夢だけど夢じゃない
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浮かれていたんだ。
なんとか滑り込んだ婚活パーティ会場、はずむ息を整えもせずざっと会場を見渡せば、最初に目についたのは目の前の男を奈落に突き落としているトト子ちゃん、そしてそこから少し離れた所に座る名前…やっと見つけた、そう思って踏み出した一歩はあえなくスタッフに阻まれた。
安くない金を受付で払いながらチラチラ会場内を盗み見る。いつものように困った笑顔を貼り付けた名前が知らない男と話しているのを見てグツグツとハラワタが熱くなる。なんでそんなどこの馬の骨ともわからんヤツに笑顔を振りまいているんだ?相手の男がスマホを取り出し片手で振る。声は聞こえないが連絡先を交換しようというのだろう。二度目があるくらい打ち解けたというのか?スタッフがパーティの仕組みを説明しているがまったく耳に入ってこない。早く名前のところへ行かせろ。あんな奴椅子から引きずり降ろしてやる。オレ以外ににこにこするんじゃない…!
遠目にやり取りを凝視していると男にスマホを差し向けられた名前が両手と首を振っているじゃないか。え?もしかして連絡先交換を断っている?食い下がるようなそぶりを見せた男は無情にも鳴り響いた席移動の鐘と共に隣席へと旅立っていった。男女比があっていないのか、目の前に誰もいなくなってフリーとなった名前はふぅ、とため息をつくとつまらなさそうに両手で頬杖をつき、飲み物を一口含み、ぼんやりと虚空を見つめていた。
オレがスマホを手に入れて連絡先交換したときはあんなに嬉しそうにしていたというのに。どうでもいい男の連絡先交換はちゃんと断れるのか。あの押しに弱い名前が。熱く渦巻いていた腹の中がすう…と冷えていく。なるほど?きっと心優しい名前のことだ、今日だってトト子ちゃんの気まぐれに付き合ってこんなところにいるに違いない。好きで婚活しているわけじゃないんだろう。だって連絡先交換を断っていた!出会いが欲しいなら来る者拒まないはずだろう?オレなら橋の上で逆ナン待ちしているときに誰かが連絡先交換を持ち掛けてきたら片っ端からYESと言う。世界のスタァ、カラ松様はガールを悲しませることなどしないからな。
よく見れば名前は白い肌によく映えるブルーのドレスを着ていた。青にもいろいろあるが、ちょうどオレがよく着ているパーカーと同じような明るいTHE・青という原色ブルーだ。デカパンが言うにはあのドレスはこのパーティのために新調したはず。ははーん、乗り気ではないパーティで心を強く持つためにオレを連想するブルーを身に着けたということか?なんていじらしいんだろう。両手で頬杖をつきアンニュイな表情で遠くを見つめるその姿、まさに王子の助けを待つ囚われの姫そのものじゃあないか?なるほどなるほど…近づくなと書いて早く迎えにきてと読む、とは思ったがこういうことだったのか。フッ待たせたなカラ松ガール…プリンスは遅れて来るものさ…。
彼女の前の空いた席に座ろうと揚々歩き出したオレはまたしてもスタッフに阻害された。
「お客様、こちらの席からお願いします」
「はじめまして~」
鐘が鳴り、空いた目の前の席に座るよう誘導される。控え目に着飾った相席の女が可愛らしく微笑みかけてくる。オーマイガット、愛しの姫にたどり着くにはこのずらりと並んだ誘惑の悪魔たちをひとりひとり倒さねばならぬのか。並の男には荷が重いミッションだろうがオレは恋の伝道師、松野カラ松。一人残さず倒して 姫を助けに参じよう。
チャレンジシートに足を組んで悠々と座り、目の前の誘惑 ちゃんに目を合わす。オレが相手で残念だったな。
「回りだしたぜ、恋の歯車 」
さあ、ゲームのはじまりだ。
◆◆◆
そんなこんなでひとり倒して は鐘が鳴り、じわじわと名前に近づいていく。ついに一松が名前の前に来た。ちらりと横目で確認すれば、名前はオレをうるんだ瞳で見つめている。あぁ、そんなに熱のこもった瞳で…わかってるさ、オレが助けに来て嬉しいんだろう。まあ待て。目の前の誘惑の悪魔へ薔薇を手向け、今までしてきたように愛の言葉をささやく。これでこの悪魔もオレにメロメロ、ミッションクリア。ふう、モテる男はギルティ…。この悪魔もほかの悪魔と同じく恥じらって薔薇を受け取ろうとしないが問題ない。オレの熱い眼差しに耐え切れず目をそらした瞬間、負けを認める鐘が鳴る…おまえの心はもうオレのもの…しかし罪深いオレはそんな敗者 たちを残して次の戦地へと旅立つ…すまないレディたち…オレには心に決めたただ一人のプリンセスを助けるという使命があるんだ…!最後のひとりを虜にすれば次はいよいよ囚われの姫とのご対面、その手を取って颯爽とこの忌々しい城から連れ出すだけ…ふたりの愛のランデブー…フフッ、ネオン輝く城へと連れ去ってそのオレ色に染まったドレスを脱がせ、熱い夜を過ごすのも悪くはない…
そんな妄想に浸っていた時だった。
突然、名前の手を取った一松が立ち上がり、そのままふたりで会場を突っ切って出口へと向かったではないか。
あまりの出来事にポカンとふたりを見送ってしまう。は?なんで囚われのプリンセスが運命のプリンスを待たずしてランナウェイ???はっ…まさかラスボスは一松だったというのか…!?我が愛しのスイートブラザーと油断させておいて、実は姫をさらった張本人だったというのか!?さすが一松、あくどい笑顔が似合う男…!真の魔王だったとは!
なかばパニックになりながら足を絡ませつつ慌てて後を追う。会場ホールを抜け、誰もいないポーチを手をつないだふたりが足早に去ろうとするところで追いついた。手をつないだ二人が。嫌々ながらに攫われているはずの名前がしっかりと一松の手を握りしめているのを目の当たりにしてカッと耳が熱くなった。ほとんど無意識に伸びた手が乱暴に名前の手首をつかむ。驚きに肩を跳ね上げ振り向いた名前の瞳から大粒の真珠が零れ落ちる。泣いてる。泣かせた。誰が?お前か一松!?脳が沸騰したのではないかと思うくらい熱いものが足の先からつむじまで一気に駆け上がり、その爆発した気持ちをそのまま握力に替えて名前の手首を強く引いた。名前はこちらへ引っ張られることなく、オレよりも強く引っ張った一松の胸に抱き留められた。至近距離でほかの男に抱きしめられた名前を見て顔が燃えるかと思った。奥歯がぎりりと音を立てる。名前の手首に自身の手がめり込む。その白い肌が強く握られてさらに白んだとき、俺の手首にも痛みが走った。
「離せよ」
「一松、どういうつもりだ」
「おまえこそどういうつもりだよ!!!」
三人しかいないポーチのドーム状になった天井に、わんわんと弟の怒声が響き渡った。久々に聞く一松の大声で耳がクワンクワンと鳴る。ただ、そんなこと気にならないくらい、頭に血の上ったオレは頭が心臓になったみたいにドクドク脈打つのをふうふうと荒い息で逃がしていた。体中が沸騰してぐるぐるする。名前の小さい手を握ったままの一松の手。名前を救おうとするオレを阻むためにオレの手首を折らんばかりに掴む一松の手。そのどちらに対しても命じるように「離せ」と唸る。その唸り声は一松の「離せ」と名前の「離して」という声ときれいに重なった。ほら見ろ、名前もこう言って…
「カラ松くん、離して」
全身の力が抜ける音がした。
なんとか滑り込んだ婚活パーティ会場、はずむ息を整えもせずざっと会場を見渡せば、最初に目についたのは目の前の男を奈落に突き落としているトト子ちゃん、そしてそこから少し離れた所に座る名前…やっと見つけた、そう思って踏み出した一歩はあえなくスタッフに阻まれた。
安くない金を受付で払いながらチラチラ会場内を盗み見る。いつものように困った笑顔を貼り付けた名前が知らない男と話しているのを見てグツグツとハラワタが熱くなる。なんでそんなどこの馬の骨ともわからんヤツに笑顔を振りまいているんだ?相手の男がスマホを取り出し片手で振る。声は聞こえないが連絡先を交換しようというのだろう。二度目があるくらい打ち解けたというのか?スタッフがパーティの仕組みを説明しているがまったく耳に入ってこない。早く名前のところへ行かせろ。あんな奴椅子から引きずり降ろしてやる。オレ以外ににこにこするんじゃない…!
遠目にやり取りを凝視していると男にスマホを差し向けられた名前が両手と首を振っているじゃないか。え?もしかして連絡先交換を断っている?食い下がるようなそぶりを見せた男は無情にも鳴り響いた席移動の鐘と共に隣席へと旅立っていった。男女比があっていないのか、目の前に誰もいなくなってフリーとなった名前はふぅ、とため息をつくとつまらなさそうに両手で頬杖をつき、飲み物を一口含み、ぼんやりと虚空を見つめていた。
オレがスマホを手に入れて連絡先交換したときはあんなに嬉しそうにしていたというのに。どうでもいい男の連絡先交換はちゃんと断れるのか。あの押しに弱い名前が。熱く渦巻いていた腹の中がすう…と冷えていく。なるほど?きっと心優しい名前のことだ、今日だってトト子ちゃんの気まぐれに付き合ってこんなところにいるに違いない。好きで婚活しているわけじゃないんだろう。だって連絡先交換を断っていた!出会いが欲しいなら来る者拒まないはずだろう?オレなら橋の上で逆ナン待ちしているときに誰かが連絡先交換を持ち掛けてきたら片っ端からYESと言う。世界のスタァ、カラ松様はガールを悲しませることなどしないからな。
よく見れば名前は白い肌によく映えるブルーのドレスを着ていた。青にもいろいろあるが、ちょうどオレがよく着ているパーカーと同じような明るいTHE・青という原色ブルーだ。デカパンが言うにはあのドレスはこのパーティのために新調したはず。ははーん、乗り気ではないパーティで心を強く持つためにオレを連想するブルーを身に着けたということか?なんていじらしいんだろう。両手で頬杖をつきアンニュイな表情で遠くを見つめるその姿、まさに王子の助けを待つ囚われの姫そのものじゃあないか?なるほどなるほど…近づくなと書いて早く迎えにきてと読む、とは思ったがこういうことだったのか。フッ待たせたなカラ松ガール…プリンスは遅れて来るものさ…。
彼女の前の空いた席に座ろうと揚々歩き出したオレはまたしてもスタッフに阻害された。
「お客様、こちらの席からお願いします」
「はじめまして~」
鐘が鳴り、空いた目の前の席に座るよう誘導される。控え目に着飾った相席の女が可愛らしく微笑みかけてくる。オーマイガット、愛しの姫にたどり着くにはこのずらりと並んだ誘惑の悪魔たちをひとりひとり倒さねばならぬのか。並の男には荷が重いミッションだろうがオレは恋の伝道師、松野カラ松。一人残さず
チャレンジシートに足を組んで悠々と座り、目の前の
「
さあ、ゲームのはじまりだ。
◆◆◆
そんなこんなでひとり
そんな妄想に浸っていた時だった。
突然、名前の手を取った一松が立ち上がり、そのままふたりで会場を突っ切って出口へと向かったではないか。
あまりの出来事にポカンとふたりを見送ってしまう。は?なんで囚われのプリンセスが運命のプリンスを待たずしてランナウェイ???はっ…まさかラスボスは一松だったというのか…!?我が愛しのスイートブラザーと油断させておいて、実は姫をさらった張本人だったというのか!?さすが一松、あくどい笑顔が似合う男…!真の魔王だったとは!
なかばパニックになりながら足を絡ませつつ慌てて後を追う。会場ホールを抜け、誰もいないポーチを手をつないだふたりが足早に去ろうとするところで追いついた。手をつないだ二人が。嫌々ながらに攫われているはずの名前がしっかりと一松の手を握りしめているのを目の当たりにしてカッと耳が熱くなった。ほとんど無意識に伸びた手が乱暴に名前の手首をつかむ。驚きに肩を跳ね上げ振り向いた名前の瞳から大粒の真珠が零れ落ちる。泣いてる。泣かせた。誰が?お前か一松!?脳が沸騰したのではないかと思うくらい熱いものが足の先からつむじまで一気に駆け上がり、その爆発した気持ちをそのまま握力に替えて名前の手首を強く引いた。名前はこちらへ引っ張られることなく、オレよりも強く引っ張った一松の胸に抱き留められた。至近距離でほかの男に抱きしめられた名前を見て顔が燃えるかと思った。奥歯がぎりりと音を立てる。名前の手首に自身の手がめり込む。その白い肌が強く握られてさらに白んだとき、俺の手首にも痛みが走った。
「離せよ」
「一松、どういうつもりだ」
「おまえこそどういうつもりだよ!!!」
三人しかいないポーチのドーム状になった天井に、わんわんと弟の怒声が響き渡った。久々に聞く一松の大声で耳がクワンクワンと鳴る。ただ、そんなこと気にならないくらい、頭に血の上ったオレは頭が心臓になったみたいにドクドク脈打つのをふうふうと荒い息で逃がしていた。体中が沸騰してぐるぐるする。名前の小さい手を握ったままの一松の手。名前を救おうとするオレを阻むためにオレの手首を折らんばかりに掴む一松の手。そのどちらに対しても命じるように「離せ」と唸る。その唸り声は一松の「離せ」と名前の「離して」という声ときれいに重なった。ほら見ろ、名前もこう言って…
「カラ松くん、離して」
全身の力が抜ける音がした。