19:もし、生きてるなら…
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あれからずっと行方を捜し続けている。
だが、8ヶ月の月日が経とうと、手掛かりひとつ見つからなかった。
丘のベンチに座りながら、レンは広瀬が崩した山を眺める。
(“アクロの心臓”も、どこにあるんだか…。辺り一帯は封鎖されてるし、最近は軍人っぽいのが出入りしてるみたいだし…)
観察を続けるが、不穏なことがよぎるばかりだ。
迂闊に手を出すこともできない。
(“心臓”の力は強大だ…。ただの人間だって手に負えないだろ…。―――じゃあ、もし、あたしがアレを手にしたら…?)
銀夜はレンを器にしようと目論んでいた。
もし、“心臓”を手にしたら、どうしていただろうか。
華音や広瀬のように、爆発的に飛躍した能力を駆使し、破壊の限りを尽くしただろうか。
(……もっと…、他に使い道があるはずだ…。あれだけの力だ…。……死者を蘇らせることも、可能なら……?)
馬鹿馬鹿しく、よからぬ願いだとは自覚している。
しかし、自然と唾を吞み込んだ。
(“心臓”が復活したせいで、仲間が死んだんだ…。奪い返してなにが悪い……)
仲間の髪の毛や血肉が必要ならば、すでに身に着けていた。
華音の髪、森尾の血、それらは眼帯に在る。
目的がまたひとつ増えた。
優先したいのは由良の行方だが、ひとりで出来ることもそろそろ限界を感じている。
「さて…、あいつの行方、勝又の行方、“アクロの心臓”…。どれが一番近いかな…。また一度、東京に戻るか…」
呟きながら、赤の大型バイクを手で押し、緩やかな下り坂を下る。
下った先にある車道には、車が一台停車していた。中で男女が言い争っている様子だ。
窓が開いてるおかげで中の会話が丸聞こえである。
「だから言ったでしょ。スタンド寄ってから余裕をもって行きましょうって! ボクら北海道でガス欠2回目じゃないですか!」
「う、うるさいわね…。辺り一帯が封鎖されてるせいで立ち往生してるんだからしょうがないじゃない!」
「このへん、民家もないのに~~~」
「うう…。こうしている間にも“アクロの心臓”に関する情報が逃げちゃう…!」
バンッ、と運転席の窓が叩かれた。
ひっ、と驚く男女は、雨宮と小田だ。窓の向こうには、鋭い目つきをしたレンが立っている。
「今、“アクロの心臓”って聞こえたけど…」
「「あ」」
声を揃えたのは、雨宮とレンだ。
二人の脳裏に、出会った時の記憶が蘇る。
「アンタ…、変わった髪型してるけど覚えてる…。森から出た時にいた……」
「変わってて悪かったわね! 自分で切ったらこうなったの!」
自分からハサミで雑に切ったのだ。「やっぱり変なんだぁ~~」とショックを受ける雨宮。
小田は、人間の左腕を持って現れたことが強く印象に残っているため、恐怖でガタガタと震えていた。
「ボボボボ、ボクの腕はおいしくないヨ…」
「なんだよ人をバケモノみたいに…。まあ、似たようなもんか…」
項垂れるレンは、もう一度顔を上げて雨宮に声をかける。
「あたしも追いかけてるんだ、“心臓”。……なにか知ってるなら、情報交換しねえ? ガソリンも分けてやれるけど」
その交渉は雨宮にとっては願ったりかなったりだ。
思わず口角が上がり、運転席の小田の顔を押しのけて身を乗り出す。
「奇遇ね。…私もあなたに聞きたいことが山ほどあるの」
「山ほど…ね」
どうやらガソリンだけでは足りなさそうだ。
それでも、レンは期待する。ようやく手掛かりらしいものがつかめそうなのだ。
(由良…、あたしは追いかけるよ…。また会えたら、おまえに言いたいことがあるんだ…)
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