紅の王子様
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…って感じで…ええと、」
「…明日のHRで殺す、そのビニール袋野郎」
「い、いやいや、それは今は置いといて、さ」
「忍足も殺す」
「えぇ?!なんで!優しかったってば!」
「体中弄られたんでしょう?!」
「いや、そんなやらしい感じではありませんでしたよ、はい、私は無事です大丈夫ですとりあえずその殺気をしまって下さい。」
自分の事の様にムキになってくれる詩菜に感謝しつつも心配しすぎだと苦笑が漏れる。
なんだか知らないが忍足に異様に不信感を抱いているらしい。(前迫られた事をまだ根に持っているのか)←勘違い
「でさ、相談なんだけど」
「うん」
「言った方が良いかな、みんなにも。」
この言葉を言うのはとても重たかった。
重りがどんどん自分の中で重くなっていく感じ。
「言う、って、男装の事を?」
深刻な顔して詩菜が聞いてくる。
それがまた重い。
関わらなければ、交わらなければ、こんな想いはせずにすんだのに、
私利の為にみんなを傷つけてまで、騙してまで、手に入れるほどのものだろうか
今まで、この何十年間、それだけしか見えていなかった夢なのに、みんなと天秤にかけると、みんなの方が上なんだ
こんな短期間で、自分の今まで積み上げてきた大切なものを上回ってしまった彼らを、これ以上騙していて良いものか?
「どうなるのか、わかって言ってんの、それ」
いつに無く鋭い詩菜の声が響く
「みんな、の範囲は、どこまで?」
「…正レギュ、くらい、まで」
歯切れの悪い返事にイラつく様子をチラリと見せたか見せないか
すぐに困ったような笑みを漏らし、ぎゅ、と抱きしめてきた
ふわりと香るシャンプーの匂い
昔と変わらないその香りに思い出がフラッシュバックする
普段は滅多に泣かない二人もそれなりに辛い事を抱えていて、親愛する兄達にも告げれない事を相談しあっては、涙して、こうして抱き合った。
詩菜が遠い地へ行ってしまった後、自分はほとんど自己の殻に閉じこもった状態になっていた。
自分を置いてけぼりにして、何処かへ行ってしまった詩菜を憎んだ事も無いわけではない
でも、馬鹿な思いを、と今なら思う
心の相談相手がいなくなったのは彼女も同じ
今まで、きっと、自分と同じ道を歩んで来ている
背負っているモノは違っても、それをひとりで抱えて生きてきたことは同じ
抱えているものの大小は関係ない 抱えている事には変わりは無い
氷帝へ来て、いろいろあって、いつも詩菜が聞いてくれて、心の拠り所になっていた
自分は、詩菜から、何か、聞いてやったか?
言ってこない=何も悩んでいない、か?
そんなはずあるか
何故気付かなかった
苦しいのは、自分だけでないと
もし、彼女に今悩みが無かったとしても、自分だけ話を聞いてもらっていて、何も返せていなかったと
抱き締められた事でそれを悟り、ゆっくり詩菜を引き離す。
ギブ&テイクだと、プラスマイナスゼロだと、自分達の関係はそこが原点だと、やっと思い出した
お互いがお互いを支えている いなくてはならない、代わりのいない存在
「詩菜」
「ん?」
「聞くよ、話、何でも」
いきなりの申し出に微かに目を見開いた詩菜だったが、可笑しそうにころころ笑い、無いよ何にも、と答えた
「でも、聞きたいんだ、何も無いってことないだろ」
「えー、そうだなー、綾香が幸せになってくれると嬉しいかなー、人が幸せだと自分も幸せになれるじゃん?」
そうじゃなくて、自分の悩みを、と言おうとした自分を制すように唇に手を当ててにっこり微笑む。
「綾香が変に気張らなくて良い空間を、増やした方がきっと良いね。私だけじゃ役不足だものね」
そんな事無い、と言おうとした私をまた黙らせて、ごろん、と横になる詩菜。
「長い事付き合うんだもん、夏に向けて一緒にいる時間も増えるし、知っておいてもらった方が何かと対処しやすくなるし、そうね、教えようか、正レギュに。」
みんな良い子だよ、大丈夫、と笑う詩菜。
正レギュで知らないのは宍戸、長太郎、岳人、ジローか。
跡部、忍足、滝にはすでに知られているし、樺地は跡部の影法師みたいな感じだからきっと知っているだろう。
明日の朝ミーティングで暴露しようという事になった。
不安だけど、受け入れてもらえなかったらと、関係が崩れたらと、泣きそうだけど、大丈夫、この子がいる。
受け入れてくれた、三人がいる。
きっと、みんなも、それは自分の希望でしかないとはわかっているけれど、
嗚呼、かみさま、もしもいるのなら、いなくてもいい、誰か、
本当のことを知っても、関係が崩れませんように、