14:誰だ
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崖伝いの車道に、黒のバンが寄せて停められていた。
ひとり運転してきた銀夜は、車を降りてそこから森を見下ろす。
鬱蒼とした森が広がり、目的の湖を目視することはできなかったが、銀夜の中にあるコンパスのような直感によって自然と方角を向くことができた。
(ああ…。どこにあるかわかるぜ…)
能力者も続々と集結している。
それぞれが何の能力を持ち、誰に従っているのかさえ見通せた。
面白味もなく、卑下するほどだ。
(親父……)
無意識に胸に当て、父親を思い起こした。
飛来した“ソレ”は室組を含め、裏の社会を混乱に陥れたのだ。
ある者は突然拳銃で己のこめかみを撃ち抜き、ある者は能力を使って下剋上を企て、ある者は立ち位置の不変を望んだ。
銀夜の父親も能力者になったが、他の能力者とは違うものだった。
『親父…?』
血の繋がった家族の前でも感情を露わにしなかった父親が、初めて涙を見せたのだった。
『銀夜…、おまえも残ったか』
自宅の庭で2人きりで会話をしていた時、銀夜と父親に飛来したのはほとんど同時だった。
銀夜は父親の初めての涙に狼狽える。
『銀夜…、どうやら…私に欠けていたのは…―――』
それを聞いた銀夜は耳を疑った。
『なに言ってんだよ親父! そんなものがなかったからここまでのし上ってこれたんだろ!?』
思わず怒鳴っていたが、父親はそれすらも慈愛の表情で頷き、受け入れる。
言い返そうものなら容赦なく殴りつけてきた父親がだ。
『銀夜…、予定より早いが、私のあとを継いでくれ』
『は…?』
『やることができたんだ。“あの方”を…守らなければ……』
何十年も先だと思っていた話を切り出され、銀夜は混乱した。
目の前にいるのは、自分が知っている冷酷な父親ではない。
『“あの方”って…誰だよ?』
『すべてを司るお方だ』
誰にもへりくだったことがない、むしろ相手が頭を垂れる存在だった父親の口から「あの方」と恍惚げに敬う言い方に気持ち悪さを覚えた。
聞き返す前に、父親は“あの方”や飛来したものについて語り出す。
自身に与えられた役割についてもだ。
先程まで、日常的だった黒い仕事の話をしていたというのに。
裏社会の絶対的な権力を持っているはずの父親の人格に亀裂が入れられたのだ。“あの方”の意思によって。
『じゃあ、オレ達は死に損ないか…』
皮肉を込めて言ったつもりだったが、父親は銀夜を優しく抱きしめた。
『死なせはしない。混乱は起きるだろうが、みんなおまえにとって家族だ。私の能力があれば、正しい方向へ導くこともできるんだ…』
父親はそう言って微笑み、息子の頭に手を触れようとする。
銀夜は一瞬、冷笑を浮かべた。
『気持ち悪ィ…。誰だおまえ』
パァン!
父親が銀夜の頭に触れる前に、すでに懐から拳銃を取り出していた銀夜は父親の側頭部に銃口を押し付け、引き金をひいた。
それから銀夜は、父親の胸を切り裂いてある物を奪い、自ら開いた自身の胸に押し込んだのだ。
瞬間、見せられたものがある。
脳裏に押し流れてきた光景を見終え、初めて涙を流した銀夜は、空笑いをして「馬鹿げてる」と吐き捨てた。
(こんなもののせいで、オレ達の親父は…!!)
どろついた憎しみの矛先は決まっていた。
親殺しの件は隠したつもりはなかったが、室組も混乱していたため、その最中に、誰かに殺されたものだった、自殺を図った、と曖昧な情報だけが交錯していた。
気付けば、ひとりきりだった。
能力を得ても、銀夜に従いついてきた仲間達はもういない。
「寂しい…。ああ…寂しいとは違うな……」
(親父に欠けていたものは、仲間意識だ。極悪人だって人間なんだ。情に流されてヘマをした奴なんて散々見てきた。親父はオレも含めて周りの奴らを道具の様に扱ってきたからこそ、取捨選択に迷いはなかった。使える奴ほど嘘の愛情をかけ、忠義と信頼を得ていた。そいつに何を言えば心をつかめるか、家族・経歴を調べ上げた挙句すべて計算で動いていたが、それでよかった。オレはそんな王様みたいな親父が好きだった…。他の奴らだって…)
遠くから爆発音が聞こえた。
ここから遠く離れた車道から黒煙が上がっているのが見える。
「暴れだしたな…。あれは…御館華音か。あの女の場所さえつかめれば問題ないはずだ」
もう一度車に乗り込もうとした時だ。
幾度も経験した、確かな殺意が向けられた。
「!!」
飛んできたのは、バレーボールサイズのプラズマだった。
銀夜は理解するよりも早く車から大きく飛びのいた。
ドオンッ!!
プラズマが当たった黒のバンが爆発する。
爆風と熱気、それに伴って煙を浴びながらも、銀夜は現れた人物を目で捉えた。
煙の中に浮かぶ人影。
銀夜は旧友と再会したかのような懐かしさを覚えた。思わず口角が吊り上がる。
「久しぶりだな…。不意打ちとは行儀悪いじゃねーか。北条レン」
ゆらりと煙から姿を見せたのは、レンだった。
憎悪を纏う目は、銀夜を捉える。
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