16:やっと……
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“アクロの心臓”を手に入れた広瀬は、自分の胸に押し当て、華音と同じように自らの中に“アクロの心臓”を取り込んだ。
瞬間、華音の時とは比べものにならないほどに、広瀬の体が眩く発光し、突風が吹き荒れ、それに伴って白い濃霧が発生する。
「ぐっ!?」
あまりの突風に湖の傍にいる者達が吹き飛ばされないようにと踏みとどまった。
白い霧は、周辺の森林を飲み込むように広がっていく。
広瀬の身体は全身が真っ黒に染まっていた。
もぞもぞと広瀬の体を何かが蠢き、肩口から一斉に飛び出す。
無数の小さな黒い球体だ。それらはひとつひとつ意志を持っているのか、あっという間にその場からバラバラに拡散した。
「……広瀬君は、無事“心臓”を手に入れた」
球体は、勝又と銀夜を避けるように通過する。
「みんな、よくやってくれたね。ご苦労さま……」
そう言って勝又は微笑んだ。
近くにいる由良は現状が把握できず、狼狽えていた。
周囲が霧で囲まれ、辺りを見渡すことができない。
「どうなってやがる…」
その時、突如由良の目の前に、広瀬の体から飛び出したうちのひとつの黒い球体が現れた。
「!?」
由良は思わず後ろに一歩下がる。
「な、なんだ…?」
得体の知れない事態に戸惑いながら目の前の黒い球体を見つめていると、それは吸い込まれるように由良の胸を、スイ、と通り抜けた。
「っ……」
直後、由良は小さく呻き、その瞳は、覗きこんだ深淵が映り込んだように真っ黒に染まり、自然と倒れない程度に身体から力が抜ける。
それから由良は自らの意思で次々とシャボン玉が浮かび上がらせ、微笑した。
今この時求めるのものは、唯一つの“死”。どうせ死ぬのなら、自身の能力で存在ごと綺麗に消し飛ばしてしまおうと思った。
わざと飛ばしたシャボン玉のひとつが由良の左腕に当たって弾け、二の腕から下が空中へ跳ぶ。不思議と痛みはない。
身体から飛び立つように舞う左腕を、由良は無意識に目で追いかけた。
自身が浮かばせたシャボン玉に取り囲まれる中、脳裏を過ったのは、ある恐怖と、最後に見たレンの顔だ。
あ、と思った瞬間、由良の意識が途切れた。
少し離れたところにいた勝又は、なにかが倒れた音を聞き、そちらを横目で見る。
白い霧で見えづらいが、由良が立っていた場所からは霧のような血煙が上がり、シャボン玉によって破壊された周辺の木々には血が付着していた。
結末を知っていた勝又は無表情で眺めるだけだ。
「…“心臓”に触れた能力者は、内なる欲求に耐えられない。ひとり残らずね…」
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