短編
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「うあっちゃあ~」
お菓子を作ってあげる、と姉ちゃんと共に台所に立てこもった愛しいオヒメサマの情けない声が聞こえた。
読んでいた雑誌から顔を上げ、ソファに身体を沈めたまま台所の方を見る。
うっすらと煙の上がったそこからは、なにかの焦げた臭いがして、姉ちゃんのなんとも言えない声も聞こえてきた。
明日はバレンタイン。
創立記念日が2月13日な六角高校のおかげで、地元の女子高生達はその休みをフルに使い、毎年お菓子作りをするのだ。何のって勿論それは来たる次の日のバレンタインの為の。
俺の彼女である名前ちゃんは、1つ上の姉ちゃんと同じクラスで、まぁ出会いも姉ちゃんがキッカケなわけ。
その姉ちゃんが彼氏にお菓子を作る、と意気込んでいたのが昨日。
そして今日、部活もなく久々に早く帰って来たら台所で手にボールを持ち可愛いエプロンをして立っていたのは姉ちゃんと名前ちゃんだった。
来るなんて聞いてなかったからかなり吃驚したけれど、美味しいの作るからね、なんて言われたら幸福感のが勝るわけで。
男子禁制!と二人に言われ、大人しくリビングにいたんだけど、台所の会話は丸聞こえ。
友達にも配るから大量に作るだの、彼氏も同じもので良いよね(彼氏の分は特別なもの作ったりするんじゃないの?普通)だの、誰々先生にあげる(そんな熱く語るなよ、その先生が既婚だとわかっていても妬ける)だの、色恋話をしながらどうやらクッキーを焼いているらしかった。
名前ちゃんには悪いけれど、多分何人かにはチョコを貰うだろうから、明日はきっとチョコに飽きる。
渡される時に出来る限り断るんだけど、靴箱とか机の中とか鞄とかに突っ込まれると持って帰ざるを得ないし、なんだかんだでもらえるチョコは美味しいから食べてしまう。(勿論名前ちゃんには内緒で食べるけど)
だから、チョコ以外のものを貰える、というのは結構嬉しい。
去年も抹茶味のカップケーキをくれて、口の中がチョコ味でいっぱいでチョコ拒絶症になりかけていた俺はそのカップケーキをぺろりと平らげ、必要以上にその美味しさを褒め称えた。
そのケーキ自体も美味しかったんだろうけど、チョコじゃないお菓子に飢えていた俺には本当に美味しくて、まぁうん、美味しかったのはカップケーキだけじゃなかったけど?(この話をバネさんにしたら何故か怒られた)
そんな事を思い出しながら雑誌を読んでいたら、ふと、何かが鼻を衝いた。
くさい。
焦げ臭い。
そう思っているうちに名前ちゃんの情けない声と姉ちゃんの「うわあ」というやる気のなさそうな声が聞こえてきて、あーあ、と思った。焦がしたな、と。
「こーちゃん」
「うん?どうしたの?」
「ごめんね、失敗しちゃった」
そう言って泣きそうな顔をして台所から出てきた名前ちゃんの手には大きな皿が、その上には見事なほどに真っ黒な炭ちょっと手前みたいなクッキーが大量に乗っていた。
分けて焼けば良かったものを、この様子からして一気に焼いて、全部焦がしたんだな。
しょんぼりしている名前ちゃんとクッキーを交互に見る。
まぁ…ココア味、とか言えば通じなくもないだろうけど…食べるまでは。
確かチーズクッキーとか言っていたなぁ…チーズは焦げやすいからなぁ…
「…不味くないよ」
「! ちょ、ちょっとこーちゃん!何食べてんの!」
「食べて欲しくて見せに来たんじゃないの?」
「違…っ 失敗しちゃってごめんって言いに…」
「そんなしょげないでよ、苦くて大人っぽい味じゃない」
「でもこんなに真っ黒で、」
「甘いチョコばっか食べる日なんだから少しくらい苦い方が丁度良いと思うよ」
そう言ってまた黒いクッキーを口に運ぶ。
クッキーらしからぬ硬さに食感、苦味。でも、凄く美味しそうに食べれてると思う。演技力万歳。
「…こーちゃん…あ、あたし材料買いなおしてくる!粉と砂糖と牛乳はまだ残ってるよね、卵!卵とバター買ってくる!」
言うが早いかどたばたと家から出て行ってしまった。
俺はすばやく立ち上がり、台所へ向かった。
食器棚に手を伸ばすと横から無言で水を差し出された。よくお分かりで、お姉さま。
「よくあんなの食べれたわね」
「あんなの、って姉ちゃんも一緒に作ったものだろ」
「あんなに美味しそうに頬張ってたくせに水がぶ飲みだなんて」
「…苦すぎるよアレは」
「そういう問題じゃないでしょ、アレは炭よ」
「…作り直すの?」
「だって買いに行っちゃったし…今度はちゃんとオーブン見てるから」
「また炭だったら俺きっと笑顔引きつるよ」
「あら、また炭でも食べるんだ?」
肉でも野菜でもちょっとでも焦げていたら残すくせに、随分と溺愛してるのね、と笑う姉ちゃんに、勿論、と笑めば、名前も幸せなんだかどうなんだか、と返された。
幸せに決まってるだろ、俺は名前の作ったものなら例え毒でも笑って食べるさ。
ハチミツに黒いカナリア
お菓子を作ってあげる、と姉ちゃんと共に台所に立てこもった愛しいオヒメサマの情けない声が聞こえた。
読んでいた雑誌から顔を上げ、ソファに身体を沈めたまま台所の方を見る。
うっすらと煙の上がったそこからは、なにかの焦げた臭いがして、姉ちゃんのなんとも言えない声も聞こえてきた。
明日はバレンタイン。
創立記念日が2月13日な六角高校のおかげで、地元の女子高生達はその休みをフルに使い、毎年お菓子作りをするのだ。何のって勿論それは来たる次の日のバレンタインの為の。
俺の彼女である名前ちゃんは、1つ上の姉ちゃんと同じクラスで、まぁ出会いも姉ちゃんがキッカケなわけ。
その姉ちゃんが彼氏にお菓子を作る、と意気込んでいたのが昨日。
そして今日、部活もなく久々に早く帰って来たら台所で手にボールを持ち可愛いエプロンをして立っていたのは姉ちゃんと名前ちゃんだった。
来るなんて聞いてなかったからかなり吃驚したけれど、美味しいの作るからね、なんて言われたら幸福感のが勝るわけで。
男子禁制!と二人に言われ、大人しくリビングにいたんだけど、台所の会話は丸聞こえ。
友達にも配るから大量に作るだの、彼氏も同じもので良いよね(彼氏の分は特別なもの作ったりするんじゃないの?普通)だの、誰々先生にあげる(そんな熱く語るなよ、その先生が既婚だとわかっていても妬ける)だの、色恋話をしながらどうやらクッキーを焼いているらしかった。
名前ちゃんには悪いけれど、多分何人かにはチョコを貰うだろうから、明日はきっとチョコに飽きる。
渡される時に出来る限り断るんだけど、靴箱とか机の中とか鞄とかに突っ込まれると持って帰ざるを得ないし、なんだかんだでもらえるチョコは美味しいから食べてしまう。(勿論名前ちゃんには内緒で食べるけど)
だから、チョコ以外のものを貰える、というのは結構嬉しい。
去年も抹茶味のカップケーキをくれて、口の中がチョコ味でいっぱいでチョコ拒絶症になりかけていた俺はそのカップケーキをぺろりと平らげ、必要以上にその美味しさを褒め称えた。
そのケーキ自体も美味しかったんだろうけど、チョコじゃないお菓子に飢えていた俺には本当に美味しくて、まぁうん、美味しかったのはカップケーキだけじゃなかったけど?(この話をバネさんにしたら何故か怒られた)
そんな事を思い出しながら雑誌を読んでいたら、ふと、何かが鼻を衝いた。
くさい。
焦げ臭い。
そう思っているうちに名前ちゃんの情けない声と姉ちゃんの「うわあ」というやる気のなさそうな声が聞こえてきて、あーあ、と思った。焦がしたな、と。
「こーちゃん」
「うん?どうしたの?」
「ごめんね、失敗しちゃった」
そう言って泣きそうな顔をして台所から出てきた名前ちゃんの手には大きな皿が、その上には見事なほどに真っ黒な炭ちょっと手前みたいなクッキーが大量に乗っていた。
分けて焼けば良かったものを、この様子からして一気に焼いて、全部焦がしたんだな。
しょんぼりしている名前ちゃんとクッキーを交互に見る。
まぁ…ココア味、とか言えば通じなくもないだろうけど…食べるまでは。
確かチーズクッキーとか言っていたなぁ…チーズは焦げやすいからなぁ…
「…不味くないよ」
「! ちょ、ちょっとこーちゃん!何食べてんの!」
「食べて欲しくて見せに来たんじゃないの?」
「違…っ 失敗しちゃってごめんって言いに…」
「そんなしょげないでよ、苦くて大人っぽい味じゃない」
「でもこんなに真っ黒で、」
「甘いチョコばっか食べる日なんだから少しくらい苦い方が丁度良いと思うよ」
そう言ってまた黒いクッキーを口に運ぶ。
クッキーらしからぬ硬さに食感、苦味。でも、凄く美味しそうに食べれてると思う。演技力万歳。
「…こーちゃん…あ、あたし材料買いなおしてくる!粉と砂糖と牛乳はまだ残ってるよね、卵!卵とバター買ってくる!」
言うが早いかどたばたと家から出て行ってしまった。
俺はすばやく立ち上がり、台所へ向かった。
食器棚に手を伸ばすと横から無言で水を差し出された。よくお分かりで、お姉さま。
「よくあんなの食べれたわね」
「あんなの、って姉ちゃんも一緒に作ったものだろ」
「あんなに美味しそうに頬張ってたくせに水がぶ飲みだなんて」
「…苦すぎるよアレは」
「そういう問題じゃないでしょ、アレは炭よ」
「…作り直すの?」
「だって買いに行っちゃったし…今度はちゃんとオーブン見てるから」
「また炭だったら俺きっと笑顔引きつるよ」
「あら、また炭でも食べるんだ?」
肉でも野菜でもちょっとでも焦げていたら残すくせに、随分と溺愛してるのね、と笑う姉ちゃんに、勿論、と笑めば、名前も幸せなんだかどうなんだか、と返された。
幸せに決まってるだろ、俺は名前の作ったものなら例え毒でも笑って食べるさ。
ハチミツに黒いカナリア