15:次会ったら
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レンと分かれた由良は一足先に森を抜け、湖に辿り着いた。
薄暗い森を抜けると眩しい光に照らされ、思わず片目を閉じる。
(そういえば、あいつ……)
由良が思い出したのは、半分以上無茶ぶりだとわかっていた条件を出した時の、レンの言葉だった。
『あ゛―――も゛―――!! わかった!! やってやる!! それで由良とまた会えるんなら、すっぽんぽんでもなんでもなってやるよ!!』
それで由良とまた会えるんなら、の部分に少し笑ってしまった。
(肝心の部分が違うだろ…。フツー、そこは「缶バッジを預かってもらえるなら」とか「ちゃんと返してくれるなら」とか………)
一度、立ち止まる。
「レンの奴、最後になにか言いたそうだったな……」
レンは最後になにかを呑み込み、微笑んだようだった。
肩越しに、来た道を振り返る。レンの姿はどこにもない。
「触んなよ広瀬!」
「!」
突如聞こえた声に前に振り向くと、華音が中州に向かって湖を泳ぎながら進んでいるのを見つけた。
「それ、華音のなんだから―――!!」
息も荒く明らかに正気を失っている華音は、森を抜けて出てきた由良に気付いていない様子だ。
「なにやってんだぁ、カノン…。アブねーな」
怪訝な顔をした由良は、華音が向かおうとしている先を見た。
湖の真中にある中州で、目覚めようとする“アクロの心臓”の前に、抜け殻のようになって立ち尽くしているヒロセの背中を見つけた。
あの場所だけ異様に空気が違う。
「ヒロセ……」
逃げよう、と必死に叫ぶレンの姿を思い出す。
由良の中に、不吉な予感を覚えた。
湖を見回すと、ここから数メートル離れた先に、勝又の姿を確認した。
あちらも由良がやってきたことに気付いた様子だ。目が合う。
「ああ、由良君も来たんだね」と声をかけられ、由良は勝又の元へ近付こうとしたが、やめた。
気になったのはレンの忠告だったからだ。
勝又のところに行くな、と。
(レン、おまえはなにに怯えてんだ?)
*****
森の中で行われる戦いの最中、銀夜の釘が飛ばしてきた釘を、レンはできるだけ引き付けてからギリギリでかわし、釘はそのままレンの背後にあった木に突き刺さった。
すぐさまレンは両手に小さなプラズマを作り出し、銀夜がいるだろう方角に向かって投げ飛ばすが、手応えはない。
「チッ」
どこからくるかわからないため、レンは煩わしそうに舌打ちをし、木の後ろに身を隠した。
息を弾ませながら、次の行動を考える。
(小さなプラズマをぶつけて麻痺させてからトドメ…、って考えてたが、さすがに簡単にはいかねえか…)
算段を立てながら周囲を見回した。
「こんな勝負をしても無意味だ。おまえの仲間が死ぬことに変わりはない」
声が聞こえたが、やはり銀夜の姿は見えない。
レンは視線で探りながら鬱陶しそうに返事を返した。
「……相手を殺す時は黙るんじゃなかったか?」
「安心しろ。オレにその気はない」
「……あたしになにが言いたい?」
銀夜はその質問を待っていたとばかりにニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「オレと組め。勝又が大事にしてる広瀬の代わりに、おまえが器になれ、北条レン」
「!?」
レンは眉をひそめた。
構わず銀夜は続ける。
「広瀬は完全に勝又の人形に成り果てちまった…。“アクロの心臓”をオレひとり手に入れるのは不可能だから、代わりにおまえがオレ側について“心臓”を横取りしろ」
「……………」
「どうだ?」
提案する銀夜に、レンは「正気かよ…」と失笑した。
「他当たれ。誰が…兄貴を殺したテメーなんかと手を組むか」
銀夜は鼻で笑った。
「交渉決裂…、か」
ド!
「ぐぅっ!?」
レンが身を隠していた木の上から飛び降りてきた銀夜が、地面に着地する前に枝につかまり、勢いをつけてレンの肋間を蹴り飛ばした。
レンの体は茂みの向こうへと吹っ飛び、地面を転がる。
「かはっ…、うぅ……っ!」
ヒビが入った肋骨を蹴られ、激痛に呻く。
ぼやける視界に、息を吞むような美しい湖が映った。湿気た森の空気とは違い、清らかなほど澄んでいる。
(ここは…、湖……。いつの間に……ここまで……)
誘導されたと考えるのが自然だろう。
レンは肋骨を押さえ、ゆっくりと立ち上がる。
同時に、茂みから銀夜が姿を現した。
「その様子じゃ、避けるのも精いっぱいだろ」
そう言う銀夜に、レンはキッと鋭い目を向けて言い放つ。
「“磁力”使いが、こんな自然豊かな場所まで来て大丈夫なのか?」
「! ……さすがに気付いたか」
「こっちには金属を“爆破”できる仲間がいるからな。色んなものを浮かばせて操ってるわけじゃなくて、磁気を操作してたんだ。ガラスや布、人間はうんともすんとも反応しないわけだ。…あたしの帽子だって、缶バッジの方を操ったんだろ?」
だからこそ、由良に預けたのだ。
「ここが湖なら、華音だって近くにいるんだ。あたしが華音と手を組んだらどうする?」
華音の能力があれば、銀夜の攻撃を防ぐことは由良のシャボン玉より容易なのだ。
「ああ。相性最悪だな」
あっさりと認める銀夜の様子は別段焦っている様子でもない。
むしろせせら笑っている。
「あの女との距離はわざと離したつもりだ。急いで助けを呼びにいくか?」
「いいや」
レンは足下に落ちていた太めの木の棒(枝)を足の甲で蹴り上げ、左手におさめ、先端を銀夜に向ける。
「操れるものに制限があるなら真っ向から行く」
そう言ったと同時に踏み込み、肋骨の痛みに耐えながら、銀夜に向かって真正面から突っ込んだ。
銀夜は懐から釘を取り出し、レンに向けて投げ飛ばす。
ガガガッ!
「!!」
レンは拾った木の棒で釘をすべて受け止めた。
銀夜は驚くが、その木の棒に指先を向ける。
「さすがに刺しすぎだ」
木の棒に突き刺さった釘を操り、レンの手から無理やり引きはがした。
レンの目は銀夜を捉えたまま離さず、簡単に木の棒を放棄して手を素早く伸ばし、銀夜のスーツの裾をつかんだ。
「放せ」
「っ!!」
銀夜は右足を上げてレンの腹を蹴り上げる。
しかしレンは手を放さなかった。
「高そうなスーツ着やがって…」
「!」
ボッ!
その手にプラズマを発生させたことでスーツを発火させる。
「ぐ!?」
銀夜のスーツが発火し、燃え上がる。
火だるまになる前に、銀夜はすぐにスーツを脱ぎ、翻す動きでレンに投げつけた。
レンは怯むことなく右手でそれを薙ぎ払おうとする。
「!!?」
スーツの内側から大量の釘が散弾銃のように飛び出した。
レンは腕を交差させ、頭部を守りながらそれらを受ける。
「っ!!」
左腕に4本、右腕に5本、腹部に3本、右脚に7本、左脚に5本。各所にかすり傷。
どれも細い釘だからこそ、倒れるほどではない。
「ごほ…っ」と込み上げた血を吐き捨て、レンは銀夜に手を伸ばす。
食らいつくレンの姿に驚きながらも、銀夜は嗤っていた。
「この距離ならオレでも当てられる」
腰に隠していた、拳銃をつかみとって構える。
パパン!
連続で放たれた2つの銃弾は、レンの右脇腹と左のふくらはぎを貫通した。
「ッ……!」
がくん、とレンが右片膝と左手を地につけた。
「ゲームセットだ」
「……っざけ…んな…!」
立ち上がろうとしたが、
ズッ!
その前に、左手のひらと右足の甲を地面ごと釘が貫き、その場に打ち留められてしまう。
「――――っ!!」
体中を襲う痛みのあまり、さすがに声にならない悲鳴を上げた。
銀夜は銃口を向けたまま近づくが、電撃に当てられないようあえて距離をとっている。
「持ってないとでも思ったか? ヘタだから普段実戦で使わないだけだ。銃弾も操れるが、拳銃で撃った方が速いし威力もある」
「ぐ…」
「能力者は治りが早いから、このままだと皮膚に食い込んで余計に外しにくくなるな……。―――これ以上、痛いのは嫌だろ? 器になるのか? ならないのか?」
脅すように再度尋ねてくる銀夜だが、レンは折れなかった。
痛みで汗を浮かばせながらも、ベッと舌を出し、拒絶を表す。
銀夜は苛ついて舌を打ち、「めんどくせえな」と引き金をかけた指に力を入れようとした。
その時だった。
「うあああァアああぁああああ!!」
「「!?」」
突如辺りに響き渡る壊れたかのような悲痛な絶叫に、銀夜の動きが止まり、レンも驚いて顔を上げ、そちらに振り向いた。
叫びの主は、叶太輔だ。
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