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レンを含め、湖に集まる能力者達が、何事かと目を大きく見開き驚愕する。
レンと一緒にいる銀夜と、由良と一緒にいる勝又だけが薄笑いを浮かべていた。
(引き鉄がひかれる・・・・。“アクロの心臓”が、世に放たれる―――)
湖から、光の玉が飛び出した。
“アクロの心臓”だ。
「おお…!」
フクロウは旋回しながら喜びに震えていた。
「見ろ! あれが“アクロの心臓”だ!」
銀夜は声を弾ませる。
レンは中州に立っている広瀬を一瞥し、優しい光を放つ“アクロの心臓”を見つめる。
レンも、他の能力者達も、その光から目を離せなかった。
「…ふ、ふーん。あれが、“アクロの心臓”…」
茫然と“アクロの心臓”を眺めていた由良の目から、突然、涙が零れた。
「おわっ!?」
意思とは関係なく勝手に流れ出た涙に、由良は驚きを隠せない。
泣いているのは由良だけではなかった。
(キレーだな…)
レンも暖かな光に魅入られていた。涙が頬を伝う。
痛みが和らぎ、殺伐としていたはずだったのに穏やかな気持ちになった。
(アレを手に入れたら……)
すべてが満たされる気がした。
「欲しくなったか?」
考えたことを言い当てられ、銀夜に振り向く。
銀夜はレンと違い、涼し気な顔をしていた。
「だから器になれと言ったのに…。間に合わなかったな。―――アレは広瀬の手に入る。そして、夢見てるおまえらは…、ここで終わりだ」
銀夜の冷笑に、レンはゴクリと唾を飲み込む。
(終わり……。あたし達は…、どうなる? アレを手に入れたら……)
レンは視線で仲間の姿を探すが、広瀬や他の能力者の姿は確認できても、由良、森尾、華音をその目に捉えることはできなかった。
広瀬が一歩前に乗り出し、目の前の“アクロの心臓”に手を伸ばす。
「これは華音のよ!!」
そこへ突然、湖の水面から華音が飛び出し、“アクロの心臓”を両手でつかんで広瀬から横取りした。
「!!」
突然の出来事に、“アクロの心臓”に目を奪われていた全員が驚いた。
「華音!?」
レンは思わず叫ぶ。
「あのアマ……」
銀夜は舌打ちをした。
「げほっ、はあっ、はぁ、うっ……」
華音は“アクロの心臓”をつかんだまま、中洲のすぐ前にある、湖から突き出ていた大木につかまって這い上がった。
取り上げられた広瀬は虚無に満ちた表情で、その様子を静かに眺めている。
大木に上がった華音は“アクロの心臓”を愛おしそうに抱きしめ、至福のあまり涙を流した。
「…ああ、会いたかった。“アクロの心臓”…! 誰にも渡さない…」
そう言って“アクロの心臓”を自身の胸の中央に押し当て、中へと沈める。
「これで華音が、イチバンに…!」
“アクロの心臓”が華音の中に入った瞬間、華音の体が発光した。
「……………」
フクロウは静かに、真上からその様子を眺めていた。
光が収まったところで、傍から見れば華音の体に変化はない。
ふと、華音が振り返る。
見つけた者に対し、その表情は明らかに余裕を露わにしている。すでに勝利を確信したかのような笑みだ。
すると、華音が見つめていた茂みから楠奈美が飛び出し、
「死っ……ね!!」
氷の爪を、弟の仇である華音に向けて投げ飛ばした。
ドドドドッ
「きゃ……!」
氷の爪が4本とも華音の腹、胸、腕、額に突き刺さった。
「華音!!」
レンは叫んだ。
明らかに致命傷だ。
(なんだあの女! 能力者…!? 叶太輔の仲間か!?)
「え…?」
その時、レンは華音の姿を見てぎょっとする。
攻撃を仕掛けた奈美も様子がおかしいことに気付いた。
華音に突き刺さった氷の爪はヒビ割れ、脆く崩れていく。
華音は不敵に笑った。
「……なにかした?」
氷の爪が突き刺さっていた傷口から“アクロの心臓”の光が漏れる。
すると、その傷口は出血することなく異常な速さで完治した。痕さえ残っていない。
その光景を見ていた者達全員が驚愕した。
同時に、華音は羽でも得たように奈美の真上に高く軽やかに飛び上がる。
「!!」
奈美が驚いている間に、華音は人差し指を奈美に向ける。
ドンッ!!
爆音とともに奈美の足下の地面が爆発した。
「きゃあああ!!」
爆発の衝撃をもろにその身に受けた奈美は悲鳴を上げ、吹き飛ばされて地面に倒れ、同時に、華音は軽やかに地面に着地する。
一方、華音が“アクロの心臓”を取り込んだことでやっと涙が止まった由良は「ふ―――、落ち着いた」とこぼしていた。
「……なんだあいつ、“心臓”手にいれたとたん…」
華音の変わりようを見て思わず戦慄してしまう。額に冷たい汗が流れて呟く。
「……もう、以前の華音の比じゃねぇ…!」
爆風で辺りが吹き荒れる中、レンは目を見開き、その光景を眺めて呟いた。
「なんで急に……」
「あれが、“アクロの心臓”の力だ」
そう言う銀夜の表情は不満げだ。目も冷ややかである。
そこでレンは、「あれ?」と疑問を浮かべた。
(―――じゃあ、器ってのは広瀬じゃなくても……)
てっきり、“アクロの心臓”に選ばれた者でしか、手にすることができないと思っていたからだ。
レンがそんなことを考えているなか、ぐったりとした奈美を見て、華音は満足げに歓喜していた。
「華音てばカンペキ! スゴイわ…、力が漲ってる…! なんでも爆破できるし、体も軽い!」
奈美の前でぴょんぴょんと跳ねる。
その間に奈美は痛みに耐えながらも身を起こし、手の甲に氷の爪を作り出した。
「もしかして、華音最強!? ひゃは……」
華音が愉悦に浸っていると、奈美は勢いよく立ち上がり、
ビッ!
たった1本の氷の爪で華音の右頬と髪を掻き切る。
「はぁ、はぁ、はっ」
疲労とダメージのせいか、氷の爪を1本出すのがやっとの状態になっていた。
「……………」
華音はしばらく動きを止めていたが、挑発的に奈美に向き直る。
もう痛覚も感じないのだ。
「……なによ」
華音の頬と、さらには切られた髪まで再生した。
「バケモンが…」
笑みを浮かべる華音に対し奈美は、右足を勢いよく突き出したが、華音は軽く飛んでそれを避ける。
「!?」
「不思議。傷なんて、あっという間に消えるのに……」
突き出たままの体勢の奈美の右足に、華音が左足をのせた。
華音の体は羽根のように恐ろしく軽い。
「顔ぶたれるとやっぱり、ムカツクんだよ、ドブス!!」
声を荒げ、右足で奈美の頭を蹴り飛ばした。
奈美が地面に倒れると、1本の氷の爪が蹴り飛ばされた衝撃で遠くへ飛んだ。
「かはっ、はっ」
奈美にはもう、新しく氷の爪を作り出す力は残っていない。
華音は、血を吐くうつ伏せの奈美の背後に近づき、はしゃぐ気持ちを抑えきれずその背中にのしかかった。
「ね、わかる? 華音の気持ち!」
「!?」
奈美は華音を払いのけるが、それでも構わず、華音は宝物を自慢するように話し続けた。今もなお漲る力に酔いしれている。
「スゴイのよ! サイッコ―――なの! 全てが許されて、満たされてて、みんなに愛されてるのがわかるの!!」
ドンッ!
「わかるでしょ?」と奈美に人差し指をさし、奈美の傍の地面を容赦なく爆破した。
「ぐっ!?」
華音は弄ぶように奈美の周りを次々と爆破していく。
「わかんないわけ?」
連続で辺りを爆破する華音の能力は圧倒的だ。
「アッタマ悪いんじゃない? かわいげもないし!」
見下し、嘲るような言い方をしながら、じわじわと奈美を追い詰めていく。
「はぁっ、がはっ!」
奈美は爆発を受けながらも、弱々しく背を向けて逃げた。
「そんなだからダメなんだよ、おまえ! ひゃはっ」
ドォンッ!!
威力のある、大きな爆発だった。
奈美が壊れた人形のように吹き飛ばされる。
「ひゃはははは!!」
華音の高笑いが響き渡った。
爆発で起こった黒煙が空に昇る。
仰向けに倒れる奈美に、華音は近づいて前屈みになり、ぐったりとなっている様子を見下ろした。
「苦しい?」
奈美は肩で息をし、表情がどこかぼんやりとしている。
「そう」と言って、華音は奈美の頭部に右手のひらを向けた。
「頭、吹っ飛ばしてあげるわ!」
いよいよ、奈美にトドメを刺す気だ。
「……ふ…、くくっ」
だが、奈美は笑っていた。
「なら…、私は……」
脇腹の下に、飛んでいった最後の氷の爪を隠していた。
「心臓を貫いてあげる…!」
ドスッ!
「!?」
氷の爪は奈美の脇腹を突き破り、奈美の血が赤い氷の柱となって華音の左肩を貫いた。
「ぎっ!!」
不覚をとられつつ、華音はその場を離れようとしたが、一番長くて鋭くできた血の氷の柱から抜けだせず、しかも、他の氷の柱は華音の足を貫いていた。
「がはっ」
奈美は吐血したあと、自らの血で出来た氷の柱を両手でつかんでゴキッと力任せにへし折り、華音の肩から素早く引き抜くと、そのまま華音の心臓目掛けて突き刺そうと振り被った。
一瞬でも身動きができない華音に対し、殺せる、と奈美は不気味な笑みを浮かべる。
「やめろ―――!!」
華音が殺される、とレンは目の前の湖の向こうにいる奈美に向かって叫んだ。
その時奈美は、華音の瞳に映る、不気味に笑い恐ろしい形相を浮かべた自身の顔を見て、ビクッと震え、我に返る。
一瞬躊躇い、奈美が動きを止めたその隙に、華音は素早く手をかざし、爆破した。
ドォォンッ!!
気付けば、奈美は横たわっていた。体中が痛み、目も霞んでいる。
「本当に殺すつもりか?」と言った太輔の言葉を思い出し、涙が流れた。
そこへ、華音が歌いながら奈美の傍に近付く。その姿は奈美の視界にも入ったが、もう動ける状態ではない。
「惜しかったわね。華音のこと、殺したかったんでしょ?」
華音の貫かれた肩の傷口が、完治して塞がった。
「泣いてるの?」
奈美の涙に気付いた華音は「かわいそう……」と嘲笑い、奈美に手をかざす。
奈美は目をつぶり、死を覚悟した。
「本っ当、かわいそうだったよ、ブス! ひゃは!!」
そこで華音は、自身の異変に気付く。
かざした己の右手を見ると、ジワリと手の皮膚が黒く変色していた。
「なにコレ…、ひゃっ!?」
黒い染みは、まるで高い場所から垂らされたコーヒーの液体が白いカーペットに拡がっていくかのように、ゆっくりと華音の体を侵食していく。
「きゃあ!!」
「……?」
奈美は華音の異変に気付き、目を開けた。
眺めていたレンも華音のただならぬ様子を凝視する。
「華音の体が……黒く……」
「なるほど、ああなるのか」
銀夜は腕組みをし、ひとり納得していた。
「どうなってんだよ……」
その様子が気に入らず、レンは唸るように銀夜に尋ねた。
銀夜は口元を歪ませ、ただ一言、こう言ったのだ。
「あの女、小さいから」
どこかで似たようなことを誰かが言っていた。
誰かが“アクロの心臓”を持ち逃げした時のことを話していた。
フクロウだ。
『おまえらでは、小さい』
その言葉がなにを意味するのか、レンの心臓が大きく跳ね上がる。
(―――華音…!!)
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