18:きっとこれは、悪い夢
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レンは必死に由良を捜していた。
「由良……」
身体の傷口から流れ出る血が地面にボタボタと落ちる。
「由…、げほっ…」
あまり大きい声を出すと、血が込み上げて吐いてしまう。
それでも止まらずに進んだ。
湖が見えてきた。
いつの間にか戻ってしまったようだ。
(血が…、血が…足りない……)
疲労のあまり眩暈がして倒れそうになり、そばにあった木に背中を預けて息を整える。
「!?」
ふと横目に木の幹肌を見ると、自分の血ではない血が付着していた。
驚いてその木から一歩離れると、木の所々が粉砕されたように損傷している。見覚えのある痕跡だ。
(これ…由良の能力(ちから)…!)
ようやく得た手掛かりに、急いで辺りを見回す。
「由良…、由良…! どこに……」
湖の周りを捜してみようかと足を向けた時、踏み出した足先が何かに当たった。
「……え………?」
視線を下ろし、最初に視界の端に映ったのは人間の手指だ。
瞬間、息が詰まる。血の気が引く感覚に陥り、一度ぎゅっと目を閉じた。
見間違いであってほしかった。
もう一度、おそるおそる目を開け、見間違いでないことを確かめる。
身体が小刻みに震えだした。
これ以上見てはいけない、と脳が警告を出しているのに、指先、手の甲、手首…と視線が辿っていく。
心臓と胃が冷たい手によって握り潰されそうだ。目に涙が込み上げてきた。
「あ…、あ……」
見覚えのある袖だ。
最後に会った時、「逃げよう」と引っ張ったことを思い出す。
さらに視線を上げたが、その先は何もない。
左腕が、落ちているだけだ。
由良の左腕が、確かにそこに落ちている。
(……夢だ…。きっとこれは…悪い夢……)
その場に膝をつくレンから表情が抜け落ちた。
震える手で、由良の左腕を拾い上げる。冷たかった。
この手には、当初からこちらが嫌がろうが構わず、しつこいほど馴れ馴れしく触られた。間違えるはずがない。
宝物みたいに胸に抱きしめ、氷のように冷たい手のひらを自身の頬に当てる。
「待って…、言いたいこと…あるんだ……。由良……」
静かに流れる涙が、由良の手の甲を伝って落ちた。
由良達と過ごした思い出が次々と脳裏をよぎっていく。能力者になる前の空っぽだった日常とは違い、充実していて、できることならすべてカタチとして残せないかとさえ思った時もある。
最初に出会った時のこと、選ばせてくれた時のこと、闇に怯える自分の傍にいてくれた時のこと、森尾と華音に出会った時のこと、初めて戦った時のこと、思いっきり泣いた時のこと、思いっきり笑った時のこと、トランプをした時のこと、恵と出会った時のこと、車に乗ってショッピングに行った時のこと、互いの意見がぶつかってケンカした時のこと、助けにきてくれた時のこと、おぶってくれた時のこと、嫉妬した時のこと、絵を描いてるのを見た時のこと、みんなで花火をした時のこと、キスされた時のこと、もう一度会った時の約束…。
大切なものばかりが指の間から零れ落ち、身体が砂になって崩れていくような感覚に陥る。
声にならないレンの絶叫で空気が裂けそうだ。
陽が沈み、闇がゆっくりと辺りに染み込んでいく。
レンは左腕を抱いたまま力なく倒れ、「ねえ…。もう…、つかれた…」と目を閉じる。
このまま、闇に融けて消えてしまえるのなら、本望だった。
.To be continued