忍たま
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忍術学園には誰もが知る同じ顔が二つある。
鉢屋三郎と不破雷蔵。
5年生に籍を置く2人は決して血の繋がりのある双子なんかではなく、千の顔を持つ変装名人と謳われる鉢屋三郎が不破雷蔵の顔を拝借しているのだった。
「三郎、」
「…おや、雷蔵。どうした?」
てて、と廊下を駆けてきた男が同じ顔の男に声をかける。
鉢屋三郎と不破雷蔵。
鏡に写したように同じ顔が視線を絡ませる。
忍たま長屋の自室で変装道具の手入れをしていた鉢屋は廊下から顔を覗かせた相棒に愛想よく返事をした。
部屋の真ん中に座る鉢屋の元へ足早に寄って向かいに座った不破は興奮気味に話しかける。
「聞いたかい?くノ一教室が」
「変化の術の試験中って?」
被せるように言われた不破はぱちくりとその大きな目を瞬かせた。
「…そう、やっぱり知ってたか」
「まぁね」
「街へ出るんじゃなくて学園の誰かに化けて知り合いにバレないかって試験らしいよ。まさか、君がそうじゃないだろうな」
そう言うと目の前の自分の顔をした男をまじまじと見つめた。
見つめられた鉢屋は手入れの手を止めて面白そうに瞳を細めると甘んじて見つめられる。
しばらく見つめ合ったのち、どちらともなくふは、と笑って姿勢を崩した。
「はは、いつもの三郎だ」
「疑いが晴れて何より」
可笑しそうにケラケラと笑って、ふぅと一息つくと上気した頰そのままに不破が口を開く。
「ねぇ、部屋にいないで学園を散歩してみようよ。変装名人の三郎なら誰が変装しているか一目瞭然なんじゃない?」
それで判ったら僕に教えてよ、と好奇心旺盛な瞳がワクワクと踊る。
鉢屋はふむ、と顎に手をやってしばし考える素振りを見せるとそうだな、と同意した。
「いいさ、やろうじゃないか、君が普段から三郎と呼んでくれるのなら」
「…? どういう意味、」
「初めて名前を呼ばれて気分が良くてね」
にやり、と意地悪く笑った鉢屋は手入れしていた道具を片手で押し退けるとずい、と不破に顔を近づけた。
急に寄られて驚いた不破は少し仰け反って距離を取ろうとする。
「それで?これからは三郎と呼んでくれるのか?」
「な、何言ってるんだよ三郎、僕はいつも三郎って呼んでるじゃ、」
「地声で、呼んで欲しい」
っ、と声を詰まらせた不破が怯えたような目をしたのを見逃さなかった鉢屋はするり、と不破の頰から耳の横へ掌を滑らせた。びくり、と小さく震えた不破と目が合う。
「三郎、」
「…地声で」
「………三郎」
「此の期に及んで呼ばないつもりか?」
ふぅん?と意地悪く口角を上げた鉢屋は添えるだけだった手に力を入れて顔を固定し、自らの顔をグッと近づけた。鼻が触れるか触れないかな距離まで寄ったことに慌てた不破は大きく後ろに仰け反ったせいで尻餅をついたように背中から板の間に転がった。
「ま、待っ、は!?アーーーー!!!!だから無理って言ったんです!!!!」
不破から不似合いな甲高い声が上がる。
頰を上気させて涙目で膝立ちの鉢屋を見上げる不破に、ニヤと鉢屋が目を細めたと同時に天井から「失格」と声が掛かった。
「〜〜ッ、学園一の変装名人相手って私だけハードル高すぎません…?しかも変装対象がターゲットの最も良く知る不破雷蔵って…せめてターゲットか変装対象どっちか選びたかった…」
「いつ如何なる相手に化けて潜入するかは選べないこともあります。今回の試験はそのためと解っていたでしょう」
ターゲットと変装対象はランダムです、と若い山本シナの声が天井からピシャリと掛かり、ふっと気配が消えた。
目の前の自分を無視して天井と会話していた不破雷蔵は「補習かよぉ〜」とその場に仰向けに倒れて脚をジタバタさせていた。
「行儀が悪い」
「うるさい!鉢屋もさ!試験内容知ってるなら気付いても黙っててよ〜!!」
「私が気付いたとは一言も言ってないけど。勝手に自爆したんじゃないか」
「はぁ〜〜!?地声で名前で呼べって言ったり顔寄せて来た癖に…!」
「雷蔵と普段からその距離感かもしれないだろう」
「えっ引くわ…」
寝転がったままドン引きして鉢屋の方を見る。顔は不破雷蔵のままだが表情はもはや別人のその人物を面白そうに緩む顔を隠しもせずにやにやと見下ろす。
結構頑張って研究したんだけどなぁ…とごちるそいつに声は良かったぞと褒めれば不満気な顔のままどこで気付いたの?と問われた。
「そうだな…雷蔵は首をかしげる時左に倒す癖がある。お前は右だったろ、あとさっき触れた頰、僅かだが面の境目が分かるぞ、あと図書委員の仕事でついた新しい紙切り傷が人差し指にあるがそこまでは調べがつかなかったようだな、それと」
「も、もういい…」
「雷蔵は足音をさせて廊下を走らない」
「最初からじゃんかよ〜〜〜〜!!!!」
再び大の字に寝転がってジタバタする不破を心底愉快そうに見やって一頻り笑うと「並べば身長差でバレると踏んで座って話せるここを選んだんだろう?それは良い判断だったな。無理のない範囲で身長も出来るだけ盛ったな。そのせいで足袋が厚くなって普段立てない足音が立ってしまったんだろう、仕方ないさ」とフォローすれば顰めっ面の不破の顔から似つかわしくない女の声で「鉢屋のバカやろぉ」と恨み言が滲み出た。
「ほら、いつまでそうしてるんだ、可愛い雷蔵の顔をあんまり不細工に歪めないで欲しいな、雷蔵はそんな顔しない」
「悪かったな」
ほら、変装を解け、と普段化粧落としに使っている特殊な手拭いを手入れしていた道具の中から拾い上げ、大の字に寝転がった不破(偽)へ投げる。
それを受け取り、握り締めたまま尚不満そうに見上げてくるので歩み寄って隣に寝そべった。
突然近くに寄られて驚いた不破はギョッと身を縮めて寝返りを打って離れようとするがガシッと腰を掴まれてしまい動けない。
「な、」
「早く素顔見せてよ」
「鉢屋、手、」
「三郎、だろ?」
青ざめて狼狽えた瞳と目が合う。
あまりの近さに瞳の中に楽しげに笑う自身が見える。
「これからは、三郎って呼んでくれるんデショ?」
「それは承諾してないでしょ!!!」
厚塗りの頰はうっすら色付いた程度だが、横に覗くすっぴんの耳は見事に真っ赤になっていて、これは素顔はさぞ見ものだろう、と加虐心を煽られた鉢屋はゾクゾクと背筋を震わせながら手拭いを奪い取り不破(偽)に覆い被さった。
「は!?!?!?」
「早く見せろ」
「ちょ…!!!」
「三郎〜〜って、うわ」
暴れる不破(偽)に半ば馬乗りになりながら手拭いを顔に押し付けていると、開けたままの扉からひょっこりと顔を覗かせた久々知兵助が何かを言おうとして開けた口のままゲェと顔を顰めた。器用だ。
「何やってるの…」
「…鉢屋三郎あるところに不破雷蔵ありってことさ、邪魔するほどの野暮用?」
「いや、出直す…」
せめて扉は閉めなよ、と呆れた声と共にするりと扉が閉められ密室になった。
「…『三郎♡って呼ばないと出られない部屋』だな」
「ここでそういうメタ要らないから退いて」
結局無理矢理変装を解かれ、無理矢理名前を呼ばされるまで鉢屋が退くことは無かった。
こんなの、絶対くノ一の試験じゃない!!!
鉢屋三郎と不破雷蔵。
5年生に籍を置く2人は決して血の繋がりのある双子なんかではなく、千の顔を持つ変装名人と謳われる鉢屋三郎が不破雷蔵の顔を拝借しているのだった。
「三郎、」
「…おや、雷蔵。どうした?」
てて、と廊下を駆けてきた男が同じ顔の男に声をかける。
鉢屋三郎と不破雷蔵。
鏡に写したように同じ顔が視線を絡ませる。
忍たま長屋の自室で変装道具の手入れをしていた鉢屋は廊下から顔を覗かせた相棒に愛想よく返事をした。
部屋の真ん中に座る鉢屋の元へ足早に寄って向かいに座った不破は興奮気味に話しかける。
「聞いたかい?くノ一教室が」
「変化の術の試験中って?」
被せるように言われた不破はぱちくりとその大きな目を瞬かせた。
「…そう、やっぱり知ってたか」
「まぁね」
「街へ出るんじゃなくて学園の誰かに化けて知り合いにバレないかって試験らしいよ。まさか、君がそうじゃないだろうな」
そう言うと目の前の自分の顔をした男をまじまじと見つめた。
見つめられた鉢屋は手入れの手を止めて面白そうに瞳を細めると甘んじて見つめられる。
しばらく見つめ合ったのち、どちらともなくふは、と笑って姿勢を崩した。
「はは、いつもの三郎だ」
「疑いが晴れて何より」
可笑しそうにケラケラと笑って、ふぅと一息つくと上気した頰そのままに不破が口を開く。
「ねぇ、部屋にいないで学園を散歩してみようよ。変装名人の三郎なら誰が変装しているか一目瞭然なんじゃない?」
それで判ったら僕に教えてよ、と好奇心旺盛な瞳がワクワクと踊る。
鉢屋はふむ、と顎に手をやってしばし考える素振りを見せるとそうだな、と同意した。
「いいさ、やろうじゃないか、君が普段から三郎と呼んでくれるのなら」
「…? どういう意味、」
「初めて名前を呼ばれて気分が良くてね」
にやり、と意地悪く笑った鉢屋は手入れしていた道具を片手で押し退けるとずい、と不破に顔を近づけた。
急に寄られて驚いた不破は少し仰け反って距離を取ろうとする。
「それで?これからは三郎と呼んでくれるのか?」
「な、何言ってるんだよ三郎、僕はいつも三郎って呼んでるじゃ、」
「地声で、呼んで欲しい」
っ、と声を詰まらせた不破が怯えたような目をしたのを見逃さなかった鉢屋はするり、と不破の頰から耳の横へ掌を滑らせた。びくり、と小さく震えた不破と目が合う。
「三郎、」
「…地声で」
「………三郎」
「此の期に及んで呼ばないつもりか?」
ふぅん?と意地悪く口角を上げた鉢屋は添えるだけだった手に力を入れて顔を固定し、自らの顔をグッと近づけた。鼻が触れるか触れないかな距離まで寄ったことに慌てた不破は大きく後ろに仰け反ったせいで尻餅をついたように背中から板の間に転がった。
「ま、待っ、は!?アーーーー!!!!だから無理って言ったんです!!!!」
不破から不似合いな甲高い声が上がる。
頰を上気させて涙目で膝立ちの鉢屋を見上げる不破に、ニヤと鉢屋が目を細めたと同時に天井から「失格」と声が掛かった。
「〜〜ッ、学園一の変装名人相手って私だけハードル高すぎません…?しかも変装対象がターゲットの最も良く知る不破雷蔵って…せめてターゲットか変装対象どっちか選びたかった…」
「いつ如何なる相手に化けて潜入するかは選べないこともあります。今回の試験はそのためと解っていたでしょう」
ターゲットと変装対象はランダムです、と若い山本シナの声が天井からピシャリと掛かり、ふっと気配が消えた。
目の前の自分を無視して天井と会話していた不破雷蔵は「補習かよぉ〜」とその場に仰向けに倒れて脚をジタバタさせていた。
「行儀が悪い」
「うるさい!鉢屋もさ!試験内容知ってるなら気付いても黙っててよ〜!!」
「私が気付いたとは一言も言ってないけど。勝手に自爆したんじゃないか」
「はぁ〜〜!?地声で名前で呼べって言ったり顔寄せて来た癖に…!」
「雷蔵と普段からその距離感かもしれないだろう」
「えっ引くわ…」
寝転がったままドン引きして鉢屋の方を見る。顔は不破雷蔵のままだが表情はもはや別人のその人物を面白そうに緩む顔を隠しもせずにやにやと見下ろす。
結構頑張って研究したんだけどなぁ…とごちるそいつに声は良かったぞと褒めれば不満気な顔のままどこで気付いたの?と問われた。
「そうだな…雷蔵は首をかしげる時左に倒す癖がある。お前は右だったろ、あとさっき触れた頰、僅かだが面の境目が分かるぞ、あと図書委員の仕事でついた新しい紙切り傷が人差し指にあるがそこまでは調べがつかなかったようだな、それと」
「も、もういい…」
「雷蔵は足音をさせて廊下を走らない」
「最初からじゃんかよ〜〜〜〜!!!!」
再び大の字に寝転がってジタバタする不破を心底愉快そうに見やって一頻り笑うと「並べば身長差でバレると踏んで座って話せるここを選んだんだろう?それは良い判断だったな。無理のない範囲で身長も出来るだけ盛ったな。そのせいで足袋が厚くなって普段立てない足音が立ってしまったんだろう、仕方ないさ」とフォローすれば顰めっ面の不破の顔から似つかわしくない女の声で「鉢屋のバカやろぉ」と恨み言が滲み出た。
「ほら、いつまでそうしてるんだ、可愛い雷蔵の顔をあんまり不細工に歪めないで欲しいな、雷蔵はそんな顔しない」
「悪かったな」
ほら、変装を解け、と普段化粧落としに使っている特殊な手拭いを手入れしていた道具の中から拾い上げ、大の字に寝転がった不破(偽)へ投げる。
それを受け取り、握り締めたまま尚不満そうに見上げてくるので歩み寄って隣に寝そべった。
突然近くに寄られて驚いた不破はギョッと身を縮めて寝返りを打って離れようとするがガシッと腰を掴まれてしまい動けない。
「な、」
「早く素顔見せてよ」
「鉢屋、手、」
「三郎、だろ?」
青ざめて狼狽えた瞳と目が合う。
あまりの近さに瞳の中に楽しげに笑う自身が見える。
「これからは、三郎って呼んでくれるんデショ?」
「それは承諾してないでしょ!!!」
厚塗りの頰はうっすら色付いた程度だが、横に覗くすっぴんの耳は見事に真っ赤になっていて、これは素顔はさぞ見ものだろう、と加虐心を煽られた鉢屋はゾクゾクと背筋を震わせながら手拭いを奪い取り不破(偽)に覆い被さった。
「は!?!?!?」
「早く見せろ」
「ちょ…!!!」
「三郎〜〜って、うわ」
暴れる不破(偽)に半ば馬乗りになりながら手拭いを顔に押し付けていると、開けたままの扉からひょっこりと顔を覗かせた久々知兵助が何かを言おうとして開けた口のままゲェと顔を顰めた。器用だ。
「何やってるの…」
「…鉢屋三郎あるところに不破雷蔵ありってことさ、邪魔するほどの野暮用?」
「いや、出直す…」
せめて扉は閉めなよ、と呆れた声と共にするりと扉が閉められ密室になった。
「…『三郎♡って呼ばないと出られない部屋』だな」
「ここでそういうメタ要らないから退いて」
結局無理矢理変装を解かれ、無理矢理名前を呼ばされるまで鉢屋が退くことは無かった。
こんなの、絶対くノ一の試験じゃない!!!
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