16:やっと……
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黒い球体―――“心臓”によって、次々と能力者が自ら命を絶っていく。
その様子を空から見下ろすのは、フクロウだ。
「もう、おまえ達が逃れる術はない…。“心臓”の見せる過去は、悦びも悲しみも併せ持つ…。…皆、己の過去に魅入られ―――世界中に散らばった能力者はひとり残らず、心の穴に吸い込まれるように命を断つ。・…これがおまえ達の、運命なのだ…」
森尾の胸を、由良と同じように“心臓”が通り抜ける。
「うっ…!?」
眩暈に伴い、視界が歪んだ。
頬杖の状態から支えた頭部のバランスを崩しかけて気がつくと、森尾は屋敷内のリビングにある一人用のソファーに座っていた。
同じ部屋には、由良・華音・レンがいた。
向かいの華音は二人用のソファーを占領して足にペディキュアを塗り、由良は一人用のソファーに腰掛けガラステーブルに足を投げ出したままお菓子を食べながら語り、レンも由良の向かいの一人用のソファーで脚を組んで雑誌を見ながらも由良の話に耳を傾けている。
「――んでさぁ、オレ思ったわけよ!」
(……ゆ、夢だったのか?)
森尾は室内をキョロキョロと見回した。
由良は話を続ける。
「能力者(オレ達)の能力(ちから)って、なにか個人の願望とかが反映されてんじゃねーかって。例えばオレは、美しく散るのが好きだからシャボン玉!」
そう言って、シャボン玉をひとつ人差し指にのせた。
レンが雑誌から由良に視線を上げ、妙に納得するように「ふーん」と発する。
「はあ? なにそれ、バッカみたい!」
華音は軽く笑いながら返し、足指を動かしてペディキュアの塗り具合を確認した。
「じゃ、カノンはなんで“爆破”?」
少しムッとした由良が尋ねると、華音は間を置いて答える。
「…………別にィ―――、爆弾くらった顔ってのが見たかったのかも―――」
森尾は黙って聞いていた。
由良が今度はレンに同じ問いを投げる。
「“電気”のレンは、どうなんだよ?」
レンは親指と人差し指の間に、小さな電流を流して見せた。
考えたことがなかったのか、パチパチと火花を散らす様を見据えながら首を傾げる。
「……いや…、あたし自身もよくわかんないって…。電気…、電気…。願望が反映されてるにしては使い勝手があんまりよくないんだよな…。無限に放電できるわけじゃないし、感電してる人間が見たいわけでもないし…。暗いとこが苦手だからとかシンプルな理由じゃねーよな、まさか…」
「そもそも意味あるのかな…」と眉を顰めて考え込んでしまう。
「ひゃははっ。レンちゃん真面目に考えすぎ!」
「レンは宿題な。…“風”のモリヲは?」
突然話を振られ、森尾の肩が跳ねた。「は!?」と 思わず裏返った声を上げる。
「や、オレも別に……」
曖昧に笑って誤魔化すが、それが怪しく思われたのだろう。
「…まさか、健ちゃんてば、風になりたいとか、お空飛びたいとか思ってるワケ―――?」
話の内容に興味がなさそうな態度だった華音も、森尾と向かい合うように座り直して茶化す。
「うそ! マジか!? きっも―――!」と笑う由良。
森尾は「だ、だから別に……」と慌てて否定する。
「おまえらー、調子に乗るなよー」とレンは2人を軽く睨んで窘めた。
それは、いつかの日常の記憶だった。
(―――これだから、自分の話はしたくない…。小さい頃は、パイロットになるのが夢だった。本当にそうなれたらと思っていた)
学生時代、窓際の席で頬杖をつきながら、窓の向こうに見えた白く真っすぐな飛行機雲を茫然と眺めていたことを思い出す。
周りのクラスメイトは授業に集中していたのに、自分だけ鉛筆を置いていたのだ。
(でも成長するにつれ、こんな子供みたいな……夢だの希望だの、考えるのも恥ずかしくなっていた。情けない話だが、今でも思う。あの時、頑張ってれば、もしかして……)
そこで、窓から光が差し込む部屋で、由良が大きなキャンパスに油絵を描いている姿を思い出した。
(いや…、オレには、夢を追いかける情熱なんてなかった)
座り込んで茫然と空を仰ぐ森尾の真上から、大きなカマイタチが降ってくる。
(オレは、夢を見るだけの楽なスタンスに、幸せを感じてたんだな…)
森尾の虚ろの瞳には、それがあの時に見た、白い一直線の飛行機雲に映った。
ふと、遠くで火花がバチバチと弾ける音が聞こえた気がして、なにかを忘れていないか、という感覚を覚える。
(花火…………)
火花の灯りに照らされた、レンの楽しげな笑顔を思い出した。
そして、気付いてしまう。
(……ああ、そうか…。オレは…―――)
目の前が、自身の鮮血で真っ赤に染まった。
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