってねー?」
「これしかない」
「ケッ使えねー奴!」
「はぁ?!持ってないアンタが悪いんでしょ!」
「あー部室行ったらタオルあんだけどなー」
そのタオルは何日前の?とはあえて聞かない。
だらだらと列が動き始め、私たちもだらだらとそれに続く。ちなみに1番だらだらしているのは担任である。速やかはどこへ。
「小学生ん時さー、『おはし』ってなかった?」
「あたし『おかだ』だったー」
「マジ?何の略?」
「『押さない・かけない・黙る』」
「へー、こっちは『押さない・走らない・死なない』」
「嘘だ!絶対『喋らない』とかだよ!死なないとか訓練のルールとかじゃないじゃん!」
げらげら笑いながら二人でその事について討論していると、階段を降りきった所で廊下が真っ白なのに気付いた。
途端、地震訓練ではなくて凹んでいた男子達が騒ぎ始めた。大喜びの男子に担任の注意が飛ぶ。
氷帝は訓練に真剣さを求めるあまり、火災訓練ではスモークを焚く。(そのスモークのせいでうるささ五割増なのは皮肉だが。)なるほど、確かに西校舎の連絡廊下から来ているようだ。
手に握っていたハンカチを口元に当て、こりゃ焚きすぎだろう、と思われるほど視界を奪う煙に苦闘しながら何とか前の人を見失わないように、と歩いていたのに、ぐい、と腕を引っ張られ、転びそうになる。
ルールその1『押さない』に反する!一番大事だから1番最初なんだぞ!あ、引っ張られたから押してないか、などと考えていたら、そのままひっぱられ、完全に列から逸れた。
私を危険に連れ込むのは誰かと眼を凝らせば、白い煙の中で、ワイン色が霞んで見えた。
あ、と歩調を速めた瞬間、そいつが止まって、一気に距離が近くなって、はっきり見える位置に向日が現れたかと思ったら、ハンカチの上から更に口を塞がれた。
「『押さない・走らない・黙る』」
もともと声が低いのに、眼力だって強いのに、その瞳の引力と響く低音に捕われてしまって、ただこくこくと頷けば、ニッと笑って手が離れて(あれ、何で、寂しいんだろう、)繋がれていた方の手が私を導いて(あ、こっちはまだ離れていない)顔を上げれば煙の中でぼんやりと光る緑の点の方へ向かっていて(あそこには、扉が、)
校庭には続かない扉が、階段へと続く、扉が、緑の点がだんだん大きくなって、扉が近付いている事を知らせて、ああ、うん、そうだよね、
避難訓練、大切なのはわかってる
でもね、サボるっていうなら大歓迎
(あの担任はきっと人数確認なんてしない)(ていうかさっきのじゃ『おはだ』じゃん)(そんなくだらないツッコミをしたらまた、手を重ねてくれるんだろうか)
「きたー!」
「机の下に隠れろー!」
どんなにクールぶっていてもやっぱり中学生なんです。
つい二、三年前まではランドセル背負っていたんです。
こういうバカみたいな事が楽しくてしょうがない。
『…避難訓練、避難訓練、ただいま西校舎から火災が発生しました、生徒の皆さんは教員の指示に従って速やかに校庭に集合して下さい、繰り返します―…』
「「「…」」」
「おい誰だよ机の下に隠れろって言った奴」
「誰だよ地震訓練だって言った奴」
机の下に潜っていた男子達はガタガタと物音をたてながら文句をたれている。
女子が誰一人として潜らなかった時点でおかしいとか思わなかったのか。その前に今朝担任が今日は避難訓練です、と言った時点で誰かが「地震だー!」と叫んだのが悪いんだけど。あの後男子は勝手に盛り上がってしまって担任が火災だと訂正しているのを全く聞いていなかったのだ。
頭をぶつけたり、足が絡まったりで机の下でもごもごしている男子を眺めながら、やる気なさそうに出席番号順に並べ、と声をかける担任。いいのかそれで。
クラス委員がてきぱきと、ハンカチを口に当てて下さいだの何も持っていかないで下さいだの背の順に並べだの言っている。(あれ、出席番号は?)
後ろの方の席の私は、黒板の前に出来始めた列がなんとなく背の順に見えたので、背の近い向日の方へだらだらと歩いていった。
「お、名前、ハンカチ持ってねー?」
「これしかない」
「ケッ使えねー奴!」
「はぁ?!持ってないアンタが悪いんでしょ!」
「あー部室行ったらタオルあんだけどなー」
そのタオルは何日前の?とはあえて聞かない。
だらだらと列が動き始め、私たちもだらだらとそれに続く。ちなみに1番だらだらしているのは担任である。速やかはどこへ。
「小学生ん時さー、『おはし』ってなかった?」
「あたし『おかだ』だったー」
「マジ?何の略?」
「『押さない・かけない・黙る』」
「へー、こっちは『押さない・走らない・死なない』」
「嘘だ!絶対『喋らない』とかだよ!死なないとか訓練のルールとかじゃないじゃん!」
げらげら笑いながら二人でその事について討論していると、階段を降りきった所で廊下が真っ白なのに気付いた。
途端、地震訓練ではなくて凹んでいた男子達が騒ぎ始めた。大喜びの男子に担任の注意が飛ぶ。
氷帝は訓練に真剣さを求めるあまり、火災訓練ではスモークを焚く。(そのスモークのせいでうるささ五割増なのは皮肉だが。)なるほど、確かに西校舎の連絡廊下から来ているようだ。
手に握っていたハンカチを口元に当て、こりゃ焚きすぎだろう、と思われるほど視界を奪う煙に苦闘しながら何とか前の人を見失わないように、と歩いていたのに、ぐい、と腕を引っ張られ、転びそうになる。
ルールその1『押さない』に反する!一番大事だから1番最初なんだぞ!あ、引っ張られたから押してないか、などと考えていたら、そのままひっぱられ、完全に列から逸れた。
私を危険に連れ込むのは誰かと眼を凝らせば、白い煙の中で、ワイン色が霞んで見えた。
あ、と歩調を速めた瞬間、そいつが止まって、一気に距離が近くなって、はっきり見える位置に向日が現れたかと思ったら、ハンカチの上から更に口を塞がれた。
「『押さない・走らない・黙る』」
もともと声が低いのに、眼力だって強いのに、その瞳の引力と響く低音に捕われてしまって、ただこくこくと頷けば、ニッと笑って手が離れて(あれ、何で、寂しいんだろう、)繋がれていた方の手が私を導いて(あ、こっちはまだ離れていない)顔を上げれば煙の中でぼんやりと光る緑の点の方へ向かっていて(あそこには、扉が、)
校庭には続かない扉が、階段へと続く、扉が、緑の点がだんだん大きくなって、扉が近付いている事を知らせて、ああ、うん、そうだよね、
避難訓練、大切なのはわかってる
でもね、サボるっていうなら大歓迎
(あの担任はきっと人数確認なんてしない)(ていうかさっきのじゃ『おはだ』じゃん)(そんなくだらないツッコミをしたらまた、手を重ねてくれるんだろうか)