31:一度だってない
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奈美より距離が離れた防波堤沿いで、レンは息を弾ませながら走っていた。
完全に奈美の姿を見失ってしまい、「ヤバイヤバイ」と焦る。
「はあっ、はあっ…。奈美…、はぁ…っ、速いって……。どこ行った…」
途中で足を止めて前屈みになり、息を弾ませた。
“アクロの心臓”の波動のせいで仲間の位置もつかみにくい状況だ。
(……奈美に追いついたからといって、引き留めるのは無理だろうな…。いっそ…そのまま太輔と合流して…一度、話し合うか…。もっとなにか…違う方法が……)
仲間を生き返らせることはできない、その言葉を素直に受け入れることはできなかった。
こちらが暴走することまで見越されているのだ。勝又と同じく、あの見透かしたような目で。
「~~~っ」
むしゃくしゃして、ぐしゃりと髪をかき乱した。
頭に血が昇って冷静さを失いそうになる。
「今は…。とにかく今は、奈美に追いついて……太輔を止めることが先…。先だ…」
優先順位を決め、落ち着かせるように自身に言い聞かせ、呼吸を整えて苛立ちを抑える。
顔を上げ、再び走り出した時だ。
「【そう急ぐなよ、レンセンパ―――イ】
「!」
聞き覚えのある馴れ馴れしい声が耳に入った。
立ち止まって辺りを見回すと、横の茂みからガサガサと音を立てながら出てきた、ポンチョを着た男がレンの前に姿を現せる。
「テメーは…、勝又んとこの…!」
「【ジャスパーだ。覚えてる~?】」
ヘラヘラと笑いながら声をかけてくるジャスパーを睨みつけ、レンは唸るように尋ねた。
「……なんの用だよ…」
「【ここから先に、オレ様はセンパイを通すわけにはいかないってことだ。この意味、わかる?】」
ジャスパーは腕を組み、薄笑いを浮かべながら小首を傾げて聞き返す。
「知らねえよ…。こっちは見ての通り急いでんだ、邪魔すんな!」
「シャ―――ッ」と爪を出して全身の毛を逆立てる猫のように、レンの体から威嚇の電流が漏れた。
「【大丈夫、どこもかしこも同じくらい邪魔ばかりだ。オレの仲間2人が、あんたのお仲間の相手をしてるからな】」
「!」
ジャスパーだけでなく、勝又の仲間がここに来ているということだ。
一気に焦燥感が募る。
「【あいつらを倒すのは、骨が折れるぞ~。最強はオレ様だけど】」
「どけ!」
「【フフン】」と鼻を天狗にするジャスパーに、レンが手を横に振って怒鳴った。
ジャスパーは平然としていて、その反応を楽しんでいるようだ。
「【……あれ? 顔色が変わったな? また失うのが…、そんなに恐いか?】」
「ベラベラよく回る舌だな。引っこ抜かれてーのか!」
手のひらからプラズマを作り出した。
それを見たジャスパーは頭を掻きながら言う。
「【そんなにいきり立つなって。オレも遊びで絡んでるわけじゃないし、仕事だから、ここにいるんだ】」
「あ?」
「【勝又のおっさんが「北条君もこっちに誘ってくれないか?」だってさ】」
「!? 勝又…が…」
レンの瞳に、黒い憎悪が纏う。
見据えるジャスパーは口調を変えることなく続けた。
「【オレ様も賛成~。ってな感じで、どう? メグミちゃんもいるよー。あのコ、いいこだよな。友達なんだろ?】」
「恵……」
勝又に連れ去られて以来、行方がわからなかった友人だ。
やはり勝又と一緒らしいが、ジャスパーの口ぶりから悪いように扱われている様子ではなさそうだ。
「【おっさんにも会いたがってたろ? だからさー…】」
レンは遮るように、「ハッ」と一笑する。
「……説明不足じゃねーの? ……あのジジイ…、再起不能にしてから連れてこい、って言ってなかったか?」
図星なのか、ぎくりとするジャスパー。「【あ―――…】」と目を泳がせて言い淀んだ。
「【言い方はもう少し優しめだったけど…、そうだな。ダメ…だよな。うん。オレ様だって手荒なことはしたくねーけど、アンタ絶対暴れるからさぁ…】」
「わかってるじゃねーか」
「【……おっさんのこと、そんなに嫌ってやるなよ。センパイ達の敵討ちってやつ? やめなよー。不毛だって。おっさん殺しても仲間が生き返るわけじゃねーんだぜ?】」
わかって言ってるわけではないのだろうが、今のレンにその挑発は禁句だ。
舌打ちし、押さえつけるような低い声を出した。
「ホントに癪に障るやつだな…。あたしがあいつを殺したいからだ。仲間だって…“心臓”を使えば……」
『死んだ仲間を生き返らせるなんてこと、できるはずがないから』
由紀恵の言葉が、ノイズとなって脳に反響する。
「……………」
「【今の仲間だって元・敵だろ? それが今では仲良しだ。オレ達もきっとそうなれるって。死んだセンパイ達の代わりにさ!】」
その言葉にピクリと反応した。
「…………今なんつった」
バチッ、と漏れた電気が足下の地面を、鞭を打ったように抉った。
「【!】」
「代わりで済むなら、必死こいて捜し回ってねーんだよ…。太輔達を、由良達(あいつら)の代わりだなんて思ったことは、一度だってない…! テメーが、あいつらを語るな!!」
我慢に耐え兼ね、弾かれたようにジャスパーに殴りかかる。
コブシを振るうと、ジャスパーはレンのコブシを右手のひらで受け止めた。
「【……あらら。オレ様って勧誘ヘタクソだなぁ。じゃあ、強制でいいよな】」
ジャスパーの言葉は冷たい口調に変貌し、瞳が妖しく光る。
ジャスパーの身体からミシミシと軋む音が聞こえ、ゾッと寒気を覚えたレンは、手を振り払い、すぐに後ろに跳んだ。
「【逃げるなよ】」
ジャスパーが両腕を広げて突進してきた。レスリングのような動きだ。
あっという間に距離を詰められる。葵ほどではないがとんでもないスピードだ。
さらに大きく後ろに跳ぶレンは、茂みの中に入り、そこにあった木を背にした。
レンのスピードを上回る勢いでイノシシの如く迫るジャスパー。
タイミングを見計らい、レンは上へ飛んで木の枝につかまった。
メキ…ッ!
勢い余ったジャスパーが木の幹を抱きしめる形となったが、木の方が、クッキーで出来ているかのように脆くへしゃげてしまった。
「!?」
つかまっていた枝の木が倒れる直前に地面に着地するレン。
ジャスパーはくるりと振り返り、両腕を広げたままニヤリと口角を上げた。
「【ザンネ~ン。抱き潰してやろうと思ったのに】」
両腕には、へし折った際に木くずが付着しただけで傷一つない。
レンの目には、ポンチョのせいでわかりにくいが、ジャスパーの両腕が異常なまでに盛り上がっているかに見えた。
抱きしめられれば、死なない程度に全身の骨を砕かれるだろう。
(筋肉を強化する能力(ちから)か…?)
ジャスパーから目を離さず分析するレン。
「【んじゃあ、もう少しノッてこーぜ】」
軽くジャンプするジャスパーに対し、すぐにレンは両手にプラズマを作り出して投げた。
当たる直前にジャスパーが茂みに飛び込んで避ける。
「!!」
ガサガサ、ガサガサ、と木々と茂みからこちらに近付く気配があった。
まるでゆっくりと獲物を狙う野生の肉食獣を相手にしているかのようだ。
レンは薄暗い辺りに目を配り、茂みを掻き分ける音に意識を集中させる。両手にはすでに新しいプラズマを生成していた。
(……飛び出してきた瞬間に、ブチ当ててやる…)
ガサッ、と背後から音が聞こえた。
さっと振り返り、プラズマを投げつけた。
「な…!?」
同時に、飛び出したのはジャスパー自身ではなく、真っ白で長い刀身だ。1メートルほど長いそれがレンの右のこめかみを深く切りつけた。
「ぅぐっ…!」
傷口からどろりと流れた血が、右目と頬を伝う。
「!」
「【あぶね…っ。さすがに脳天突いたら死んじまうじゃねーか】」
わずかに焦った様子のジャスパーが茂みから出てきた。
ジャスパーの左手首からは、皮膚を突き破って白い刀身のようなものが飛び出している。それがレンを攻撃したのだ。
「【センパイ、ナイス反射神経】」
ジャスパーはそう言って親指を立てる。
一度距離をとったレンは右手のひらで目にかかる血を拭い、ジャスパーの白い刀身を凝視した。
(なんだ…? あの白い剣…? ナイフ…? 手首から…、飛び出して……)
「【ああ、これ? オレの骨ー】」
「!?」
ジャスパーは手首から飛び出た自身の骨の刃を見せびらかす。
長刀のように長くしたり、ナイフのように短くしたり、伸縮自在だ。
「【オレ様の能力(ちから)は“骨肉変形”。骨を刃に変え、筋肉も強化させることもできる。顔は骨格が変わるからあまりやらないけど。アキセンパイのように、体をダイヤモンドみたいに硬質化させることはできねえが―――】」
説明している隙に、宙へ跳んだレンはジャスパーの顔目掛けて蹴りを食らわそうと右脚に勢いをつける。
ゴッ
「!」
だが、天草のように片腕だけで防がれた。
「【さっき見た通り、筋肉を強化させることも…、可能だ】」
「く…っ」
ジャスパーは「【フハッ】」と不気味に笑う。
「【……思った以上に…脆いなぁ、セーンパイ♪】」
*****
一方、付近では由良が海岸に向かってふらふらと歩いていた。
「……ああ、ダリィ…。腹も減るし…」
(アンジェラの奴もどっか行っちまうし…)
『ここまで来れたらもう大丈夫やんな? ひとりでいける? オカンついてこか?』
『おこちゃまか、オレは。誰がオカンだ』
こちらに到着して早々、アンジェラとは別行動となった。
持ち金0の状態で置いて行かれたので、常に空腹だ。
ふと、自然に実っているバナナの房を見つけ、手を伸ばす。
「これは食えっかな~……」
その時、上空をヘリが通過した。
「うお!」
プロペラの音と巻き起こる風に驚き、羨ましそうに見上げる。
「……はぁ、オレにも羽根がありゃあな、“心臓”までひとっ飛びなのに」
ため息をついたあと、防波堤沿いの道に出た。
.To be continued