夢だけど夢じゃない
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その人は突然現れた。
アニメでも正直そこまで響く回でもなかったので、存在自体を忘れていたくらいだった。
「名前ちゃんだよね?」
にこやかに話しかけてきた見知らぬ男性に思わず警戒する。誰。知らないキャラなんだけど。
いつも通り、ハタ坊のおやつを買った帰り道、突然話しかけられた。
全体的に白っぽい格好の背の高い男性。
すごく福耳で柔らかい笑顔を浮かべている。
えっ…ほんと誰…?こんなキャラいた…??アニメは全部見ているはずだけど…コミカライズかゲームのオリキャラか?訝しみ、どう答えようかと黙っていると彼はふふふと可愛らしく笑った。
「ごめん、怖がらせちゃったみたいだね。兄さん達を通してずっと見ていたから勝手に仲良しな気持ちになっちゃってた。初めまして、僕、神松です」
にこやかに自己紹介されるも頭の中は?でいっぱいだ。神松。むつごから零れ落ちた良いところが集まって出来た存在。ようやくアニメの内容を思い出した。しかしこんな見た目だったっけ?なんかもう少しむつご寄りの見た目だった気がする。
記憶と違う姿に首を捻っていると、目の前で神松がキラキラと輝き出し、更に身長が伸びてスタイルが良くなった。顔もますますイケメンになった。着ている服もシュッとした格好良い物に変わった。
突然の変身に絶句していると「ああ…兄さん達また何かクソなことを考えちゃったんだね…」と哀愁漂う表情でレベルアップした自身を見下ろす神松。
なるほど…アニメ回よりも時間が経って更に神化しているのか…通りで知らないキャラだと思うわけだ。
とりあえず見ず知らずの新キャラじゃないとわかり、返事をする。
「初めまして…ええと、私のことはご存知で?」
「うん、カラ松兄さんのことが好きな名前ちゃんだよね」
………こいつは兄弟達の記憶まで引き継いでいるんだろうか。それともむつごの誰かがリークしたんだろうか。
再び絶句しているとニコニコ笑った神松は「僕が出来るまでの兄さん達の記憶は全部頭の中にあるんだ」とこちらの考えを読んだような発言をした。
「だから、カラ松兄さんが名前ちゃんのことどう思ってるかも知ってるよ」
爽やかな笑みで告げる。
あまりの爆弾発言に何を言われたのかわからなかった。
「………………と言いますと…?」
「ふふ、カラ松兄さんが名前ちゃんのことどう思ってるか知りたくない?」
「………特別な親友と思ってるのでは…」
「うーん、そうだね、前はね」
「え?」
前は???え?じゃあ今は??????
大混乱していると人畜無害そうな笑みを浮かべたまま「僕とデートしてくれたら教えてあげる」とのたまった。
………ん?
「えっ?」
「あれ、聞こえなかった?僕とデートし」
「いやいやいやいやいや聞こえてます聞こえてます何言っちゃってんの?の『えっ?』です」
「わぁ手厳しい。そんなところも魅力的だね」
さらりと口説き文句を吐いたこの男に更に警戒心が増す。
「………トト子ちゃんとデートしてましたよね」
「あれ、良く知ってるね」
「そんな人とデートするわけには…トト子ちゃんは友達なので…」
「別に彼女とは何もないよ。付き合っているわけでもないし、ちょっとお出かけに誘われたからお茶してお散歩しただけ。名前ちゃんのこともよく知りたいからちょっとお出かけしませんか?って誘ってるだけなんだけど、だめかな?」
「………私は別にあなたの事よく知りたくは…」
「でも、カラ松兄さんのことは、知りたい、でしょう?」
意味深に言われ、混乱する。
どうしよう。
知りたくないといえば嘘になる。
でも別にこの怪しい男から聞かなくても。
「そんなに警戒しなくても、ちょっとお出かけしてくれれば何でも教えてあげるよ。好きな食べ物も良く行く場所もスリーサイズもお風呂で最初に洗う場所、実は苦手なもの、寝るときのポーズ、名前ちゃんのどこが好きか、何をしたら喜ぶか、兄弟の誰に何を思ってるか、本当はトト子ちゃんのことどう思ってるか、名前ちゃんのことどう思ってるか、性癖、弱いところ、きのこ派かたけのこ派かとか…」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、ちょいちょい気になるワード挟まないで」
「ふふ、デート、してくれる?」
「………デートじゃなくてただのお茶程度、なら」
「わぁいありがとう!嬉しいなあ、じゃあ行こっか」
「あ、待って、今日はだめ、要冷凍のおやつ買っちゃったから帰らないと。明日はどうですか?」
「ふふ、わかった、また明日ね」
そう言って別れた。
誘惑にのってしまった。
だって仕方なくない!?知りたいじゃん!!
まぁちょっとお茶するくらいなら別に。ほうぼうに誤解されるようなことないように人の多いカフェのカウンターとかにして聞くこと聞いてサクッと帰ろう。
そんな軽い気持ちで翌日は出かけた。
朝食時にハタ坊から今日の予定を聞かれ、人と会うと言えばしつこく相手を聞かれたので「松野くん」と答えた。嘘じゃない。2時間くらいで帰宅するつもりで家を出た。本当だ。
次の瞬間、私は飛行機に乗っていた。
しっかりシートベルトをしめて。
窓からは雲の海が見える。完全に飛んでいる。は???
ビルから一歩出たか出ないかくらいの時に瞬きして目を開けたら椅子に座って上空にいるなんてことある??????
大混乱のまま隣を見ればニコニコした神松が機内食を口に含むところだった。
「………は???」
「?どうしたの名前ちゃん、冷めちゃうよ?」
見れば私の前にもホカホカの機内食が。
待って待って待って。
機内食出るってことは結構な長距離便じゃん。てか待って。搭乗の記憶ない。機内食出された記憶もない。私もうどのくらいここに座っているの?アニメならではの唐突なシーン切替やめろ。
「もしかしてチキンじゃなくてビーフが良かった?交換する?」
「そんなことはどうでもいいです、えっ待って、私どこへ向かってるの?」
「もう何言ってるの名前ちゃん、ハワイに決まってるじゃない」
決まってるじゃない、じゃあない!
決まってない!!!!!!はあああああああ???????ハワイ!?!?私また海外に拉致られてんの!?!?いつ出国したの!?!!!!この世界出国審査ガバガバすぎない!?!?!?!?てかパスポート持ってないってば!?!!!!
「本当に大丈夫?百面相してても可愛いけれど」
「ねえ!?!?デートは!?!?」
「え?これがデートだよ?」
「ちょっとお茶してお散歩するだけじゃなかったの!?!?」
それが何でハワイ!?新婚旅行か!?色々すっ飛ばしすぎだろ!!!!ほとんど知らない奴となんで海外行かなきゃならないの!?!?
「突然どうしたの?ハワイ楽しみにしてたじゃない?」
「してないしてない行くとも言ってないし考えたこともない」
「ええ〜?二人でサンセットビーチで乾杯しようねって」
「言ってない言ってない幻覚です」
次の瞬間にはここにいたもん!!!!その間のことは知らないもん!!!!
あまりのことに泣き出してしまう。こわい。隣の心底心配している風の男がこわい。サイコパスに違いない。さすが松野家。
「でも、デートしてくれないとカラ松兄さんのことは教えられないし…」
「もうこの際どうでも良いですそんなことは…教えてくれなくて良いので帰りたいです、降ろして」
「え〜そんなこと言われても…こんな空の上で…可愛いわがままは聞いてあげたいけど…」
「今そういうの良いんで」
なるべく離れようと狭い座席の中で身をよじる私に容赦なく手を伸ばしハンカチでそっと涙を拭う神松。その一見優しい行為すら怖くてガタガタ震える。大丈夫、この世界、飛行機から飛び降りたくらいでは死なないはず。だから今すぐ降ろして。
頭をなでようとしてくる手を払いのけて目をぎゅっとつぶった。
ザザン………ザザン………………
突然聞こえた波の音。
心なしか日差しが暑い。
先ほどまで聞こえていた飛行機の轟音の代わりに寄せては返す波の音が聞こえ始めたことにギョッとして目を開くと、綺麗なビーチに座っていた。しかもビキニで。アニメ特有の突然の場面展開やめてくれ………
どうやら私はハワイへ到着してしまったようだ。
際どい白ビキニを見下ろし愕然とする。
水着作画補正なのかいつもよりスタイルがいい。ぼんきゅっぼんてやつだ。恥ずかしくて自身を抱き締めながら周りを見渡す。チラホラ観光客と現地の人っぽいモブ(顔がのっぺらぼうだったり適当な作画なのでどう見てもモブ)しかいない。神松の野郎どこ行った。
「お待たせ名前ちゃん」
「ギャッ」
「ふふ、可愛い悲鳴だね」
耳いかれてんのか?
突然背後から現れた神松をすっかり敵とみなし心の中で悪態を吐きながら振り返る。
水着(膝丈の半ズボン型だ)姿の神松は両手にオシャレなカクテルグラスを持って隣に座ってきた。
はい、と一つ渡される。毒でも盛られてんじゃないかとマジマジ見つめる。その間にも隣の男は同じ中身に見える自身のグラスに刺さったストローに口をつけズズと吸った。
「ピニャコラーダだよ、冷たくて甘くて美味しいよ」
「また強い酒を…」
「強い?名前ちゃんにはジュースみたいなものでしょう?」
ちくしょう、こいつ私が飲めるということを兄弟通して知ってるのか。まぁジュースみたいなものではあるけど…一応テキーラだぞ。
そう思いつつ照りつける日差しに乾いた喉は誤魔化さず、ストローをすする。
口の中に甘みが広がり喉をフローズンなココナッツ味が通り過ぎる。美味しい〜〜〜〜!!!!
「やっと笑ってくれた」
切ないと安心を混ぜこぜにしたみたいな顔で微笑まれる。別にこのイケメンになんの思い入れもないからときめくとかもないけど、少しの罪悪感は芽生える。最初から当たりが強すぎただろうか。拉致られた気持ちだったけど場面展開の合間のことはわからないし、私の知らないところで同意していたかもしれない。恐ろしいことだけど。
彼はむつごから生まれたのだ。そこまで邪険にするのはかわいそうかもしれない。
「………ハワイに着いたので約束果たしてくれますか?」
「カラ松兄さんのこと?」
「はい」
洗いざらい吐いてもらわないと割に合わない。
「………名前ちゃんは本当にカラ松兄さんが好きなんだね、妬けちゃうな」
この人何言ってるんだろう?
白けた気持ちで見つめていれば、何を勘違いしたか神松が少しこちらに寄ってきた。近い。寄るな。気持ち仰け反って距離を取る。
「ねぇ、名前ちゃん。確かにカラ松兄さんはとても良い人だけど、僕のことももっとよく知ってほしいな」
「はぁ…何故…」
「なんでって、それは、」
神松が思わせぶりに何かを囁こうとした声は地響きのような轟音にかき消された。ふいに日陰になったので見上げれば、津波のような大波が押し寄せてきているではないか。えっ死ぬ。
神松と二人で青ざめて呆然と波が襲い来るのを見上げていると、遠くから波に乗った何かが近づいてきた。
「ハニィイイイイイイ助けに来たぞハニィイイイイイイイイイイイイイ」
ギラッギラのサーフボードに乗った松野カラ松が大波に乗りながら現れた。
際どすぎるブーメランパンツ一丁で。わあ。
「ハニィイイイイイイうわあああああああブクブクブクブクブクブク……」
「「ぎゃあああああ」」
格好良くサーフィンしていたものの、あまりの大波に飲み込まれ、見えなくなるカラ松に二人で絶叫する。
そしてそのまま暗転、SIX SAME FACESが鳴り出す。待って待って待ってこんなとこで終わらないでちょっとお!!今のオチ!?!?オチなの!?!?なんだったの今日!?!?!?!?
アニメでも正直そこまで響く回でもなかったので、存在自体を忘れていたくらいだった。
「名前ちゃんだよね?」
にこやかに話しかけてきた見知らぬ男性に思わず警戒する。誰。知らないキャラなんだけど。
いつも通り、ハタ坊のおやつを買った帰り道、突然話しかけられた。
全体的に白っぽい格好の背の高い男性。
すごく福耳で柔らかい笑顔を浮かべている。
えっ…ほんと誰…?こんなキャラいた…??アニメは全部見ているはずだけど…コミカライズかゲームのオリキャラか?訝しみ、どう答えようかと黙っていると彼はふふふと可愛らしく笑った。
「ごめん、怖がらせちゃったみたいだね。兄さん達を通してずっと見ていたから勝手に仲良しな気持ちになっちゃってた。初めまして、僕、神松です」
にこやかに自己紹介されるも頭の中は?でいっぱいだ。神松。むつごから零れ落ちた良いところが集まって出来た存在。ようやくアニメの内容を思い出した。しかしこんな見た目だったっけ?なんかもう少しむつご寄りの見た目だった気がする。
記憶と違う姿に首を捻っていると、目の前で神松がキラキラと輝き出し、更に身長が伸びてスタイルが良くなった。顔もますますイケメンになった。着ている服もシュッとした格好良い物に変わった。
突然の変身に絶句していると「ああ…兄さん達また何かクソなことを考えちゃったんだね…」と哀愁漂う表情でレベルアップした自身を見下ろす神松。
なるほど…アニメ回よりも時間が経って更に神化しているのか…通りで知らないキャラだと思うわけだ。
とりあえず見ず知らずの新キャラじゃないとわかり、返事をする。
「初めまして…ええと、私のことはご存知で?」
「うん、カラ松兄さんのことが好きな名前ちゃんだよね」
………こいつは兄弟達の記憶まで引き継いでいるんだろうか。それともむつごの誰かがリークしたんだろうか。
再び絶句しているとニコニコ笑った神松は「僕が出来るまでの兄さん達の記憶は全部頭の中にあるんだ」とこちらの考えを読んだような発言をした。
「だから、カラ松兄さんが名前ちゃんのことどう思ってるかも知ってるよ」
爽やかな笑みで告げる。
あまりの爆弾発言に何を言われたのかわからなかった。
「………………と言いますと…?」
「ふふ、カラ松兄さんが名前ちゃんのことどう思ってるか知りたくない?」
「………特別な親友と思ってるのでは…」
「うーん、そうだね、前はね」
「え?」
前は???え?じゃあ今は??????
大混乱していると人畜無害そうな笑みを浮かべたまま「僕とデートしてくれたら教えてあげる」とのたまった。
………ん?
「えっ?」
「あれ、聞こえなかった?僕とデートし」
「いやいやいやいやいや聞こえてます聞こえてます何言っちゃってんの?の『えっ?』です」
「わぁ手厳しい。そんなところも魅力的だね」
さらりと口説き文句を吐いたこの男に更に警戒心が増す。
「………トト子ちゃんとデートしてましたよね」
「あれ、良く知ってるね」
「そんな人とデートするわけには…トト子ちゃんは友達なので…」
「別に彼女とは何もないよ。付き合っているわけでもないし、ちょっとお出かけに誘われたからお茶してお散歩しただけ。名前ちゃんのこともよく知りたいからちょっとお出かけしませんか?って誘ってるだけなんだけど、だめかな?」
「………私は別にあなたの事よく知りたくは…」
「でも、カラ松兄さんのことは、知りたい、でしょう?」
意味深に言われ、混乱する。
どうしよう。
知りたくないといえば嘘になる。
でも別にこの怪しい男から聞かなくても。
「そんなに警戒しなくても、ちょっとお出かけしてくれれば何でも教えてあげるよ。好きな食べ物も良く行く場所もスリーサイズもお風呂で最初に洗う場所、実は苦手なもの、寝るときのポーズ、名前ちゃんのどこが好きか、何をしたら喜ぶか、兄弟の誰に何を思ってるか、本当はトト子ちゃんのことどう思ってるか、名前ちゃんのことどう思ってるか、性癖、弱いところ、きのこ派かたけのこ派かとか…」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、ちょいちょい気になるワード挟まないで」
「ふふ、デート、してくれる?」
「………デートじゃなくてただのお茶程度、なら」
「わぁいありがとう!嬉しいなあ、じゃあ行こっか」
「あ、待って、今日はだめ、要冷凍のおやつ買っちゃったから帰らないと。明日はどうですか?」
「ふふ、わかった、また明日ね」
そう言って別れた。
誘惑にのってしまった。
だって仕方なくない!?知りたいじゃん!!
まぁちょっとお茶するくらいなら別に。ほうぼうに誤解されるようなことないように人の多いカフェのカウンターとかにして聞くこと聞いてサクッと帰ろう。
そんな軽い気持ちで翌日は出かけた。
朝食時にハタ坊から今日の予定を聞かれ、人と会うと言えばしつこく相手を聞かれたので「松野くん」と答えた。嘘じゃない。2時間くらいで帰宅するつもりで家を出た。本当だ。
次の瞬間、私は飛行機に乗っていた。
しっかりシートベルトをしめて。
窓からは雲の海が見える。完全に飛んでいる。は???
ビルから一歩出たか出ないかくらいの時に瞬きして目を開けたら椅子に座って上空にいるなんてことある??????
大混乱のまま隣を見ればニコニコした神松が機内食を口に含むところだった。
「………は???」
「?どうしたの名前ちゃん、冷めちゃうよ?」
見れば私の前にもホカホカの機内食が。
待って待って待って。
機内食出るってことは結構な長距離便じゃん。てか待って。搭乗の記憶ない。機内食出された記憶もない。私もうどのくらいここに座っているの?アニメならではの唐突なシーン切替やめろ。
「もしかしてチキンじゃなくてビーフが良かった?交換する?」
「そんなことはどうでもいいです、えっ待って、私どこへ向かってるの?」
「もう何言ってるの名前ちゃん、ハワイに決まってるじゃない」
決まってるじゃない、じゃあない!
決まってない!!!!!!はあああああああ???????ハワイ!?!?私また海外に拉致られてんの!?!?いつ出国したの!?!!!!この世界出国審査ガバガバすぎない!?!?!?!?てかパスポート持ってないってば!?!!!!
「本当に大丈夫?百面相してても可愛いけれど」
「ねえ!?!?デートは!?!?」
「え?これがデートだよ?」
「ちょっとお茶してお散歩するだけじゃなかったの!?!?」
それが何でハワイ!?新婚旅行か!?色々すっ飛ばしすぎだろ!!!!ほとんど知らない奴となんで海外行かなきゃならないの!?!?
「突然どうしたの?ハワイ楽しみにしてたじゃない?」
「してないしてない行くとも言ってないし考えたこともない」
「ええ〜?二人でサンセットビーチで乾杯しようねって」
「言ってない言ってない幻覚です」
次の瞬間にはここにいたもん!!!!その間のことは知らないもん!!!!
あまりのことに泣き出してしまう。こわい。隣の心底心配している風の男がこわい。サイコパスに違いない。さすが松野家。
「でも、デートしてくれないとカラ松兄さんのことは教えられないし…」
「もうこの際どうでも良いですそんなことは…教えてくれなくて良いので帰りたいです、降ろして」
「え〜そんなこと言われても…こんな空の上で…可愛いわがままは聞いてあげたいけど…」
「今そういうの良いんで」
なるべく離れようと狭い座席の中で身をよじる私に容赦なく手を伸ばしハンカチでそっと涙を拭う神松。その一見優しい行為すら怖くてガタガタ震える。大丈夫、この世界、飛行機から飛び降りたくらいでは死なないはず。だから今すぐ降ろして。
頭をなでようとしてくる手を払いのけて目をぎゅっとつぶった。
ザザン………ザザン………………
突然聞こえた波の音。
心なしか日差しが暑い。
先ほどまで聞こえていた飛行機の轟音の代わりに寄せては返す波の音が聞こえ始めたことにギョッとして目を開くと、綺麗なビーチに座っていた。しかもビキニで。アニメ特有の突然の場面展開やめてくれ………
どうやら私はハワイへ到着してしまったようだ。
際どい白ビキニを見下ろし愕然とする。
水着作画補正なのかいつもよりスタイルがいい。ぼんきゅっぼんてやつだ。恥ずかしくて自身を抱き締めながら周りを見渡す。チラホラ観光客と現地の人っぽいモブ(顔がのっぺらぼうだったり適当な作画なのでどう見てもモブ)しかいない。神松の野郎どこ行った。
「お待たせ名前ちゃん」
「ギャッ」
「ふふ、可愛い悲鳴だね」
耳いかれてんのか?
突然背後から現れた神松をすっかり敵とみなし心の中で悪態を吐きながら振り返る。
水着(膝丈の半ズボン型だ)姿の神松は両手にオシャレなカクテルグラスを持って隣に座ってきた。
はい、と一つ渡される。毒でも盛られてんじゃないかとマジマジ見つめる。その間にも隣の男は同じ中身に見える自身のグラスに刺さったストローに口をつけズズと吸った。
「ピニャコラーダだよ、冷たくて甘くて美味しいよ」
「また強い酒を…」
「強い?名前ちゃんにはジュースみたいなものでしょう?」
ちくしょう、こいつ私が飲めるということを兄弟通して知ってるのか。まぁジュースみたいなものではあるけど…一応テキーラだぞ。
そう思いつつ照りつける日差しに乾いた喉は誤魔化さず、ストローをすする。
口の中に甘みが広がり喉をフローズンなココナッツ味が通り過ぎる。美味しい〜〜〜〜!!!!
「やっと笑ってくれた」
切ないと安心を混ぜこぜにしたみたいな顔で微笑まれる。別にこのイケメンになんの思い入れもないからときめくとかもないけど、少しの罪悪感は芽生える。最初から当たりが強すぎただろうか。拉致られた気持ちだったけど場面展開の合間のことはわからないし、私の知らないところで同意していたかもしれない。恐ろしいことだけど。
彼はむつごから生まれたのだ。そこまで邪険にするのはかわいそうかもしれない。
「………ハワイに着いたので約束果たしてくれますか?」
「カラ松兄さんのこと?」
「はい」
洗いざらい吐いてもらわないと割に合わない。
「………名前ちゃんは本当にカラ松兄さんが好きなんだね、妬けちゃうな」
この人何言ってるんだろう?
白けた気持ちで見つめていれば、何を勘違いしたか神松が少しこちらに寄ってきた。近い。寄るな。気持ち仰け反って距離を取る。
「ねぇ、名前ちゃん。確かにカラ松兄さんはとても良い人だけど、僕のことももっとよく知ってほしいな」
「はぁ…何故…」
「なんでって、それは、」
神松が思わせぶりに何かを囁こうとした声は地響きのような轟音にかき消された。ふいに日陰になったので見上げれば、津波のような大波が押し寄せてきているではないか。えっ死ぬ。
神松と二人で青ざめて呆然と波が襲い来るのを見上げていると、遠くから波に乗った何かが近づいてきた。
「ハニィイイイイイイ助けに来たぞハニィイイイイイイイイイイイイイ」
ギラッギラのサーフボードに乗った松野カラ松が大波に乗りながら現れた。
際どすぎるブーメランパンツ一丁で。わあ。
「ハニィイイイイイイうわあああああああブクブクブクブクブクブク……」
「「ぎゃあああああ」」
格好良くサーフィンしていたものの、あまりの大波に飲み込まれ、見えなくなるカラ松に二人で絶叫する。
そしてそのまま暗転、SIX SAME FACESが鳴り出す。待って待って待ってこんなとこで終わらないでちょっとお!!今のオチ!?!?オチなの!?!?なんだったの今日!?!?!?!?