夢だけど夢じゃない
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「やっほー合コンぶり~。弱井トト子の相方やるなんてどんなヤベエ奴かと思ったらまさかのあんたでびっくりしたわ〜。ミスターフラッグのオトモダチがなんでまた地下アイドルなんてやってんの?金に困ってなんかいないでしょ」
「色々あって…」
「よぉよぉよぉ橋本にゃー、トト子に挨拶もなく突然名前ちゃんに話しかけるってどぉゆーこと?名前ちゃんはトト子のユニットパートナーなんだから勝手に気安く話しかけないでくれる?」
「ハッ!弱井トト子、自己顕示欲と承認欲求だけじゃなく独占欲も強かったわけ?終わってんな〜!ご生憎様、この子と私は元々オトモダチなんで〜盃交わした仲なんで〜」
「!?ちょっとどういうこと!?名前ちゃん!」
「にゃーちゃん言い方に語弊が…飲み会でご一緒したってだけで…」
「えええ〜〜!?トト子聞いてない〜!」
「言ってなくてごめん…?」
「トト子誘われてない〜!」
「だーれがおめぇなんか誘うか」
「あ?なんだよおまえが主催かよ、こっちから願い下げだ、ンなもん」
「ああ〜??」
「はぁあ〜??」
かわいい女の子同士が額を突き合わせて凄んでいる。
元の作画がわからないくらい崩れたキレ顔で。
ダヨーンから出てきて心の整理もつかないまま、あれよあれよと時は進んでもう2月になってた。(寝て起きたら数週間飛んでいたので実感がない)(起きたらオープニングの途中で瞬きしている間に場所も服も変わって急に話が始まるの、いまだに慣れない!どういう仕組みなんだ!)
まさかこの二人に挟まれる日が来るなんて考えもしなかったから対処シミュレーション不足でどうしたらいいかわからず、ただひたすらおろおろするしかない。
どうしよう、割って入れる雰囲気でもない。ほとぼり冷めるまでおとなしく気配を消しておくか…いい感じのタイミングでCMに入って空気リセットされないかな。来るなら今だよ第一のコース鈴木くん…!
「それにしても弱井トト子、自分が世界で一番可愛いって勘違いしてるタイプかと思ってたけど、自分より可愛い子隣に並べるなんてどうしちゃったわけ?」
「は?」
「だーかーらぁー、どう見たって名前の方が可愛い…」
「にゃーちゃんだからって言っていいことと悪いことがありますよ」
自分の声とは思えないくらい低い声が出た。びっくりしたような二人の美少女がこちらを向く。
「「えっ…?」」
「どう!!!見ても!!!トト子ちゃんのが可愛いでしょうが!!!ちょっと待ってちゃんと見たことある??見て??今見て???見た???トト子ちゃんのこの圧倒的可愛さ!他の追随を許さぬ完璧ヒロイン!!!口の悪さも性格のアレさも全て許させるこのビジュアル!!!!!!スーパー可愛いでしょうが!!!にゃーちゃんもめちゃくちゃ可愛いけど!!!トト子ちゃんはダントツ可愛い!!私なんてモブ作画ですよ!!!」
あまりの熱弁にポカンとする猫と魚にふぅふぅと興奮覚めやらぬまま息を荒げる。
呆然としたままのトト子ちゃんはうわ言のように「ありがとう…トト子が宇宙一可愛いのは知ってるけど名前ちゃんもトト子の隣にいれるくらいには可愛いよ」と言ってくれた。なんて懐が深いのか。トト子ちゃん最高。超絶ヒロイン!
褒め合う私達ににゃーちゃんはドン引き顔をしていたけど我に返ったようで本題があったんだった、と向き直った。
「興行元も何考えてんだか知らないけど、今日はあんたらと合同ライブなんだからせいぜいあたしの客退屈させないよう頑張れよ。このくらいの箱、あたし一人で埋められるってのになんで売れてないあんたらと対バンなんか…あたしはライブの後、握手会あるからライブ終わったら楽屋片づけてさっさと帰ってよね」
「はあ~?なんでこっちが片づけもしなきゃなんねーんだ、うちらも握手会あるわ!!」
「えぇえぇえ~~!!!!まじで!?プーッ!だれが並ぶんだよwww閑古鳥乙wwにゃーの華麗なファンサを横で指くわえて見学してるんだな!!」
「それはこっちのセリフじゃ馬鹿猫」
「は?現実見ろクソ魚」
「なんだってぇ~?」
「ああん?」
「ふ、ふたりとも!ライブ前にそんなに顔しかめたらメイクがよれちゃうし衣装も皴になっちゃうから!ね!」
すーぐ煽りあって額を突き合わせてしまう猫と魚を必死に引きはがす。ち、ちから強…!
「…ふん、ま~一理あるし?今は大目に見といてやるよ。それにしても…アンタの衣装は皴にならなさそうというか…なにそれ…なんつー色の…なに…武将…?」
「蝦蛄 です…」
「どんなチョイス!?!?!?!?」
どうせ頭弱井トト子に着せられてるんだろ?可哀想に…あたしと組んだらウサミミとかだったのに…とこそこそ耳打ちしてくるにゃーちゃんは本気で憐みの目をしていてそのまなざしが痛い。
そもそもアイドルなんて目立つこと自体を辞退したいので蝦蛄もウサギも変わらないんだけどな~と曖昧に微笑んでおいた。
美少女二人がギャアギャア騒いでいてくれたおかげでライブ前だというのに全然緊張する間もなく楽屋タイムを終え、なにが起こったのか知らんがCM明けにはライブも終わったことになっていた。
私は1ミリも記憶がないのだがトト子ちゃんが「今日はすごーく良かったよ!トト子たちのファンで会場も満員だったし!盛り上がったね~♡」と(「9割9分あたしのファンなんだけど」ってツッコんだにゃーちゃんにコブラツイストをキメるくらい)大はしゃぎだったし、このまま握手会もなかったことにならないかな~はやくエンディングテーマ流れないかな~~と思ってたんだけど。
そうは上手くいかないらしく。
モブ顔のスタッフが呼びに来たので握手会会場に3人連れだって移動することになってしまった。
ライブの記憶がないのでどのくらいのキャパでどのくらいの客入りなのか知らないし、そもそも握手会ってなに!?事前説明ゼロなんだけど!?ずっと2次元おたくで3次元イベなんて行ったことないし、アニメで見たにゃーちゃんの握手会くらいしか知識ないんだけど!?たくさん並んでいるにゃーちゃんレーンの横でいつメンと数少ない見知らぬモブの相手を少しした後は暇なんだろうな…どうせむつごは来ているんだろうから、たくさん暴れてもらって握手会強制終了したらいいのに。
「「「うわー!きたぞー!!!」」」「「「名前ちゃーん!!!」」」
えっ?
扉があくと同時に聞こえた自分の名前にびっくりして顔を上げる。
私の前を歩いていた美少女二人も全く同じ発声をして固まっていた。
会場にひしめき合う男たち。おっ多くない…!?
壁に『橋本にゃー』『オーシャンガールズ』と貼ってあり、それぞれの名前の前に男たちが並んでいる。
驚いたことににゃーちゃんのレーンよりオーシャンガールズのレーンの方が人がいる。まあ単純ににゃーちゃんひとりとこっちは二人なのだから1:2になってもおかしくないかもしれないけど、だって。言っちゃ悪いが我々は売れていない。なのになにこれ!?
わけもわからぬまま名前の貼られた壁を背に並ばされる。隣のお魚アイドルから禍々しいオーラと視線を感じる。怖くて横が見れない。はやく暴れてむつごたち…と藁にも縋る思いで目の前の男の列から知ってる顔を探すのに全然見つからない。なんで!?6個もあるはずなのに!?!?
私が目を皿のようにして群衆を凝視している間に握手会が始まってしまったらしく隣で可愛らしい声が見知った名を呼んだ。
「え~~!?チビ太くんどうしたの~??ありがとう~」
「えっチビ太くん??」
驚いて隣を見れば、すっかり可愛らしい顔に戻ったトト子ちゃんと長机を挟んで握手をしているのは坊主頭のチビ太だった。
「よおトト子ちゃん、名前ちゃん!今日のライブ良かったぜ」
「え~うれしい~~~ありがとお~」
「特に間奏で始まったセリにしびれたぜ…あと少しでマグロのカマ落とせるとこだったのによぉ、違う奴に取られちまった」
「えーあれチビ太くんだったんだぁ~残念だったね~、また今度もライブ来て次こそはゲットしてね!」
「おーよ!」
「(ライブとは…アイドルとは…)」
「名前ちゃんも良かったぜ!」
「あっ!?ありがとう」
ライブの記憶がないことが悔やまれる。
一体どんなライブだったのか気になりすぎている間に横にスライドしてきた小さな男に両手をぎゅっと握られて我に返る。
そうか握手会か、私も握手するんだ、トト子ちゃんの次に。
チビ太くんと握手するなんてちょっと不思議な感じだけど知っている人が楽しそうに手を握ってくれて少し安心する。
「特にセリ落とした奴に向かってマグロのカマをぶん投げたの、最高にアガったぜ!」
「私そんなことしてた!?」
ライブの記憶がないことが悔やまれる!
衝撃発言を残し、チビ太はニコニコ手を振りながら去っていった。
扉の向こうへ消えていくチビ太の背中を目で追いかけていたが、目の前に次の客が来たことを察して慌てて前に向き直る。
客の顔を見たのと、手を握られたのはほぼ同時だった。
「っ!?」
「やあ」
落ち着いた声音で優しく囁いたのは、まさかのあつしくんだった。
スーツ姿を彷彿とさせる黒のトップスに紺のアウターを着ているがいかにも一軍らしい洗練されたオシャレな私服姿でそのスマートさがアイドル現場で浮きに浮いている。
程よい温度の乾いた手に優しく力を込められる。チビ太と違う大きな手ですっぽりと両手を包み込まれ、どこを見たらいいのかわからないままトップスの黄色いラインに目を落としなんとか声を絞り出す。
「あ、アイドルとか…見るんですね…」
「いや、全然興味はなかったんだけど。先日"御社"に伺った際に受付にチケットが置いてあって。キミの顔が印刷されていたからそういえば、と思ってね。彼女の顔も印刷されていたし。休みだったから来てみたんだ」
彼女、と言いながらトト子ちゃんの向こう側で慣れたようにファンをさばくにゃーちゃんの方をちら、と見た。
へ、へえ~~~、ハタ坊なにやってんの!?!?聞いてないんだけど!?!?!?!?
「なかなか楽しかったよ、ファンサっていうの?ありがとう」
「え?」
「まさかキミがマグロのカマを直接投げてくれるなんて。シビレたな」
セリ落としたのおまえかよ!!!!!
なにやってんだよ!!!!!!わたしも!!!おまえも!!!!!
ライブの記憶がないことが悔やまれる!!!!!!!!
「あの時の彼らの顔…ふふ、」
「!!!あ、あの、むつごどこ行ったか知りませんか!?」
ライブの記憶はないが”彼ら”なんてむつごのことに決まってる。
急に身を乗り出した私に驚いたように半目を少し見開いた彼は静かに首を振った。
「さあ?ライブ中は最前列に張り付いていたけれど…握手会会場では見ていないな」
「そう、ですか…」
「次男くん見かけたらキミが探してたって伝えておこうか?」
「…え、なんで、」
「アハハ。…かわいいね」
わかりやすいなあ、と呟いた彼は自然な手つきで私の頭をひと撫でしたあと去り際にウインクを残していった。なんだあれ、手慣れてるとかいう問題じゃない。私なんかよりよっぽどアイドルっぽいんだが!?!?一軍こっわ!!!!
そのあとも流れてくる見知らぬ男たちと話したが一向にむつごは現れない。なんでなんでなんで。知らない人に手を握られ続ける。社畜時代にだってこんな愛想振りまいたことない。
結局むつごは現れないまま握手会は終わってしまった。
ありがたい事に、来てくれた人たちみんな良い人でマナー違反やヤバイ人はおらず、にゃーちゃんやトト子ちゃん目当ての人ばかりだろうに私にも優しく声をかけてくれた。初めてにしては滞りなく無事に終わったのだと思うけど、ドッと疲れて楽屋に戻らずそのままシャワールームに直行した。
ぼんやりとシャワーを浴びているとだんだん気持ちが整理されてきたのか視界がぼやけてきた。
むつごはどうしたの。まさか帰っちゃったの?にゃーちゃんもトト子ちゃんもいるのに?
もしかしたらまた出待ちしてるのかもしれない。そう思ってシャワーを終え、トボトボと廊下を歩いて楽屋へ戻る。
「ん?なに、荷物まとめてんの?引退すんの?おまえ」
楽屋のドアを開けたところで煽るようなトト子ちゃんの声がした。
トランクに荷物を詰めるにゃーちゃんが呆れたように振り返る。あのふたりまだやってんのか。
こんな大盛況に終わったあと突然引退なんてしないでしょ。帰るから荷物まとめてるだけでしょ。もう。
そう思って自分の鏡前に座ったら耳を疑うセリフが飛び込んできた。
「そっ。おまえには言ってなかったけど、結婚することにした」
えっ。
びっくりして顔を上げると鏡越しに背の高いイケメンと並ぶにゃーちゃんが見えた。
「どーも。結婚相手のいまネット事業でかなり儲かっている者です」
うっさんくせえええええええええええ
アニメで見た時も同じ言葉を叫んだ気がするが、生で見るとさらにやべえええええ
部屋で一人アニメを見ていたあの時とは違い、いまは真後ろに本人がいるので叫びだす前にとっさに口を両手で塞ぐ。「うっ」までは声に出たけどセーフ。
絶対やめた方がいい、絶対。
止めようとして勢いよく振り向いた私がにゃーちゃんと目があったのと、ネット成金が飛行機に誘ったのはほぼ同時だった。
「ひっ飛行機はやめなよ!!!」
「は?」
この世界に来てから飛行機にいい思い出がないあまりに意味不明なことを口走ってしまう。
「よくわかんないけどアンタ”は”結婚相手に困んないでしょ?地下アイドルなんかとっとと辞めて、せいぜい頑張れ。じゃーな」
アイドルらしくない放屁をかましてイケメンにぶら下がったまま彼女は去っていった。えっ何この展開。じゃあ今日のライブは一体なんだったの。なんのための握手会だったの!?!?!?
愕然としている間にトト子ちゃんはいなくなってるし、心の中がからっぽになった。おとなしく楽屋を片付けおとなしく帰ろう。帰ったらもう寝ちゃおう。明日は昼まで寝て一日ごろごろしちゃおう。そうしよう。
少しの期待を込めて開けた楽屋出口の外にも、やっぱりむつごはいなかった。
「名前ちゃあ~~~~ん!!!!!!!!!!」
「うわあああ!?!?!?」
ライブ翌日、傷心を癒すために計画通り昼過ぎまで惰眠をむさぼってた私は突然ベッドに襲撃を食らって飛び起きた。
「え、な、なに、え」
「おはよー名前ちゃん!!なんでこんな時間まで寝てるの!」
「トト子ちゃん…いや、ちょっと疲れたので…」
「電話もLINEもいっぱいしたのに出ないから来ちゃった!」
「え、ごめん、なにか用事が…」
「結婚相談所に行こ!!!」
「け…?」
寝起きの頭には衝撃が強すぎて頭上に?をたくさん浮かべている間に勝手に私のパジャマを脱がせたトト子ちゃんはいつもの服を私に着せてそのまま有無を言わさず連れ出したのだった。
「色々あって…」
「よぉよぉよぉ橋本にゃー、トト子に挨拶もなく突然名前ちゃんに話しかけるってどぉゆーこと?名前ちゃんはトト子のユニットパートナーなんだから勝手に気安く話しかけないでくれる?」
「ハッ!弱井トト子、自己顕示欲と承認欲求だけじゃなく独占欲も強かったわけ?終わってんな〜!ご生憎様、この子と私は元々オトモダチなんで〜盃交わした仲なんで〜」
「!?ちょっとどういうこと!?名前ちゃん!」
「にゃーちゃん言い方に語弊が…飲み会でご一緒したってだけで…」
「えええ〜〜!?トト子聞いてない〜!」
「言ってなくてごめん…?」
「トト子誘われてない〜!」
「だーれがおめぇなんか誘うか」
「あ?なんだよおまえが主催かよ、こっちから願い下げだ、ンなもん」
「ああ〜??」
「はぁあ〜??」
かわいい女の子同士が額を突き合わせて凄んでいる。
元の作画がわからないくらい崩れたキレ顔で。
ダヨーンから出てきて心の整理もつかないまま、あれよあれよと時は進んでもう2月になってた。(寝て起きたら数週間飛んでいたので実感がない)(起きたらオープニングの途中で瞬きしている間に場所も服も変わって急に話が始まるの、いまだに慣れない!どういう仕組みなんだ!)
まさかこの二人に挟まれる日が来るなんて考えもしなかったから対処シミュレーション不足でどうしたらいいかわからず、ただひたすらおろおろするしかない。
どうしよう、割って入れる雰囲気でもない。ほとぼり冷めるまでおとなしく気配を消しておくか…いい感じのタイミングでCMに入って空気リセットされないかな。来るなら今だよ第一のコース鈴木くん…!
「それにしても弱井トト子、自分が世界で一番可愛いって勘違いしてるタイプかと思ってたけど、自分より可愛い子隣に並べるなんてどうしちゃったわけ?」
「は?」
「だーかーらぁー、どう見たって名前の方が可愛い…」
「にゃーちゃんだからって言っていいことと悪いことがありますよ」
自分の声とは思えないくらい低い声が出た。びっくりしたような二人の美少女がこちらを向く。
「「えっ…?」」
「どう!!!見ても!!!トト子ちゃんのが可愛いでしょうが!!!ちょっと待ってちゃんと見たことある??見て??今見て???見た???トト子ちゃんのこの圧倒的可愛さ!他の追随を許さぬ完璧ヒロイン!!!口の悪さも性格のアレさも全て許させるこのビジュアル!!!!!!スーパー可愛いでしょうが!!!にゃーちゃんもめちゃくちゃ可愛いけど!!!トト子ちゃんはダントツ可愛い!!私なんてモブ作画ですよ!!!」
あまりの熱弁にポカンとする猫と魚にふぅふぅと興奮覚めやらぬまま息を荒げる。
呆然としたままのトト子ちゃんはうわ言のように「ありがとう…トト子が宇宙一可愛いのは知ってるけど名前ちゃんもトト子の隣にいれるくらいには可愛いよ」と言ってくれた。なんて懐が深いのか。トト子ちゃん最高。超絶ヒロイン!
褒め合う私達ににゃーちゃんはドン引き顔をしていたけど我に返ったようで本題があったんだった、と向き直った。
「興行元も何考えてんだか知らないけど、今日はあんたらと合同ライブなんだからせいぜいあたしの客退屈させないよう頑張れよ。このくらいの箱、あたし一人で埋められるってのになんで売れてないあんたらと対バンなんか…あたしはライブの後、握手会あるからライブ終わったら楽屋片づけてさっさと帰ってよね」
「はあ~?なんでこっちが片づけもしなきゃなんねーんだ、うちらも握手会あるわ!!」
「えぇえぇえ~~!!!!まじで!?プーッ!だれが並ぶんだよwww閑古鳥乙wwにゃーの華麗なファンサを横で指くわえて見学してるんだな!!」
「それはこっちのセリフじゃ馬鹿猫」
「は?現実見ろクソ魚」
「なんだってぇ~?」
「ああん?」
「ふ、ふたりとも!ライブ前にそんなに顔しかめたらメイクがよれちゃうし衣装も皴になっちゃうから!ね!」
すーぐ煽りあって額を突き合わせてしまう猫と魚を必死に引きはがす。ち、ちから強…!
「…ふん、ま~一理あるし?今は大目に見といてやるよ。それにしても…アンタの衣装は皴にならなさそうというか…なにそれ…なんつー色の…なに…武将…?」
「
「どんなチョイス!?!?!?!?」
どうせ頭弱井トト子に着せられてるんだろ?可哀想に…あたしと組んだらウサミミとかだったのに…とこそこそ耳打ちしてくるにゃーちゃんは本気で憐みの目をしていてそのまなざしが痛い。
そもそもアイドルなんて目立つこと自体を辞退したいので蝦蛄もウサギも変わらないんだけどな~と曖昧に微笑んでおいた。
美少女二人がギャアギャア騒いでいてくれたおかげでライブ前だというのに全然緊張する間もなく楽屋タイムを終え、なにが起こったのか知らんがCM明けにはライブも終わったことになっていた。
私は1ミリも記憶がないのだがトト子ちゃんが「今日はすごーく良かったよ!トト子たちのファンで会場も満員だったし!盛り上がったね~♡」と(「9割9分あたしのファンなんだけど」ってツッコんだにゃーちゃんにコブラツイストをキメるくらい)大はしゃぎだったし、このまま握手会もなかったことにならないかな~はやくエンディングテーマ流れないかな~~と思ってたんだけど。
そうは上手くいかないらしく。
モブ顔のスタッフが呼びに来たので握手会会場に3人連れだって移動することになってしまった。
ライブの記憶がないのでどのくらいのキャパでどのくらいの客入りなのか知らないし、そもそも握手会ってなに!?事前説明ゼロなんだけど!?ずっと2次元おたくで3次元イベなんて行ったことないし、アニメで見たにゃーちゃんの握手会くらいしか知識ないんだけど!?たくさん並んでいるにゃーちゃんレーンの横でいつメンと数少ない見知らぬモブの相手を少しした後は暇なんだろうな…どうせむつごは来ているんだろうから、たくさん暴れてもらって握手会強制終了したらいいのに。
「「「うわー!きたぞー!!!」」」「「「名前ちゃーん!!!」」」
えっ?
扉があくと同時に聞こえた自分の名前にびっくりして顔を上げる。
私の前を歩いていた美少女二人も全く同じ発声をして固まっていた。
会場にひしめき合う男たち。おっ多くない…!?
壁に『橋本にゃー』『オーシャンガールズ』と貼ってあり、それぞれの名前の前に男たちが並んでいる。
驚いたことににゃーちゃんのレーンよりオーシャンガールズのレーンの方が人がいる。まあ単純ににゃーちゃんひとりとこっちは二人なのだから1:2になってもおかしくないかもしれないけど、だって。言っちゃ悪いが我々は売れていない。なのになにこれ!?
わけもわからぬまま名前の貼られた壁を背に並ばされる。隣のお魚アイドルから禍々しいオーラと視線を感じる。怖くて横が見れない。はやく暴れてむつごたち…と藁にも縋る思いで目の前の男の列から知ってる顔を探すのに全然見つからない。なんで!?6個もあるはずなのに!?!?
私が目を皿のようにして群衆を凝視している間に握手会が始まってしまったらしく隣で可愛らしい声が見知った名を呼んだ。
「え~~!?チビ太くんどうしたの~??ありがとう~」
「えっチビ太くん??」
驚いて隣を見れば、すっかり可愛らしい顔に戻ったトト子ちゃんと長机を挟んで握手をしているのは坊主頭のチビ太だった。
「よおトト子ちゃん、名前ちゃん!今日のライブ良かったぜ」
「え~うれしい~~~ありがとお~」
「特に間奏で始まったセリにしびれたぜ…あと少しでマグロのカマ落とせるとこだったのによぉ、違う奴に取られちまった」
「えーあれチビ太くんだったんだぁ~残念だったね~、また今度もライブ来て次こそはゲットしてね!」
「おーよ!」
「(ライブとは…アイドルとは…)」
「名前ちゃんも良かったぜ!」
「あっ!?ありがとう」
ライブの記憶がないことが悔やまれる。
一体どんなライブだったのか気になりすぎている間に横にスライドしてきた小さな男に両手をぎゅっと握られて我に返る。
そうか握手会か、私も握手するんだ、トト子ちゃんの次に。
チビ太くんと握手するなんてちょっと不思議な感じだけど知っている人が楽しそうに手を握ってくれて少し安心する。
「特にセリ落とした奴に向かってマグロのカマをぶん投げたの、最高にアガったぜ!」
「私そんなことしてた!?」
ライブの記憶がないことが悔やまれる!
衝撃発言を残し、チビ太はニコニコ手を振りながら去っていった。
扉の向こうへ消えていくチビ太の背中を目で追いかけていたが、目の前に次の客が来たことを察して慌てて前に向き直る。
客の顔を見たのと、手を握られたのはほぼ同時だった。
「っ!?」
「やあ」
落ち着いた声音で優しく囁いたのは、まさかのあつしくんだった。
スーツ姿を彷彿とさせる黒のトップスに紺のアウターを着ているがいかにも一軍らしい洗練されたオシャレな私服姿でそのスマートさがアイドル現場で浮きに浮いている。
程よい温度の乾いた手に優しく力を込められる。チビ太と違う大きな手ですっぽりと両手を包み込まれ、どこを見たらいいのかわからないままトップスの黄色いラインに目を落としなんとか声を絞り出す。
「あ、アイドルとか…見るんですね…」
「いや、全然興味はなかったんだけど。先日"御社"に伺った際に受付にチケットが置いてあって。キミの顔が印刷されていたからそういえば、と思ってね。彼女の顔も印刷されていたし。休みだったから来てみたんだ」
彼女、と言いながらトト子ちゃんの向こう側で慣れたようにファンをさばくにゃーちゃんの方をちら、と見た。
へ、へえ~~~、ハタ坊なにやってんの!?!?聞いてないんだけど!?!?!?!?
「なかなか楽しかったよ、ファンサっていうの?ありがとう」
「え?」
「まさかキミがマグロのカマを直接投げてくれるなんて。シビレたな」
セリ落としたのおまえかよ!!!!!
なにやってんだよ!!!!!!わたしも!!!おまえも!!!!!
ライブの記憶がないことが悔やまれる!!!!!!!!
「あの時の彼らの顔…ふふ、」
「!!!あ、あの、むつごどこ行ったか知りませんか!?」
ライブの記憶はないが”彼ら”なんてむつごのことに決まってる。
急に身を乗り出した私に驚いたように半目を少し見開いた彼は静かに首を振った。
「さあ?ライブ中は最前列に張り付いていたけれど…握手会会場では見ていないな」
「そう、ですか…」
「次男くん見かけたらキミが探してたって伝えておこうか?」
「…え、なんで、」
「アハハ。…かわいいね」
わかりやすいなあ、と呟いた彼は自然な手つきで私の頭をひと撫でしたあと去り際にウインクを残していった。なんだあれ、手慣れてるとかいう問題じゃない。私なんかよりよっぽどアイドルっぽいんだが!?!?一軍こっわ!!!!
そのあとも流れてくる見知らぬ男たちと話したが一向にむつごは現れない。なんでなんでなんで。知らない人に手を握られ続ける。社畜時代にだってこんな愛想振りまいたことない。
結局むつごは現れないまま握手会は終わってしまった。
ありがたい事に、来てくれた人たちみんな良い人でマナー違反やヤバイ人はおらず、にゃーちゃんやトト子ちゃん目当ての人ばかりだろうに私にも優しく声をかけてくれた。初めてにしては滞りなく無事に終わったのだと思うけど、ドッと疲れて楽屋に戻らずそのままシャワールームに直行した。
ぼんやりとシャワーを浴びているとだんだん気持ちが整理されてきたのか視界がぼやけてきた。
むつごはどうしたの。まさか帰っちゃったの?にゃーちゃんもトト子ちゃんもいるのに?
もしかしたらまた出待ちしてるのかもしれない。そう思ってシャワーを終え、トボトボと廊下を歩いて楽屋へ戻る。
「ん?なに、荷物まとめてんの?引退すんの?おまえ」
楽屋のドアを開けたところで煽るようなトト子ちゃんの声がした。
トランクに荷物を詰めるにゃーちゃんが呆れたように振り返る。あのふたりまだやってんのか。
こんな大盛況に終わったあと突然引退なんてしないでしょ。帰るから荷物まとめてるだけでしょ。もう。
そう思って自分の鏡前に座ったら耳を疑うセリフが飛び込んできた。
「そっ。おまえには言ってなかったけど、結婚することにした」
えっ。
びっくりして顔を上げると鏡越しに背の高いイケメンと並ぶにゃーちゃんが見えた。
「どーも。結婚相手のいまネット事業でかなり儲かっている者です」
うっさんくせえええええええええええ
アニメで見た時も同じ言葉を叫んだ気がするが、生で見るとさらにやべえええええ
部屋で一人アニメを見ていたあの時とは違い、いまは真後ろに本人がいるので叫びだす前にとっさに口を両手で塞ぐ。「うっ」までは声に出たけどセーフ。
絶対やめた方がいい、絶対。
止めようとして勢いよく振り向いた私がにゃーちゃんと目があったのと、ネット成金が飛行機に誘ったのはほぼ同時だった。
「ひっ飛行機はやめなよ!!!」
「は?」
この世界に来てから飛行機にいい思い出がないあまりに意味不明なことを口走ってしまう。
「よくわかんないけどアンタ”は”結婚相手に困んないでしょ?地下アイドルなんかとっとと辞めて、せいぜい頑張れ。じゃーな」
アイドルらしくない放屁をかましてイケメンにぶら下がったまま彼女は去っていった。えっ何この展開。じゃあ今日のライブは一体なんだったの。なんのための握手会だったの!?!?!?
愕然としている間にトト子ちゃんはいなくなってるし、心の中がからっぽになった。おとなしく楽屋を片付けおとなしく帰ろう。帰ったらもう寝ちゃおう。明日は昼まで寝て一日ごろごろしちゃおう。そうしよう。
少しの期待を込めて開けた楽屋出口の外にも、やっぱりむつごはいなかった。
「名前ちゃあ~~~~ん!!!!!!!!!!」
「うわあああ!?!?!?」
ライブ翌日、傷心を癒すために計画通り昼過ぎまで惰眠をむさぼってた私は突然ベッドに襲撃を食らって飛び起きた。
「え、な、なに、え」
「おはよー名前ちゃん!!なんでこんな時間まで寝てるの!」
「トト子ちゃん…いや、ちょっと疲れたので…」
「電話もLINEもいっぱいしたのに出ないから来ちゃった!」
「え、ごめん、なにか用事が…」
「結婚相談所に行こ!!!」
「け…?」
寝起きの頭には衝撃が強すぎて頭上に?をたくさん浮かべている間に勝手に私のパジャマを脱がせたトト子ちゃんはいつもの服を私に着せてそのまま有無を言わさず連れ出したのだった。