13:また明日
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バルコニーで宴会を始めて1時間以上が経過した。
「ひゃははははは!!」
屋根の上にのぼった華音は、甲高い笑い声を上げながら両手に持った花火を振り回していた。
「華音! 落ちるぞ!」
ほろ酔いの森尾は慌てて華音を追いかける。
「♪」
由良はバルコニーのテーブルに腰掛けながら、グビグビと喉を鳴らしてカルピスの原液を飲んでいた。
レンは屋根の上にいる森尾と華音を見上げながら、ゆっくりと果実酒を飲み、隣の由良に愚痴をこぼす。
「広瀬と岡田にも声かけたんだけど、来なかった」
「あいつらが来るわけねーだろ」
「たしかにダメもとだったんだけどな。広瀬には「興味ない」って言われるし、岡田には「ヤンキー怖い」って逃げられるし、あいつらも断るにしても言い方ってもんがあんだろが! ―――……恵にも…さ…」
怒気を含んだ声から一変して悲哀を含んだ声に、由良が顔を向けた。
「部屋にはもう閉じ込めるカギはかかってないのに、出てこようとしない…。誘っても、怯えるように「ごめんなさい」がドア越しに返ってくるだけで、顔も出してくれなかった…」
「そう落ち込むなって。とりあえずは監禁が緩んだだけでもいいだろ」
由良にそう言われて「ん…」と相槌を返すレン。
すると由良は、花火が入っていたビニール袋を漁りだした。
「おまえ、花火のほかになに持ってきてんだ」
「あ、飲みながら遊ぶかなーっと思って、トランプとか色々…」
「この前やったツイスターゲームは?」
「アレは由良が無双とセクハラするから永久に封印した」
無理な体勢で腰を痛めかける森尾の上に、由良の余裕のブリッジが容赦なく襲いかかったシーンを思い出す。レンも森尾に続いて同じ目に遭った。
回想するレンをよそに、由良は袋から百人一首の箱を取り出して少し驚いていた。
「百人一首もあんのか…」
「屋敷の持ち主の趣味だろうな。花札や麻雀もあったぞ」
「このテーブルスペースで百人一首は無理だろ」
「なんとなく持ってきただけだし。……百人一首といえば、由良の名前が入った札があったよな。えー…、由良の門(と)を、渡る舟人かぢを絶えー…………ん?」
思い出せず首を傾げるレンに、由良は「なんで上の句だけ覚えてんだよ」と笑って下の句を口にする。
「行方も知らぬ、レンの道かなー」
レンは「勝手に迷子にするな」と言って軽く由良の肩を小突いた。その口元は小さく笑っている。
「レン、火くれ」
「完全にライター扱い…」
呆れながら、レンは差し出された線香花火の先端に人差し指を近付けて放電した。
他の手持ち花火ほどの華やかさはないが、パチパチと小さな火花を散らす線香花火も見惚れてしまうほど綺麗だ。
「あ、ちょっと持って」
「え」
「カルピス、カルピス…」
線香花火を一時的にレンに持たせ、ビニール袋を漁って“カルピス”と書かれたビンを取り出して栓を開け、飲み始める由良。
(こいつ、いつか糖尿になりそう…)
レンは「ほどほどにしとけよ…」と言いながら由良に線香花火を返す。
それから由良に背中を向けてビニール袋を漁り、「そろそろジンジャエールくらいにしておくか」とジュースを探すと、由良の好きなチョコレートジュースも買ったことを思い出した。
(あ。カルピスじゃなくてこっち渡せばよかったか…)
ちょうどその時、線香花火の終わりを告げる赤い玉が、ぽとりと落ちた。
「え…」
線香花火の音が聞こえなくなって振り返ろうとするレンの背中に、由良が抱き着いた。
「!? なにす…っ」
反射的に振り払おうとするレンだったが、「レン~」とらしくない甘え声にフリーズする。
屋根にいる華音と森尾も、思わず凝視していた。
ぐりぐりとレンの肩に額を擦りつける由良の仕草はまさに猫だ。
「……………」
小さくため息を漏らしたレンは、由良の頭を優しく撫でた。
「レン…」
「!」
真剣な声色の由良の声が耳元に囁かれる。
レンは酔いから完全に醒めていた。
「な…、なに…?」
聞こえるのではないかと思うほど心臓が早鐘を打ち、顔は誰が見てもわかりやすいほど真っ赤だ。
ウプ………。
由良の次の言葉を待っていると、不吉な音が聞こえた。
「吐く…」
とんでもない問題発言に一気に顔の熱が引いたレンは、ばっと肩越しに振り返る。
頬を膨らませる由良の顔は真っ青で、片手で口を押さえていた。
そこへちょうどレンの足下に空ビンが転がってきた。
由良が先程飲んでいたもので、ラベルには確かに“カルピス”と書いてあるが、右端に小さな文字で“リキュール”とも書かれてある。度数も高い。
見守っていた森尾も真っ青になった。
「ゔ~~~」
「はあああああ!!?」
由良は唸り、レンは叫びながら体勢を変え、崩れそうな由良の体を支える。
由良は限界が近い様子だ。
「ま、待て! まだ吐くな!! 吐くなよ!?」
焦りながら、レンは由良の背中を擦りながら森尾に勢いよく振り向いた。
「森尾―――! 洗面器ぃ―――!!」
「急に言われても!!」
当然、そんなもの今持っているわけがない。
焦るレンの視線が、花火や酒ビンを入れていたビニール袋を捉えた。
手を伸ばすが、由良に前からもたれかかられているため届かない。
再び、森尾に振り返る。
「ビニール! そのビニール取ってくれ!!」
酔った華音を背負って能力で飛んできた森尾は、拾ったビニール袋の中の物を床に落としてから、すぐにレンに手渡した。
「に゛ぃ~~~~~っ」
「「ギャ――――ッ!!」」
限界を迎えた由良に、レンと森尾が悲鳴を上げる。
「ひゃはははは!!」
森尾に背負われている華音は、目の前で起きた光景に爆笑しながら花火を振り回していた。
*****
その頃、勝又とフクロウは窓からレン達の様子を窺っていた。
バルコニーで騒ぐ声は嫌でも耳に入る。
「いいのか? いよいよ明日だと言うのに、あんなことをさせて…」
フクロウが呆れた顔をすると、勝又はコーヒーを一口飲んで薄い笑みを浮かべた。
「……だからこそだよ。明日は、彼らにたくさん働いてもらわないといけない。今は楽しませてあげようじゃないか…。彼らにとっては、最後の夜だからね…」
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