紅の王子様
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次の日の朝から本格的に練習がスタートしたものの、練習には身が入らなかった。
考え事が頭を巡り、他の事に集中が出来ない。
滝が本当に口外しないかわからない、他のみんなが気付いてるかもしれない、もしかしたら全員が…
そんなことばかり考えてしまっていた。
「凌!お前ボーッとしてんじゃねえぞ!」
ついには跡部に叫ばれる始末。榊監督が今日は準レギュについていてまだ幸いだった。
これに榊監督がいたら何されるかわかったもんじゃない。
「………わりぃ。頭冷やしてくるわ」
とだけ言って、自分はその場から離れた。
残された者はあいつらしくない、と口々に話し始めるし、詩菜は追いかけてくるし、…そして滝まで追いかけてきやがった。
とりあえず飲んでた水のペットボトルをそのまま頭からぶっかけた。
「凌、どうしたの?考え事なんてめずらしいじゃん…」
心配してくれる詩菜。ありがたいことだけど、今こいつには言えない。
だってここまで心配してくれて、協力もしてくれて、そのせいでたくさん詩菜にも嘘つかせてるんだ。
なのにバレた、なんて一言で裏切ることはしたくない。
「…いや、大丈夫だよ。なんでもないから気にすんな」
「でも…」
やっぱり不自然だっただろうか。平気な風に笑ってみせたつもりだったが、苦笑いになってしまっただろうか。
詩菜は心配そうだったけれど、滝が「凌と話すから席外してくれる?」と言ってくれたので詩菜はコートに戻った。
「そんなに思いつめる事じゃなかったと思うんだけど。」
「いや…お前が思ってるほど軽い事じゃないから」
滝はそれなりに心配してくれてるらしい。
「ごめん、滝のせいじゃないから。大丈夫だから練習戻っていいよ。」
滝は首を傾げながらコートへ戻っていった。
その後姿を見つめながらその場にしゃがみ込んでしまった。
「くそ…っ」
がらにもなく頭を抱え込み顔を膝に埋めて隠した。
まさかこんなことで涙を流すなんて思ってもみなかった。
他の人にバレるかもしれないという恐怖は予想以上で、今の楽しい学園生活が全て崩れてしまうことを考えると
どうしても涙腺が緩んでしまう。
「凌ー大丈夫かよー?」
「何やってたん自分。」
「いやー頭冷やしてた!」
20分くらい泣いてしまった。
あーあー滝と詩菜めっちゃこっち見てるよ。仕方ないか、ちょっと目腫れちゃったし…
「凌、俺様を待たすなんていい度胸じゃねえか。試合再開すんぞ」
試合が再開し、散々泣いたのだからすっきりしたつもりだったけど実際はそうでもなかった。
やっぱりテニスやみんなを見てると考え込んでしまう。
試合を再開しなければ、怪我なんかしなくて済んだのに…
「…大丈夫か?」
跡部のボールを避けられず、足首に直撃してしまった。自分らしくないミスだ。
自分で歩けるっつったのに、忍足に姫抱っこされて保健室代わりの部屋まで連行されてしまった。
その上先生はいない。ずっと居てくれなきゃなんのために同行してるのかわかんねえだろうが。
「凌らしくないなあ…今朝からずっとうわの空やし」
「悪かったな」
「ほら足出してみい。応急処置せなあかんやろ」
忍足が善意で足出せって言ってくれたのはわかっているけど、滝の言葉が頭から離れなくて足を出せない。
"君は明らかに女の体型だろ?―――……"
「…いや、ごめん、いい。自分で出来るから」
忍足は怪訝な顔をした。ちょっと言い方悪かったかも…
「凌、今日なんかおかしいで」
「別におかしくねえよ」
意地っ張りな性格はどうも直らないらしい。
「…こんなんなる位悩んでるなら誰かに言いや。俺ら何聞いても嫌ったりしいひんから」
そう言いながら忍足は瞼に一瞬触れた。やっぱり泣いてたこと気付かれていたんだ。
いつもの岳人と馬鹿してる忍足とは違って、本当に真剣な顔で真剣に言ってくれた。
それでも打ち明けることは出来ないけど、少し心が軽くなった気がした。
「…ありがとう。」
普通ににこやかに言ってみたつもりなのに忍足は一瞬驚いた顔になった。
やべえ女っぽかったのかなとか心配したけど、すぐにいつもの忍足のうさんくさい笑みになって安心した。
「今日の練習はもう出んでええよ。跡部には言っとくから、夜のミーティングまで部屋で休んどき」
そう言って忍足は保健室から出て行った。
とりあえず応急処置しなくちゃ、と包帯を探し始めた自分の聞こえないところで忍足が呟いていたことは誰も知らない。
「…可愛いやっちゃなあ。」