夢だけど夢じゃない
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ホワッツ?ホワ~イ!?フ~・ウェン・ウェア~!?!?!?ハウッッッ!!!!????
寒さに凍え灯油を待つ、哀れなリトルブラザーたちを家に置き去りにして兄3人で楽しく飲んでいたはずだったのに…
気付けば謎のダヨーンだらけの亜空間へとトリップしていたというわけさ。
全く、ナイトメアにも程があるぜ…
「どおする?」
「どうするったって…」
マーライオン・チョロ松を見下ろしながらおそ松と途方に暮れているとそこに大量のダヨーンたちが…!
と、いうわけでオレたちは出口を探してランナウェイの真っ最中。
「あっ…!」
「大丈夫かチョロ松ー!今助けるぞチョロ松ぅーーーー!!!!……ふう、見えなくなってしまった…な」
「尊い犠牲になってくれてサンキュー、チョロ松…」
全速力で回していた足を止め振り向けば、もうすっかりひと気のないそこ。
合掌しているおそ松の方に向きなおったオレは思いっきり目の前の間抜け面をつねった。
「あっだだだだだだだ、はあああああ!????」
「痛いか?」
「痛いわ!」
「フゥン…夢ではない、ということ、か」
「そのくだりさっき俺がやったよね!?!?!?」
まあ、本当にオレのナイトメアだとしたらもっとセンスのあるモンスターを登場させるだろうしな。決してあんな…全部ダヨーンの顔になんてしない。
「はあ~~、んで、まーじでどこここ?何が起きてるわけ?俺ら居酒屋にいたよね?」
「オレの記憶もそう告げている」
「さっきのも何?なんでダヨーンがいっぱい?なんで俺ら襲われなきゃなんないの!?」
「クソおそ松はともかく何故オレまで追いかけられなきゃならないのか全く見当がつかないな」
「は?」
「ん?」
とりあえずこんなところに突っ立っているわけにも行かず、前へ進むと道端にごろごろと転がるガラクタたち。
「うっわ何これ?なんでこんなとこに?…エロ本ないかな~」
ウキウキと物色を始めたおそ松に負けじとガラクタの山をクールに探索しているとふと見覚えのある黄色い物体が視界にフェードインしてきた。
…え、なんで、これがここに……?
拾って確認しようと手を伸ばしたが、それより早く、もっと大きな黄色いものがソレをかっさらっていった。
「ワッツ!?…うわっ」
「ん?っぎゃーーーーーーーーー虎~~~~!?!?!?!?!?」
大きな体躯の虎がソレを咥えてこちらを睨みつけている。
怯えてオレを盾にするおそ松を引き剥がしながら虎の咥えるソレを凝視し、手を差し出した。
「うわーーーーばかばかばか、手なんか出したら食われんぞ!おにいちゃんを一人にしないで!!」
「返してくれ」
「はあ!?」
「ソレ、お前のじゃないだろう。返してくれ。」
ソレ。
虎に咥えられて若干ボロボロになった黄色と黒のシマシマの物体。
薄汚れてはいるものの、それはたしかにオレが名前にあげた、オレお手製のクマ、もといトラ柄の布で出来た「トラカラちゃん」だった。
なぜここに。名前が部屋に飾っているはずだ。まさか。
「まさか、お前名前に何かしたのか!?おいっ答えろ!!!!」
「わーーーーたんまたんま待ってカラ松、無理無理!虎にそんなことできないから!待って!あぶねーって!!!うわ!」
頭に血が上って虎につかみかかったオレをおそ松が引き戻すより先に、毛を逆立てた虎がオレにのしかかかり、そのまま鋭い爪でオレを地面にめり込ませた。
「…グァッ…!」
「ダヨダヨ~~!!!!」
押しつぶされそうな圧が上から退き、視界が明るく開ける。
首周りに半泣きのおそ松の腕が回り頭を抱きしめられながら影が退いた方を確認すれば、大きな虎の首周りに同じく半泣きの誰かが巻き付いて、虎の頭を抱きしめ、オレから引き離していた。
クリームパンのような頭部。ミルクティ色の髪を揺らしながら涙を湛えたつぶらな瞳がこちらを捉えた。
虎の頭を撫でて宥めてから心配そうにこちらに近寄ろうとする。
「あっこら!くんな!!俺の大事なカラ松に近寄んな!!!」
「おそまつ、」
オレを守るように抱き締めるおそ松の罵声にびくっと肩を揺らしたダヨーンの顔をしたその少女(?)は、ぐっと拳で涙をぬぐうと躊躇なく自身の着ていた民族衣装のようなスカートをビリリ、と破いた。
そしてその細長い布をおずおずと差し出してくる。
見れば、オレの肩は鋭い爪痕で服は破れ、血が滲んでいる。認識すると痛くなってきた。
じっと動向を見守って何も言わなくなったおそ松を気にしながらそっと近寄ってきた彼女はオレの肩へ布を当て、ぐるぐると巻いた。
「…ありがとう……」
「ダヨ…」
「せっかくのスカートを…すまない」
「ダヨダヨ!」
布を巻き終わった彼女は心配そうに血のにじんだ布を撫で、また目に涙をいっぱい溜めてしまうものだから、そのダイヤが零れ落ちる前にそっと指で掬う。
触れられたことに心底驚いた様子の彼女はサッと顔を赤らめた。
「だっダヨ、ダヨヨ!ダヨダヨー!」
「すまない、なんて言っているかわからない」
「…手当するからついてきてって言ってんじゃん?」
まだ警戒した様子のおそ松が、身振り手振りでなんとかコミュニケーションを取ろうとする彼女の意図を読み解く。激しく頷くところを見ると正解らしい。
悪い奴でもなさそうだし、痛いのは事実なのでついていくことにした。
◇◇◇
レディダヨーン(名前がわからないのでこう呼ぶことにした)の家へ案内され、手当てしてもらい、食事をふるまわれ、衣食住を世話になってどれほど経ったのかわからない。
すっかりその快適っぷりにやられたおそ松は施された果物を貪り食いながらふかふかのソファにひっくり返っていた。心なしか顔がふっくらしてきている。
「ダヨダヨヨン」
「ん?なんだヨン」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるレディの言葉もわかるようになってきた。これは「からまつくん」だ。
すっかり肩の傷も治ったオレはいつものようにロッキングチェアに揺られパイプを揺らしながら振り向いた。
コーヒーを持ってきてくれたレディの足元にふてぶてしく寝転ぶ虎の姿を視界に入れた途端、雷に打たれたような衝撃がオレを襲った。
どうして忘れていた。
虎がザラザラの舌でべろべろ毛づくろいをしている「トラカラちゃん」。名前…!
「おい、ソレを、」
「かっらまつにいさあ~~~ん!!!」
大事なことを言おうとしたら、勢いよくクルクル回りながら緑色の何かが部屋に突撃してきた。チョロ松だ。
オレたちがこの家に世話になってすぐ、チョロ松は向かいの家で世話になっていることが判明した。その家にもレディによく似た(というか住民みんな同じ顔なのだが)少女が住んでおり、ゲロ吐いたチョロ松を甲斐甲斐しく介抱したらしい。奇特な人もいたもんだ。
「もーーー早く支度してヨン!!今日は僕とあの子の結婚式なんだからヨン!!」
「わかっているさブラザー、お前こそまだそんな恰好でいいのかヨン?」
「今から着付けダヨンっ!あーもーーー超~~~幸せダヨン!!!!」
「わかったわかった回るな。ほら、家の外で着付け師のダヨーンがお前を探してるヨン」
浮かれまくる三男を追い出してオレたちも準備するか、とテレビに夢中になっている長男をつつく。
「あーはいはい、これ見終わったら行くから」
「愛すべきブラザーの門出の日にお前は」
「うるさいな~、着替えればいいんでしょお~ダヨーン?」
「レディも。参列してくれるんだろう?女は準備に時間がかかるだろう?オレたちのことはいいから支度しに行っていいヨン」
「ダヨ」
「それにしてもチョロ松のやつ幸せ絶頂って感じだったね~ウケるヨン」
「今度角地に新居を建てるそうダヨン」
「へ~いいじゃん、遊びに行こっと」
「ん?どうしたレディ、早く支度した方がいいんじゃないかヨン?」
向かいから聞こえてくるチョロ松の浮かれ切った奇声につられて窓辺を向けば、準備があるはずのレディがまだ部屋にいることに気づいた。窓から外を見るその顔は少し陰って複雑な眼差しで向かいの家を見ている。
声を掛けられたレディはハッとして振り向くと曖昧に笑って頷き、部屋から出て行った。
…レディ、たまにあの顔するんだよな…こんな何一つ不自由のないこの世界で何をあんなに不安そうにしているんだろうか…?
◇◇◇
「んチョロシコスキイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
懐かしい罵声が轟き、新郎の顔にピンクがめり込んだ。
「は?はあ?はああ???何してんの何なじんでんの結婚んんん!?!?どゆこと!?」
「トド松、落ち着くんダヨン」
「お前らも!?!?!?」
「この国の奴らはみんな良い奴ダヨン」
「警戒するなヨン」
「いや語尾にヨンをつけるな腹立つ!!!」
久しぶりに会ったというのにがなってばかりの末弟におそ松がここはいかに素晴らしいところなのかを説明する。
「だから俺達ずっとここで暮らすって決めたんだよん」
「馬鹿なのオ~~!?!?!?なんっでそんなにバカなのおおおお!?!?!?ほらあっ帰るよっ!!」
「ダヨンダヨン」
「だーめ!こんなところで暮らせるわけないんだから!」
現に今まで暮らしていたというのに全く、おかしなことを言うブラザーだな。ここは次男のオレがビシッと言ってや…やめろっそこは伸びな、いちまーつ!そこは伸びな、ああ、アッーーーー!!!!
オレが一松に股間を引っ張られ悶絶している間にチョロ松がダヨ子に灯油タンクを押し付けられていた。え、なんだ?なにがあった??
「ダヨーン!!!!!」
「な、なんで…」
な、なんで!?!?!?
やだやだやだ帰らないヨ~ン!!!!
ここで一生ニートとして幸せに暮らすんだヨン!!!!!!
じたばた駄々を捏ねている間にダヨ子が泣いているチョロ松の頬を持ち上げ、笑顔にさせようと微笑みかける。他のダヨーン族も槍を向けて涙ながらにオレたちを現実へ帰そうとしてくる。
やっやだ!帰らないぞ!そうだ、レディ!オレは…
「オレはレディダヨーンと結婚してここに残るヨ~ン!!!!」
「ダヨ!?」
「「「はあああああ!????」」」
ダヨ子側の参列席にいたレディの手を握って高らかに宣言すればそれより大きな声で弟たちの大合唱を食らった。
「はっ???えっ誰!?おまえもデキてんのかよ!?」
「え~?レディちゃんとお前ってそうだったのかヨン」
「水臭いヨン」
「なに受け入れてんの兄さんたち!?えっ待ってよカラ松兄さん、じゃあ名前ちゃんはどうすんの!?」
「…名前……?」
雷再び。
まただ。どうして忘れていた。こんなに大切なことをどうして…!!!
思わず握ったままのレディの手を見、顔を見る。
動揺したような絶望したような驚愕したような複雑な顔をしていた。
急なプロポーズからの他の女の存在匂わせ、そりゃあこんな顔にもなるだろう。さすがに申し訳ない気持ちになりそっと手を離した。
「その子と結婚ってなに!?!?じゃあボクが名前ちゃんもらっちゃって良いわけ!?!?」
「ダメだ!!!!!!!!!」
洞窟内にわんわんと響き渡るくらい大きな声が出た。
「ダメだ、名前は誰にも渡さない」
きっぱり言い放つ。
いつの間にかダヨーン化していた顔も元に戻っていた。
「…レディ、すまない、思わせぶりなことをして…ギルティなオレを許してくれ…お前の気持ちには応えられない…オレには元の世界に帰って護らねばならないハニーがいるんだ」
「気持ちがあったのお前だけじゃない?」
「ついさっきまで名前ちゃんのこと忘れてたくせに…」
外野がなんか言っているが構わずオレは誠意を込めてレディに跪き頭を垂れた。レディは石のように固まったままだった。オレにフラれてショッキングなんだろう。本当に申し訳ない。今まであんなに尽くしてくれたのに…
「追い打ちをかけるようで悪いが、キミの虎が咥えて離さないあのぬいぐるみを貰えないだろうか…あれはオレの大切な人の物なんだ。はじめはあの虎が名前に何かしたのかと思ったがキミに懐いているところを見るとそんなオイタはしないクレバーな子猫ちゃんだ…きっとどこかで拾ったんだろう。持ち主に返してやりたいんだ」
レディの後ろで相変わらずトラカラちゃんを咥えている虎を指さしながら乞えば、一松がアッ!と大きな声を出した。
「おまえ!なんでこんなところに」
「え?」
「これ、おれの虎」
「ええええええええ!?!?!?!?」
ガッデムなんだって!?!??
「おまえ虎なんか飼ってたの…」
「ほらレンタル彼女の時にイヤミたち折檻するのに手伝ってもらった…正確には飼ってない、裏山に住む野生の子だけど…」
「いやなこと思い出させんな」
「兄弟が虎飼ってたらこええわ」
「野生がその辺にいるのもこわいけどな…」
「ダヨーンに吸われちゃったのか可哀そうに…あんたが面倒見ててくれたの?ありがとう」
「だ、ダヨ…」
「ああそれからそのぬいぐるみ、名前ちゃんが直接虎 にくれたんだよ、だから盗ったわけじゃない」
「え…?名前はこの虎に会ったことあるのか…?なんでそれを一松が知ってるんだ?」
「エッ、アッ!え~~~…って、こいつが言ってた」
「一松、虎と話せるの…?」
しどろもどろの一松に十四松が何か言おうとしたら逆切れしてひと悶着あったが、虎も一緒に現実世界へ帰ることになった。
オレだけでなく虎までレディから奪うのは心が痛むが仕方ない。違う世界に住む者のサダメ…
世話になったなレディ…またいつかどこかで逢えたら…良い人を見つけて幸せになってくれ。彼女ならきっと良い伴侶と出会うだろう。オレには劣るだろうけど、な。
こうして愛しのハニーに会うため、オレはこのサンクチュアリを後にした。
出口がとんでもない地獄だった。
寒さに凍え灯油を待つ、哀れなリトルブラザーたちを家に置き去りにして兄3人で楽しく飲んでいたはずだったのに…
気付けば謎のダヨーンだらけの亜空間へとトリップしていたというわけさ。
全く、ナイトメアにも程があるぜ…
「どおする?」
「どうするったって…」
マーライオン・チョロ松を見下ろしながらおそ松と途方に暮れているとそこに大量のダヨーンたちが…!
と、いうわけでオレたちは出口を探してランナウェイの真っ最中。
「あっ…!」
「大丈夫かチョロ松ー!今助けるぞチョロ松ぅーーーー!!!!……ふう、見えなくなってしまった…な」
「尊い犠牲になってくれてサンキュー、チョロ松…」
全速力で回していた足を止め振り向けば、もうすっかりひと気のないそこ。
合掌しているおそ松の方に向きなおったオレは思いっきり目の前の間抜け面をつねった。
「あっだだだだだだだ、はあああああ!????」
「痛いか?」
「痛いわ!」
「フゥン…夢ではない、ということ、か」
「そのくだりさっき俺がやったよね!?!?!?」
まあ、本当にオレのナイトメアだとしたらもっとセンスのあるモンスターを登場させるだろうしな。決してあんな…全部ダヨーンの顔になんてしない。
「はあ~~、んで、まーじでどこここ?何が起きてるわけ?俺ら居酒屋にいたよね?」
「オレの記憶もそう告げている」
「さっきのも何?なんでダヨーンがいっぱい?なんで俺ら襲われなきゃなんないの!?」
「クソおそ松はともかく何故オレまで追いかけられなきゃならないのか全く見当がつかないな」
「は?」
「ん?」
とりあえずこんなところに突っ立っているわけにも行かず、前へ進むと道端にごろごろと転がるガラクタたち。
「うっわ何これ?なんでこんなとこに?…エロ本ないかな~」
ウキウキと物色を始めたおそ松に負けじとガラクタの山をクールに探索しているとふと見覚えのある黄色い物体が視界にフェードインしてきた。
…え、なんで、これがここに……?
拾って確認しようと手を伸ばしたが、それより早く、もっと大きな黄色いものがソレをかっさらっていった。
「ワッツ!?…うわっ」
「ん?っぎゃーーーーーーーーー虎~~~~!?!?!?!?!?」
大きな体躯の虎がソレを咥えてこちらを睨みつけている。
怯えてオレを盾にするおそ松を引き剥がしながら虎の咥えるソレを凝視し、手を差し出した。
「うわーーーーばかばかばか、手なんか出したら食われんぞ!おにいちゃんを一人にしないで!!」
「返してくれ」
「はあ!?」
「ソレ、お前のじゃないだろう。返してくれ。」
ソレ。
虎に咥えられて若干ボロボロになった黄色と黒のシマシマの物体。
薄汚れてはいるものの、それはたしかにオレが名前にあげた、オレお手製のクマ、もといトラ柄の布で出来た「トラカラちゃん」だった。
なぜここに。名前が部屋に飾っているはずだ。まさか。
「まさか、お前名前に何かしたのか!?おいっ答えろ!!!!」
「わーーーーたんまたんま待ってカラ松、無理無理!虎にそんなことできないから!待って!あぶねーって!!!うわ!」
頭に血が上って虎につかみかかったオレをおそ松が引き戻すより先に、毛を逆立てた虎がオレにのしかかかり、そのまま鋭い爪でオレを地面にめり込ませた。
「…グァッ…!」
「ダヨダヨ~~!!!!」
押しつぶされそうな圧が上から退き、視界が明るく開ける。
首周りに半泣きのおそ松の腕が回り頭を抱きしめられながら影が退いた方を確認すれば、大きな虎の首周りに同じく半泣きの誰かが巻き付いて、虎の頭を抱きしめ、オレから引き離していた。
クリームパンのような頭部。ミルクティ色の髪を揺らしながら涙を湛えたつぶらな瞳がこちらを捉えた。
虎の頭を撫でて宥めてから心配そうにこちらに近寄ろうとする。
「あっこら!くんな!!俺の大事なカラ松に近寄んな!!!」
「おそまつ、」
オレを守るように抱き締めるおそ松の罵声にびくっと肩を揺らしたダヨーンの顔をしたその少女(?)は、ぐっと拳で涙をぬぐうと躊躇なく自身の着ていた民族衣装のようなスカートをビリリ、と破いた。
そしてその細長い布をおずおずと差し出してくる。
見れば、オレの肩は鋭い爪痕で服は破れ、血が滲んでいる。認識すると痛くなってきた。
じっと動向を見守って何も言わなくなったおそ松を気にしながらそっと近寄ってきた彼女はオレの肩へ布を当て、ぐるぐると巻いた。
「…ありがとう……」
「ダヨ…」
「せっかくのスカートを…すまない」
「ダヨダヨ!」
布を巻き終わった彼女は心配そうに血のにじんだ布を撫で、また目に涙をいっぱい溜めてしまうものだから、そのダイヤが零れ落ちる前にそっと指で掬う。
触れられたことに心底驚いた様子の彼女はサッと顔を赤らめた。
「だっダヨ、ダヨヨ!ダヨダヨー!」
「すまない、なんて言っているかわからない」
「…手当するからついてきてって言ってんじゃん?」
まだ警戒した様子のおそ松が、身振り手振りでなんとかコミュニケーションを取ろうとする彼女の意図を読み解く。激しく頷くところを見ると正解らしい。
悪い奴でもなさそうだし、痛いのは事実なのでついていくことにした。
◇◇◇
レディダヨーン(名前がわからないのでこう呼ぶことにした)の家へ案内され、手当てしてもらい、食事をふるまわれ、衣食住を世話になってどれほど経ったのかわからない。
すっかりその快適っぷりにやられたおそ松は施された果物を貪り食いながらふかふかのソファにひっくり返っていた。心なしか顔がふっくらしてきている。
「ダヨダヨヨン」
「ん?なんだヨン」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるレディの言葉もわかるようになってきた。これは「からまつくん」だ。
すっかり肩の傷も治ったオレはいつものようにロッキングチェアに揺られパイプを揺らしながら振り向いた。
コーヒーを持ってきてくれたレディの足元にふてぶてしく寝転ぶ虎の姿を視界に入れた途端、雷に打たれたような衝撃がオレを襲った。
どうして忘れていた。
虎がザラザラの舌でべろべろ毛づくろいをしている「トラカラちゃん」。名前…!
「おい、ソレを、」
「かっらまつにいさあ~~~ん!!!」
大事なことを言おうとしたら、勢いよくクルクル回りながら緑色の何かが部屋に突撃してきた。チョロ松だ。
オレたちがこの家に世話になってすぐ、チョロ松は向かいの家で世話になっていることが判明した。その家にもレディによく似た(というか住民みんな同じ顔なのだが)少女が住んでおり、ゲロ吐いたチョロ松を甲斐甲斐しく介抱したらしい。奇特な人もいたもんだ。
「もーーー早く支度してヨン!!今日は僕とあの子の結婚式なんだからヨン!!」
「わかっているさブラザー、お前こそまだそんな恰好でいいのかヨン?」
「今から着付けダヨンっ!あーもーーー超~~~幸せダヨン!!!!」
「わかったわかった回るな。ほら、家の外で着付け師のダヨーンがお前を探してるヨン」
浮かれまくる三男を追い出してオレたちも準備するか、とテレビに夢中になっている長男をつつく。
「あーはいはい、これ見終わったら行くから」
「愛すべきブラザーの門出の日にお前は」
「うるさいな~、着替えればいいんでしょお~ダヨーン?」
「レディも。参列してくれるんだろう?女は準備に時間がかかるだろう?オレたちのことはいいから支度しに行っていいヨン」
「ダヨ」
「それにしてもチョロ松のやつ幸せ絶頂って感じだったね~ウケるヨン」
「今度角地に新居を建てるそうダヨン」
「へ~いいじゃん、遊びに行こっと」
「ん?どうしたレディ、早く支度した方がいいんじゃないかヨン?」
向かいから聞こえてくるチョロ松の浮かれ切った奇声につられて窓辺を向けば、準備があるはずのレディがまだ部屋にいることに気づいた。窓から外を見るその顔は少し陰って複雑な眼差しで向かいの家を見ている。
声を掛けられたレディはハッとして振り向くと曖昧に笑って頷き、部屋から出て行った。
…レディ、たまにあの顔するんだよな…こんな何一つ不自由のないこの世界で何をあんなに不安そうにしているんだろうか…?
◇◇◇
「んチョロシコスキイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
懐かしい罵声が轟き、新郎の顔にピンクがめり込んだ。
「は?はあ?はああ???何してんの何なじんでんの結婚んんん!?!?どゆこと!?」
「トド松、落ち着くんダヨン」
「お前らも!?!?!?」
「この国の奴らはみんな良い奴ダヨン」
「警戒するなヨン」
「いや語尾にヨンをつけるな腹立つ!!!」
久しぶりに会ったというのにがなってばかりの末弟におそ松がここはいかに素晴らしいところなのかを説明する。
「だから俺達ずっとここで暮らすって決めたんだよん」
「馬鹿なのオ~~!?!?!?なんっでそんなにバカなのおおおお!?!?!?ほらあっ帰るよっ!!」
「ダヨンダヨン」
「だーめ!こんなところで暮らせるわけないんだから!」
現に今まで暮らしていたというのに全く、おかしなことを言うブラザーだな。ここは次男のオレがビシッと言ってや…やめろっそこは伸びな、いちまーつ!そこは伸びな、ああ、アッーーーー!!!!
オレが一松に股間を引っ張られ悶絶している間にチョロ松がダヨ子に灯油タンクを押し付けられていた。え、なんだ?なにがあった??
「ダヨーン!!!!!」
「な、なんで…」
な、なんで!?!?!?
やだやだやだ帰らないヨ~ン!!!!
ここで一生ニートとして幸せに暮らすんだヨン!!!!!!
じたばた駄々を捏ねている間にダヨ子が泣いているチョロ松の頬を持ち上げ、笑顔にさせようと微笑みかける。他のダヨーン族も槍を向けて涙ながらにオレたちを現実へ帰そうとしてくる。
やっやだ!帰らないぞ!そうだ、レディ!オレは…
「オレはレディダヨーンと結婚してここに残るヨ~ン!!!!」
「ダヨ!?」
「「「はあああああ!????」」」
ダヨ子側の参列席にいたレディの手を握って高らかに宣言すればそれより大きな声で弟たちの大合唱を食らった。
「はっ???えっ誰!?おまえもデキてんのかよ!?」
「え~?レディちゃんとお前ってそうだったのかヨン」
「水臭いヨン」
「なに受け入れてんの兄さんたち!?えっ待ってよカラ松兄さん、じゃあ名前ちゃんはどうすんの!?」
「…名前……?」
雷再び。
まただ。どうして忘れていた。こんなに大切なことをどうして…!!!
思わず握ったままのレディの手を見、顔を見る。
動揺したような絶望したような驚愕したような複雑な顔をしていた。
急なプロポーズからの他の女の存在匂わせ、そりゃあこんな顔にもなるだろう。さすがに申し訳ない気持ちになりそっと手を離した。
「その子と結婚ってなに!?!?じゃあボクが名前ちゃんもらっちゃって良いわけ!?!?」
「ダメだ!!!!!!!!!」
洞窟内にわんわんと響き渡るくらい大きな声が出た。
「ダメだ、名前は誰にも渡さない」
きっぱり言い放つ。
いつの間にかダヨーン化していた顔も元に戻っていた。
「…レディ、すまない、思わせぶりなことをして…ギルティなオレを許してくれ…お前の気持ちには応えられない…オレには元の世界に帰って護らねばならないハニーがいるんだ」
「気持ちがあったのお前だけじゃない?」
「ついさっきまで名前ちゃんのこと忘れてたくせに…」
外野がなんか言っているが構わずオレは誠意を込めてレディに跪き頭を垂れた。レディは石のように固まったままだった。オレにフラれてショッキングなんだろう。本当に申し訳ない。今まであんなに尽くしてくれたのに…
「追い打ちをかけるようで悪いが、キミの虎が咥えて離さないあのぬいぐるみを貰えないだろうか…あれはオレの大切な人の物なんだ。はじめはあの虎が名前に何かしたのかと思ったがキミに懐いているところを見るとそんなオイタはしないクレバーな子猫ちゃんだ…きっとどこかで拾ったんだろう。持ち主に返してやりたいんだ」
レディの後ろで相変わらずトラカラちゃんを咥えている虎を指さしながら乞えば、一松がアッ!と大きな声を出した。
「おまえ!なんでこんなところに」
「え?」
「これ、おれの虎」
「ええええええええ!?!?!?!?」
ガッデムなんだって!?!??
「おまえ虎なんか飼ってたの…」
「ほらレンタル彼女の時にイヤミたち折檻するのに手伝ってもらった…正確には飼ってない、裏山に住む野生の子だけど…」
「いやなこと思い出させんな」
「兄弟が虎飼ってたらこええわ」
「野生がその辺にいるのもこわいけどな…」
「ダヨーンに吸われちゃったのか可哀そうに…あんたが面倒見ててくれたの?ありがとう」
「だ、ダヨ…」
「ああそれからそのぬいぐるみ、名前ちゃんが直接
「え…?名前はこの虎に会ったことあるのか…?なんでそれを一松が知ってるんだ?」
「エッ、アッ!え~~~…って、こいつが言ってた」
「一松、虎と話せるの…?」
しどろもどろの一松に十四松が何か言おうとしたら逆切れしてひと悶着あったが、虎も一緒に現実世界へ帰ることになった。
オレだけでなく虎までレディから奪うのは心が痛むが仕方ない。違う世界に住む者のサダメ…
世話になったなレディ…またいつかどこかで逢えたら…良い人を見つけて幸せになってくれ。彼女ならきっと良い伴侶と出会うだろう。オレには劣るだろうけど、な。
こうして愛しのハニーに会うため、オレはこのサンクチュアリを後にした。
出口がとんでもない地獄だった。