紅の王子様
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ぱっしこーん
爽やかな朝、広い食堂に気持ち良いくらいに軽く、痛々しい音が響いた。
「な、に、すんねん、痛いな」
「っんのド変人態!!」
「何やそれ」
朝食を食べていた忍足はいきなりやってきた詩菜にいきなり思いっきり頬を張られ、ふっとんだ眼鏡を拾いながら不機嫌に声をかける。
詩菜はといえば、全校生徒(男子は勿論、最近では女子も)を虜にしている可愛らしい面影は全く無く、もともと緩やかなウェーブのかかった髪は怒りの炎と共にゆがみ、これでもかと眉を吊り上げて息を荒くしている。
忍足の隣に座っていた岳人は愛する詩菜に朝の挨拶をしようと口を開いたままタイミングを失い、忍足側に付くか詩菜側に付くか決めかねるように視線を泳がしていた。
「凌に、キス、したらしいなぁ?あぁ?」
さっきのド変人態発言よりは声を小さくして、空いていた忍足の前の席に座るとぎらぎらと睨みながら口を開く。
盛大に牛乳を噴いた岳人をチラリと見、気を取り直して詩菜を見やればマシンガントークが始まる。
「朝見に行って昨日忍足と何話したのーって聞いたらおでこ抑えてなんかちゅーされたって言うじゃない!しっんじらんねぇよ!手ぇ出したらしばく言うたやろが覚悟はできてんだろーな忍足さんよぉ」
「自分、最近凌より男前やな…」
「ウゼェよ」
「うるせぇを縮めて別の言葉にせんといて下さーい」
「間違ってないもん」
一応周りの生徒には聞こえないように配慮した音量で怒る詩菜に、本当に凌想いやなぁと内心複雑になりながら、適当に平謝り。
それに更に腹を立てて中途半端な気持ちでからかうなんていい度胸だな!と言う詩菜に本気やしと返せば、水から上げられた金魚のように目を真ん丸くし口をパクパクさせている。
それを見て可愛いなぁ…と呟いた岳人をスルーして、俺、凌の事好きやしと追い討ちをかけて自白すれば、今度は泣きそうになって岳人を見、俺を見、また岳人を見、俺を見、の繰り返しで、(岳人も俺に向かって味噌汁噴いたけど)(汚いやっちゃな)
どないしたん?と意地悪く声をかければ、この、ほも、と弱弱しく返される。
愛に正直に生きるタイプやねん、と笑えば、「別に同性愛にどうこう言わないし、むしろ個人の自由なんだから偏見がこの世からなくなればいいと思ってるよ」と呟くように言うので、応援してくれるんかいな!と身を乗り出したらまたすぱぁんと平手打ちを食らわされた。
「みっ認めないもん!このド変人のド変態!」
(凌は、綾香は、女の子で、でも、男装してて、みんなは男だと思い込んでて、なのに、忍足、は、)
混乱する頭が爆発しそうで、人気の無い廊下でしゃがみこむ詩菜。
怒りのあまり、朝ご飯を食べ忘れて、くらくらする。
軽い冗談で綾香に手出したと思って怒って忍足をビンタしたのに、忍足は本気だって言って、しかも、女の子だって気付いていないのに。
男でもかまわないと思えるほど、本気なのか。
でも、そんなに本気なら女だって気付けよ。
気付かれちゃ困るのに、綾香の夢の為にも、皆には気付いて欲しくないのに、(滝はもうこの際なんかどうでも良いや!)好きなら気付けよバカタリとか、いろいろ矛盾していて、
忍足は悪い奴じゃないし、(変態だけど!)まぁお似合いな気もするし、でも、綾香が誰かに取られるとか、なんかいい気持ちではないし、
そもそも、綾香がちゅーされたと知ってなんで私はこんなに怒ったんだろうとか、考え出すとますますわけわからなくなって、
とりあえず恋してる忍足(しかもなかなか行動派)を敵と見なし、私は綾香の事が本当に大好きなんだ、と言う結論に至った。
綾香は、本当に大事で、かけがえの無い友達だから、忍足がどんなに良い奴でも、傷付けるような事があったら許さない、それだけ心に誓って、
結構理不尽に殴ってしまった忍足のことを思い出し、シップを持って謝りに行った。