紅の王子様
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日、朝から相当良い笑顔を引っさげて綾香は登校してきた。
普段は朝が弱くて死人みたいな顔してやがる癖に。(朝練開始直後から輝き出すから女どもには一切見られていないわけだが)
そんなに楽しかったのかよ兄貴に会って。
どうもイライラする。
所詮兄だ。兄妹だ。家族だ。
わかっている、でも、あのあいつが絶大なる信用を置いている男だという事には違い無い。
俺らの事も信頼し始めている、信用されている、そんな事はわかっている。
しかし、兄に対する信頼とは比べ物にならないだろう。
それこそ銀河とミトコンドリアくらいの差がありそうだ。(自分で言ってて空しいな、いつからこんなマイナス思考になったんだ俺は)(せめて犬と猫くらいの差にしておこう)(一気に縮まる差)
「おはよー跡部!今日は準レギュの世話にまわるけど良い?」
「あ?」
「あ?じゃないよ、都大会は準レギュしか出さないんでしょ?」
「ああ、当たり前だ」
じゃあ喝入れてくるわーと走っていくチビ。
なんであいつもあんなにご機嫌なんだ。
畜生、なんでこんなにイラつかなきゃならない。理不尽だ。
イライラを収めようとラケットを握り、コートに入った。
◆◆◆
「日吉、海田、樫和、小川、近林!集合!」
準レギュが壁打ちをしている所まで走った為、少々息を切らしながら叫ぶ。
声をかければすぐに集まってくる彼ら。
「海田、樫和、小川、近林、今年の都大会はこのメンバーでいきます。他の準レギュは保険だけどいつ自分と替わるかわからない事を意識して練習に励むように。なお、補強として正レギュからは宍戸、跡部、樺地が入ります。以上、監督からの伝言!解散!」
トップの日吉が入らない事をどう解釈したのやら喜び、壁打ちに戻る彼らをなんともいえない心持で見守る。
「…メンバーに入ってないんですが?」
「え?ああ、日吉は違うから。準レギュトップだから呼んだだけ」
「俺は何なんですか?」
「切り札」
「…へぇ」
私の答えに満足したのか生意気な笑みを浮かべながら壁打ちをする先輩達を見やる日吉。
そう、彼らは三年だ。
けれど準レギュトップは二年の日吉。
それだけでもだいぶ凄いのだがやはり狙うは跡部の座。
そんな静かに燃えるところに惚れているのだがなかなか周りはわかってくれない。(がっくんとか綾香とかがっくんとか綾香とかあの辺が)
「ところで昨日、とある噂を聞いたんですが」
「ん?」
「凌先輩と愛の逃避行をしたというのは本当ですか」
「…は?」
「あの人には気をつけろと言っているのに…何処へ行ったんですか逃避行って何ですか」
「私が聞きたいよ。兄貴に会いに青学行ったの。私も凌も兄貴青学にいるから」
「…」
「…何、日吉、私ってそんな信用ない…?」
日吉は「なーんだ」と安心した為に黙っただけなのだがその沈黙があらぬ誤解を招いたらしく最愛の彼女を凹ませてしまう。
しかし、「私が好きなのは日吉だけなのに、」なんて嬉しい事を言ってくれる詩菜を慰めようと伸ばした手は勢い良くはたかれてしまう。
「好きな女すら信用していない男のモノにするなんて勿体無いぜ…!なぁ詩菜」
出た、赤毛の凌。(日吉、心の声)
己の手をはたき、命より大事な詩菜を抱きしめて何処か台詞臭く言い放った凌。
どっから湧いて出た、と思っても口にしないちゃんと上下関係に忠従な日吉。
「詩菜先輩を離して下さい凌さん(信用してないわけ無いだろこの野郎)」
「何故俺はさん付けなんだよ(ていうかなんで名前で呼んでんだお前)」(まぁ苗字で呼ぶ奴は教師くらいだけどさ…)
「先輩だと思ってませんから」
「ほーお…上等だ、詩菜、駆け落ちしよう…!」
「え、えぇ?!」
非難の声をあげたくてもなんとなくお似合いすぎてあげれない準レギュの視線と「やっぱり付き合ってるのー?!」と叫ぶ(いつの間にか側にいた)凌ファンの悲鳴と何処からか飛んできた岳人の猛烈反対コールとこれまた何処からか湧いて出た何故か物凄く不機嫌な跡部を巻き込み大騒ぎになったこのコント騒動。
騒動中心のアイドル2人はおふざけな訳だが周りはもう、まともな人間から見たらドン引きなくらい真面目である。
「凌が詩菜を攫って逃走中」(しかもあの跡部を筆頭に正レギュ含め凌派詩菜派両方の部員達が総動員で追いかけている)なんて美味しいネタを全校生徒が放って置く筈も無く、生徒並びに教師まで野次馬になるなど、氷帝史の新ページを飾る出来事となるなんて、この時誰が知り得ただろうか。
そして、部活動妨害の罪で散々走った後に更に追加でグラウンドを走らされる事になろうとは、この時、このとんだお騒がせ王子様は知らなかったのである。