14:誰だ
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銀夜は、父親のようにはなれないと思いながらも、それでいいと納得していたつもりだった。
『親父みたいに、惹きつける魅力はオレはないわけだし…。みんな「若」「若」って慕ってるふうに言ってくれてるけど…。見てるのはオレの後ろの親父なんだよなぁ…』
粛清と拷問を担当することはたまにある。
その際に持ち出すのはいつだって釘とトンカチだった。拳銃ではゼロ距離でなければほとんど外れてしまって恰好がつかない。
釘はナイフより殺傷力は低く、急所ではない限りじっくりと痛みを与えることはできる。
拷問対象は泣きながら許しを請い、銀夜を恐れるが、その恐怖すら自分に向いているのか銀夜は疑っていた。
相手の親指に3本目の釘を打ちながら銀夜は尋ねる。
『なー、オレって怖い?』
『は…、はい…』
相手は痛みに呻きながらも懸命に頷いて答えた。
『親父よりも?』
『うう…っ。…はい……』
『即答じゃないからダメ』
『ぎゃああああ!!!』
3本まとめて容赦なく相手の手の甲に打ちこんだ。
『親父のとこより、オレが抱え込んでるとこの裏切り率高いのマジなんなんだよ…』
父親になれない、と自他共に認めてはいるものの、やはり腹は立ったのだ。
ふとした回想に浸っていた銀夜は、目の前のレンに意識を戻す。
レンの体の各所には釘が打ち込まれていた。
脇腹に2本、左脚のふくらはぎに2本だ。
急所を外したのはわざとである。
レンは咄嗟に銀夜から飛び退いて離れ、その場に膝をついた。
かなり痛いはずなのに、泣き言ひとつ言うどころか、打ち込まれた釘を引き抜いて立ち向かってくるレンに新鮮さを覚えずにはいられない。
自身の足下に落ちていた3本の釘を浮かばせ、ダーツの如くレンに向かって飛ばす。
レンは軌道を読んで横へ飛ぶが、銀夜がそちらに向かって手を横薙ぎにすると、釘の動きもカーブしてレンの右腕に命中した。
「うぐ…!」
(まただ。釘が…戻ってきた…!?)
今なお食い込んでくる釘の痛みに顔をしかめ、レンは腕に刺さった釘を無理やり引き抜いて捨てる。
その捨てられた釘まで再び宙に浮かんだ。
「!」
レンは驚いて宙に浮いた釘を凝視し、目で追いかけた。
釘は銀夜の手の中に戻る。
「釘はいいよな。ナイフと違って、細いし、死ににくい」
銀夜はそう言ってお手玉でもするように釘を回転させた。
レンは何度もプラズマを作っては投げつけるが、銀夜は紙一重でかわしていく。銀夜の釘と違って直線的なのだ。
ならばとコブシに電撃を纏わせ、近接戦に出ようとしたが、銀夜は許さない。
再び釘を投げつけてきた。
「うっ…!」
咄嗟に上半身を反らして避けたが、すぐに後ろに振り返ると、釘がブーメランのように回ってこちらに戻ってきた。
明らかに顔面狙いだ。
そこでレンは車の一部を両手で拾い上げた。
「! へえ…」
釘を塞いだのは、車の窓部分だった。ビート版サイズで、盾の役割は十分だ。
加えて特殊加工もされている代物だ。
(防弾用の強化ガラスだから壊れにくいか…!)
ガラスに突き刺さるが粉砕する威力はない。
防ぎ切ったあと、レンはすぐに銀夜に向かって突っ込んだ。
コブシに再び電撃を纏わせて振り被る。
「おっと!」
銀夜は体を傾けて反らしたが、レンは勢いを殺さずコブシに握りしめていたものを銀夜の顔面目掛けて投げつけた。
「!!」
(ガラスの破片!?)
砕けたばかりの細かい破片を拾ったのだ。
銀夜は咄嗟に目を庇ったが、頬と右腕を傷つけた。
ドゴッ!
「うぶっ!」
腹の一撃に鈍痛と吐き気を覚える。
レンの突き出した足がめり込んだのだ。
電流が流し込まれる前に、銀夜は自ら後方へ飛ぶ。
その際にガードレールに背中をぶつけた。
「危ねェ…!」
直接攻撃が当たることはないと過信していた。
「クソ…」
レンは舌を打つ。
感電しするほどの電撃も流してやりたかったが、顔面に直接コブシを叩き込みたかった。
ガラスの破片を握っていた手のひらは細かい傷がついていた。
銀夜はくつくつと笑いながら、口から垂れた胃液交じりの涎を袖で拭う。
「泉も追い詰められるわけだ…。男だったらうちの組に入れたかった」
「喋るなっつってんだろ」
低い声で返し、レンはコブシを握りしめて接近する。
「くく…っ。ブチ切れてるクセに頭回るよなぁ」
スーツの懐から新たに釘を取り出した銀夜は、5本まとめてレンに投げつけた。
先程防いだガラスも持たず、レンは避ける素振りを見せない。
「!?」
「もういい」
(どうせ避けられないなら…)
レンは歯を食いしばり、自ら右腕を差し出した。
「ぐっ!!」
次々と前腕に突き刺さる釘の痛みに動きが鈍りそうになったが、銀夜の意表を突くことに成功する。
「いやいやウソ…」
ゴッ!!
ウソだろ、と続けるつもりが、レンの左コブシに銀夜は右頬を殴られた。
意識が飛びかける、腰の入ったパンチだ。
レンは、釘が刺さったままの右腕で銀夜の胸倉をつかみ、逃げないようにする。
左手のひらにはプラズマを作り出していた。
「兄貴…、やっと敵討ちができる…」
ようやく水樹の仇が討てるのだ。レンに迷いはない。
青白い光がレンと銀夜の顔を照らす。
銀夜は口角を上げ、レンと目を合わせた。
「この、親殺し」
「!!」
プ!
レンの一瞬の動揺に付けこみ、銀夜は口内に隠し持っていた小さな釘をレンの顔面に飛ばした。
「っ!」
切っ先はレンの右目横の皮膚を掠めた。数ミリずれていれば目玉に突き刺さっていただろう。
しかし、レンは胸倉をつかんでいた手を緩めてしまう。
「敵の言葉に耳を傾けるな。殺るなら無言で殺せ」
銀夜は隙を見逃さない。人差し指を動かした。
レンは構わず左手のプラズマを叩き込もうとした。
(串刺しになっても、こいつだけは殺す!!)
だが、飛んできたのは釘ではなかった。
銀夜がほくそ笑んだ瞬間、
ドカッ!!
気付けば、レンの体はガードレールの向こうへと吹っ飛ばされていた。
「がはっ……、あ……?」
横からぶつけられたのは、車のドア部分だった。
車そのものに追突されたような衝撃だ。
鈍い痛みに襲われながら、弾き飛ばされたレンは崖から森へと落下した。
「ふぅ…。殺されるかと思った」
銀夜は額の冷や汗を拭い、顔に笑みを貼り付けたまま立ち上がってガードレールの向こうの森を見下ろした。
レンの姿はすでに見えない。
「……さて、どの辺に落ちた? なるべく湖の近くだといいが…」
下りやすい場所を探しながら鼻唄を歌う銀夜。
そこで、「あ」と気付き、自身の口元に触れた。
弧を描いている。
「楽しい…。ああ、オレ…楽しんでるのか」
心が躍るままに、ステップを踏みたくなった。
それは銀夜にとって初めてのことだった。
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