紅の王子様
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「おっはよ!」
「おはよー」
久しぶりの部活で心が躍った
私、乾詩菜は、ここ、氷帝学園中等部の男子テニス部マネージャーである。
梅雨入りしたせいで雨が降り続いていたが、今日は気持ちいいくらいカラッとしている。
「あーねみー…」
「ふぁーあ…」
「こらっそこたるんでるぞ!コート周り10周!」
「えーっ?!」
「そりゃないっすよ詩菜先輩!」
なんだかんだ言いつつもちゃんと走る後輩達が可愛い。
ただのマネなのに、こんな権限本当は無いはずなのに。
だらだら走っている後輩に「レギュラー目指してないのー?!」と声をかければいきなりあがる大きな掛け声。
「…何手塚みたいな事してやがる」
「ああおはよブチョー」
いつの間にか隣にいた跡部が首を回しながら不機嫌に問う。
手塚の事好きなのか嫌いなのか…ライバル視しているのは確かだけども。
「…手塚…」
「あ、凌おはよ!」
「…お、おはよう、凌」
「…手塚…」
首にタオルをかけたままバカの一つ覚えみたいに手塚、と繰り返す綾香。
私の挨拶も跡部の挨拶(何どもってんのこいつ)もスルーである。
凌?と問いかけてもまるで聞いていない。
跡部の眉間の皺が一本増えた。
「なんなん、手塚の事知ってるん?」
「手塚…」
忍足や宍戸が寄ってきたが遠くを見つめたまま繰り返す。
そしていきなり私の肩を掴んだ。
「手塚ってアレか!アレ!メガネの!」
「え、あ、うん、そうそう!」
「髪はねた!」
「うんうん!」
「貞治!!」
「や、それ、私の兄貴だから。」
私の義兄の名前をそんなコレだ!みたいに言われましても。
「手塚は貞治じゃないでしょ、えっと、ほら…」
「ああ!アレだ!」
「「光国!」」
「国光だ、バカ」
2人して間違えた名前を自信満々に発し、すかさず突っ込んだ跡部に皆大爆笑。
「ところでなんで知ってんだ?」
「いや、手塚知らねーやついんの?超有名じゃね?」
「確かに手塚さんは高校庭球界でも一目置かれてますからね。」
「ていうか、あいつ、同じ幼稚園だし、小学校も一緒だし?」
綾香の爆弾発言に一同静止。
「「「「「はぁっ?!」」」」」
「え、何、お、幼馴染?!」
「あの手塚と?!」
「詩菜と幼馴染の時点でそうだろ?」
さらっという綾香に宍戸が「詩菜と幼馴染?!」と驚いていたがソレは置いておく事にして。(どんな間柄だと思っていたのかあいつは)
跡部や忍足達は、ああ…と納得したようなしていないような微妙な表情を浮かべた。
私、乾詩菜は、青学のデータ男、乾貞治の義妹である。(同い年だけど。誕生日的に妹なのだ。)
そして貞治は、手塚と同じ小学校である。綾香もその小学校だった。
でも私は諸事情で海外に行っていた為、貞治、手塚とは違う小学校。幼稚園は一緒だけれど。
それを思い出したのか岳人が突っ込む。
「詩菜は小学校違くね?」
「ああ、引っ越しちゃったからな…詩菜…寂しかったぜ…!」
「ふざけはいいから、手塚と仲いいのか?」
私と愛のロマンス(何ソレ)を繰り広げようとした綾香はすぐに跡部に制されてしまった。
跡部にとっては仲良いかどうかが最重要確認事項らしい。
綾香は酷く顔を歪めた。
「…悪いのか」
「悪いなんてもんじゃねぇよ。…家に来やがった事はあるけど」
「「はぁ?!なんで!!?」」
仲良くハモる忍足と跡部。
思わず笑い出した私に何がおかしいという視線を2人して送ってくる。
「あ、ははっ、凌は仲悪い、けどさ?」
「「けど?」」
「…俺の苗字、言ってみろよ」
「「…大石?」」
「…まだわかんねぇの?」
後は任せた、という視線を綾香から受け、笑いを堪えながら不思議そうな顔をした正レギュラー達に問う。
「青学の副部長は?」
「「「「「…大石?」」」」」
「凌の苗字は?」
「「「「「…大石?」」」」」
「わかった?」
「「「「「わからな…えぇ?!」」」」」
よくハモる連中だ。
爆笑してしまった私の横で、失礼な、と漏らした綾香が更におかしくて私はもう呼吸困難だ。
「俺の兄貴は、青学テニス部副部長、大石秀一郎でありますー。」
信じられない、という空気が流れる。
しかし、私らにとっては今さらだ。
大石凌という男が転校してきて、乾詩菜の後ろの出席番号になった。
青学と面識が無いわけではないこいつらは、大石と乾くらいは名前だけでも知っているはずだ。
その乾と大石が自分のクラスで並んだら、性別も顔立ちも違ったとしても、なにか引っかかったりするものじゃないのか。
少なくともこいつらは私の義兄が貞治だと知っているわけだし。
「あー…そういえば手塚の親友、とか言ってたな、大石。」
「大石の弟なら手塚と幼馴染、っていうのも家に来たって言うのもわかるわな。」
弟、という響きに違和感を感じ訂正しようと口を開きかけてやめた。
危ない危ない、忍足は知らないんだ、綾香を男だと思ってる。
跡部とナチュラルに綾香、と呼んで会話したから感覚が鈍っていた。
綾香ではない、この紅い髪のクラスメイトは凌。男子だ。
「幼馴染なのに仲悪いのか?」
「アホかオカッパ、幼馴染が全員仲良くてたまるか」
「俺のVカットをバカにすんな!!」
手塚と綾香は昔っから仲が悪く、コントみたいな漫才みたいな喧嘩を毎日していたなぁ、と思い出し笑いで口が緩む。
それをおろおろしながら止めようとする秀くんと、綾香VS手塚を無視して喧嘩を繰り広げる私と貞治。
言っておくけど、私と貞治は義兄妹といえど仲が良い。けど喧嘩三昧。いや、アレだよ、喧嘩するほど何とかってやつ。
懐かしいなぁ。
手塚や綾香の兄・秀くんとも随分会っていない。あの頃のままだろうか。
「よく考えたら、俺と詩菜も8年くらい会ってなかったのな」
よく一目でわかったな、と苦笑する綾香に、だって変わってないもの、と返せば、それもそうか、と笑みが返ってくる。
ほら、その笑い方。変わってない。
八年も会ってないなんて、幼馴染とはいえないかもしれない。
でも、幼馴染なんだ。大事な、親友なんだ。
この子の痛みは、全部とは言わないけれど、知っているつもりだ。
私の痛みも、綾香はほとんど知っている。
兄貴よりも、近いところにいるかもしれない。
そんな綾香を8年ぶりだからと言って、一目見てわからないわけがあるだろうか。いや、無い。
「詩菜?何考え事してんの?」
優しい声をかけられ我に返る。
ちらり、と視界の端に入った跡部と忍足を見て、悪知恵が頭を駆けた。
「ん、凌にまた会えたのは運命だと思って。」
そう言って思いっきり抱きしめれば、面白いくらいしかめっ面になる跡部と忍足。
綾香が抱きしめ返すからなおさらである。
ただ、2人とも知らなかった。
顔をしかめたのが俺様と関西眼鏡だけではなかった事を。