紅の王子様
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「だっからごめんて跡部~」
「…」
「根に持つ男は嫌われるよー」
「暴力女の方が性質悪りぃだろうがよ!」
放課後、部活が始まるまであと10分。
再び部室に集まった正レギュラー達は「話」を聞く為にコートへ出ずに部室に留まっていた。
今朝、容赦なくボコボコにされた跡部は湿布やら絆創膏やらの目に見える痛々しさは無いもののオーラがすさまじく険悪だ。
昼間、クラスメイトに何事かと尋ねられてもむすっと黙り込んでいた。(そりゃあ仮にも王とか呼ばれてる人が氷帝の天使にやられただなんて格好悪いレッテル貼られたくは無いわな)
「で、何、話って」
寝坊してきたお前が偉そうに言うなみたいに睨まれても怯まない岳人とムースポッキーをダシにして起こされたジローが凌を見つめる。
この二人以外はもう知っている秘密。
そう、今朝いなかったこいつらのためにもう一度話すのだ、あの事を。
「あの、な、女、なんだ、私」
今朝と同じように言う綾香を見つめたまま微動だにしないオカッパとポッキー男。
痛い沈黙が走る。
今朝が可笑しかったのかもしれない。
こんな非常識な事実を知らされてもあんなにスムーズに受け入れられること自体が可笑しかったのだ。
この対応は必須。当然。
沈黙に耐えるために唇を噛む綾香を見て、耐え切れずに詩菜が口を開けた。
が。
「で?」
岳人の口を付いて出てきた言葉に一同「は?」と仲良く声を揃える。
「で、話って何」と続ける岳人に唖然としながらも「それが話なんだけど」と綾香が言えば今度は岳人が「は?」と間抜けな声を出す。
ジローなんか目を閉じて眠りだした。
慌てて揺すり起こす詩菜に不満そうな声をあげる。
「ね、寝ないでジロー、大事な話なんだよ、さっきの聞いてた?」
「大事~?何を今更…」
何を今更?
どういう意味だ。
「俺、最初から知ってたC…」
「…俺も前から知ってた」
ジローと岳人の衝撃の告白に開いた口が塞がらない。
「初日に抱きついた時わかったっていうかー見りゃわかるっつーかー詩菜の態度でわかるC…」
「どっかで見たことあると思って家でアルバム漁ったら詩菜から貰った小さい時の写真に写ってた」
そんな前から知ってたんなら言えよこの葛藤を返せ。
複雑な顔をした自分を滝が苦笑しながら「良かったじゃん、平和解決で」と慰めた。(?)
「でも、まぁ、寛大なメンバーだとは思ってたけど、ここまであっさり解決するなんて…」
自分で「絶対大丈夫」と啖呵を切った詩菜がそう洩らしたのを聞いて、やっぱり安心させる為のハッタリだったんだな、と思う。
「ほら、みんな実は良い人ですから」と笑う長太郎に「実はって何だ」と宍戸がつっこむ。
性別なんて関係ない、お前はお前だと笑ってくれるこいつらが本当に好きだ。
そう思って自分でびっくりした。
人を好きだと思ったのなんて何年ぶりだろう。
集団でいて楽しいなんて、心地よいなんて。
「…とりあえず、理由があって男装して男子テニス部にいるんだ。学校側にも監督にもバレたら終わりだ」
真剣に話す自分を真剣に見つめる仲間。
「特に監督は…巨額の借りが、ある、から」
自分の学費を、自分じゃ到底払えない額を、自分の腕に見込んで払ってくれてるんだ、彼は。
自分を見つけ出してくれて、拾ってくれて、こんな恵まれた環境に入れてくれた監督を騙すというのはとても心苦しい。
でも、だからこそ、期待を裏切らない為に「大石凌」でいなくてはならない。
「秘密を守るために、皆には協力して欲しいんだ」
二百人もいるこの部活で、信用したのはたった9人。
「…この10人だけの秘密ね」
詩菜が笑いながら岳人と綾香の肩に手を回す。
それを見て悟ったかのように跡部が忍足と綾香の肩に手を回す。
綾香が驚いている間にみんなも微笑み合いながら肩を組み、丸くなった。
円陣だ。
「この秘密は絶対守るぞ!」
「「「「「「「「おぅっ!」」」」」」」」
なんて
なんていい人たちなんだろう
ここに来てから泣いてばっかりだ
ここ数年泣いた事など無かったというのに
肩を組んだまま嬉し涙を流す訳アリのこの子を
この場にいた誰もが
自然に
ただ、愛しいと思った