46:あの時、出会ってなかったら…
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レンと由良が乗ったバイクは、閑散とした大通りを疾走する。
レンはゴーグル越しに周囲に目を配った。
車どころか、人の姿も見当たらない。ほとんどが都内を離れ、避難したのだろう。
障害物もなくスムーズに走れるのは、レンとしてはありがたいことだ。
このまま高速道路に乗ろうとしたところで、由良に声をかける。
「由良、少し寄りたいところが…。!」
言いかけたとこで、高速道路の料金所付近から出てきた、ふたつの人影に気付いた。
「【止まれ、そこのバイク! 野次馬共め!】」
「【ここから先は通行止めだ! 死にたいのか!】」
米軍の兵士が2人、こちらに拳銃の銃口を向けて叫ぶ。
ひとりはがっしりとした体格のいい巨漢で、もうひとりは細身で顔面に包帯を巻いていた。
「やっちまうか?」
由良は臨戦態勢だ。ぺろりと上唇を舐めてシャボン玉を出そうとする。
「あ、待って」
兵士達には見覚えがあり、気付いたレンは一度バイクを停車させ、その場に停めて確認の為に兵士達に歩み寄った。
兵士達は警戒して拳銃を構え直す。
「【やっぱり、おまえらだったか】」
ある程度距離をとり、レンは英語で気さくに喋りかけ、ゴーグルとヘルメットを脱いで素顔を露わにした。
「「【!!?】」」
その顔を見た瞬間、兵士達は驚愕の表情を浮かべる。
「【お、おまえ…っ】」
細身の兵士の顔は真っ青になり、身体がガタガタと震え出した。膝までガクガクと踊っている。拳銃を構える手元も危うい。
「【ひさしぶり~、兄弟仲良くやってる?】」
悪い笑みを浮かべるレンはひらひらと手を振った。
その後ろから、バイクから降りた怪訝な顔の由良が近付き、レンに声をかける。
「レン、知り合い?」
「ああ。プラットホームで殺し合いした仲」
「それ知り合いっつーの?」
レンが気さくに声をかけたのは、プラットホームでアンジェラと共に戦った特殊部隊候補・αβ兄弟だった。
「【ヒィッ!】」
レンと目が合ったβはαの後ろにさっと身を隠す。
本当に同一人物か、人違いじゃないのか、とレンは自身の目を疑った。野生のクマにばったり遭ったようなリアクションが地味に傷つく。
初対面はいきなり不意打ちで撃ってくるような狂気的な性格の印象を持っていたが、今は借りてきた猫のようにおとなしかった。なんだか見ていてかわいそうになる。
「レン…、おまえあいつになにしたんだよ…。めっちゃ怯えてんじゃねーか」
「馬乗りになって殴り続けたくらいしか心当たりがねえ」
「それそれ」
理由は間違いなくそれだ。βがトラウマになっている。
βとは反対に、αは落ち着いていた。いつの間にか拳銃を下ろし、レンと由良を見据える。
レンはわずかに身構えた。
さすがにプラットホームの時のように、今も放電対策をされているとは思わないが、念のためにほんの少しだけ身体から電流を放出して威嚇しておく。
「【会いたかったぞ…。命の恩人!!】」
「……んん?」
くわっとした強面の表情だが、αに敵意を感じない。
「【知っての通り、私は死にかけたが、あなたともうひとりの女性に助けられた…。弟の銃弾で死にかけた時、治療を受ける前にあの女性に言われたんだ…】」
『【あんなに大怪我してる彼女があなたのこと、「まだ生きてるから、先に助けてやれ」って。無事に命が長らえたら…、いつか彼女に感謝してよね】』
治療前、アンジェラはαに耳打ちしていた。
「【こうして生き延びることができたうえに、治療中は超絶に痛かったが、身体も弟共々…健康になった!】」
ムキッと肌ツヤのいい両腕の筋肉を見せつけられる。おそらく、ドーピングでボロボロの身体も、アンジェラの治療で元の健康体に回復したのだろう。
「【よ、よかった…ね?】」とリアクションに困るレンは引きつった笑みを返す。
「【あれからドーピングはやめている】」とαはとても顔色の良い顔できっぱりと言い切った。ドーピングの依存性からも解放されたらしい。
「【プラットホームはあんなことになったが、おまえ達も生きていたんだな。私達は仲間に救助されてあそこから避難したが、どうやって脱出したのだろうかと気がかりだったんだ】」
「【あー、そこはなんとかな…。見たところ、弟とはちゃんと仲直りしたんだな】」
「【殺されそうになったくせに】」と付け加えるレンに、αは苦々しい顔で苦笑した。
レンが視線を向けるだけでもβはビクッと大袈裟に震える。
「【弟の暴走を許すのが兄貴だからな】」
「【いやいや、兄貴…。助かったあと、オレの顔の腫れが引いてきたあたりで殴ってきただ…ぐえっ】」
前を向いたままのαに、βは頭をヘルメットごと小突かれた。
「【……私と弟は特殊部隊候補だったが、こちらから頼んで降格させてもらった。今では陸軍の一兵士だ。……たくさんの仲間を失ったうえに、あんな目に遭ったんだ…。割に合わなくてな。“心臓”や能力者(P.S.N.P.)に関わるとロクなことはないと痛感した】」
「【おたくらの給料がいくらかはわかんねーけど、賢明な判断だな】」
得意げな顔をしてそう言ったのは由良だ。
じっとりとした目で由良を見るβは「【あ】」と気付く。
「【こいつ…、どういう手を使ったかはわからねーが、D2殺った能力者だ…!】」
なんでここに、と再びガタガタと震えるβに、由良は楽しいオモチャを見つけた子どもみたいな顔をしながらβに近付き、「Boo!」と両手を上げて驚かす。
「Aaaaargh!!」
βはこの世の終わりのような悲鳴を上げながら、すぐ近くの料金所ブースの中に隠れた。ゾンビに追われた時の逃げ方だ。
「やめてさしあげろバカ」
呆れるレンは、しつこく追いかけようとする由良の襟首をつかんで止める。
「【情けない姿だが、前よりも落ち着いてくれて付き合いやすい…】」
弟の醜態に呆れながらも、αは薄笑みを浮かべて安堵の表情を浮かべた。
それから、打ち解けたタイミングでレンの目の前に立って目を合わせる。
「【アラン・ウェストブルックだ。弟はバリー】」
右手が義手なので、あえて左手を差し出された。レンは握手に応える。
α―――アランはそこへさらに右手をのせて軽い力で握りしめた。
料金所ブースの窓から兄を見守るβ―――バリーは「【げ】」と顔を歪め、「【マジかよ…】」と呟く。
「【あの時の、もうひとりのレディはいないのか? 彼女にも、ケガを治してもらった礼がしたいのだが…】」
アンジェラのことを言っているのだと察する。
アランの目がアンジェラの姿を探そうとしたところで、レンは正直に「【ここにはいない】」と首を横に振った。
「【プラットホームの時より危険だからな、この戦場には来ないと思う。こっちとしても、それは望んでない】」
「【そうか…。そうだな、その方がいい】」
「【礼の方は、あたしから伝えておくよ。…この戦争で生き残ったらな】」
「【ふむ…。しかし、こんな細腕だったか…。筋肉はある程度ついているようだが…、私達はこの手に負けたのか…】」
「【そりゃあアンタと比べたら小さいだろうけど…】」
まじまじと不思議そうにレンの手を見下ろすアランに、レンは小さく苦笑する。
「……………」
長い間握手する様子をレンの後ろから眺める由良。
やがて、ピク、とその眉間に2本の縦線が浮き上がった。
「【ちょっとー、ウチの子ナンパするのやめてもらえますぅ~~?】」
ふざけた口調で言いながらレンの肩に右腕をかけ、ぐいと強く引っ張ってアランから無理矢理引き剥がした。
「ちょ、由良っ、急に引っ張んなって」
思ったより強引な力に戸惑うレン。
由良はレンの肩にアゴをのせて促した。
「なあー、もう早く行こうぜ―――」
「わかったわかった。……えっと…、【一応聞くけど…、通っていい?】」
アランとバリーの後ろを指さすレンに、アランはバリーと一度目を合わせ、渋々頷いた。
「【通さないと言っても聞かないのはわかっている。…そいつに殺されたくないからな】」
不機嫌そうな由良の表情を窺ったアランは、肩を竦めて道を開ける。
「【おい、バリー】」
「【ヒハハッ、勝手に地獄に行って来いよ、能力者】」
バリーは嬉々として道を開けた。ほっとしつつ、もう2度と関わりたくないと言いたげな表情だ。
ヘルメットを被り直したレンは、由良と再びバイクに跨り、エンジンをかけた。
「【悪いことは言わねえから、“心臓”と戦うのはやめとけ。たぶん、銃どころか、ミサイルも効かないと思う】」
「【…忠告、感謝する。…しかし、我々も意地がある…。故郷が攻撃されたんだ、黙っているはずがない】」
アランは礼儀正しく敬礼するが、揺るぎない瞳を見せる。命令に背いてその場から離れる気はなさそうだ。
「【……せっかくできた縁だ。死なれると目覚めが悪い。…気を付けて】」
そう言ってレンはバイクを発進させ、アランとバリーの間を通り抜け、料金所を潜り抜けて先を急いだ。
「レンって色んなオトモダチがいるんだな。オモシレー」
「まったく…、妙な縁ばかりだよ…」
そのつもりはなくとも、勝手に繋がっていくのだから。
それを鬱陶しいと思ったことはなく、不思議な心地よさがある。
(由良…、おまえとも…)
フ、と笑みを浮かべるレンは内心で呟く。
「ところで、寄りたいところって?」
アラン達と遭遇する前にレンが言ったことを聞き逃しはしていなかった。
「……あー…、あのさ…―――」
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