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華音は自身の身体の異変に激しく動揺していた。
「やだ! 体が……!?」
体中に小さな亀裂が走り、その裂け目から黒い光が漏れ出す。
「あ…、あ…、あ、あ、あ! イヤあああ!!」
ブワッ!
華音の叫びとともに、黒い光に映像が投影される。
レンも含め、その場にいる能力者達の目の前に流れてきた映像には、バスに乗った女子高生がいた。
その女子高生は、目の前の座席の後ろに貼ってあるプリクラを見ている。
誰かが悪意で貼ったのだろう。プリクラに写っているのは、真ん中にいる自分と、それを挟む同級生の2人の女子高生だった。
しかも、同級生の女子高生達の目はペンで塗りつぶしてあり、中央の女子高生だけがはっきりと写っていた。
女子高生の顔は、長い黒髪で、クレーターの肌が目立つ顔だった。
貼られていたプリクラには、その女子高生の電話番号と、“強姦OK!! みたちかのん ブスでバカだけどヨロシク”と悪戯書きがされていた。
まわりの落書きには、“ムリ!”“死ね”などと書き込まれている。
その女子高生は、華音だった。
他にも、華音だけが蚊帳の外にされ、同級生だけがナンパを受けているシーン。
雪の降る中、バス停でバスを待つ男子高生と、頬がかすかに赤い華音のシーン。
「まさか…、これって……」とレンは流れてくる華音の過去を目で追った。
今度は映像の中の声まで聞き取れた。
教室の中、同級生の女子高生達に囲まれた、席に座る華音。
『金ねーなら、エンコーすれば?』
『ムリ。クレーターじゃ客つかねーべ』
『え―――? んだら、どうする―――?』
桜が爛漫しているバス停で、嫌そうな顔で華音に背を向けて去って行く、華音が想いを寄せていた男子高生。隣に並ぶ友達の男子高生に茶化されている。
華音はうつむいていた。
そのあと、流れを見守っていた同級生の女子高生2人が華音に近づいた。
けっして慰めるわけではない。
『ほら、告ってやったよ!』
『やっぱ、フラれたべ?』
『爆弾くらったみたいな顔して、なに考えてんの―――?』
慰めるどころか追い打ちをかける。
悪意を含んだ笑い声の中、華音はひとり泣いていた。
「………っ!!」
レンは奥歯を噛みしめる。華音を嗤う同級生に対し、胸糞が悪くなったからだ。
華音の歪の原因は明らかだった。
「やだ…、見ないで……」
泣きながら、華音は奈美に手を伸ばそうとする。
「みな、い、で……っ」
レンは茫然と眺めたまま、動くことができなかった。
華音のこの先がどうなるのか、考えるのを拒絶している。
華音はなにかを捜すように首を動かし、レンと目が合った。
そして、手を伸ばし、嗚咽にまじりの絞り出すような声を漏らす。
「レン……ちゃ……」
瞬間、我に返ったようにカッと目を見開いたレンは歯を食いしばり、左手と右足に渾身の力を入れた。
「ぎ…っ!! 」
銀夜は「もう遅い…」と目を伏せ、拳銃を下ろす。
銀夜の声は今のレンには聞こえなかった。
「ううう…あああぁあっ!!!」
釘頭が引っかかろうとも構わず、自身を磔にしていた釘から無理矢理抜け出す。
釘は地面に食い込んだままだ。当然、わずかに血肉を持っていかれた。
襲いかかる激痛に顔を歪めたが、華音から視線は逸らさず銀夜を無視してその横を通り過ぎ、友人のもとへと全速力で走りながら叫ぶ。
「華音!!!」
両腕を広げ、崩れかけの華音の体を優しく抱きしめた。
パチッ、パチッ、とレンの身体から小さな火花のように電気が漏れ出る。
「大丈夫…!! あたしが守るから…!! あたしは見捨てたりしない。笑ったりしない。軽蔑しない。嫌わない…!! 」
華音が「うん…うん…」と何度も頷いて安堵の笑みを浮かべた時だ。
黒く歪んだ華音の中にある“アクロの心臓”が光った。
「レンちゃん…」
「華音、一緒に…―――」
言いかけた直後、
バシュウッ!!
腕の中にいた華音が、跡形もなく弾け、黒い塵となった。
「帰……ろ……」
レンの言葉はもう届かなかった。
ふと、左手に感触があることに気付く。
手指に絡みついていたのは、わずかに残った華音の赤い髪の毛のみだった。
「あ…、ぁあ……」
華音だったものが手の中にあることで実感する。
華音が死んだ。
膝から崩れ落ちたレンはぼろぼろと涙を零しながら、華音の髪の毛を強く握りしめた。
「華音―――っ!!!」
絶望するレンの背後に近付き、銀夜が笑いを含んで言い放った。
「ははは、持ち逃げしようとしたからだ。欲に溺れた挙句、あの死に方…。最期まで…、はじけた女だったな」
「笑うなああああ!!!」
銀夜の容赦ない言葉に黙っているレンではない。
勢いよく立ち上がり、振り向きざまに殴りかかろうとするが、銀夜は軽くかわしたあと、自分の足をレンの足にひっかけて転ばせた。
「哀れ…。そう、哀れだな。もう忘れることもできねえなんて…。父親のように…」
その言葉に、レンは完全にフリーズする。
(父親……)
蘇る記憶は、首から大量の血を垂れ流す実父の亡骸だ。
「あ…、あ…、おとー…さん……」
ズキン…と疼く頭を抱え、うずくまるレン。
その時、周囲に漂っていた黒い塵が、一つの塊となる。
原型は、最初に見た“アクロの心臓”と同じだったが、放つ光は全くの別物だ。
優しかった光が、見てるだけで背筋が凍りつくくらいどす黒い光に変貌していた。
まるで、望まぬ器を与えられて深く憤っているかのようだった。
黒い光を放つ“アクロの心臓”は太輔のところへ飛び、吟味するようにゆっくりと周りを一周すると、今度はレンのところへ飛んできた。
太輔と同じように時間をかけて周りを一周する。
こちらも、器にふさわしいかどうかを見定めているようだ。
虚ろな顔でうつむくレンは、そんな“アクロの心臓”に気付いていない。
(……やっぱり、この女も……)
見守っていた銀夜だったが、落胆したため息をつき、「……役立たずめ」と小さく罵った。
“アクロの心臓”はレンから離れ、広瀬の方へ移動し、その胸の前でぴたりと停止する。
広瀬が“アクロの心臓”に選ばれたのだ。
理解した広瀬は、不気味な薄笑いを浮かべる。
そして、2度目の悪夢が始まろうとしていた。
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