信じられない噂(ぐりなる)


そんなこんなで、一人になったタイミングを見計らい話しかけると、驚かれた。

そりゃそうだ。禄に話したことも無い男に話しかけられたんだから無理も無い。俺だってこんな日が来ようとはよそうだにしていなかったのだから。

不本意ながらも人気のないところまで月野を拉致ると、俺は早速噂の真相を聞くことにした。


「こんな所に引っ張ってきて、なんだってのよ?」


忙しいのよ、と言いたげな態度で早くしてよねとばかりに腕を組んで偉そうにふんぞり返っている。


「ああ、実は…」

「あ!分かったー!あたしの事が好きなんでしょ?ごめん、あたし今好きな人がいるからダメよ」

「………」


何だコイツ?馬鹿なのか?思わず絶句して、ため息が漏れる。


「ちげーよ!誰が、お前なんか好きになるかよ!」

「しっつれいねぇ」

「実はお前に聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?なぁに?」


皆目見当もつかないと言う顔で考え始める。


「それは、お前の親友、大阪なるの事だ」

「なるちゃんの事?」

「ああ、噂の事、知ってるよな?」


アレだけの噂だ。ましてや友達の多い月野で、彼女の親友でもある。知らないなんて事は無いだろう。


「何の噂?」

「はあ?」


まさかの回答にズッコケそうになる。いや、ただどの噂か分からないだけかもしれないが。


「海野と大阪が付き合ってるって、とんでもない噂だよ!事実か、そうじゃないか?教えて欲しいんだよ!」

「ああ、その噂。そんなの自分で本人に聞けば良いじゃない」


それが出来ないから聞いてるんだろうが、馬鹿月野!

本人に聞いてしまったら、真実として受け入れるしかなくなるだろう。

それが怖いから、間接的に友達である月野に聞いているのに、男の恋心が分からん奴だな。


「本人に聞くのが怖いんだよ。頼むよ、月野。この通り!」


手を合わせてお願いする。何故俺は、月野ごときにこんなに必死で謙っているのだろうか?

噂も気にとめなきゃ良いのに、何故こんなにムキになっているのだろう………


「そうだよ、二人は恋人同士よ」

「そ、そんな…」


【恋人同士】と言う衝撃のフレーズが耳に飛び込んで来た。

ゴンッと上からタライが頭上に落ちてきたくらいの衝撃を食らう。まさに大ダメージ。中々に破壊力が強い。


「あたしが仲を取り持ってあげたからね~。恋のキューピット」

「はあ?」


いらん情報が入って来たぞ。何だって?月野が仲を取り持った?何でだよ?余計な事するなよ!これで何人の男が泣いてると思ってんだよ?マジでコイツ、馬鹿だ…


「何してくれてんだよ?」

「海野に相談されたからよ!なるちゃん、ちょうど失恋したから。親友の幸せを思えばこそでしょ!」


怒られる筋合いなど無いと言わんばかりに反論して、いらん情報ばかり投下して来る。

あの大阪なるが失恋しただと?振った奴、どこのどいつだよ!身の程を知れ!

そして、相談されたからって親友に男宛てがうのかよ?月野怖ぇよ。


「もう良い?」

「ああ、ありがとう」


俺は力なく礼を言い、月野を解放してやった。

俺自身も月野との初会話に、色々と疲れ果ててしまい、話す気力も失っていた。

思考回路もショート寸前だった頭だったが、色々考えては凹んでいた。

何故俺は、告白しなかったのだろうか?
月野に相談していれば、もしかしたら強力な後ろ盾になってくれたのではないのだろうか?色々と諸々後悔が頭を支配していた。

告白して、見込みがあったかどうかは分からないが、想いを伝えなかった事でこんなにも苦しむことになるなどとは考えもしなかった。

嘘だろ?嘘であってくれ、とそれからずっと現実逃避をする事になった。

兎に角まだ二人のラブラブを目撃していない。

俺は、自分の目で見た事しか信じない!







そして、それから数日後ーー

手を繋いで幸せそうに顔を見合わせて照れる二人を目撃した俺は、月野が言っていた通り、付き合っているのだとやっと現実を受け入れざるを得なくなった。




おわり

20230717 海の日🤣

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