17:一緒に…
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
“死”への欲求を振り払って戻ってきたレンは、肩で息をしながら銀夜を一瞥し、自身の左手のひらを見つめた。
(華音……?)
呼びかけるが、反応はない。
“死”への欲求で満たされた際に現れた華音は、なんだったのか。
(夢…? でも…、華音のおかげであたしはここに……)
眠らせていた過酷な過去を起こしたことで“死”への欲求に従おうとした。
しかし、華音と再会できたことで踏みとどまれたのだ。
由良の存在を思い出すこともできた。
目が醒めてから、銀夜を殴るまでの短い過程が酷く朧気だった。
だが、ゆっくりと浮上する意識の中、確かに聞こえた声は覚えている。
『よかった……。もう…、おまえは……ひとりじゃないんだな……』
(兄貴……)
疑問を抱くレンの様子に、銀夜はくつくつと笑った。
「ふ…っ。くく…。完全にモノにしてるわけじゃ…なさそうだな…。もったいねぇ……」
(いや…、“中の奴ら”がモノにさせたくない…だけか…)
その瞳でレンの内のさらに奥を見据え、自ら進んで奥へ奥へと隠れようとする2人の影を見つける。
「……で、北条、動けないオレを殺すか?」
挑発的な言い方に、眉を顰めるレンの視線がわずかに彷徨う。
「……………」
一度目を閉じて考えをまとめたあと、銀夜と目を合わせて口を開いた。
「―――その前に、聞きたいことがたくさんある…。……わかってたんだよな? “アクロの心臓”を回収した直後、こうなるって…。あの黒い塊が胸を通り抜けたのだって…」
「ははっ、当たり前だろ…。勝又だってそうだ…」
「勝又……」
「ああ。オレもあいつと同じ、“欠片”持ちだからな…」
「カケラ…?」
「……“あの方”のシモベの証だ…。それぞれ役割があって……。まあ、細かいことはともかく、最初はオレの親父が所持していたが、オレが奪ったんだ。―――殺してな」
「!!」
「くくく…。親殺しはおまえと同じだ…。……誰に媚びることもしなかった親父が、人が変わったように“あの方”を崇拝し始めたことが許せなかった…。オレの目的は復讐だよ…。そこも、オレ達似たもの同士だな。皮肉なもんだ…」
「一緒にするな」
同一されることに関して不快交じりに睨むレンに、銀夜は「はははっ…」と笑う。
「…あーそうだな。おまえの親父の始末は、頼んでもないのに北条水樹がやり遂げたんだ。…一緒にしちゃ悪いか……」
「……………どうして」
浮かんだ疑問をレンが口にする前に、銀夜は「どうして…」と遮り、先回りして話し出した。
「誰にも話してない、それどころか自分自身も忘れていた過去を知ってるかってのも聞きたいんだろ? …そいつの暗いところが見えるからだ。見る気がなくても見えちまう…。これがかなりストレスでな…。まあ、使い方次第でコッチの業界には役立つだろうさ」
見えるものは相手の本質と弱みだ。人を利用する仕事をしているのならもってこいだろう。
結局、そんなことに時間を割く余裕はなかった。
銀夜は自嘲するように笑い、小さくため息をついた。
「…勝又と同じと言ったが、まったく似ているわけじゃねぇ。最初から持ってたあいつら側からすれば、オレはイレギュラーな存在だ。できることできないことに限りがある。オレは、最初はおまえらと同じ、磁力を操るだけの普通の能力者だった…。“欠片”が加わったことで、“あの方”の意思を理解し、誰かの“心の穴”が見えるようになっただけ…。勝又みたいに、“導く”力はない」
「“導く”力…」
「おまえには施されてなかったのに、不思議に思わなかったか? あれだけの個性豊かな仲間達が、誰ひとりとして勝又の命令を無視しない」
「…! でも、華音は…!」
“アクロの心臓”に魅了され、横取りしようとしたのだ。
勝又の意思には反していたはずだ。
しかし、銀夜は鼻で笑って一蹴した。
「勝又は「横取りはやめろ」とは言わなかったんだろ? あえて好きにさせた。…どちらにしてもおまえらが死ぬってわかってたからだ。回収さえ終われば、用済みなんだよ。おまえらが渡された最後の台本は、全員、自害だ」
レンは目の前が真っ暗になる。
ここまでがそのシナリオ通りというのなら、今までの勝又の意味深な言葉には合点がいくものばかりだ。
疑念を抱きながらも彼から離れなかったのは、なぜか。それはすでに銀夜が指摘されていた。
由良達がいたからだ。置いていけなかった。
人の心が視える勝又は、離れないとわかっていたから放置していた。
その時、どんな顔で、内心ほくそ笑んでいたのか。
銀夜がここで嘘をつくメリットはないだろう。レンの焦燥感が己の背中を強く叩く。
銀夜の胸倉をつかんで無理やり半身を起こして詰め寄った。
「止め方は!?」
「あるわけねえだろ。“心臓”が回収された時点で止められない…」
「い…、今ならまだ…!」
「もう遅い。ほとんど死に終わってる頃だろ。ここにいる連中どころか、世界中に散らばった奴らもだ」
“死”への欲求は、カラカラに渇いた喉が水を求めるほど強烈なものだった。
身をもって体験しているレンは、じっとしていることができない。
胸倉から手を放し、解放された銀夜は再び地面に背中を打って「うっ」と呻いた。
痛みとは別の冷たい汗がレンの頬を伝う。呼吸も落ち着かず、思い浮かべるのは由良と森尾の顔だ。
「由良…、森尾…」
今は、2人の無事を確認したかった。
踵を返そうとすると、察した銀夜が「待てよ」と呼び止めた。
「戦利品も受け取らずに行くつもりか?」
「……戦利品…?」
「オレはもう動けねえからな…。勝又の邪魔するんだったら協力するぜ。……結局コレは、オレには持て余す代物だった…。使い方によっては強力だが、命を削られるなんざ真っ平だ」
「!?」
自嘲する銀夜は、震える手指を自身の胸に食い込ませた。皮膚を突き破り、痛みで顔を引きつらせながら探るように手を動かす。
突然の自傷行為にレンは驚愕した。見兼ねて声をかける。
「な…、なにして…」
「はぁっ、はぁっ、入れた時も…、痛かったな…っ」
血を吐きながら銀夜の脳裏に浮かんだのは、自分が殺した父親の顔だ。
ずるりと取り出したものは握りしめられ、レンからは見えなかった。
「やるよ…」
そう言いながらレンに差し出して「早く受け取れ」と促し、レンは警戒しながらも、おそるおそる両手を伸ばして受け取ろうとする。
その時、
「手間が省けたな」
「「!?」」
すぐ近くで、別の声がした。
瞬間、レンは割り込んできた何者かに後方へ蹴飛ばされ、続いて銀夜は、胸から取り出したものを握りしめたまま手首から下を鋭利な刃で切り落とされる。
「あ!?」
銀夜は突然の事態に混乱した。
「う…っ」
腹を蹴とばされたレンは地面を横転し、銀夜と距離を離される。
「これは、私の物だ」
切り落とした銀夜の手首を拾い上げた。
突然現れて横取りしたのは、女だ。
.