紅の王子様
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「、あ」
私の小さく短いその声は、周りのざわめきに掻き消された。
「おっとこりゃタイヘン敵陣だ…あの2人なかなか様になってるじゃないか」
「ホントにね」
ビックリしたように振り向いた大石秀一郎ににっこりと微笑めば、人の良さそうな笑みが返ってくる。
…今のは威嚇と皮肉を込めた笑顔のつもりだったんだけどなぁ…
「やぁ詩菜ちゃん」
「こんにちは、どうしてこんなところに立ってるのかしら?」
「…はは…」
ゴールデンペア解消?と尋ねれば、まさか!と即否定された。違うのか。
じゃあなんで試合に出てないの、そう聞こうとして、手首に目がいった。
「…怪我、したんだ?」
「ああついさっき、ね」
「…そう」
だから、ね。
すぐに治るのかな、どうなんだろう。
じっと手首を見ていると、好都合だね?と聞かれ、曖昧に笑みを返した。
どう反応しろって言うの。そりゃあ好都合だよ、ゴールデンペアが脅威だったのに、来てみれば急造コンビ。
でも、彼の怪我は心配だし、それに、
「ゲーム青学4-4」
「…えっ?」
「おっとおいついた」
コートに目をやれば、桃が拳を突き出していた。
隣からも拳が伸び、綾香がこっちを向いた。
「兄貴!」
あ、走ってくる。
階段を飛ばし飛ばし駆け上がり、すぐにこっちにやってきた綾香は、大石の手首を見てぎょっとした。
「怪我!?」
「たいしたことないさ」
「何言ってんの試合は?大会は?出ないつもり?!」
「全国出れば良いだろ」
すぱっと言い切る兄に言葉に詰まる妹。
ああ、この子は本当に兄さん好きなんだなぁ、そんな泣きそうな顔しちゃってまぁ。
「菊丸が、桃城と組んでたから、びっくりしたんだぞ、」
「はは」
「笑い事じゃないよ、心配したんだぞ!」
「ごめんごめん」
そろそろあっち行かないと、と青学陣の方を指差す大石に、お大事に、と呟き、目を逸らす綾香。
複雑なんだろうな、ほっとしたけど、やるせない気持ちが伝わってくる。
「あ、兄貴」
「ん?」
「…いいハチマキだな」
はにかんだように笑う綾香に、嬉しそうな笑みを返し、大石は走っていった。
この兄妹は、本当に人に愛される笑い方をするなぁ。
「さ、応援応援」
いつまでも兄を目で追っている綾香の背中を押すと、コート側まで階段を降りた。