夢だけど夢じゃない
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おれが悪かった。
おれがつい出来心なんかで行動したのが悪かった。
ちょ〜〜っと気になっていただけのあの服に袖を通したのが間違いだったんだ。
「ただいまァ〜〜」
松野一松大ピンチ。
眠っているクソ松の脱ぎ捨てたイッタイ服を興味本位で着てしまったところへまさかの長男ご帰宅ぅぅぅううう!!!
なんで長男!いやこの際誰が帰ってきても地獄だがよりによって長男!!!なんでこんな早く帰ってくんだよパチンコ行ってたんじゃなかったのかよ!!!
「やっぱ1000円じゃあっという間だな〜」
っんな軍資金で行ってんじゃねぇよ!!!!!!
終わったァ…こんな姿見られたらもう生きていけない……
「どしたぁ?カラ松ぅ」
か、カラ松…?
そうか…!こんな格好してるから…!!
「んあ?おいって…」
「フンッ…どうしたおそ松…おれに何か用かブラ…ザ……」
このまま誤解を押し通そうと精一杯格好付けて振り返ったおれは今度こそ固まった。
床に胡座をかいて座ってる長男は良い。想定内。想定外だったのは開いた襖の向こうに突っ立ったままこちらを凝視している名前ちゃんだった。
おおおおおおおお終わったァアアアアアアア
彼女にこんな姿見られたアアアアアアア!!!!!!!!!もう生きていけない!!!!!!!!!!!!
絶句のまま名前ちゃんと見つめ合っていると座ってる長男から「いや別に用って程じゃないけど」と声がかかる。
「あ、名前ちゃんも遠慮しないで入って入って〜〜そこ寒いっしょ」
「え、あ、う、うん、あ、お邪魔します…こんにちはカラ松くん」
ッシャーーーーー騙せたァアアおれのことカラ松だと思ってるぅぅぅうう普段そう思われたら地獄だけど今は助かったァアアアアアアアアア
「でもどったのその声?いつもと違くね?」
ちょおなあああああんんんんんんんん
妙に鋭いのヤメロちょおなあああああんんんんんんんん
「アッ!あ、も、もしかして風邪?」
名前ちゃんんんんんんんんんんん天使か女神か最高のアシストおおおお
「そ、そお、風邪ダァ…んゴッホゴッホ喉をやられて声がゴッホゴッホ」
「あとなんか髪がボサボサだね」
「え、ああ風邪で髪もゴッホゴッホ…」
「あと〜、闇のオーラと…」
「かっ!!!!!!カラ松!!!くん!!!!!!風邪引いちゃったの私が上着持って帰っちゃったせいかな!?ごめんね!?これ、クリーニングもしたので…返しに来ました!」
「エッ?あっありがとう…」
核心を突いてきそうだったおそ松兄さんに割り込んで名前ちゃんが持っていた紙袋を押し付けてきた。中を確認すればクリーニングのビニールに入った青い半纏。
えっこれこないだ名前ちゃんが間違えて着て帰ったクソ松のじゃん。え?コート届けにすぐ追いかけてたよな?そのあと普通に帰ってきてたから会えたもんだと思ってた。
「それでその…置いてっちゃったコートも取りに来ました…」
「あっれ〜〜?カラ松ぅ、あのあとすぐに追いかけてたじゃん!会えなかったの?」
「エッ」
「え!そうなんですか!?ごめんなさいご足労を…」
「いやいやそーんなゴソクローなんてこいつに言わなくていいから!で?カラ松コートどーしたの?早く返してあげなよ」
無邪気に見上げてくる長男。おれは背中に大量の汗を流していた。
知らない。クソ松がどこにコートしまってあるかなんて知らない。だってあの日ちゃんと返したもんだと思ってた。どうしよう。バレる。ニセモノだってバレる…!
「え!あ!いや、コートは帰る時で大丈夫ですあはは〜〜アッ!ポテチ!ポテチ食べて良いですか?私ポテチ大好きでぇ〜〜」
何故か焦った様子の名前ちゃんはおれが持ってきたポテチを見つけると飛びついた。「え?そーなの?てか名前ちゃんしばらくうちにいてくれんの〜?やった〜」なんて長男が喜んでいる。ひとまずヤバイ局面が過ぎ去ったようで一息つく。
「カラ松も食べれば〜?」
「あ、うん…」
「…??どしたの、なんか今のカラ松らしくな〜い」
「!?」
「なぁ〜んか様子が変だよぉ?」
「…フッ…様子が変か………ノー!!!プランだ!!!!!!」
「いつもとやり方違くない?」
「かぁぜぇでぇ!!!!!!」
「はい?」
チクショーーーーーーッッ正しいカラ松のやり方がわかんねええええええいや正しいカラ松のやり方ってなんだああああああ
「なんっかいつもと違うなぁ〜ねー名前ちゃん?」
「えっ?そ、そうかな〜〜?」
「なななななななにを言うブラザー!アーイムカラ松アーハン?ohミラーいつもクールな姿をセンキュー!アーユーコーミック?イェースグッジョーブ!ohビューティコンセ〜〜ンアイラブコンセ〜〜ント!どうだぁいつものおれだろ?」
渾身のカラ松を演って振り向けばすっかり興味を失った様子の長男がムシャムシャとポテチを食べているところだった。クソ長男こんのやろ……てか!それおれのポテチだしィ!!!
長男の横では名前ちゃんが蹲って小刻みに震えている。えっ?もしかして泣いてる?
「つーかこいつ誰?」
急にソファで寝ている人物に興味を持った長男に焦る。
「あーなんだ一松かぁ」
「そ、そうだ一松だぁ」
「おーい一松…」
「ちょっ!おそ松さん、ダメです寝てるんですから!」
蹲っていた名前ちゃんが起き上がって、おれが止める前におそ松兄さんの裾を引いた。見ればまだ肩を揺らして笑っている。って笑ってたんかい!目尻の涙を拭っているので泣いてもいたんだろうけど。
「寝てるところを起こしちゃかわいそうですって」
「えー?でもせっかく名前ちゃん来てるのにさぁ〜〜起きてから知ったらきっとこいつもガッカリするよぉ?」
「一松くんとはまた遊べますから今は良いですよ」
名前ちゃん…おれなんかとまた遊んでくれるの…天使か…
ジーンと感動しているとなにやらガサゴソし出した長男が「なぁなぁこれ食べる?」と手にしたモノ。
「これね、一松が猫にあげるためにいつもここに隠してんだよ!すっげぇ美味いんだよなぁ」
ダァーーーーーー!!!!!!!!!
気づいた時には長男を思いっきり殴り飛ばしていた。
「えっええええ〜〜!?!?」
「あっ風邪で手が勝手に…」
「いや!風邪関係ねぇだろ!!!んだよ今日のカラ松意味わかんねえなぁ…んん〜〜うんま〜名前ちゃんも食べる?」
「え?いや私は…」
「遠慮すんなって」
「でも…」
ちらりと名前ちゃんがこちらを見る。多分おれ今ヤバイ顔してると思う。
「ん、食べて良いよ」
そう言っておれにも渡してくる。
おまえのじゃねぇだろ!!!
でもここで食べないとまた怪しまれる…断腸の思いで受け取り口に含む。
「なぁ〜美味くない?」
「あ、ああデリシャスだ…」
「こんなの猫にやるなんて一松もバカだよなぁ〜〜」
「はは…」
KOROSU!!!!!!!!!
殺意を込めて長男の方を見て…そしておれは見つけてしまった。
窓の外で悲しそうにこちらを見つめる猫 の姿を…
ち、違うんだああああああああ行かないでくれええええええ
人知れず泣いていると煮干を鷲掴んだ名前ちゃんが突然立ち上がって窓に駆け寄り勢い良く開けて「ほら!おいで!!」と叫んだ。
少し警戒した足音が聞こえたあと、おずおずと現れた猫は名前ちゃんが窓枠に置いた煮干をはむ…と遠慮がちに口にした。
「えー名前ちゃん何してんの!?勿体無い!」
「えっだってこれ元々一松くんが猫ちゃんのために買ってあるやつなんでしょう…?」
「そーだけど!こんな美味いもん猫にやるなんて!」
「あーじゃあ私の分をあげたってことで」
「ええ〜〜?」
「一松くんのお友達だから大事にしないと」
ね?とおれの方を向いて笑う名前ちゃん。女神じゃん。すき。
どうやら最後の言葉だけ口から漏れ出ていたようですごい勢いで振り返った兄さんは目をキラッキラさせて口を緩ませながら迫ってきた。
「えっ?なになになに〜〜???今めちゃくちゃ大事なこと言わなかったカラ松?はいっもっかい大っきな声で!名前ちゃんに向かって!どーぞ!!!」
「エッ?いいいいいやななななななななんでもなっ……ってかそういう意味じゃない!!!友達として!!!人間として!!!!!!なんて出来た人だろうって意味で…!!!!」
「…おまえこの後に及んでそんなこと言ってんの?カラ松」
カラ松、と呼ぶ声が急にドスの効いた低音になってヒュッとおそ松の方を見れば据わった目の兄さんと目が合う。
えっ…うそ…この状況でおれカラ松兄さんに代わって告白とかしなきゃいけない感じ…?は…?無理無理無理無理むりでしょ!?!?いくら名前ちゃんに恋愛感情がないからって女の子に告白なんて!!!おれが!?!?むりでしょ!!!人のフリしてるからって!!!むりでしょ!?!?!?!?
「…なぁんてな!ま、そーゆーのは二人きりの時にやってよ、さすがのお兄ちゃんでも目の前でやられたら腹立つし〜」
「あ、ああ…」
何故か突然諦めたおそ松に安堵しているのもつかの間、さらなる爆弾が投げつけられる。
「あーそうだカラ松、お願いがあんだけど…そのサングラスとか貸してくんない?普段バカにしてたけど実は着てみたくてさ〜〜」
………アーーーーーーおれもこのバカみたいに素直に言えたら今頃こんなことには………
「カラ松?なんか汗すごくない?」
「じ、実は………フッ風邪だと言ったろ?熱があるのかもしれない…」
「あーなるほどね、じゃあ身体冷えるといけないから脱いだ方が…」
「いやいやいや良い」
「なんで?その汗だよ?身体冷えるから」
「いい!恥ずかしい!」
「なんで恥ずかしいんだよ!」
「おれは…お前が好きなんだよ!!!!!!」
しん…とした部屋の中で目の前のおそ松の顔がドン引きに染まったのを見た。が、もう止まれない。
「最近そっちに目覚めたんだ…だからお前の前で薄着になんてなったら…」
続けながら目の前のおそ松がドン引き顔のまま目線を横にズラしたことに気づき、その目線を追った先を見て今度こそ心臓が壊れる音がした。
名前ちゃん…………
しまった完全に忘れていた……名前ちゃんの前でカラ松の格好でなんてことを………ち、違うんだ名前ちゃん、これは、違うんだ…………
目線をおそ松兄さんに戻せば、なんで名前ちゃんじゃなくて俺に告ってんだよと顔に書いてある長男と目が合う。それ、おれが一番思ってるから。
ダラダラと汗を垂らしながらおそ松兄さんと見つめ合っているとソファからんん…という嫌な声が聞こえた。
ギギギ…と壊れたブリキのようにぎこちなくそちらを見れば、カラ松が、上半身を起こしていた。
ソファに膝立ちになって窓枠に手をついている名前ちゃんはちょうどカラ松の脚を胴体で跨ぐ形になっていたから、カラ松が上体を起こしたことにより顔と顔が非常に近くにある状態だ。突然のことに固まる名前ちゃんと寝ぼけまなこのカラ松はしばし見つめ合い…
「名前…?」
「カッッ…〜〜ッッ」
終わったアアアアアアアアアアアアアアア
てか今名前ちゃん「かッッ」て言ったアアアアアアアアアアアアアアア言ったよね言ったよね!?!?!?!?気付いて!?!?気付いてた!?!?!?!?気づくよな好きな相手だもんなアアアアアアアアアアアアアアア
おれが灰になってる間に名前ちゃんが素早くカラ松の上に置いてあった紫のパーカーをカラ松に投げ付け、カラ松ファッションに身を包んだおれを見て度肝を抜いていたカラ松の頭からパーカーを勢い良く被せて「起きたんだね!!!一松くん!!!」と叫んだ。
「ああ…よく寝た」
紫パーカーを(無理やり)着たカラ松の第一声はそれだった。
ハアアアアアアアアアKA!RA!MA!TSUUUUUUカラ松カラ松カラ松ぅぅぅうううなんだこいつおれに化けてこの場を収める気なのか神か神なのか逆に死ねええええええええええええ
「なんだ一松起きたのか」
「起きただにゃーまだ眠いにゃー」
「ウッッッ」
でもおれの真似下手すぎィ!と思っていたら短く呻いた名前ちゃんが顔を覆ってソファから転がり落ちた。勢い良く頭を床に打ってゴン!と良い音がしたがそのまま床に転がっている。
「えっだいじょぶ…?」
「大丈夫!大丈夫なんで続けてください!!!」
「続けてくださいってなに…」
「あ、ああ…私のことは本当気にせず…」
「え〜〜俺名前ちゃん心配〜なになに〜?今日はカラ松も一松も変だけど名前ちゃんまで変なの〜?」
「おそ松さん、1万円あげるので競馬行ってきてください」
「えーーー!!!うそ!?やったまじ!?いいの!?わーい!!!おい一松カラ松!競馬行こうぜ!」
「え、あ、いや、今から一ま…じゃなかったカラ松に大事な話あるから席外してくんにゃい?」
「は?なにそれ」
ハ!?!?!?!?なにそれ!?!?
まさかおそ松兄さんを遠ざけおれを助ける気なのかマジなんなんだよお前の優しさ逆に死ねよおおお!おれはもうカラ松BOYSだよォ〜〜!!!!!!
「なんか今日のお前ら気持ち悪い」
「あ、名前…ちゃん、も、一緒に出てくれないか」
「えー???せっかく来てくれたのにマジお前らなんなの?じゃあさ帰る前に名前ちゃんのコート返してやれよカラ松」
「あ、ああ」
わ、忘れてたその話題いいいいいい
名前ちゃんも忘れてたらしくパッと起き上がるといや今日は立て込んでるみたいなので大丈夫ですまた今度でとスラスラ言い出て行こうとした。
いやでも寒いしコートないと困るっしょ?と食い下がるおそ松兄さんにピクリとカラ松が反応する。
あ、この隙にコートどこにあるか教えろよ!それで返してとっとと入れ替わろう!
そんなおれの気持ちが全く通じていないのか、立ち上がったカラ松はスタスタと名前ちゃんに近寄るとその手首を握った。お、お前おれの格好でななななななななななにして
「えっ一松く…」
「あの日、帰りに乗ってた車、あれ誰?」
ひっっっっくい声に部屋が静まり返る。
………カラ松兄さぁん…おれのフリしてくれるんじゃなかったの…?
名前ちゃんはギクッとしたあとサッと顔を青ざめさせて目をキョロキョロさせ、かわいそうなくらい狼狽えた。
車がなんなのかわからないけれど、これ以上カラ松にボロ出されても困るしここは2人にお引取り願おう。
「ノンノンブラザー、レディを怯えさせるもんじゃないぜぇ」
そう言いながら名前ちゃんの手首からカラ松の手を外させる。
ハッとした様子のカラ松はしかめっ面をしながらも「悪かった…にゃん」と言った。だからその語尾やめろ。名前ちゃんはン゛…っ!と言って顔をきゅっとさせた。なにその反応?
「と、とにかく今日は行きましょうおそ松さん」
「えーでもコート…」
「追加で2万円あげます」
「行ってきまーす!!!」
2人は出て行った。
「おおおおいお前なにやってんだよ一松びっくりしたよ!」
2人きりになった途端詰め寄ってくるカラ松の胸倉を逆に掴んでやる。
「テメエ!!!このことみんなに喋ったらコロスからな墓まで持ってけよコルァァアア」
「この状況で強気ィ?嘘だろお」
「とにかくまず着替えんぞコルァあとなに名前ちゃんの前で素になりかけてやがんだこのポンコツァア?」
「強気ィ〜〜?!?ええ〜」
ドタバタと服を交換していると脱ぎ捨てた服に足を取られて2人で転んでしまった。
「わっすれものしちゃったワハハ…」
こ、この松野・間の悪い・おそ松め………
2人とも上半身裸でカラ松兄さんが上に乗った状態をバッチリ見られる。しかもおそ松兄さんの向こう側には名前ちゃんがいて口元を両手で押さえて赤くなっていた。
「あははお邪魔しましたぁ〜」
「ちちち違あああう」
「ごめんねぇ誰にも言わなぁい」
「違うううう信じてくれ!な!名前!違うから!」
「さっきは俺のこと好きって言ってたのにね…誰でも良いんだね…名前ちゃん、こんなやつやめた方が良いよぉ」
「ちちちち違ぁう!!!誰でも良くない!!!おれは!!!お前だけが」
「えーごめん俺そっちの趣味ないから…」
「お前に言ってるんじゃないおそ松!」
「やめてよカラ松兄さぁん」
「おおおおま…!!!違うってえええ」
クソ松の味方は今はいなかった。
おれがつい出来心なんかで行動したのが悪かった。
ちょ〜〜っと気になっていただけのあの服に袖を通したのが間違いだったんだ。
「ただいまァ〜〜」
松野一松大ピンチ。
眠っているクソ松の脱ぎ捨てたイッタイ服を興味本位で着てしまったところへまさかの長男ご帰宅ぅぅぅううう!!!
なんで長男!いやこの際誰が帰ってきても地獄だがよりによって長男!!!なんでこんな早く帰ってくんだよパチンコ行ってたんじゃなかったのかよ!!!
「やっぱ1000円じゃあっという間だな〜」
っんな軍資金で行ってんじゃねぇよ!!!!!!
終わったァ…こんな姿見られたらもう生きていけない……
「どしたぁ?カラ松ぅ」
か、カラ松…?
そうか…!こんな格好してるから…!!
「んあ?おいって…」
「フンッ…どうしたおそ松…おれに何か用かブラ…ザ……」
このまま誤解を押し通そうと精一杯格好付けて振り返ったおれは今度こそ固まった。
床に胡座をかいて座ってる長男は良い。想定内。想定外だったのは開いた襖の向こうに突っ立ったままこちらを凝視している名前ちゃんだった。
おおおおおおおお終わったァアアアアアアア
彼女にこんな姿見られたアアアアアアア!!!!!!!!!もう生きていけない!!!!!!!!!!!!
絶句のまま名前ちゃんと見つめ合っていると座ってる長男から「いや別に用って程じゃないけど」と声がかかる。
「あ、名前ちゃんも遠慮しないで入って入って〜〜そこ寒いっしょ」
「え、あ、う、うん、あ、お邪魔します…こんにちはカラ松くん」
ッシャーーーーー騙せたァアアおれのことカラ松だと思ってるぅぅぅうう普段そう思われたら地獄だけど今は助かったァアアアアアアアアア
「でもどったのその声?いつもと違くね?」
ちょおなあああああんんんんんんんん
妙に鋭いのヤメロちょおなあああああんんんんんんんん
「アッ!あ、も、もしかして風邪?」
名前ちゃんんんんんんんんんんん天使か女神か最高のアシストおおおお
「そ、そお、風邪ダァ…んゴッホゴッホ喉をやられて声がゴッホゴッホ」
「あとなんか髪がボサボサだね」
「え、ああ風邪で髪もゴッホゴッホ…」
「あと〜、闇のオーラと…」
「かっ!!!!!!カラ松!!!くん!!!!!!風邪引いちゃったの私が上着持って帰っちゃったせいかな!?ごめんね!?これ、クリーニングもしたので…返しに来ました!」
「エッ?あっありがとう…」
核心を突いてきそうだったおそ松兄さんに割り込んで名前ちゃんが持っていた紙袋を押し付けてきた。中を確認すればクリーニングのビニールに入った青い半纏。
えっこれこないだ名前ちゃんが間違えて着て帰ったクソ松のじゃん。え?コート届けにすぐ追いかけてたよな?そのあと普通に帰ってきてたから会えたもんだと思ってた。
「それでその…置いてっちゃったコートも取りに来ました…」
「あっれ〜〜?カラ松ぅ、あのあとすぐに追いかけてたじゃん!会えなかったの?」
「エッ」
「え!そうなんですか!?ごめんなさいご足労を…」
「いやいやそーんなゴソクローなんてこいつに言わなくていいから!で?カラ松コートどーしたの?早く返してあげなよ」
無邪気に見上げてくる長男。おれは背中に大量の汗を流していた。
知らない。クソ松がどこにコートしまってあるかなんて知らない。だってあの日ちゃんと返したもんだと思ってた。どうしよう。バレる。ニセモノだってバレる…!
「え!あ!いや、コートは帰る時で大丈夫ですあはは〜〜アッ!ポテチ!ポテチ食べて良いですか?私ポテチ大好きでぇ〜〜」
何故か焦った様子の名前ちゃんはおれが持ってきたポテチを見つけると飛びついた。「え?そーなの?てか名前ちゃんしばらくうちにいてくれんの〜?やった〜」なんて長男が喜んでいる。ひとまずヤバイ局面が過ぎ去ったようで一息つく。
「カラ松も食べれば〜?」
「あ、うん…」
「…??どしたの、なんか今のカラ松らしくな〜い」
「!?」
「なぁ〜んか様子が変だよぉ?」
「…フッ…様子が変か………ノー!!!プランだ!!!!!!」
「いつもとやり方違くない?」
「かぁぜぇでぇ!!!!!!」
「はい?」
チクショーーーーーーッッ正しいカラ松のやり方がわかんねええええええいや正しいカラ松のやり方ってなんだああああああ
「なんっかいつもと違うなぁ〜ねー名前ちゃん?」
「えっ?そ、そうかな〜〜?」
「なななななななにを言うブラザー!アーイムカラ松アーハン?ohミラーいつもクールな姿をセンキュー!アーユーコーミック?イェースグッジョーブ!ohビューティコンセ〜〜ンアイラブコンセ〜〜ント!どうだぁいつものおれだろ?」
渾身のカラ松を演って振り向けばすっかり興味を失った様子の長男がムシャムシャとポテチを食べているところだった。クソ長男こんのやろ……てか!それおれのポテチだしィ!!!
長男の横では名前ちゃんが蹲って小刻みに震えている。えっ?もしかして泣いてる?
「つーかこいつ誰?」
急にソファで寝ている人物に興味を持った長男に焦る。
「あーなんだ一松かぁ」
「そ、そうだ一松だぁ」
「おーい一松…」
「ちょっ!おそ松さん、ダメです寝てるんですから!」
蹲っていた名前ちゃんが起き上がって、おれが止める前におそ松兄さんの裾を引いた。見ればまだ肩を揺らして笑っている。って笑ってたんかい!目尻の涙を拭っているので泣いてもいたんだろうけど。
「寝てるところを起こしちゃかわいそうですって」
「えー?でもせっかく名前ちゃん来てるのにさぁ〜〜起きてから知ったらきっとこいつもガッカリするよぉ?」
「一松くんとはまた遊べますから今は良いですよ」
名前ちゃん…おれなんかとまた遊んでくれるの…天使か…
ジーンと感動しているとなにやらガサゴソし出した長男が「なぁなぁこれ食べる?」と手にしたモノ。
「これね、一松が猫にあげるためにいつもここに隠してんだよ!すっげぇ美味いんだよなぁ」
ダァーーーーーー!!!!!!!!!
気づいた時には長男を思いっきり殴り飛ばしていた。
「えっええええ〜〜!?!?」
「あっ風邪で手が勝手に…」
「いや!風邪関係ねぇだろ!!!んだよ今日のカラ松意味わかんねえなぁ…んん〜〜うんま〜名前ちゃんも食べる?」
「え?いや私は…」
「遠慮すんなって」
「でも…」
ちらりと名前ちゃんがこちらを見る。多分おれ今ヤバイ顔してると思う。
「ん、食べて良いよ」
そう言っておれにも渡してくる。
おまえのじゃねぇだろ!!!
でもここで食べないとまた怪しまれる…断腸の思いで受け取り口に含む。
「なぁ〜美味くない?」
「あ、ああデリシャスだ…」
「こんなの猫にやるなんて一松もバカだよなぁ〜〜」
「はは…」
KOROSU!!!!!!!!!
殺意を込めて長男の方を見て…そしておれは見つけてしまった。
窓の外で悲しそうにこちらを見つめる
ち、違うんだああああああああ行かないでくれええええええ
人知れず泣いていると煮干を鷲掴んだ名前ちゃんが突然立ち上がって窓に駆け寄り勢い良く開けて「ほら!おいで!!」と叫んだ。
少し警戒した足音が聞こえたあと、おずおずと現れた猫は名前ちゃんが窓枠に置いた煮干をはむ…と遠慮がちに口にした。
「えー名前ちゃん何してんの!?勿体無い!」
「えっだってこれ元々一松くんが猫ちゃんのために買ってあるやつなんでしょう…?」
「そーだけど!こんな美味いもん猫にやるなんて!」
「あーじゃあ私の分をあげたってことで」
「ええ〜〜?」
「一松くんのお友達だから大事にしないと」
ね?とおれの方を向いて笑う名前ちゃん。女神じゃん。すき。
どうやら最後の言葉だけ口から漏れ出ていたようですごい勢いで振り返った兄さんは目をキラッキラさせて口を緩ませながら迫ってきた。
「えっ?なになになに〜〜???今めちゃくちゃ大事なこと言わなかったカラ松?はいっもっかい大っきな声で!名前ちゃんに向かって!どーぞ!!!」
「エッ?いいいいいやななななななななんでもなっ……ってかそういう意味じゃない!!!友達として!!!人間として!!!!!!なんて出来た人だろうって意味で…!!!!」
「…おまえこの後に及んでそんなこと言ってんの?カラ松」
カラ松、と呼ぶ声が急にドスの効いた低音になってヒュッとおそ松の方を見れば据わった目の兄さんと目が合う。
えっ…うそ…この状況でおれカラ松兄さんに代わって告白とかしなきゃいけない感じ…?は…?無理無理無理無理むりでしょ!?!?いくら名前ちゃんに恋愛感情がないからって女の子に告白なんて!!!おれが!?!?むりでしょ!!!人のフリしてるからって!!!むりでしょ!?!?!?!?
「…なぁんてな!ま、そーゆーのは二人きりの時にやってよ、さすがのお兄ちゃんでも目の前でやられたら腹立つし〜」
「あ、ああ…」
何故か突然諦めたおそ松に安堵しているのもつかの間、さらなる爆弾が投げつけられる。
「あーそうだカラ松、お願いがあんだけど…そのサングラスとか貸してくんない?普段バカにしてたけど実は着てみたくてさ〜〜」
………アーーーーーーおれもこのバカみたいに素直に言えたら今頃こんなことには………
「カラ松?なんか汗すごくない?」
「じ、実は………フッ風邪だと言ったろ?熱があるのかもしれない…」
「あーなるほどね、じゃあ身体冷えるといけないから脱いだ方が…」
「いやいやいや良い」
「なんで?その汗だよ?身体冷えるから」
「いい!恥ずかしい!」
「なんで恥ずかしいんだよ!」
「おれは…お前が好きなんだよ!!!!!!」
しん…とした部屋の中で目の前のおそ松の顔がドン引きに染まったのを見た。が、もう止まれない。
「最近そっちに目覚めたんだ…だからお前の前で薄着になんてなったら…」
続けながら目の前のおそ松がドン引き顔のまま目線を横にズラしたことに気づき、その目線を追った先を見て今度こそ心臓が壊れる音がした。
名前ちゃん…………
しまった完全に忘れていた……名前ちゃんの前でカラ松の格好でなんてことを………ち、違うんだ名前ちゃん、これは、違うんだ…………
目線をおそ松兄さんに戻せば、なんで名前ちゃんじゃなくて俺に告ってんだよと顔に書いてある長男と目が合う。それ、おれが一番思ってるから。
ダラダラと汗を垂らしながらおそ松兄さんと見つめ合っているとソファからんん…という嫌な声が聞こえた。
ギギギ…と壊れたブリキのようにぎこちなくそちらを見れば、カラ松が、上半身を起こしていた。
ソファに膝立ちになって窓枠に手をついている名前ちゃんはちょうどカラ松の脚を胴体で跨ぐ形になっていたから、カラ松が上体を起こしたことにより顔と顔が非常に近くにある状態だ。突然のことに固まる名前ちゃんと寝ぼけまなこのカラ松はしばし見つめ合い…
「名前…?」
「カッッ…〜〜ッッ」
終わったアアアアアアアアアアアアアアア
てか今名前ちゃん「かッッ」て言ったアアアアアアアアアアアアアアア言ったよね言ったよね!?!?!?!?気付いて!?!?気付いてた!?!?!?!?気づくよな好きな相手だもんなアアアアアアアアアアアアアアア
おれが灰になってる間に名前ちゃんが素早くカラ松の上に置いてあった紫のパーカーをカラ松に投げ付け、カラ松ファッションに身を包んだおれを見て度肝を抜いていたカラ松の頭からパーカーを勢い良く被せて「起きたんだね!!!一松くん!!!」と叫んだ。
「ああ…よく寝た」
紫パーカーを(無理やり)着たカラ松の第一声はそれだった。
ハアアアアアアアアアKA!RA!MA!TSUUUUUUカラ松カラ松カラ松ぅぅぅうううなんだこいつおれに化けてこの場を収める気なのか神か神なのか逆に死ねええええええええええええ
「なんだ一松起きたのか」
「起きただにゃーまだ眠いにゃー」
「ウッッッ」
でもおれの真似下手すぎィ!と思っていたら短く呻いた名前ちゃんが顔を覆ってソファから転がり落ちた。勢い良く頭を床に打ってゴン!と良い音がしたがそのまま床に転がっている。
「えっだいじょぶ…?」
「大丈夫!大丈夫なんで続けてください!!!」
「続けてくださいってなに…」
「あ、ああ…私のことは本当気にせず…」
「え〜〜俺名前ちゃん心配〜なになに〜?今日はカラ松も一松も変だけど名前ちゃんまで変なの〜?」
「おそ松さん、1万円あげるので競馬行ってきてください」
「えーーー!!!うそ!?やったまじ!?いいの!?わーい!!!おい一松カラ松!競馬行こうぜ!」
「え、あ、いや、今から一ま…じゃなかったカラ松に大事な話あるから席外してくんにゃい?」
「は?なにそれ」
ハ!?!?!?!?なにそれ!?!?
まさかおそ松兄さんを遠ざけおれを助ける気なのかマジなんなんだよお前の優しさ逆に死ねよおおお!おれはもうカラ松BOYSだよォ〜〜!!!!!!
「なんか今日のお前ら気持ち悪い」
「あ、名前…ちゃん、も、一緒に出てくれないか」
「えー???せっかく来てくれたのにマジお前らなんなの?じゃあさ帰る前に名前ちゃんのコート返してやれよカラ松」
「あ、ああ」
わ、忘れてたその話題いいいいいい
名前ちゃんも忘れてたらしくパッと起き上がるといや今日は立て込んでるみたいなので大丈夫ですまた今度でとスラスラ言い出て行こうとした。
いやでも寒いしコートないと困るっしょ?と食い下がるおそ松兄さんにピクリとカラ松が反応する。
あ、この隙にコートどこにあるか教えろよ!それで返してとっとと入れ替わろう!
そんなおれの気持ちが全く通じていないのか、立ち上がったカラ松はスタスタと名前ちゃんに近寄るとその手首を握った。お、お前おれの格好でななななななななななにして
「えっ一松く…」
「あの日、帰りに乗ってた車、あれ誰?」
ひっっっっくい声に部屋が静まり返る。
………カラ松兄さぁん…おれのフリしてくれるんじゃなかったの…?
名前ちゃんはギクッとしたあとサッと顔を青ざめさせて目をキョロキョロさせ、かわいそうなくらい狼狽えた。
車がなんなのかわからないけれど、これ以上カラ松にボロ出されても困るしここは2人にお引取り願おう。
「ノンノンブラザー、レディを怯えさせるもんじゃないぜぇ」
そう言いながら名前ちゃんの手首からカラ松の手を外させる。
ハッとした様子のカラ松はしかめっ面をしながらも「悪かった…にゃん」と言った。だからその語尾やめろ。名前ちゃんはン゛…っ!と言って顔をきゅっとさせた。なにその反応?
「と、とにかく今日は行きましょうおそ松さん」
「えーでもコート…」
「追加で2万円あげます」
「行ってきまーす!!!」
2人は出て行った。
「おおおおいお前なにやってんだよ一松びっくりしたよ!」
2人きりになった途端詰め寄ってくるカラ松の胸倉を逆に掴んでやる。
「テメエ!!!このことみんなに喋ったらコロスからな墓まで持ってけよコルァァアア」
「この状況で強気ィ?嘘だろお」
「とにかくまず着替えんぞコルァあとなに名前ちゃんの前で素になりかけてやがんだこのポンコツァア?」
「強気ィ〜〜?!?ええ〜」
ドタバタと服を交換していると脱ぎ捨てた服に足を取られて2人で転んでしまった。
「わっすれものしちゃったワハハ…」
こ、この松野・間の悪い・おそ松め………
2人とも上半身裸でカラ松兄さんが上に乗った状態をバッチリ見られる。しかもおそ松兄さんの向こう側には名前ちゃんがいて口元を両手で押さえて赤くなっていた。
「あははお邪魔しましたぁ〜」
「ちちち違あああう」
「ごめんねぇ誰にも言わなぁい」
「違うううう信じてくれ!な!名前!違うから!」
「さっきは俺のこと好きって言ってたのにね…誰でも良いんだね…名前ちゃん、こんなやつやめた方が良いよぉ」
「ちちちち違ぁう!!!誰でも良くない!!!おれは!!!お前だけが」
「えーごめん俺そっちの趣味ないから…」
「お前に言ってるんじゃないおそ松!」
「やめてよカラ松兄さぁん」
「おおおおま…!!!違うってえええ」
クソ松の味方は今はいなかった。