35:わかってるからこそ…
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D2はトランシーバーでマクファーソンと連絡を取っていた。
「【隊長、今1人…、隻腕の能力者を始末しました】」
“【よくやったD2…。まだ何人かいる。任務を続けろ】”
「【了解】」
返事を返したあと通信を切り、ふうっ、と息をついて立ち上がる。
前を見ると、額から血を流した由良が仰向けに倒れているのを確認した。
目は見開かれたままだ。
拳銃をおろし、由良に近付く。
(【手強かったけど…、頭を撃たれれば能力者だって死ぬ】)
ふと、壊された天井を見上げた。剥き出しになっていて、気持ちのいい青空が見える。
天井を壊していくシャボン玉を思い返した。
(【シャボン玉か…。懐かしいな…。ボクも遊んだっけ……】)
自分の子供の頃を思い出し、口元を緩ませる。
そこで、視界の端に何かが映った。
大きなシャボン玉だ。
ありえるはずがない。思考が停止し、そちらに振り向いて凝視してしまう。
その時、由良は上半身を起こし、不気味にほくそ笑んだ。
「【!?】」
はっとしたD2が拳銃を構えようとしたが、遅かった。
バシュッ
由良のシャボン玉が右手首に当たり、破裂し、拳銃を持ったD2の右手を落とした。
落ちた右手を見て、D2の頭が一瞬真っ白になる。
それは襲いかかった痛みで覚まされた。
【く…! うっ】
その場に膝をつき、咄嗟に左手で切断口を押さえつけて止血する。
「へ、へへ…」
笑いながら由良は、撃たれた脇腹を右手で押さえながら立ち上がった。
D2は口元を笑わせ、睨みつけながら由良に言う。
「【……非道(ひど)いな。どうせ殺すなら、ひと思いにやってくれればいいのに…!】」
「【そーはいくか…。テメーには腹ぁ撃たれてんだ。そんな楽な死に方はさせねえよ…】」
由良は不敵に笑って英語で返す。痛みのせいでその呼吸は荒い。
「【……そう…】」
D2は落ちた自分の右手を弱々しい目で見下ろしたあと、再び由良に顔を上げて尋ねた。
「【……で、なんで無事なんだ? 正確に狙ったつもりなんだけど】」
「【ここだろ?】」
由良は人差し指で額の傷口に触れ、言葉を継いだ。
「【見事なヘッドショットだったな。おかげで助かったぜ。あんた絶対頭狙ってくると思ってさ。小っさいシャボン玉、ここに作っておいたんだ】」
親指と人差し指で輪っかを作り、自分の額に当てる。
「【ちゃんと脳天狙ってくれるように、わざわざ上から遮蔽物壊してやったんだぜ】」
D2が自分を殺そうとする際、確実に頭を狙っていたことを利用した作戦だ。シャボン玉は由良の意思で割れるため、指にのせることもできる。
額に作られた小さなシャボン玉は前髪で隠れ、D2はそれに気付くことができなかったのだ。
結果、シャボン玉は銃弾を粉砕し、まるで撃ち込まれたかのように由良の額に小さな円状の傷をつけることに成功した。
「【そう…なんだ…。読み損なったのはボクの方か。じゃあ…、負けだ】」
D2は諦めたかのように弱く笑い、目を伏せる。
「【そっ。―――どうする?】」
尋ねる由良に、静かに答えた。
「【どうって…、右は利き腕だったんだ。これじゃ、仕事にならない。……ボクは殺すことでしか、生きていけないから…】」
今までの自分の役割を思い出す。
戦場では、狙撃手としての仕事を全うしてきた。
テロリスト、敵の兵士、さらには幼い子供まで撃ち殺してきたのだ。
それが自分の生きがいで、役割なのだから、と。
だが、右手を失った今、先の自分にあるものは、何もない。
右手自体が自分自身の“先”だったからだ。
「【……殺してくれ】」
懇願するように、小さく由良に頼んだ。
由良はじっとD2を見下ろし、ふっと笑った。
「【……いいね、その精神。オレは好きだ。あんた、名前は?】」
D2は顔を上げ、口元を緩ませて答える。
「【……カール。カール・アドラー…】」
由良はトドメを刺すために、D2―――カールに一歩近づいた。
「【じゃあな、カール】」
別れの言葉を告げ、カールと向き合いながら、カールの周りに大量のシャボン玉を浮かばせた。
躊躇いもなく、カールの体を徐々に消し飛ばしていく。
カールは断末魔の悲鳴を上げることもなく、歯を食いしばった。
(【ボクは、殺すことで生きて】)
左手を伸ばし、目の前の拳銃を切り離された右手からもぎ取る。
その思いがけない行動に、由良は驚いてしまい、咄嗟に動くことができなかった。
上半身だけとなったカールは、執念の笑みを浮かべ、最期の足掻きとばかりに拳銃の銃口を由良に向け、引き金を引く。
ドオンッ
発砲された銃弾は、由良の右胸を撃ち抜いた。
撃たれた由良は後ろによろめく。
その背後の床には、由良によってシャボン玉で破壊された大きな穴があった。
残されたカールの左手と握られた拳銃が、床に落ちる。
「【カール…ッ】」
由良は口から血を吐き、カールの名を口にした。
そのまま、背後の穴に向かって倒れ、海へと落下する。
由良とD2が戦ったフロアには、由良が破壊した跡と、D2の血痕、左手と、それに握られた拳銃だけが残された。
.To be continued