「…おまえさん、腹が減ってんのか？」


不思議そうな顔をしたチビ太に、頷くかどうか迷う。腹ペコだけど、無一文。むつごと違って初対面の私はツケは効かないだろうし…
もだもだしているとまた一際大きな音で腹が鳴る。恥ずかしい…！
サロペットをぎゅっと握りしめ、俯いてしまった私に優しい声がかけられた。


「そこに座りな」
「！…で、でも、私お金なくて…」
「目の前に腹が減ってるかわい子ちゃんがいんのに見捨てらんねーよ」


ニカ！と笑う優しい顔にじわりと涙が浮かぶ。
すみません…お邪魔します…とおずおず座った私は、目の前で湯気に包まれた黄金のおでんにほぅ…と溜息をつく。めちゃくちゃ美味しそう。またぐるるると女子とは思えない音がなる。恥ずかしい！
慌てて腹を押さえる私にケラケラと笑ったチビ太は水の入ったコップを寄越した。


「それで？なんにする？」
「え、えっと…オススメは」
「全部に決まってんだろバーローチクショー」
「で、ですよね！」


ドヤ顔で大声を出された私は少し縮こまりながら黄金のお風呂に浸る美味しそうな物たちを眺める。どれも美味しそう…
ハタ坊ごめん、今度払って！
心の中で謝り、大根卵こんにゃく牛すじ！と遠慮なく食べたいものを告げると、オッお目が高いね！と嬉しそうなチビ太が皿に装ってくれた。ほかほかの湯気に包まれて皿の上に鎮座するおでんはますます美味しそう。
いただきます、と手を合わせてふぅふぅと冷ますと大根に口をつける。じわり、と出汁が染み出してきて、ほくほくと口の中でとろけてあっという間になくなってしまった。


「おいしい…！」
「へへッあたりめーだろ！それにしてもあんた、ここいらじゃ見ねえ顔だな」
「はひ？」
「そんな頬張って…火傷すんなよ…いや、なに、こんなに可愛い子が街ん中いたら覚えてるのになって思ってよ」


さらりと口説き文句を連発してくるチビ太に頰が熱くなる。たしかに今私は美少女の姿だけど、そんな可愛い可愛いって言われ慣れてないからすごい照れる…
頬張っていたおでんを飲み込み、はにかみながら自己紹介する。


「私、名前っていいます、フラッグコーポレーションでおせわになっていて…」
「へえ！ハタ坊のところで！社員？」
「…じゃないんですけど…なんだろう…よくわかんないんですけど、居候？みたいな感じで」
「ハァ？なんだそりゃ？」


私も聞きたい。
不思議な顔をしたもののまぁいいやと更にはんぺんを追加してくれる。こっちも美味しそう。


「それで、今日は初めて街を散策してたんですけど、迷子になってしまって…お金も1円も持ってないので…すみません、これ、ツケ…は初対面ですし無理ですよね、今日なにかお代になることやります…！お皿洗いとか！」
「いやいや、いーよ、こんな可愛い子にこーんなに美味しそうに食べてもらえりゃお代なんかいらねーってもんよ」


うわあ、美人って生きてるだけで得だあ。
ニコニコと話すチビ太に驚きつつ、申し訳なさを感じつつ、実際無一文なのでお言葉に甘えることにする。今度来るときはちゃんとお金持ってくるからね…


「それより、迷子ってんなら帰り道送ってってやろーか？フラッグコーポレーションに帰るんだろ？」
「えっ！？いいんですか！？」


どうやって帰ろう…と不安要素に胃をキリキリさせていたので、思わぬ提案にガタッと立ち上がって前のめりに聞いてしまう。
急に顔を近づけた私にビクッと身体を揺らし、顔を赤らめたチビ太はごほん、と咳払いをし、まぁ良いってことよ、と鼻の下をこする。


「ありがとうございますチビ太さん！」
「おう………んっ？なんで名前…」


名乗ったっけ？と首をかしげるものの、美味しそうに幸せそうにおでんを頬張る名前を見て、まあいいかと笑い、ちくわぶを皿に足した。