夢だけど夢じゃない
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おや、と思った。
大きな川沿いのガードレール横を歩いていた時に川の反対側を通り過ぎたスクーター。遠いし小さいし一瞬ですれ違ってしまったので確かではないけど、運転手はチビ太だったように思う。そして後ろには女の子が乗っていた。
ざわ、と胸が騒ぐ。
もしかして、今日ってあの回なのでは。
嫌な予感ほど的中する。
駅前の商店街を歩いていたら見慣れたピンクの男と目が合った。
そこそこ遠かったのに、目が合った瞬間ぱあっと笑顔を咲かせた男は駆け寄ってきた。
「名前ちゃん!」
「トド松くん」
「何してるの?ボクはジムの帰り!」
「トド松くんジム通ってるんだ?私はお散歩してただけ」
今日のおやつ探しも兼ねて。
そう答えると、なら美味しいケーキ食べに行かない?最近出来たカフェが良くってさ!とお茶する流れになってしまった。
私は仕事の一つでもある"ハタ坊のおやつを買う"というミッションの途中だったのだけど、言葉足らずだったせいで私のおやつを探していると勘違いされてしまったらしい。まぁたまには良いよね、と軽い気持ちでついていったカフェはとてもお洒落で居心地の良い素敵なお店だった。
運ばれてきたケーキもとても美味しそうだ。見た目もすごく可愛い。
インスタ映えしそう〜と言いながら女子のように写真を撮るトド松につられて私もスマホを取り出す。うーん、食べ物の写真って上手く撮れないな。
そう思っていると、名前ちゃんこっち向いて〜という声がかかり顔を上げると自撮りの体制をしたトド松がこちらにカメラを向けていたので慌てて画角に収まるように身体を寄せる。
カシャと機械音がして、笑顔のトド松が「わーいありがとっ!写真送るね」と言った後わざとらしく「あっ!連絡先知らないんだった…」と眉を下げた。あざといなぁ。こうして何の不自然もなく連絡先交換した私のスマホに即写真が送られてくる。加工アプリ無しでこの可愛さ…やっぱりこの容姿すごいわ。どこか他人事のように自分の写りを眺めていると、すでにケーキにフォークを入れたトド松から声がかかる。
「名前ちゃん、こういうお店好きだったら定期的にカフェ巡りしない?ボクも好きなんだけど、やっぱり男1人だと入りづらくてさ〜!一緒に行ってくれると嬉しいな」
上目遣いで言われて面食らう。
別に構わないけど、あまりの手際の良さにどうしてこの男が未だ童貞なのか甚だ疑問だ。彼女の1人や2人すぐ出来そうなのに、やっぱりあの兄弟に足を引っ張られてるからなのか。
「…良いけど私なんかと会ってて大丈夫?スタバァの子に変な勘違いされない?」
「えっ?どういうこと?何の話?」
「えっ?トド松くんあの子狙いなんじゃないの?」
そう言うと愕然とした顔になった末弟は顔を赤くしたり青くしたりしながら手をバタバタさせて何でそう思ったの!?違うよ!?いや前はそう思ってたこともあったけど今はどちらかといえば!なんて口走った。
「どちらかといえば?」
「アッ………ううん何でもない…」
急に静かになった彼は思い出したかのように眉を潜めて目線を斜め下にやったまま「そういう名前ちゃんこそ、カラ松兄さんと随分ベタベタしてたけど本当に友達なの?」と聞いた。
「あっ!そうだった!カラ松くんにトド松くんとお茶してるよって言わなきゃ」
「えっ!?なんでやめて!?!?なんで!?!?なんの密告!?!?」
「密告じゃないけど…兄弟と会う時は教えろって言われてるの」
そう答えればトド松の顔がすごく訝しげに歪んだ。
「えっ何それ…なんで…?」
「親友だからだって」
「ハァ?親友ってそんな報告必要?」
「………そうだよね?私も変だと思ってたんだけど、そうするのが親友なんだって」
やっぱり変だよね、と思いつつも一方的に取り付けられた約束をちゃんと果たさないとバレた時にまた怒られても嫌なので今日のことは言わなくては。
そう思っているとズズッとコーヒーを啜ったトド松がじとりとした半目でこちらを見た。
「ふーーーん?じゃあ今カラ松兄さん誰といるか名前ちゃんに報告してるんだ?」
「えっ?」
「名前ちゃんにだけ報告させるなんてフェアじゃないもんね?自分は彼女を家に連れ込んでいちゃいちゃしてるってのに」
「えっ?えっ?」
初耳情報に混乱していると深い溜息をついたトド松がずいと顔を寄せてきた。
「ほんっとあの人のセンス最悪だと思ってたけど、もはやそんなレベルじゃないバケモノ連れて帰ってきてるから。実家なんだからお前だけの家じゃないっつーの。聞いてない?見に来る?」
冷や汗が止まらない。
相手が誰だかなんて想像はとっくについてる。
だって今日チビ太と彼女を見た。ということは。カラ松が家に連れ込んでいるのは。
わかっているけど、アニメ放送当時はドブスにも優しいカラ松くんまじ紳士なんて沸いたけど。
この目で直接他の女といちゃついてる姿を見る勇気なんてなかった。
なかったはずなのに。
なぜか私は松野家の敷居を跨いでいた。ピンク色の背中に続いて玄関には入れば聞こえてくる甘い男女の声。吐き気がしてきた。帰ろう。良くない。大丈夫、1話完結、今日が終われば彼女はいなくなる。大丈夫。
踵を返そうとした時、タイミング悪く部屋からカラ松が飛び出してきた。
「あれっ名前?」
「あっ…」
「カラ松兄さん、"親友"の名前ちゃん遊びに来てくれたよ!」
「悪い名前、今忙しいんだ!フラワーには俺がいないといけないから」
俺がいないといけないから。
繰り返しアニメを見て何度も聞いたはずのセリフだった。
それなのにどうしてこんな雷に撃たれたような衝撃が?
そのまま出て行ってしまった次男の背中を追うように目線だけ動かして根が生えたように突っ立ってると前に立つトド松から心配したような声が掛けられる。
名前ちゃん来てるの?と十四松と一松が玄関に顔をのぞかせた。
「…名前ちゃん?」
「………わっ私だってカラ松くんいないとダメだよ…!!!!」
溢れてはいけない想いが溢れてはいけない場所で決壊した。
大きな川沿いのガードレール横を歩いていた時に川の反対側を通り過ぎたスクーター。遠いし小さいし一瞬ですれ違ってしまったので確かではないけど、運転手はチビ太だったように思う。そして後ろには女の子が乗っていた。
ざわ、と胸が騒ぐ。
もしかして、今日ってあの回なのでは。
嫌な予感ほど的中する。
駅前の商店街を歩いていたら見慣れたピンクの男と目が合った。
そこそこ遠かったのに、目が合った瞬間ぱあっと笑顔を咲かせた男は駆け寄ってきた。
「名前ちゃん!」
「トド松くん」
「何してるの?ボクはジムの帰り!」
「トド松くんジム通ってるんだ?私はお散歩してただけ」
今日のおやつ探しも兼ねて。
そう答えると、なら美味しいケーキ食べに行かない?最近出来たカフェが良くってさ!とお茶する流れになってしまった。
私は仕事の一つでもある"ハタ坊のおやつを買う"というミッションの途中だったのだけど、言葉足らずだったせいで私のおやつを探していると勘違いされてしまったらしい。まぁたまには良いよね、と軽い気持ちでついていったカフェはとてもお洒落で居心地の良い素敵なお店だった。
運ばれてきたケーキもとても美味しそうだ。見た目もすごく可愛い。
インスタ映えしそう〜と言いながら女子のように写真を撮るトド松につられて私もスマホを取り出す。うーん、食べ物の写真って上手く撮れないな。
そう思っていると、名前ちゃんこっち向いて〜という声がかかり顔を上げると自撮りの体制をしたトド松がこちらにカメラを向けていたので慌てて画角に収まるように身体を寄せる。
カシャと機械音がして、笑顔のトド松が「わーいありがとっ!写真送るね」と言った後わざとらしく「あっ!連絡先知らないんだった…」と眉を下げた。あざといなぁ。こうして何の不自然もなく連絡先交換した私のスマホに即写真が送られてくる。加工アプリ無しでこの可愛さ…やっぱりこの容姿すごいわ。どこか他人事のように自分の写りを眺めていると、すでにケーキにフォークを入れたトド松から声がかかる。
「名前ちゃん、こういうお店好きだったら定期的にカフェ巡りしない?ボクも好きなんだけど、やっぱり男1人だと入りづらくてさ〜!一緒に行ってくれると嬉しいな」
上目遣いで言われて面食らう。
別に構わないけど、あまりの手際の良さにどうしてこの男が未だ童貞なのか甚だ疑問だ。彼女の1人や2人すぐ出来そうなのに、やっぱりあの兄弟に足を引っ張られてるからなのか。
「…良いけど私なんかと会ってて大丈夫?スタバァの子に変な勘違いされない?」
「えっ?どういうこと?何の話?」
「えっ?トド松くんあの子狙いなんじゃないの?」
そう言うと愕然とした顔になった末弟は顔を赤くしたり青くしたりしながら手をバタバタさせて何でそう思ったの!?違うよ!?いや前はそう思ってたこともあったけど今はどちらかといえば!なんて口走った。
「どちらかといえば?」
「アッ………ううん何でもない…」
急に静かになった彼は思い出したかのように眉を潜めて目線を斜め下にやったまま「そういう名前ちゃんこそ、カラ松兄さんと随分ベタベタしてたけど本当に友達なの?」と聞いた。
「あっ!そうだった!カラ松くんにトド松くんとお茶してるよって言わなきゃ」
「えっ!?なんでやめて!?!?なんで!?!?なんの密告!?!?」
「密告じゃないけど…兄弟と会う時は教えろって言われてるの」
そう答えればトド松の顔がすごく訝しげに歪んだ。
「えっ何それ…なんで…?」
「親友だからだって」
「ハァ?親友ってそんな報告必要?」
「………そうだよね?私も変だと思ってたんだけど、そうするのが親友なんだって」
やっぱり変だよね、と思いつつも一方的に取り付けられた約束をちゃんと果たさないとバレた時にまた怒られても嫌なので今日のことは言わなくては。
そう思っているとズズッとコーヒーを啜ったトド松がじとりとした半目でこちらを見た。
「ふーーーん?じゃあ今カラ松兄さん誰といるか名前ちゃんに報告してるんだ?」
「えっ?」
「名前ちゃんにだけ報告させるなんてフェアじゃないもんね?自分は彼女を家に連れ込んでいちゃいちゃしてるってのに」
「えっ?えっ?」
初耳情報に混乱していると深い溜息をついたトド松がずいと顔を寄せてきた。
「ほんっとあの人のセンス最悪だと思ってたけど、もはやそんなレベルじゃないバケモノ連れて帰ってきてるから。実家なんだからお前だけの家じゃないっつーの。聞いてない?見に来る?」
冷や汗が止まらない。
相手が誰だかなんて想像はとっくについてる。
だって今日チビ太と彼女を見た。ということは。カラ松が家に連れ込んでいるのは。
わかっているけど、アニメ放送当時はドブスにも優しいカラ松くんまじ紳士なんて沸いたけど。
この目で直接他の女といちゃついてる姿を見る勇気なんてなかった。
なかったはずなのに。
なぜか私は松野家の敷居を跨いでいた。ピンク色の背中に続いて玄関には入れば聞こえてくる甘い男女の声。吐き気がしてきた。帰ろう。良くない。大丈夫、1話完結、今日が終われば彼女はいなくなる。大丈夫。
踵を返そうとした時、タイミング悪く部屋からカラ松が飛び出してきた。
「あれっ名前?」
「あっ…」
「カラ松兄さん、"親友"の名前ちゃん遊びに来てくれたよ!」
「悪い名前、今忙しいんだ!フラワーには俺がいないといけないから」
俺がいないといけないから。
繰り返しアニメを見て何度も聞いたはずのセリフだった。
それなのにどうしてこんな雷に撃たれたような衝撃が?
そのまま出て行ってしまった次男の背中を追うように目線だけ動かして根が生えたように突っ立ってると前に立つトド松から心配したような声が掛けられる。
名前ちゃん来てるの?と十四松と一松が玄関に顔をのぞかせた。
「…名前ちゃん?」
「………わっ私だってカラ松くんいないとダメだよ…!!!!」
溢れてはいけない想いが溢れてはいけない場所で決壊した。