17:一緒に…
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「だ…、誰だ……?」
レンは痛みに呻きながら半身を起こし、その横顔を凝視する。
(室銀夜の仲間じゃないみたいだ…。なら、叶太輔の…?)
右手に小太刀、左手に銀夜の切り落とした手首を握りしめる女は、冷めた横目でレンの姿を捉え、嘲笑うかのように口角を上げた。
眉上で切りそろえられたボブヘアの黒髪に、白い肌、赤紅の唇、背も高く顔立ちも整っている。年齢もレンと同じくらいだ。
上半身は白のカッターシャツに、両腕には黒のロンググローブ、下半身は黒のショートパンツ、ニーハイソックス、黒のブーツを履いている。
腰から垂らしたベルトには小太刀の鞘が掛けられていた。
銀夜は右手首の切断口を左手で押さえながら、唸るように言う。
「まさ…か…、勝又…の……」
「!!」
(勝又…!?)
女は小さく頷き口を開いた。視線は、耳を疑って目を見開くレンに向けられる。
「一応…貴様の仲間になるのか…。私は天草亜紀(あまくさ あき)。こうして直接顔を合わせるのは初めてだな、北条レン。……まさか、生きて会えるとは思っていなかった。勝又様も驚かれるだろう…」
「急に出てきてなんだおまえ…!?」
女―――天草にレンが睨んで声を上げると、銀夜は「そうか…」と状況を呑み込んだ。
「北条…、どうやらオレ達も勝又のシナリオ通りに動かされたようだぜ…」
「!」
「おかしいと思ってたんだ…。北条がオレを見つけるタイミングが早すぎる…。……けしかけたのは、てめえか?」
「私はただ、クギを撒いただけだ」
天草がポケットから取り出して見せつけたのは、5本の釘だ。
もう使用することはない、と無造作に地面に落とした。
「! あのクギ…!」
レンが瞬時に思い出したのは、屋敷から辿るように撒かれた釘だった。
てっきり、銀夜が意図して撒いたものだと思っていた。だが、銀夜を襲撃したあの時、銀夜はレンの登場を予期していないかのような反応だった。
「オレ達を早めに戦わせて、北条の勝手な行動を制限していたようだな…」
「うまくエサに食いついてくれてよかった」
レンと銀夜を嘲笑う天草。
「随分と姑息なマネしてくれるじゃねーか…。なあ!?」
先に怒号を上げたのは、銀夜だった。
「あのジジイ!!」
左手をタクトのように動かす。
浮き上がったのは、地面に散らばった釘の破片と、天草が捨てた5本の釘だ。狙いは天草である。
それらは四方八方から天草にぶつけられた。殺傷能力は低いが、痛みは相当なものだろう。
「「!」」
ギンッ、と硬い物体にぶつかった音がして、レンと銀夜は目を剥いて驚く。
天草は無傷だった。血液ひとつ流れていない。
「な…っ」
弾かれ、さらに細かく砕けた釘の破片が地面に散らばる。
何が起きたのか理解できなかった。
「貴様からの反撃を考えて私が遣わされたんだ。私の能力(ちから)が貴様に負けるはずがないだろう」
((こいつの能力(ちから)は…!?))
銀夜とレンが同時に考えた時、天草は銀夜に一気に接近し、小太刀を突き出した。
ドスッ!
小太刀の先端が銀夜の腹を貫き、天草は容赦なく手首をひねって真上に切り上げた。
それは命まで届く太刀筋だ。
「あ……っ」
血を吐き、糸が切れたように倒れる銀夜。
腸からは鮮血が飛び散り、無表情の天草は小太刀を引き抜いて刃に付着した血を払い落とした。
「貴様の役目は終わりだ、室銀夜。この“欠片”は、持つべきものが持つ…。勝又様は、それを望んでいらっしゃる…」
やるべきことをやり遂げた天草の表情は、恍惚げに口角を上げる。
「北条レン」
「!」
不意に名を呼ばれてレンはビクリと身体を震わせた。
天草はレンにゆっくりと振り返る。
「っ…」
レンは体から電気を漏電させて威嚇するが、天草は役目を終えたというように小太刀を鞘に収めたあと、銀夜の切り取った右手から目的の物をつかみ取り、残った右手は無情にもその場に捨てられた。
「ここで殺しても構わないが、時間がない。さっさと自害した方が身のためだ」
捨て台詞を残し、天草はその場でジャンプして近くの木の枝の上に飛び乗り、そのまま他の木から木へ飛び移って行ってしまう。
「待っ…!」
レンは追いかけようにも、すぐにその姿は見えなくなった。
「くっ……」
天草を追うことは諦めて立ち上がり、重傷の銀夜に駆け寄って膝をついた。
胴体を深く切られた銀夜はすでに虫の息だ。目を覗き込むが、焦点が合わない。
「ごほ…っ。して…やられたな…。最悪…、ああ…、最悪だ……」
「……………最悪なのは同感だ」
レンは複雑な顔をしていたが、止血は間に合うだろうか、と銀夜に手を伸ばした。
だが、銀夜の手が力なくそれを払う。
「触るな…。オレは、このままでいい…。おまえの能力は…、無限じゃねえんだ……。無駄遣いは…存在を消すぞ……」
「…なあ、あたしの能力(ちから)って…? おまえには、視えてたんだろ?」
「はっ…。知らない方がいい…。ただ…、“残したいもの”は…見極めろ…。誰かの席は…あと…ひとつ……」
後半はまるでうわごとだ。
消えそうな命の灯を前に、レンは「待て…」と声をかけずにはいられなかった。あれだけ恨んでいた相手なのに、紙屑のように扱われたその姿は、酷く可哀そうな存在に見える。
「北条…、ここから先は絶望だ…。それでも…、生きたいなら………」
精々足掻け、と言いたかったが、言葉は続かなかった。
朦朧とする意識の中、銀夜はかつての仲間と父親を思い出す。
(終わりか…。親父の命令もなく自分の意思で好き勝手できたのは…、楽しかったな…。―――けど…、自由になりたい、一人で平穏に暮らしたいって願いは…、オレにはなかったものだ…。親父は別に、後継ぎはオレでなくてもよかったはずなんだ…。「後を継げ」って釘刺されたわけでもない…。親父…、“心臓の欠片”を手に入れて見えたのは…、少しでも息子のオレだけを見てくれる、アンタだったよ…)
一筋の涙が流れ、最期の息を吐き、室銀夜は息を引き取った。
「……………」
レンは銀夜の死に顔を見つめたあと、手のひらを銀夜の両目に被せ、見開いたままの目を閉ざした。
「絶望…」
(それでも…、あたしは…!)
立ち止まらず、ただ進むしかない。今すぐに会いたい友人達がいるのだ。
宙を睨み、立ち上がったレンは、痛む身体を引きずりながら森の中を走った。
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