18:きっとこれは、悪い夢
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レンと太輔の目が合う。
敵対していたのだが、どちらも顔を合わせるのは初めてだ。レンは名前と特徴だけは知らされていたが、対する太輔はレンのことはまったく知らない。
少し間を置いて先に口を開いたのは、レンだった。
「……叶…太輔…?」
「! な、なんでオレの名前……」
太輔は警戒して一歩後ろに下がる。
レンはゆっくりと立ち上がって太輔に近付こうと歩み寄った。
「おまえが太輔なんだな…。生きてたのか…」
少し安堵したように表情が緩む。
「恵から聞いてたんだ…」
「メグ…?」
幼馴染の名前に太輔の気が緩んだ瞬間、レンは「でも…、ちょっといいか」と目つきを鋭くし、
ゴッ!
「いっ…!?」
一気に目の前に接近して太輔の右頬を殴った。
吹っ飛ぶような力ではない。太輔は踏み留まり、レンを睨み返す。
「なにすんだ!」
「うっせー! 由良にケガさせたのと、森尾の顔に治らない火傷負わせたんだ! 一発は殴らせろ!」
顔に火傷、と聞いて太輔は森尾のことを思い出した。
レンの傍らにあったのは、森尾の亡骸だ。
勝又の仲間であることは明白だった。
「おまえ、勝又の仲間……」
瞬間、レンは「あいつは仲間じゃねーよ…!」と唸るように遮った。
「あいつに騙されたせいで…、みんなは…!」
「!」
声を震わせ、目を伏せるレン。
その目まわりは涙の跡で赤くなっていた。
「……まあでも…、恵を監禁していたのは、あたし達だ。それについてはめちゃくちゃ悪いと思ってるから、おまえも一発殴っていい」
「ほら」と素直に顔を差し出すレンに、ぎょっとした太輔は「いやいやいや!」と首を横に振ってたじろぐ。
「そうこられたら殴りづらいって! しかも、あんたけっこうボロボロじゃねーか!」
満身創痍はお互い様なのだが、泣きはらした顔に、血塗れで今にも倒れそうな弱弱しい雰囲気の女を殴れるわけがなかった。
太輔を殴った左手も、痛々しく血が流れている。
一度体勢を戻したレンは「ボロボロはお互い様だろーに…」と太輔の傷に目をやりながら呟いた。
「―――ところで、恵とは会えたのか?」
「い、一応…」
「そっか…。それはよかった…」
本心から小さい笑みがこぼれる。
突然殴られたとはいえ、太輔にはレンが悪い人間には見えなかった。明らかに恵のことを気にかけている様子だ。
一度張った緊張の糸が解かれて、太輔は躊躇いがちに声をかける。
「メグとは…、その…」
「ああ。屋敷にいた時、話し相手になってたんだ。なってくれてた…というか…。…友達? …いや、監禁しといて「友達」ってのはおこがましいか?」
ブツブツと自問自答をするレンに、太輔は「友達…」と反芻する。
「…あたし、北条レン。…状況説明すると、勝又に利用されて能力者同士戦わされた挙句…、広瀬が“心臓”を手に入れたことで死にかけたんだよ…」
「……友達も死んだ…」とか細い声で口惜しそうに、森尾の眼帯を強く握りしめた。
滲み出る後悔と怒りが太輔に伝わる。
「……………」
「おまえもなかったか? “死”への欲求ってやつ…」
「……ああ。でも、広瀬を放っておくことができなかったから…」
「戻ってこれたってわけだな。あたしも似たようなもんだ…。……なあ、ツナギの男、見なかった? 会ったことあるだろ?」
その特徴だけで太輔は由良の顔を瞬時に思い出す。
しかし、この湖の戦いでは見かけてすらいない。
太輔は正直に首を横に振る。
「……いや、見てない」
「……そうか…」
レンは静かに肩を落とした。
(でも、こうしてあたし以外にも生き残ったやつがいるんだ…。あいつだって……)
可能性が存在する限り、希望は捨てなかった。
「恵はどこに? 広瀬は?」
一応会えたというが、肝心の恵を見かけていない。レンは安否が気になった。
「広瀬にケガ負わされて…」
「広瀬に!? あんなに恵のこと、宝物扱いしてたのに……」
広瀬の変わりようが信じられない様子だ。
思い出したのか、太輔の顔が一層険しくなる。それを窺い、レンは「友達…なんだよな…?」と声をかけた。
「……オレが知ってる広瀬は、もういない」
「……………」
レンはかける言葉が見つからない。
恵からは、広瀬も太輔も、友達だということしか知らされていなかった。
どちらにしても、太輔の怪我を見るに、広瀬の能力で傷つけられたのだと察する。友達だった二人が対決したのだ。
「……その広瀬もどこに…」
その時だった。
「「!!」」
気配はなかった。だが、レンと太輔は目の前に現れたなにかにはっとした。
まるで紙切れか布切れのような不確かなものが、徐々に紡がれるように足元から人の形を取り戻していく。
「なんだ!?」
「広瀬…!」
同時に、レンと太輔は後ろから誰かに引っ張られた。
広瀬の頭部が元に戻って視界が見えた時には、地面に血痕があるだけで、そこにいた二人の姿がなくなっている。
先程まで確かに存在していた気配が煙に巻かれたようだった。
「消えた…?」と広瀬は訝しむ。
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