14:誰だ
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フクロウが勝又の傍にある岩に舞い降りる。
「勝又には恐れ入ったよ。ここまで綿密に計算していたとはな。おかげで、回収はうまくいきそうだ」
フクロウが褒めると、勝又はフクロウに見向きもせず呟いた。
「それが全てではないがね…」
「ん?」
「いや…、いずれわかるよ…」
フクロウは、なんのことかわからない、という顔をしたが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、室銀夜を見かけたぞ。まったく、奪い取ったとはいえ…“カケラ”持ちだということを自覚してほしいものだ。勝又の忠告は聞かなかったようだな」
「今、北条君と戦っているはずだ」
フクロウは首を傾げる。
「なぜ、銀夜と戦わせる? 憎悪で自分を見失う者は、自滅するだけだ」
「だからこそ、迷わずに思う存分戦ってくれるからね。その分、“アクロの心臓”の目覚めが早くなる。この計画は、たぶん彼もわかっているはずだ…」
*****
レンと銀夜の脳裏に、初めて会った時の夜が鮮明に蘇った。
どちらも身内を奪い奪われている。
「やっと会えたな」
レンはわずかに口角を上げるが、目は険しく、声も唸るようだった。
今にも飛び掛かってきそうなレンの雰囲気だったが、銀夜は余裕があるほどだ。
「……このバン、泉の形見だったんだけどな…」
無残にも煙を上げて粉々に散らかった黒のバンを指さす銀夜に対し、レンは「そうかよ…」と冷たく見下ろす。
「あいつ結局死んだのか」
泉を追い詰めた挙句に逃がしてしまったが、レンはそのあとの成り行きは知らないままだった。
「気に病むなよ。おまえが殺したわけじゃない…。オレがトドメを刺した」
あっさりと言ってのける銀夜に、レンは露骨に不快を示した。
「……やっぱり気持ち悪ィよ、おまえら。仲間だろ」
「勝又の手にかかっちまったんだ。オレじゃ救いようがなかった」
「勝又…さん…?」
「ああ。仲間ヅラした、あの勝又のことだ。おまえらは結局、あいつのことはなにも知らないままなんだろ? 一緒に行動してるってのに……」
小首を傾げる銀夜は、レンの瞳から窺えるなにかを探っている様子だった。
「ああ…。おまえは大丈夫そうだな。他の仲間が「大丈夫」って言ったから信じ切ったところか。今でも勝又のことは疑ってるってのに……」
「……っ!!」
見透かす目は、勝又の目と重なった。
レンは背筋が寒くなる。
「…母親が「大丈夫」って言ってたから、ずっと暴力的な父親から離れなかったんだろ? いつかまた仲良し家族に戻れるって…。…今も同じ状況になってるの、気付いてんのか?」
「な……」
なぜそれを、と口にする前に、銀夜は「愚かだ」と嘲笑した。
「だからおまえはそれを逆手にとられて利用されてんだろーが、あのジジイに!」
「ぐ!?」
銀夜がタクトのように人差し指を上げると、レンは左肩に痛みを覚えた。
右手を肩口に回して突き刺さったものを引き抜く。
黒のバンにあったドアハンドル部分だった。壊れたことでナイフのように鋭くなっている。
「恐れるな。遠慮なく憎悪をぶつけてこい。爆発的な感情は、“心臓”を呼び覚ます撒き餌だ」
挑発的に笑い、足下に釘を散りばめた。
銀夜が両腕を広げると、車だった部品と釘が一斉にふわりと浮かび上がる。
「…!!?」
頭部に違和感を覚えた。
被っていたはずのキャスケット帽が真上に浮いたからだ。
「え…!?」
「そんなもので隠せるわけねーだろ」
銀夜の嘲笑を含めた言葉に、レンは帽子をプレゼントしてくれた水樹のことを思い出す。
『これで隠すといい』
「ま、待て…」
帽子に手を伸ばすが、風船のように浮かび上がるだけでジャンプしても届かない。
銀夜は大量の釘を操った。まるでイワシの大群だ。
的はレンではない。
「やめろ!!!」
レンが叫ぶと同時に、帽子の内側に入り込んだ釘が、別々の方向へと飛んで帽子を無残にも細かく引き裂いた。
近くにいたレンの肌も掠め、手を伸ばしたレンは力なくその場に尻餅をつく。
散り散りとなった帽子が儚く舞う中、レンは茫然とした表情だ。
チン、と音を立てて手元近くに落ちたのは、帽子に付けていた星形の缶バッジだった。
「執着は身を滅ぼすぞ。所詮は物。いずれ壊れて捨てられる。……ああ、人間も変わらねえな。おまえの仲間も勝又からすれば只の物だ。その帽子みたいに、ボロボロに使われた挙句に…」
遮ったのは、レンの激しい漏電だった。
発光したことで、銀夜は思わず目を細めた。
バチッ、バチッ、と音を立てながら漏電しているレンはゆっくりと立ち上がって銀夜に振り返る。
左手には、缶バッジを握りしめていた。
「もう…喋るな…。全部…あとで全部確かめるから……。今すぐここで死んでくれよ」
絞り出すような声だった。
必死に冷静になろうとしている様子だったが、今にも糸が切れそうである。
「今すぐ、なんて焦るなよ。じっくりいこうぜ」
銀夜はいやらしく笑い、再び大量の釘を浮かばせた。
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