紅の王子様
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合宿が終わって半月ほどすぎ、少し蒸し暑くなってきた。
雨の降る日数が増えて、自分はもう毎日憂鬱だった。
「…なんでこうも毎日雨が降るんだろ」
自分は雨がとてつもなく嫌いだ。昔のトラウマから来る嫌気なのだが、一生好きになれないと思う。
いやそりゃあね、毎日炎天下だったら米も食べられないんでしょうけど。
今日はお昼頃から降り始めた雨のせいで部活も休みになった。
今までは雨が降っても部活の仲間と大勢で帰っていたから帰れたのに、今日は一人だ。ついでに傘もない。
宍戸はちょたと、忍足は岳人と、頼りになる詩菜でさえも日吉に連行されていなくなってしまった。(滝とジローはしらない。)
跡部も生徒会の仕事が残ってるらしい。
一人で雨の中に飛び込むのは自殺するようなものだ。止むまで待つことにした。
下駄箱を通り帰っていく生徒達がだいぶ減ったころ時計を見ると、1時間半も時間が経過していた。
考え事をしていると時間は早く過ぎるもので。
なのに雨は一向に止みそうにない。 …自分学校に泊まるのかな、今日。
「…お前こんなとこで何してんだ」
いきなり後ろから声がしてびびった。振り向くとそこには多数の書類を抱えた跡部。
「…雨止むの待ってる」
「なんで」
「傘がないから」
跡部とは久しぶりにしゃべった。まだなんとなくぎこちないけど。
合宿でバレて以来、ほとんどしゃべることがなかった。事務的なことしかしゃべった記憶がない。
「俺の予備の傘あるから使え。部室においてある」
「あーうん…でもいいよ。」
「…なんでだよ」
「傘があってもなくても一人では帰れないから」
跡部はびっくりした顔してる。そりゃ驚くだろう。中学三年生にもなって、雨が怖いだなんて。
馬鹿にされるんだろうな、と思って元の体制に戻った。
「この書類持ってったら今日の仕事は終わりだから、ちょっと待ってろ」
「……は?」
「は、じゃねえよ、一緒に帰ってやるって言ってんだよ。お前、このまま待ってたら帰れねえぞ」
それはその通りなんだけど。自分と一緒になんていたら気まずいだろうに、いいのかな…
10分位して跡部が来て、予備の傘を借りた。二人で一緒に歩いて帰った。会話なんてなかった。はずなのに
「お前が雨が怖いのは過去に傷ついたせいか?」
なんて跡部が聞くもんだから、傘を落としてしまった。
なんで知ってるんだ。どこまで知ってるんだ。今回の学校には私情は持ち込みたくなかったのに。
傘を落としたせいで晒された制服に雨が打ちつける。その雨の音が過去の恐怖を引きずり出した。
「…っく…」
急に泣き崩れた自分を気遣ってくれたのか、跡部は差してた傘を自分の方に傾けてくれた。
「悪い、聞いちゃいけないこと聞いた…」
謝る跡部を無視して目の前の跡部に抱きついた。
雨が怖い、雨が怖い、雨が怖い。
過去の場面を全て思い出す。あの時も雨が降っていた。傘を差さずに目の前の状況を見ていた自分。
びしょ濡れになり泣くことも忘れて呆然としていたあの時。
「雨なんか大っ嫌い…親父も母ちゃんも…もう…」