夢だけど夢じゃない
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「っくしゅ」
頭がぼんやりする。
喉も痛い。
起きる時間を過ぎても起き上がれずにベッドに沈んだまま布団を鼻まで引っ張りあげる。
完全にうつされた。風邪だ。
昨日はもらってあげたいとか思っていたけど、実際うつるとしんどい。
節々が痛む。これは熱もあるな…
「名前?」
ベッドルームのドアが開く。
ノック聞こえなかったのかしなかったのか突然現れたカラ松に驚くもリアクションを取る元気がなくてちらり、と目線だけよこす。
「もう朝食終わってしまったぞ?珍しいな、寝坊か?」
そう言いながら無遠慮にズカズカとベッドサイドまで歩いてきたカラ松は布団から覗く私の顔を見るなり顔をしかめた。
「カラ松く…」
せっかく治ったのに近づいたらダメだよ、と言おうとしたら無言でカラ松の上体が近づき、伸びた腕が私の顔の真横のマットレスを沈ませた。
なぜ顔の真横に手をつかれたのかわからず、え、とその手に目線をやっている間にさらに上体が近づき視界が暗くなった。
目線を上に戻すと視界が何かに覆われてぼんやりと薄暗く何も見えない。なに?なに??と混乱している間におでこにこつ、となにかが当たり顔に暖かい吐息がかかった。
え、
え????????????
「…やっぱりな、熱があるじゃないか」
私のおでこに自分のおでこをくっつけたままカラ松が言った。
やめてそこで喋らないで!?!!?!?!!?
すっかり息ができず絶句している私に構わずおでこを離して上体を起こしたカラ松は難しい顔をしたまま俺がうつしたな…と呟いて私の布団を整えるとちょっと待ってろ、とどこかへ行ってしまった。
苦しくなるまで息を止めたままだった私はバタンとドアが閉まる音ともにヒュッと勢いよく呼吸を再開してしまいゲホゴホと咳き込んだ。肺が痛てぇ〜〜そんなことよりなに今の!?なに!?!?今の!?!!?
バクバクとうるさい胸をぎゅっと掴みつつ、さらに熱が上がってクラクラする頭を枕に沈めながら横になっているといつの間にか眠ってしまっていた。
近くで物音がする…ゆっくりと瞼を開けるとベッドサイドに座ってサイドテーブルの上で何かをしているカラ松が目に入った。
ぼんやり見つめていると私が目覚めたのに気づいたカラ松がおはよう、と言いながら濡れタオルで顔を拭ってくれる。ちょっと力が強くて痛い。でも汗ばんだ肌がさっぱりとして気持ちいい。されるがままになっていると首まで拭き終えたカラ松がサイドテーブルの上にある何かを見せながら「食えるか?」と聞いてきた。
なんだろう?という顔をしていたのだろう、皿を傾けながらすりりんごだ、と見せてくれるも寝ているからよく見えない。スリリング…とうわごとのように呟くと少し笑ってスリリングじゃあない、すりりんごだ、と言いながら皿の中の何かをスプーンですくってこちらに寄越した。
差し出されたスプーンをそのままくわえる。
じゅわ…と優しい甘さが口に広がる。あ、すりりんごだ。
軽く口をもごもごとしたあと飲み込んだのを確認したカラ松が何度かすりりんごを食べさせてくれる。ペースが早くて飲み込めずに口の中ですりりんごを転がしているとざりざりざりと耳元で聞き慣れない音がした。顔を向けるとサイドテーブルの上でりんごをすり器でおろしているカラ松が目に入る。このすりりんご手作りだったのか。見つめていると「本当はうさぎさんにしてやろうと思ったんだが上手くいかなくてな」と言い訳が聞こえた。見ればすり器の向こうにすごいえぐれた皮むき途中のりんごがあった。上手く切れなかったんだな…
ひたすらすりりんごを量産しているカラ松に「そんなに食べられないよ」と言えば、はっと手を止めて山盛りになったすりりんごを見つめ、ふはっと笑って「そうだな」と情けない顔でふにゃりと笑んだ。あ、その顔好き。
「でも食べないと薬が飲めないから」
そう言ってまた口にスプーンを運んでくれる。
素直にあーんをされ続けていると目があったカラ松が優しい顔で笑った。
「昨日と逆だな」
昨日はあんなに苦しそうだったカラ松が今は私を看病してるなんて不思議だ。カラ松もマスクをした方がいい。そう伝えたかったがひたすら口にりんごを投入され、薬を飲まされ、とんとん…と優しく叩かれて私は声を出す間も無く寝かしつけられていた。
「あ、起きたか?」
次に目を覚ますとカラ松はベッドサイドで手鏡を見ているところだった。ずっといてくれたんだろうか?
私が上体を起こし伸びをすると顔を覗き込んだカラ松が「もう大丈夫そうだな」と嬉しそうに笑った。
「昨日の昼からぐっすり寝てもう次の日の夜だぞ」
「えっ嘘!?」
昨日も朝起きれず1日寝ていたというのに今日も1日寝ていたというのか。
もうすっかり軽い体と頭に嬉しく思うやらそんなに寝ていたのかと虚しく思うやら。
「腹が減ってないか?もう元気なら外に食べに行かないか」
そう言って連れてこられたのはチビ太のおでん屋だった。
昨日すりりんごしか食べられなかった人間を外に連れ出し飲み屋に連れてくるなんて、なんというかさすが。
というか、そんなことよりもカラ松がフラッグコーポレーションに居候する根本的な原因を作ったのはチビ太のはずなのに、その彼の店へ来るなんて。もう心の傷は癒えたのだろうか?
私がドギマギとそんなことを考えている間にカラ松は慣れた手つきで暖簾をくぐってしまっていた。
「らっしゃい!…ってカラ松じゃねぇか…なんだ、その、け、怪我はもう平気なのかよ?」
チビ太の戸惑う声が聞こえる。そりゃそうだ、気まずいよね。
「ああ、この通りもうすっかりいつものタフでクールなパーフェクトガイに戻った、さ」
「そうかい…そりゃ良かったけどよ…まぁなんだ、その…んん…こないだは悪かったな」
最後の方は小さすぎて聞こえないくらいの声量でゴニョゴニョと謝るチビ太にノープロブレム!俺は海より広い心の持ち主だからもう気にしてないぜ!と返し、そんなことより、と暖簾を片手で持ち上げて屋台の外に突っ立っていた私を振り返り見た。
「今日は連れがいるんだ」
「…こんばんは…」
「あれっ!名前ちゃんじゃねーか」
「なんだ、2人はもう知り合いだったのか?」
私に隣に座るよう勧めたカラ松は驚いたように私とチビ太を交互に見る。
「1回だけ来たことあるんだ。あの時は本当にお世話になりました」
「いやいや、いーってことよ!また来てくれて嬉しいぜ」
「あの後も何度か来ようと思ってたんだけど…」
チビ太がカラ松誘拐に忙しくて店やってなかったから来れなかった、とは続けられない。
「まぁ話の前にまずは乾杯といこうじゃないか…チビ太、シャンパーニュ」
「ねぇよ」
「あはは…とりあえずビールで。カラ松くんもビールで良い?」
指をパチン!と鳴らして格好つけたが即断られたカラ松に苦笑しつつビールを2つ頼む。病みあがりだけど2日も寝てたしすっかり元気だしいいよね。
出てきたグラスを掲げてカラ松と乾杯する。カチン、とガラスのぶつかる音がしてすぐに口をつけるカラ松を横目で見つつ、一応チビ太の方にもグラスを持ち上げて目線を合わせ乾杯する。気付いたチビ太がヘヘッと笑って頷いてくれたので口をつけてグイッと煽る。プハー!美味しい〜!こっちに来てから初めてのビール!最高!前回来た時は遠慮して水しか頼まなかったから…
「良い飲みっぷりだなバディ」
「えへへ…久しぶりに飲んだから…」
がっついて飲んでしまって恥ずかしい。思わず俯く私に気づかずおでんを2人分注文してくれるカラ松。出てきたおでんの皿をこちらに寄越しながらおすすめはたまごだ、と格好つけて言う。格好つけてるけどゆでたまご好きなのかわいいな。
はふはふと2人で頬張ってるとおでん鍋をかき混ぜていたチビ太が不思議そうに「ところでお前らいつから知り合いなんだ?」と聞いた。
「フッ…知り合ってまだ浅いが毎日一つ屋根の下で共に同じ釜の飯を食い、すっかりディープな関係、さ」
「は?????」
「あっ、えっ、えっと今一緒に住んでて」
「は!?!!?!?!!?」
カラ松が語弊ばかりのことを言うから訂正したらさらなる誤解を生んだようで顔を赤くしたチビ太が身を乗り出してきた。慌てて「今カラ松くんハタ坊のおうちで居候中なの!」と弁解すると私もハタ坊の家に住んでいることを思い出したのか、ああ…と納得したように安心したため息をついた。
「ん?なんでハタ坊んちに居候してんだ?」
最もな疑問を軽く投げてきたチビ太にその場がしん…となる。
それ貴方が聞いちゃう…?
そわそわとチビ太とカラ松を交互にちらちら見ているとちょっと真顔になったカラ松が大根をかじり、すぐクソ顔になって「かつてのフレンドと友好を深めるためさ」と格好つけた。あ、あれから帰ってないって言わないんだ。言わないよね…
「そこで名前とも出会い、絆を深め合っているというわけさ…」
「は〜〜よくわかんねぇけどハタ坊んちで3人で暮らしてるってわけか。楽しそうじゃねーか」
オイラは一人暮らしだからよ、賑やかなのはちょっと羨ましいぞバーローと笑うチビ太に、チビ太も来ればいいと笑うカラ松。お前んちじゃねーだろバーローと突っ込まれているのを、勝手にカラ松を連れ帰った身として笑うに笑えずはは…と愛想笑いでかわす。
そんなこんなで楽しく呑んでいるといつの間にやらべろんべろんになったカラ松がカウンターで眠ってしまっていた。
「あれ、カラ松くん寝ちゃった」
「ああ、こいつぁ酒弱ぇからな…よく寝ちまうんだよ」
ほっといていいからよ、と呆れた顔するチビ太に笑いながらがんもを頬張る。
ぐうぐうと寝息をたてるカラ松を見ながらチビ太がそういやと口を開けた。
「名前ちゃん、てっきりハタ坊の彼女なのかと思ってたけど、カラ松の彼女だったんだな」
「ゴフッ」
チビ太のとんでも発言に口の中のそれなりな大きさのがんもを丸呑みしてしまった。激しく咳き込む私に慌てて水を出してくれるチビ太。ゴッゴッと一気に水を飲みグラスをタァン!とカウンターに叩きつけた。
「大丈夫か?」
「ち、チビ太くんが変なこと言うから…!」
「変なこと?」
「か、彼女とか…」
「え?違うのか?」
「私どっちの彼女でもないよ…」
もごもごと赤くなりながら言う私に目を丸くしたチビ太。
「え、でもカラ松のやつが…」
「あれはカラ松語というかなんというか、全然、ただ普通に2人でハタ坊の家に居候してるだけで何も…」
「そうなのか?てっきりカラ松が彼女お披露目に来たのかと思ったぜ」
こいつが女の子連れてきたのなんて初めてだから、と続けるチビ太に顔が熱くなる。え?そうなの?トト子ちゃんは?連れてきたことないの?私カラ松くんの初めてなの?あ、今のなんか語弊ある!なしなし!
1人で赤くなってキョドキョドしている私を見たチビ太がははーんとニヤニヤ笑った。
「なるほどね〜」
「な、なに?」
「彼女じゃない、『まだ』ってところか?」
「!!!!????」
ボボボっと赤くなって固まってしまった私を見てケラケラと楽しそうに笑ったチビ太は目尻に浮かんだ涙を拭いながら「はー名前ちゃんわかりやすすぎ」とおかしそうに言った。
「ね、あの、カラ松くんには言わないで…」
「んー?」
「多分私が好きってこと気づいてないから…」
「そうなの?まァこいつ女の子耐性なくて鈍いからなァ…でもここに連れてきたことだし少なからずこいつも名前ちゃんのこと好きだと思うぜ」
さらりとまた爆弾発言するものだから熱くて熱くて仕方ない。
そうなの?そうなのかな?昔馴染みのチビ太くんが言うんだからそうなのかな?看病もつきっきりでしてくれたみたいだし自惚れても良いのかなぁ。
もんもんとしつつ横でぐうぐうと眠る丸い顔を見ながらそうだったら良いなあという言葉をビールで飲み込んだ。
頭がぼんやりする。
喉も痛い。
起きる時間を過ぎても起き上がれずにベッドに沈んだまま布団を鼻まで引っ張りあげる。
完全にうつされた。風邪だ。
昨日はもらってあげたいとか思っていたけど、実際うつるとしんどい。
節々が痛む。これは熱もあるな…
「名前?」
ベッドルームのドアが開く。
ノック聞こえなかったのかしなかったのか突然現れたカラ松に驚くもリアクションを取る元気がなくてちらり、と目線だけよこす。
「もう朝食終わってしまったぞ?珍しいな、寝坊か?」
そう言いながら無遠慮にズカズカとベッドサイドまで歩いてきたカラ松は布団から覗く私の顔を見るなり顔をしかめた。
「カラ松く…」
せっかく治ったのに近づいたらダメだよ、と言おうとしたら無言でカラ松の上体が近づき、伸びた腕が私の顔の真横のマットレスを沈ませた。
なぜ顔の真横に手をつかれたのかわからず、え、とその手に目線をやっている間にさらに上体が近づき視界が暗くなった。
目線を上に戻すと視界が何かに覆われてぼんやりと薄暗く何も見えない。なに?なに??と混乱している間におでこにこつ、となにかが当たり顔に暖かい吐息がかかった。
え、
え????????????
「…やっぱりな、熱があるじゃないか」
私のおでこに自分のおでこをくっつけたままカラ松が言った。
やめてそこで喋らないで!?!!?!?!!?
すっかり息ができず絶句している私に構わずおでこを離して上体を起こしたカラ松は難しい顔をしたまま俺がうつしたな…と呟いて私の布団を整えるとちょっと待ってろ、とどこかへ行ってしまった。
苦しくなるまで息を止めたままだった私はバタンとドアが閉まる音ともにヒュッと勢いよく呼吸を再開してしまいゲホゴホと咳き込んだ。肺が痛てぇ〜〜そんなことよりなに今の!?なに!?!?今の!?!!?
バクバクとうるさい胸をぎゅっと掴みつつ、さらに熱が上がってクラクラする頭を枕に沈めながら横になっているといつの間にか眠ってしまっていた。
近くで物音がする…ゆっくりと瞼を開けるとベッドサイドに座ってサイドテーブルの上で何かをしているカラ松が目に入った。
ぼんやり見つめていると私が目覚めたのに気づいたカラ松がおはよう、と言いながら濡れタオルで顔を拭ってくれる。ちょっと力が強くて痛い。でも汗ばんだ肌がさっぱりとして気持ちいい。されるがままになっていると首まで拭き終えたカラ松がサイドテーブルの上にある何かを見せながら「食えるか?」と聞いてきた。
なんだろう?という顔をしていたのだろう、皿を傾けながらすりりんごだ、と見せてくれるも寝ているからよく見えない。スリリング…とうわごとのように呟くと少し笑ってスリリングじゃあない、すりりんごだ、と言いながら皿の中の何かをスプーンですくってこちらに寄越した。
差し出されたスプーンをそのままくわえる。
じゅわ…と優しい甘さが口に広がる。あ、すりりんごだ。
軽く口をもごもごとしたあと飲み込んだのを確認したカラ松が何度かすりりんごを食べさせてくれる。ペースが早くて飲み込めずに口の中ですりりんごを転がしているとざりざりざりと耳元で聞き慣れない音がした。顔を向けるとサイドテーブルの上でりんごをすり器でおろしているカラ松が目に入る。このすりりんご手作りだったのか。見つめていると「本当はうさぎさんにしてやろうと思ったんだが上手くいかなくてな」と言い訳が聞こえた。見ればすり器の向こうにすごいえぐれた皮むき途中のりんごがあった。上手く切れなかったんだな…
ひたすらすりりんごを量産しているカラ松に「そんなに食べられないよ」と言えば、はっと手を止めて山盛りになったすりりんごを見つめ、ふはっと笑って「そうだな」と情けない顔でふにゃりと笑んだ。あ、その顔好き。
「でも食べないと薬が飲めないから」
そう言ってまた口にスプーンを運んでくれる。
素直にあーんをされ続けていると目があったカラ松が優しい顔で笑った。
「昨日と逆だな」
昨日はあんなに苦しそうだったカラ松が今は私を看病してるなんて不思議だ。カラ松もマスクをした方がいい。そう伝えたかったがひたすら口にりんごを投入され、薬を飲まされ、とんとん…と優しく叩かれて私は声を出す間も無く寝かしつけられていた。
「あ、起きたか?」
次に目を覚ますとカラ松はベッドサイドで手鏡を見ているところだった。ずっといてくれたんだろうか?
私が上体を起こし伸びをすると顔を覗き込んだカラ松が「もう大丈夫そうだな」と嬉しそうに笑った。
「昨日の昼からぐっすり寝てもう次の日の夜だぞ」
「えっ嘘!?」
昨日も朝起きれず1日寝ていたというのに今日も1日寝ていたというのか。
もうすっかり軽い体と頭に嬉しく思うやらそんなに寝ていたのかと虚しく思うやら。
「腹が減ってないか?もう元気なら外に食べに行かないか」
そう言って連れてこられたのはチビ太のおでん屋だった。
昨日すりりんごしか食べられなかった人間を外に連れ出し飲み屋に連れてくるなんて、なんというかさすが。
というか、そんなことよりもカラ松がフラッグコーポレーションに居候する根本的な原因を作ったのはチビ太のはずなのに、その彼の店へ来るなんて。もう心の傷は癒えたのだろうか?
私がドギマギとそんなことを考えている間にカラ松は慣れた手つきで暖簾をくぐってしまっていた。
「らっしゃい!…ってカラ松じゃねぇか…なんだ、その、け、怪我はもう平気なのかよ?」
チビ太の戸惑う声が聞こえる。そりゃそうだ、気まずいよね。
「ああ、この通りもうすっかりいつものタフでクールなパーフェクトガイに戻った、さ」
「そうかい…そりゃ良かったけどよ…まぁなんだ、その…んん…こないだは悪かったな」
最後の方は小さすぎて聞こえないくらいの声量でゴニョゴニョと謝るチビ太にノープロブレム!俺は海より広い心の持ち主だからもう気にしてないぜ!と返し、そんなことより、と暖簾を片手で持ち上げて屋台の外に突っ立っていた私を振り返り見た。
「今日は連れがいるんだ」
「…こんばんは…」
「あれっ!名前ちゃんじゃねーか」
「なんだ、2人はもう知り合いだったのか?」
私に隣に座るよう勧めたカラ松は驚いたように私とチビ太を交互に見る。
「1回だけ来たことあるんだ。あの時は本当にお世話になりました」
「いやいや、いーってことよ!また来てくれて嬉しいぜ」
「あの後も何度か来ようと思ってたんだけど…」
チビ太がカラ松誘拐に忙しくて店やってなかったから来れなかった、とは続けられない。
「まぁ話の前にまずは乾杯といこうじゃないか…チビ太、シャンパーニュ」
「ねぇよ」
「あはは…とりあえずビールで。カラ松くんもビールで良い?」
指をパチン!と鳴らして格好つけたが即断られたカラ松に苦笑しつつビールを2つ頼む。病みあがりだけど2日も寝てたしすっかり元気だしいいよね。
出てきたグラスを掲げてカラ松と乾杯する。カチン、とガラスのぶつかる音がしてすぐに口をつけるカラ松を横目で見つつ、一応チビ太の方にもグラスを持ち上げて目線を合わせ乾杯する。気付いたチビ太がヘヘッと笑って頷いてくれたので口をつけてグイッと煽る。プハー!美味しい〜!こっちに来てから初めてのビール!最高!前回来た時は遠慮して水しか頼まなかったから…
「良い飲みっぷりだなバディ」
「えへへ…久しぶりに飲んだから…」
がっついて飲んでしまって恥ずかしい。思わず俯く私に気づかずおでんを2人分注文してくれるカラ松。出てきたおでんの皿をこちらに寄越しながらおすすめはたまごだ、と格好つけて言う。格好つけてるけどゆでたまご好きなのかわいいな。
はふはふと2人で頬張ってるとおでん鍋をかき混ぜていたチビ太が不思議そうに「ところでお前らいつから知り合いなんだ?」と聞いた。
「フッ…知り合ってまだ浅いが毎日一つ屋根の下で共に同じ釜の飯を食い、すっかりディープな関係、さ」
「は?????」
「あっ、えっ、えっと今一緒に住んでて」
「は!?!!?!?!!?」
カラ松が語弊ばかりのことを言うから訂正したらさらなる誤解を生んだようで顔を赤くしたチビ太が身を乗り出してきた。慌てて「今カラ松くんハタ坊のおうちで居候中なの!」と弁解すると私もハタ坊の家に住んでいることを思い出したのか、ああ…と納得したように安心したため息をついた。
「ん?なんでハタ坊んちに居候してんだ?」
最もな疑問を軽く投げてきたチビ太にその場がしん…となる。
それ貴方が聞いちゃう…?
そわそわとチビ太とカラ松を交互にちらちら見ているとちょっと真顔になったカラ松が大根をかじり、すぐクソ顔になって「かつてのフレンドと友好を深めるためさ」と格好つけた。あ、あれから帰ってないって言わないんだ。言わないよね…
「そこで名前とも出会い、絆を深め合っているというわけさ…」
「は〜〜よくわかんねぇけどハタ坊んちで3人で暮らしてるってわけか。楽しそうじゃねーか」
オイラは一人暮らしだからよ、賑やかなのはちょっと羨ましいぞバーローと笑うチビ太に、チビ太も来ればいいと笑うカラ松。お前んちじゃねーだろバーローと突っ込まれているのを、勝手にカラ松を連れ帰った身として笑うに笑えずはは…と愛想笑いでかわす。
そんなこんなで楽しく呑んでいるといつの間にやらべろんべろんになったカラ松がカウンターで眠ってしまっていた。
「あれ、カラ松くん寝ちゃった」
「ああ、こいつぁ酒弱ぇからな…よく寝ちまうんだよ」
ほっといていいからよ、と呆れた顔するチビ太に笑いながらがんもを頬張る。
ぐうぐうと寝息をたてるカラ松を見ながらチビ太がそういやと口を開けた。
「名前ちゃん、てっきりハタ坊の彼女なのかと思ってたけど、カラ松の彼女だったんだな」
「ゴフッ」
チビ太のとんでも発言に口の中のそれなりな大きさのがんもを丸呑みしてしまった。激しく咳き込む私に慌てて水を出してくれるチビ太。ゴッゴッと一気に水を飲みグラスをタァン!とカウンターに叩きつけた。
「大丈夫か?」
「ち、チビ太くんが変なこと言うから…!」
「変なこと?」
「か、彼女とか…」
「え?違うのか?」
「私どっちの彼女でもないよ…」
もごもごと赤くなりながら言う私に目を丸くしたチビ太。
「え、でもカラ松のやつが…」
「あれはカラ松語というかなんというか、全然、ただ普通に2人でハタ坊の家に居候してるだけで何も…」
「そうなのか?てっきりカラ松が彼女お披露目に来たのかと思ったぜ」
こいつが女の子連れてきたのなんて初めてだから、と続けるチビ太に顔が熱くなる。え?そうなの?トト子ちゃんは?連れてきたことないの?私カラ松くんの初めてなの?あ、今のなんか語弊ある!なしなし!
1人で赤くなってキョドキョドしている私を見たチビ太がははーんとニヤニヤ笑った。
「なるほどね〜」
「な、なに?」
「彼女じゃない、『まだ』ってところか?」
「!!!!????」
ボボボっと赤くなって固まってしまった私を見てケラケラと楽しそうに笑ったチビ太は目尻に浮かんだ涙を拭いながら「はー名前ちゃんわかりやすすぎ」とおかしそうに言った。
「ね、あの、カラ松くんには言わないで…」
「んー?」
「多分私が好きってこと気づいてないから…」
「そうなの?まァこいつ女の子耐性なくて鈍いからなァ…でもここに連れてきたことだし少なからずこいつも名前ちゃんのこと好きだと思うぜ」
さらりとまた爆弾発言するものだから熱くて熱くて仕方ない。
そうなの?そうなのかな?昔馴染みのチビ太くんが言うんだからそうなのかな?看病もつきっきりでしてくれたみたいだし自惚れても良いのかなぁ。
もんもんとしつつ横でぐうぐうと眠る丸い顔を見ながらそうだったら良いなあという言葉をビールで飲み込んだ。