紅の王子様
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「20分切れないなんて口ほどにもねーな」
「…ウルセー、跡部と同じこと言ってんじゃねぇ」
試合直後の宍戸に声をかければ不機嫌に返される。
その中に含まれていた名前のせいで自分も不機嫌になったことをこいつは知らないだろう。
「越智南川と辰巴台東を破り、見事都大会ベスト8進出!みんなお疲れ!見事、と言ったけれど、監督も跡部も私も当然の結果と受け止めてます。満足するのはまだ早い!次試合でも相手を完膚無きままに叩き潰しましょう!はいっでは解散!」
マネージャーの元気な声と答えた部員の声が響く。
「氷帝の天使ちゃんが叩き潰すとか言うなよなー」
「応援席で居眠りこいてた氷帝の王子様に言われたくありませんねー」
ばれてた。
応援はしてたんだけど、なんていうか、こう睡魔が、ね。
昨日遅かったのと最近溜まってたストレスと試合がつまらなかったのが原因なんだ。
「次、どこ?」
「えーと、不動峰」
「…聞かないな」
「ね。」
詩菜の手元を覗けばベスト8の校名がメモってある。
氷帝、不動峰、箕輪台、山吹、北條、銀華、聖ルドルフ、青春学園。
「兄貴らもきたか」
「ね、決勝で当たらないかな、楽しみ」
次当たる不動峰とその次当たるであろう箕輪台と山吹は今まで完全勝利だと教えてもらう。
勿論氷帝も5-0、3-0で完全勝利だ。
「あ、データ集めに聖ルドと青学戦見に行くけど、行く?」
「行くっ!」
「そのあとすぐ氷帝の試合だよ?私は監督がデータ集め行けって言ってたから遅れてもいいけど凌はいなくていいの?」
「どーせ正レギュはひとりも見てないんだろ、大丈夫、宍戸いるし」
大丈夫と宍戸の関係性は自分でもイマイチわかってなかったが、今更自分がコーチやるほど弱いメンバーでもないし、青学の試合が気になって、わくわくしていた。
この時、コーチになってしごいていれば何かが変わったかもしれない、なんて事、知るはずもない。
「うわー不二鬼畜ー」
「あの天パかわいそうに」
どこか感心したように呟く詩菜の横で命のデータを崩されたあの男を哀れに思う。
詰めが甘かったのは自業自得だとしても、見ていてあまりいい気分な奴じゃなかったとしても、あの打ちひしがれた姿には同情する。
「信じられるデータがなくなった今、アイツにもう勝ち目はないな」
横で長身の眼鏡が呟く。
詩菜と二人で見ていたはずが、いつの間にか周りに青学がいて、一緒に観戦する形になっていた。
「データにすがり付いてるからだ。データを覆されても対処できなきゃ終わりだな」
本音を言えば、眼鏡が苦笑する。
「貞治も人のふり見て我がふり治しなよ」と詩菜が鋭く突き刺し、苦笑が哀笑に変わった。(データを覆されたら対処出来ないのだろうか、この男も)
突如聞こえた間抜けな悲鳴に振り向けば見たくない奴がいた。
「さすがだ不二周助、相変わらず隙がねぇ」
軽く睨みつけ、また前を向く。
睨んだ事に気付いてないのか、樺地と呑気に喋っている。
「ベスト4進出おめでとー!」
こちらも呑気に敵校にお祝いを言っている我等が天使。
おいおい、と言おうとしたが、兄貴が嬉しそうに礼を言うから口を閉じてしまった。
「不二、お疲れ」
「あれ、見ててくれたんだ」
汗を拭きながら戻ってきた不二に声をかければニコリ、と微笑まれる。
先ほど見せた黒いオーラは何処へやら。
「これから試合だろう?そっちも頑張れよ」
兄貴に背中を押され、また決勝戦でな!と言えば、こりゃ大変!と笑って手を振られた。
去り際に詩菜兄に言われた、「ダークホースをあんまりナメない様にね」という忠告を、もっと重く受け止めておけば良かったんだ。