雨、雨、ふれ、ふれ、
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「なに、してるんですか?」
何故走ってきたのか知らないが、多少息を切らして前かがみになりながら傘の下の彼はもごもごと言った。
「雨宿り?」
「傘、ないんですか」
「うん」
前髪で隠れた目が何かを考える動きを見せた。
「これ、使ってください」
「え…?!」
いきなり押し付けられた傘。
それだけ言うと日吉はそのまま、雨の中、人ごみに走って混ざってしまった。
「ちょ…っ」
慌てて追いかける。
が、彼は早い。さすが。
信号でやっと追いつき、傘を差し向ける。
まさか追ってくるとは思ってなかったらしく、凄い勢いで振り向かれてしまい、苦笑した。
「ありがとう。でも、日吉濡れちゃうから」
傘の柄をしっかりと握らせ、青になった横断歩道を歩き始める。
走ったから濡れちゃったし、もういいや。
だけど、すぐにまた濡れなくなって。
私の上で傘が、雨水を跳ね返していて。
「じゃ、送ってきます」
断っても聞かなさそうだったので、お言葉に甘えて、傘に入れてもらう。
二人とも中途半端に濡れていてちょっと微妙。
それに日吉の傘は二人で入るには少し小さくて、距離が、近い。
「名前先輩」
「ひゃッはい!なんでしょうッ?!」
いきなり話かけられて、しかも距離的に耳元で、不意打ち2連発で挙動不審になる私。
日吉もびっくりしたのか、一瞬黙ったがすぐ次の言葉を続けた。
「家、知らないので。こっちであってますか。」
「あ、うん、だいじょぶ。」
見上げて会釈、と思ったのが間違いだった。
思いのほか顔が近く、慌てて横を向く。
ああ、なにやってんだろ。
背中に当たってる日吉の腕から、体温が伝わってくる。
「びっくりした。」
「はい?」
「日吉いきなり走って来るんだもん。」
「あ…いえ、その、名前先輩が見えたので。」
「傘押し付けて天狗のように走り去るしさ!!」
「天狗…」
「あっごめん!キノコのように、の間違いだった!」
「…怒りますよ」
でもその声には怒りは含まれてなくて。
冷酷だとか、非情だとか、いろんなコト言われてるけど
ホントは優しいし、熱く燃えてるんだ。
じゃなきゃ、下剋上だなんていわないでしょ。
「…俺のこと、優しいとか思ってたんでしょう」
「あ、うん、あたり」
「そんなことないですよ。人々の恐怖に慄く姿を見て快感覚えるような奴ですよ」
「うわー鬼畜!」
「…」
「でも、優しいじゃん?先輩見つけて走ってきて傘使ってください、なんて。」
「…別に。名前先輩だからですよ」
「へぇ」
私だから、ね。
さらりと言えちゃうとこが、あぁ、意識してないんだなぁって。
「反応はそれだけですか」
「え?ああ、恐怖に慄いて欲しかった?」
「いえ、そうでなくて…」
めずらしいな。
先輩相手でもずばずば物言えちゃう日吉が口ごもるなんて。
静かになると、傘にあたる大粒の雨の音だけが響く。
相合傘ってなにがいいんだろう。
気まずいだけだ。
「私んち、もう近くだから!ありがと!」
まだまだ全然遠いけれど、沈黙に勝てず、傘から飛び出す。
けど、すぐに傘へ連れ戻される。
「嘘つかないで下さい。まだまだでしょう」
「え?なんで知って…」
「ほら、やっぱり」
ちっ はったりかよ!
なんで、とか言っちゃった後に近くだと言い張るわけにも行かず、おとなしく傘の中。
近い。距離が、近い。
「すみませんね、無口で。つまらないやつで。」
「そんなことないよ!日吉面白いよ!演舞テニスのフォームとか!!」
「…。」
あ、もしかして禁句だった?
面白い、は失礼かな、テニス離れしてる!が良かったかな。(それもどうかと)
「あれ」
「なに?」
「…なんで先輩、俺のテニス知ってるんですか?」
わ
痛いとこつかれた!
日吉とは委員会が一緒で。
同じ日の当番で、それでよく話す、ってだけの仲なんだけれども。
そんな私が日吉のテニスを知っているわけないのだ。
「誰ですか」
「へ?」
「コートに、見に来てるんでしょう?フェンス脇にいっぱい女子いるじゃないですか。跡部さんファンとか忍足さんファンとか。誰を見に来てるんですか?」
答えられない。
日吉の声には、絶望と失望の色が見えて。
呆れられた。
ミーハーだと思われた。
本気なのに。
あんなきゃーきゃー言ってる子達と一緒にしないで。
「別に。いいじゃん誰でも」
「…そうですね、俺には関係ないですもんね」
「うん」
ああ、また重苦しい。
早く家に着きたい。
日吉、清楚な子が好きって聞いた、フェンス脇でキャーキャー言ってる子達、ウザいんだろうな。
私も、そのこたちと一緒にされちゃった、んだ。
「その人、かっこいいですか」
「…。」
「部活中。かっこいいですか?」
「部活以外でも、カッコいいよ」
濡れた。
日吉がいきなり立ち止まるから、私だけ傘から出てしまい、ひとりで雨をかぶった。
どうかしたのかと後ろを振り返りざま、なにかに口をふさがれた。
視界が、茶色い。雨のせいで冷たくなっていた鼻先にもっと冷たい何かが当たる。
ぱっとすばやく離された、それは、うん、なんでそういうことするかな。
「すみません。では。」
キスするだけしといて、目も見ず、さっさと踵を返し、立ち去る日吉。
なんなんだ。
なんなんだよ!
「大好きだばかやろーっ!!!!!」
近所迷惑な大声で叫ぶと雨のなかばしゃばしゃと一目散に逃げた。
でもすぐに止まらされる。
腰のあたりを抱きすくめられ、同時に地面に傘が落ちる音。
「いま、なんて?」
ふたりで雨に濡れたまま、ただ、お互いがドキドキしてるのを感じてるだけ。
日吉は後ろから抱きしめたまま、頭を私の肩に乗せる。
「言わない」
「言ってください」
「日吉のキス魔」
「アナタが悪いんです」
「責任転嫁かよ」
「誰を、見に来てたんですか?」
「……………日吉」
私を抱きすくめてた人が、ふっと笑った。
いきなりキスしてごめんなさい、と耳元で囁いて。
好きだから許すよ。
ふたりでしばらく雨の中、ずぶ濡れのまま、つっ立っていた。
何故走ってきたのか知らないが、多少息を切らして前かがみになりながら傘の下の彼はもごもごと言った。
「雨宿り?」
「傘、ないんですか」
「うん」
前髪で隠れた目が何かを考える動きを見せた。
「これ、使ってください」
「え…?!」
いきなり押し付けられた傘。
それだけ言うと日吉はそのまま、雨の中、人ごみに走って混ざってしまった。
「ちょ…っ」
慌てて追いかける。
が、彼は早い。さすが。
信号でやっと追いつき、傘を差し向ける。
まさか追ってくるとは思ってなかったらしく、凄い勢いで振り向かれてしまい、苦笑した。
「ありがとう。でも、日吉濡れちゃうから」
傘の柄をしっかりと握らせ、青になった横断歩道を歩き始める。
走ったから濡れちゃったし、もういいや。
だけど、すぐにまた濡れなくなって。
私の上で傘が、雨水を跳ね返していて。
「じゃ、送ってきます」
断っても聞かなさそうだったので、お言葉に甘えて、傘に入れてもらう。
二人とも中途半端に濡れていてちょっと微妙。
それに日吉の傘は二人で入るには少し小さくて、距離が、近い。
「名前先輩」
「ひゃッはい!なんでしょうッ?!」
いきなり話かけられて、しかも距離的に耳元で、不意打ち2連発で挙動不審になる私。
日吉もびっくりしたのか、一瞬黙ったがすぐ次の言葉を続けた。
「家、知らないので。こっちであってますか。」
「あ、うん、だいじょぶ。」
見上げて会釈、と思ったのが間違いだった。
思いのほか顔が近く、慌てて横を向く。
ああ、なにやってんだろ。
背中に当たってる日吉の腕から、体温が伝わってくる。
「びっくりした。」
「はい?」
「日吉いきなり走って来るんだもん。」
「あ…いえ、その、名前先輩が見えたので。」
「傘押し付けて天狗のように走り去るしさ!!」
「天狗…」
「あっごめん!キノコのように、の間違いだった!」
「…怒りますよ」
でもその声には怒りは含まれてなくて。
冷酷だとか、非情だとか、いろんなコト言われてるけど
ホントは優しいし、熱く燃えてるんだ。
じゃなきゃ、下剋上だなんていわないでしょ。
「…俺のこと、優しいとか思ってたんでしょう」
「あ、うん、あたり」
「そんなことないですよ。人々の恐怖に慄く姿を見て快感覚えるような奴ですよ」
「うわー鬼畜!」
「…」
「でも、優しいじゃん?先輩見つけて走ってきて傘使ってください、なんて。」
「…別に。名前先輩だからですよ」
「へぇ」
私だから、ね。
さらりと言えちゃうとこが、あぁ、意識してないんだなぁって。
「反応はそれだけですか」
「え?ああ、恐怖に慄いて欲しかった?」
「いえ、そうでなくて…」
めずらしいな。
先輩相手でもずばずば物言えちゃう日吉が口ごもるなんて。
静かになると、傘にあたる大粒の雨の音だけが響く。
相合傘ってなにがいいんだろう。
気まずいだけだ。
「私んち、もう近くだから!ありがと!」
まだまだ全然遠いけれど、沈黙に勝てず、傘から飛び出す。
けど、すぐに傘へ連れ戻される。
「嘘つかないで下さい。まだまだでしょう」
「え?なんで知って…」
「ほら、やっぱり」
ちっ はったりかよ!
なんで、とか言っちゃった後に近くだと言い張るわけにも行かず、おとなしく傘の中。
近い。距離が、近い。
「すみませんね、無口で。つまらないやつで。」
「そんなことないよ!日吉面白いよ!演舞テニスのフォームとか!!」
「…。」
あ、もしかして禁句だった?
面白い、は失礼かな、テニス離れしてる!が良かったかな。(それもどうかと)
「あれ」
「なに?」
「…なんで先輩、俺のテニス知ってるんですか?」
わ
痛いとこつかれた!
日吉とは委員会が一緒で。
同じ日の当番で、それでよく話す、ってだけの仲なんだけれども。
そんな私が日吉のテニスを知っているわけないのだ。
「誰ですか」
「へ?」
「コートに、見に来てるんでしょう?フェンス脇にいっぱい女子いるじゃないですか。跡部さんファンとか忍足さんファンとか。誰を見に来てるんですか?」
答えられない。
日吉の声には、絶望と失望の色が見えて。
呆れられた。
ミーハーだと思われた。
本気なのに。
あんなきゃーきゃー言ってる子達と一緒にしないで。
「別に。いいじゃん誰でも」
「…そうですね、俺には関係ないですもんね」
「うん」
ああ、また重苦しい。
早く家に着きたい。
日吉、清楚な子が好きって聞いた、フェンス脇でキャーキャー言ってる子達、ウザいんだろうな。
私も、そのこたちと一緒にされちゃった、んだ。
「その人、かっこいいですか」
「…。」
「部活中。かっこいいですか?」
「部活以外でも、カッコいいよ」
濡れた。
日吉がいきなり立ち止まるから、私だけ傘から出てしまい、ひとりで雨をかぶった。
どうかしたのかと後ろを振り返りざま、なにかに口をふさがれた。
視界が、茶色い。雨のせいで冷たくなっていた鼻先にもっと冷たい何かが当たる。
ぱっとすばやく離された、それは、うん、なんでそういうことするかな。
「すみません。では。」
キスするだけしといて、目も見ず、さっさと踵を返し、立ち去る日吉。
なんなんだ。
なんなんだよ!
「大好きだばかやろーっ!!!!!」
近所迷惑な大声で叫ぶと雨のなかばしゃばしゃと一目散に逃げた。
でもすぐに止まらされる。
腰のあたりを抱きすくめられ、同時に地面に傘が落ちる音。
「いま、なんて?」
ふたりで雨に濡れたまま、ただ、お互いがドキドキしてるのを感じてるだけ。
日吉は後ろから抱きしめたまま、頭を私の肩に乗せる。
「言わない」
「言ってください」
「日吉のキス魔」
「アナタが悪いんです」
「責任転嫁かよ」
「誰を、見に来てたんですか?」
「……………日吉」
私を抱きすくめてた人が、ふっと笑った。
いきなりキスしてごめんなさい、と耳元で囁いて。
好きだから許すよ。
ふたりでしばらく雨の中、ずぶ濡れのまま、つっ立っていた。