10:なにもなくなるのは
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
屋敷に戻ってきたレン達は、まず傷の手当をすることにした。
リビングで、レン、由良、森尾が上半身の服を脱ぎ、長いソファーに座りながら包帯を巻き合う。
タンクトップ姿のレンは由良の右肩から右胸にかけて包帯を巻き、その背後では、森尾がレンの頭に包帯を巻いていた。
「…つっ……」
レンが緩まないようにきつく縛ると、由良は小さく呻いた。
「あ。……強かったか?」
「……おまえ、誰かに包帯巻いたことねーだろ」
「自分じゃないから勝手がわかんねーよ…」
口を尖らせながらも、レンは少し緩めてやろうと指を動かす。
由良はガーゼに消毒液を染み込ませ、あらかじめガーゼの外側に十字にテープを貼り付けていた。
「もう少し優しくしてくれよ…と」
それから、ベロン、と左手でレンのタンクトップの裾を胸元までめくり上げ、左わき腹の傷口にガーゼを貼り付ける。
「なにす…っ、痛っっ~~~」
たっぷりの消毒液が傷口に沁み、レンは露骨なセクハラに文句も言えず悶えた。
「自分でやるのにぃ」と半泣きなレンにヘラヘラと笑う由良に、森尾は「おとなしく手当てできないのか」と呆れる。
「レン、太もももケガしてただろ、下も脱げッ」
「トドメさされてーかテメェ!」
「ふざけてないで、由良も、顔の傷に貼るぞ」
「オレのは消毒液で拭くだけでいいって」
実際、受けた直後は右目が開けられないほどの熱傷だったが、時間が経つにつれてまぶたも開けられるようになり、新しい皮膚も形成されていた。
能力者だからこその回復力である。
「森尾も、治りかけてるな」
レンは森尾の背後に回り、背中の熱傷を見て安堵した。
早く治るように、と傷口に消毒を塗ってから包帯を巻く。
太輔から受けた治らない火傷のようにならず、「よかった……」と森尾はほっとしていた。
レンの横では、先に手当てし終えた由良がのんびりと菓子を食べている。
(……買い物だったはずなのに、なんだか…、長い一日だったな…)
そう思いながら、レンはまぶたが重くなるのを感じた。
徐々に眠くなってきたのだ。
「知ってるか? レン」
「なにが?」
投げられた森尾の言葉に首を傾げる。
「オレと由良の前にニセのレンが現れた時、由良は一発でレンじゃないって気付いて…」
とても気になる内容にレンの眠気が覚めかけた時だ。
カンッ!
森尾の頭部に、缶クッキーの蓋が投げつけられて直撃した。
「いらねえこと言ってんじゃねーぞ、モリヲ」
「こ…のっ!」
ついに怒った森尾が由良に飛びかかる。
どちらも怪我人だというのに、由良と森尾が争っているのを黙って眺めるレンではなかった。
「おまえら、ケガしてんだから争うんじゃ……」
ガンッ!
「へぶっ」
レンのアゴに救急箱が直撃した。珍しく仲裁役に入ったと思えばとんだとばっちりである。
救急箱の中身が散乱し、レンはその中のビンを確認もせずにつかみ、怒りを込めてぶつけてやろうと振りかぶる。
「おまえら―――!!」
だが、足下にあった別のビンを踏んでしまい、その拍子に手につかんだビンは真上へすっぽ抜け、バランスを失ったレンの体は由良と森尾に向かって転んだ。
「いてっ」
由良と森尾の間に倒れこみ、いったん争いが収まったと思いきや、
ガシャンッ
すっぽ抜けたビンが宙を掻いてレンの脳天に当たって割れてしまい、レン達は中の液体をモロに浴びた。
消毒液とも知らずに。
「「「―――――!!!!!」」」
当然、体中の至る所にある傷口に沁み渡り、3人は声にならない悲鳴を上げるのだった。
それからしばらくして、勝又がリビングにやってきた。
その右肩にはフクロウが留まっている。
「留守の間、任せてすまなかったね」
「まったくだ。せっかく集めた“仲間”を減らす気か。室銀夜
「まさか…」
フクロウの質問に薄笑みを返す勝又は、リビングの中の様子を目にして動きを止めた。
「? どうした、勝又」
「シー…」
フクロウに中の様子を見せると、中にいたレン、由良、森尾はソファーの上で手当てを受けた格好のまま眠っていた。
中心に座る由良の肩にレンが頭をもたせかけ、体勢の悪い森尾はソファーから落ちかけうなされている。
その周りの床には救急箱の中身や食べかけの菓子類が散乱していた。
「これでは先が思いやられるな」
フクロウは翼を広げ、「やれやれ」と呆れる。
「まあまあ、3人とも疲れてるんだ。ゆっくりと休ませてあげよう……」
勝又は微笑んだあと、フクロウを連れてリビングのドアを静かに閉めた。
それから朝を迎えるまで、リビングは3人の穏やかな寝息に支配された。
.To be continued