夢だけど夢じゃない
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やばいやばい。
結構時間ギリギリになっちゃった。
今日は本当に久しぶりにハタ坊とごはんの約束をしているのだ。今月初かもしれない。遊び歩いているニートの私と違ってハタ坊はいつでも忙しそうだ。働いてて偉いなぁ…私もうあの頃の生活には戻れない気がする…
少しでも遅れると心配して大捜索隊を出されてしまう(前科あり)のでとりあえず向かっているということだけでも伝えよう。
電話をかけようとコートのポケットに手を突っ込んでそこに何もないことといつものふわふわした感触と違うザラザラした布地の感触にギョッとして自身の着ている物を確認した。
ウワッ!!これカラ松くんの半纏じゃん…!?
外を出歩くには些かダサい、暖かさだけに特化したその青い上着を見下ろして血の気が引く。そっか、十四松くんにコート取られちゃって代わりに借りてたんだっけ…どうしよう、スマホ、コートのポケットの中だ…
暖かさはコートと変わらないのでその点問題ないのだが、このまま無連絡で遅刻するのと松野家に取りに行って遅刻連絡をするのとどっちがマシだろうか。
おうちにご両親がいらっしゃらなかったし、外に食べに行こうと誘われたからむつごが飲みに行ってしまっている可能性もある。戻って誰もいなかったら…
もだもだとその場で立ち止まって迷っていたが、やはりスマホが手元に無いのは心許ないので取りに戻ろう!とくるっと勢い良く方向転換したのがいけなかった。
「うわっ」
「きゃっ」
周りを全然見ていなかったせいでまさか真後ろに人がいて、偶然手にコーヒーのカップを持っていて、偶然路駐した車に乗り込もうとドアを開けたところだとは気づかなかった。
その人も私が急に振り向いてそのまま走り出そうとするとは思っていなかったらしく、普通に車のドアを開けたので私は自ら勢いよく開いた車のドアにぶつかって尻餅をついた。ものすごくダサい。何やってんだコントか。あまりのスピーディな出来事に、車のドアに手をかけたままのその人も、歩道にひっくり返った私も一瞬何が起きたかわからず目を白黒させる。
地面に打ち付けた尻と自ら飛び込んでぶつかった前半身が痛い。
「すみません!だ、大丈夫ですか、火傷とか」
「やけど?」
慌てた様子のその人が発した言葉に首を傾げ、改めて服を見れば青い半纏にシミが出来て暗い紫ががった紺色になっていた。どうやらぶつかった時にこの人の持っていたコーヒーが掛かってしまったらしい。
幸い、分厚い半纏が全部吸ってくれて火傷どころか液体が掛かったことにすら気づかなかった。火傷しなくて良かったけど借り物を汚してしまって申し訳ない。半纏って普通に洗えるのかな。
そんなことを思いながら立ち上がろうとするとスッと手を差し伸べられ、思わずその手を取ってしまった。
「あ、ありがとうございま…!!!」
手を差し伸べてくれたその人を見上げて固まる。
ぶつかってしまったその人はーーーー
「本当に申し訳ないです…僕の不注意でした、お怪我ありませんか?」
「アッ…〜〜ッ!!!!!!」
「?」
アッアッアッアツシくんんんんんん!!!!!!!!!
久々の新キャラ遭遇に完全に油断していた私は差し出された手を強く握り締めてしまう。
なるほど、彼のスーツはちょうどコーヒーを吸った青い半纏と似たような紫ががった暗めの紺色だった。着てる服色で引き当てちゃうシステム健在だった。
引っ張り上げてもらいなんとか立ち上がる。
申し訳なさそうに困った顔で見下ろしてくる彼に「私の不注意でした!こちらこそすみません」と謝れば、眉を下げたまま財布を取り出して御札を何枚か渡してこようとする。
「これ、クリーニング代です」
「アッお気遣いなく…!クリーニング代は自分で出しますので…(人のだし…)」
「いえ、そういうわけには…」
本当に大丈夫なので、申し訳ありませんでした、そう早口にまくし立ててその場を去ろうとするとズキっと足首に走る鈍い痛み。思わず出た「痛…ッ」という呟きを聞き逃さなかった彼は更に眉をひそめた。
「! どこかお怪我を?」
「いや、ちょっと捻っただけみたいで」
「………あの、初対面の男の車に乗るのは抵抗あると思うんですけど、良ければ病院まで送らせてください」
「えっ」
「あ、僕こういう者です、不安でしたらせめてタクシー呼ばせてください」
そう言って渡された名刺を受け取る。
上場一部の超大企業、その営業一課…なるほど流石エリート。20代そこそこでマイカー持ちなだけある。しかもこの車も結構いいヤツでしょうこれ…
確かに初対面の男の車にホイホイ乗るのは危機管理出来なさすぎると思うけど、この人は初対面であって初対面じゃない。アニメで知ってる。知ってるってほど掘り下げられたキャラでもないから信頼できるか微妙だけど、少なくともトッティが大人になっても付き合っているくらいには信頼できる人物だろう。
スマホがないから今何時かわからないけど、多分もう約束には間に合わない、しかもこの足じゃ。
「………あの、厚かましいお願いなんですけど、病院は良いので家まで送って頂けませんか」
「えっ家ですか?」
「あ、家というか会社というか」
「??会社に住まれてるんですか?」
突然見ず知らずの男に自宅へ連れてけなんてこっちが余程ヤベエ奴だと気付いて慌てて取り繕うも余計訝しませてしまった。
それでもぶつかってコーヒーをぶっかけ足を怪我させてしまったと落ち度を感じているらしく、そっと助手席へ案内される。
わぁ、こりゃいい車だわ。本革のシートがふかふか。車内もいい匂い。
スルッと隣の運転席へ収まった彼はちらりとこちらを見るとエンジンをかけた。
「ご自宅はどちらですか?」
「あ、フラッグコーポレーションわかります…?」
「えっFC?ええ勿論…」
彼の顔つきが変わったことに首を傾げれば目線が素早く私のリボンに飛んでその模様を確認するとサッとその気怠い顔に緊張感が走った。
かと思えばそれが気のせいだったかのように一瞬で張り付いた笑みを向けられる。
「フラッグコーポレーションの方でしたか、いつも大変お世話になっております」
深々とお辞儀され、ああ彼のお得意様だったのか、もしかしたらハタ坊と知り合いなのかもしれないな、とぼんやり思った。
「私は従業員ではないのでどうかお気を張らず…申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「いえ、とんでもございません、では発進します、何かあったらすぐ仰ってください」
すっかり営業モードになってしまった彼の横顔を眺めながらふかふかの大きなシートに身を預け、シートベルトをぎゅっと握った。
車ならもしかしたらディナーに間に合うかも。
音もなく発進した高級車に感心しつつ、汚してしまった半纏を見下ろしてシミ抜きしなくちゃなぁ…と考え事をしていたせいで気づかなかった。
ちょうど交差点に差し掛かった時、車の真横に私のラビットファーコートを抱えた松野カラ松が立っていたことを。しっかりと車内の私を捉えていたことを。
窓の外で目を見開いた青い男に気付くことなく、高級車はそのままそびえ立つ高層ビルに向かって走り去った。
結構時間ギリギリになっちゃった。
今日は本当に久しぶりにハタ坊とごはんの約束をしているのだ。今月初かもしれない。遊び歩いているニートの私と違ってハタ坊はいつでも忙しそうだ。働いてて偉いなぁ…私もうあの頃の生活には戻れない気がする…
少しでも遅れると心配して大捜索隊を出されてしまう(前科あり)のでとりあえず向かっているということだけでも伝えよう。
電話をかけようとコートのポケットに手を突っ込んでそこに何もないことといつものふわふわした感触と違うザラザラした布地の感触にギョッとして自身の着ている物を確認した。
ウワッ!!これカラ松くんの半纏じゃん…!?
外を出歩くには些かダサい、暖かさだけに特化したその青い上着を見下ろして血の気が引く。そっか、十四松くんにコート取られちゃって代わりに借りてたんだっけ…どうしよう、スマホ、コートのポケットの中だ…
暖かさはコートと変わらないのでその点問題ないのだが、このまま無連絡で遅刻するのと松野家に取りに行って遅刻連絡をするのとどっちがマシだろうか。
おうちにご両親がいらっしゃらなかったし、外に食べに行こうと誘われたからむつごが飲みに行ってしまっている可能性もある。戻って誰もいなかったら…
もだもだとその場で立ち止まって迷っていたが、やはりスマホが手元に無いのは心許ないので取りに戻ろう!とくるっと勢い良く方向転換したのがいけなかった。
「うわっ」
「きゃっ」
周りを全然見ていなかったせいでまさか真後ろに人がいて、偶然手にコーヒーのカップを持っていて、偶然路駐した車に乗り込もうとドアを開けたところだとは気づかなかった。
その人も私が急に振り向いてそのまま走り出そうとするとは思っていなかったらしく、普通に車のドアを開けたので私は自ら勢いよく開いた車のドアにぶつかって尻餅をついた。ものすごくダサい。何やってんだコントか。あまりのスピーディな出来事に、車のドアに手をかけたままのその人も、歩道にひっくり返った私も一瞬何が起きたかわからず目を白黒させる。
地面に打ち付けた尻と自ら飛び込んでぶつかった前半身が痛い。
「すみません!だ、大丈夫ですか、火傷とか」
「やけど?」
慌てた様子のその人が発した言葉に首を傾げ、改めて服を見れば青い半纏にシミが出来て暗い紫ががった紺色になっていた。どうやらぶつかった時にこの人の持っていたコーヒーが掛かってしまったらしい。
幸い、分厚い半纏が全部吸ってくれて火傷どころか液体が掛かったことにすら気づかなかった。火傷しなくて良かったけど借り物を汚してしまって申し訳ない。半纏って普通に洗えるのかな。
そんなことを思いながら立ち上がろうとするとスッと手を差し伸べられ、思わずその手を取ってしまった。
「あ、ありがとうございま…!!!」
手を差し伸べてくれたその人を見上げて固まる。
ぶつかってしまったその人はーーーー
「本当に申し訳ないです…僕の不注意でした、お怪我ありませんか?」
「アッ…〜〜ッ!!!!!!」
「?」
アッアッアッアツシくんんんんんん!!!!!!!!!
久々の新キャラ遭遇に完全に油断していた私は差し出された手を強く握り締めてしまう。
なるほど、彼のスーツはちょうどコーヒーを吸った青い半纏と似たような紫ががった暗めの紺色だった。着てる服色で引き当てちゃうシステム健在だった。
引っ張り上げてもらいなんとか立ち上がる。
申し訳なさそうに困った顔で見下ろしてくる彼に「私の不注意でした!こちらこそすみません」と謝れば、眉を下げたまま財布を取り出して御札を何枚か渡してこようとする。
「これ、クリーニング代です」
「アッお気遣いなく…!クリーニング代は自分で出しますので…(人のだし…)」
「いえ、そういうわけには…」
本当に大丈夫なので、申し訳ありませんでした、そう早口にまくし立ててその場を去ろうとするとズキっと足首に走る鈍い痛み。思わず出た「痛…ッ」という呟きを聞き逃さなかった彼は更に眉をひそめた。
「! どこかお怪我を?」
「いや、ちょっと捻っただけみたいで」
「………あの、初対面の男の車に乗るのは抵抗あると思うんですけど、良ければ病院まで送らせてください」
「えっ」
「あ、僕こういう者です、不安でしたらせめてタクシー呼ばせてください」
そう言って渡された名刺を受け取る。
上場一部の超大企業、その営業一課…なるほど流石エリート。20代そこそこでマイカー持ちなだけある。しかもこの車も結構いいヤツでしょうこれ…
確かに初対面の男の車にホイホイ乗るのは危機管理出来なさすぎると思うけど、この人は初対面であって初対面じゃない。アニメで知ってる。知ってるってほど掘り下げられたキャラでもないから信頼できるか微妙だけど、少なくともトッティが大人になっても付き合っているくらいには信頼できる人物だろう。
スマホがないから今何時かわからないけど、多分もう約束には間に合わない、しかもこの足じゃ。
「………あの、厚かましいお願いなんですけど、病院は良いので家まで送って頂けませんか」
「えっ家ですか?」
「あ、家というか会社というか」
「??会社に住まれてるんですか?」
突然見ず知らずの男に自宅へ連れてけなんてこっちが余程ヤベエ奴だと気付いて慌てて取り繕うも余計訝しませてしまった。
それでもぶつかってコーヒーをぶっかけ足を怪我させてしまったと落ち度を感じているらしく、そっと助手席へ案内される。
わぁ、こりゃいい車だわ。本革のシートがふかふか。車内もいい匂い。
スルッと隣の運転席へ収まった彼はちらりとこちらを見るとエンジンをかけた。
「ご自宅はどちらですか?」
「あ、フラッグコーポレーションわかります…?」
「えっFC?ええ勿論…」
彼の顔つきが変わったことに首を傾げれば目線が素早く私のリボンに飛んでその模様を確認するとサッとその気怠い顔に緊張感が走った。
かと思えばそれが気のせいだったかのように一瞬で張り付いた笑みを向けられる。
「フラッグコーポレーションの方でしたか、いつも大変お世話になっております」
深々とお辞儀され、ああ彼のお得意様だったのか、もしかしたらハタ坊と知り合いなのかもしれないな、とぼんやり思った。
「私は従業員ではないのでどうかお気を張らず…申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「いえ、とんでもございません、では発進します、何かあったらすぐ仰ってください」
すっかり営業モードになってしまった彼の横顔を眺めながらふかふかの大きなシートに身を預け、シートベルトをぎゅっと握った。
車ならもしかしたらディナーに間に合うかも。
音もなく発進した高級車に感心しつつ、汚してしまった半纏を見下ろしてシミ抜きしなくちゃなぁ…と考え事をしていたせいで気づかなかった。
ちょうど交差点に差し掛かった時、車の真横に私のラビットファーコートを抱えた松野カラ松が立っていたことを。しっかりと車内の私を捉えていたことを。
窓の外で目を見開いた青い男に気付くことなく、高級車はそのままそびえ立つ高層ビルに向かって走り去った。