紅の王子様
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「あの、凌先輩おはようございます!」
「昨日の試合見てました…かっこよすぎです!」
「「「「「凌せんぱあーい!こっち向いてくださあーい!♡♡♡」」」」」
正直、疲れた。
朝練がある部活は他にもあるものの、男子テニス部は朝練がまた一段と早い。
低血圧な自分は寝ぼけ眼で校門に入り、女生徒の猛追を受けた。
トイレでジャージに着替えて部室へ入る。部室で着替えるわけにはいかないのだ。
「あ、おはよう凌ー」
「ん、おはよう」
詩菜と普通に挨拶をしたあと跡部と目が合ったが、逸らされてしまった。
特に傷ついたりするわけではないが、なんとも胸糞が悪い。
跡部はそのままラケットを持ち、ドアを物凄い勢いで開けて出て行ってしまった。
「お前どこで着替えてきたんだよ?」
自分と同じような髪型…こいつは覚えてる、確か宍戸だ。
「トイレで。部室で着替えるの無理だから」
「無理?」
素早く疑問を投げかけてきた犬みたいなでかい二年、鳳…だっけか。
もう、ぶっちゃけみんなかかわらないで欲しい。
自分は疲れているし、そんな親しい仲になるつもりはない。
でも、
なのに、
「跡部はお前んこと嫌ってるみたいやけど、俺らは別にそうでもないからな」
「あいつ負けず嫌いだからよ、そのうち普通の態度になってくれると思うぜ」
別に跡部に好かれたいとも思わないし、みんなと深くかかわるつもりはないのに。
優しくされたことがうれしくて、ちょっとはにかんでしまった。
このまま感情を露にしてると女バレしそうなので、とりあえず頷いて部室から出た。
後ろから追いかけてきた詩菜が「仲間扱いされるの珍しいんだよ」と教えてくれて、余計嬉しくなった。
テニスコートに入ると、跡部が壁打ちの練習をしている姿が目に入った。
跡部のフォームは正確で力強くて、少し見入ってしまった。
「跡部、お前に負けたことで火ついたみたいだな。」
「………ふーん…」
大人げなくて、やたら負けず嫌いで、わがままな俺様で、いいとこなんかどこもないと思ってたので、努力家っぽいとこを見て少しだけ跡部のこと、見直した。まだ嫌いだけど。
みんなとかかわらないようにしようとしてた自分が恥ずかしく思えた。
みんなはこんなに優しくていいヤツらばっかなのに、自分は何やってんだろう、と。
「…宍戸」
「ん?どした?」
おそるおそるだけど、言ってみた。
「友達になってくれる?」
「当たり前だろ!…俺も長太郎も忍足もジローも岳人も滝も、…きっと跡部のヤツだって、お前と仲良くなりたいって思ってるよ。よろしくな」
仲良くする気などないと思っていたはずなのにその言葉が嬉しくて、恥ずかしくて、宍戸から目をそらし小さくありがとうと呟いた。