13:また明日
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なんとかビニール袋が間に合い、水で口をすすがれたあと、由良はぐったりと力尽きて床に大の字で転がっていた。
その横に、先程まで抱腹絶倒し、酔い潰れた華音も寝転がされていた。
レンと森尾は疲れ切った顔で、周りに散らかった使い終わった花火や、空きビン・空き缶の片付けをしているところだ。
「由良の能力ならパパッと消せるのに…」
こぼす森尾に、レンはため息を漏らしながら「しょうがねえよ…」と肩を落とす。
「あいつは今、ゾンビ状態だ」
由良は気分が悪い様子で、まだ「うー、うー」と呻き声を漏らしていた。
森尾は新しいビニールに余った飲料を入れてレンに手渡す。
「レン、水とジュース。まだ残ってた」
「もらうー」
それから数十分後、大体は片付け終わり、レンと森尾はひとまずと落ち着いた。
「とんだ飲み会になっちまったけど、ありがとな」
「オレこそ。いろいろ揃えてくれたみたいで…」
レンと森尾は「さてと…」とほとんど同時に由良と華音に振り返る。
これから部屋まで送らなければならない。
「ほら、華音…」
レンは華音に近づき、背中に背負うために一度起こそうとした。
眉を八の字にする華音は、やだやだと小さく抵抗する。
「ん―――…。やーだー…まだ……花火……」
「…あたしだって、まだ続けたい…。また花火、やろうな」
そう言って名残惜しむように小さく笑うレンは、数日前の華音の言葉を思い出した。
『華音は健ちゃんが好き』
「……………」
レンの視線は華音から森尾に移る。
由良を起こすのに苦戦している様子だ。
「……森尾ー、やっぱり、森尾が華音を部屋まで送ってやってくれよ。あたしが由良を連れてくから」
「え?」
振り返る森尾にレンが近づき、交代するように由良を起こそうとした。
「大丈夫か?」
「森尾の部屋って、華音と近かっただろ。効率的にそうした方がいいと思ってさ。あたしだって力はある方だし、由良を運ぶのは問題ない…」
自分の手首にジュースの入ったビニール袋を引っかけ、そう言いながらレンが「よいしょ」と由良を背負った。
「ほら、由良、しっかりつかまれ」
「んー、わかった」
由良の両手が、レンの胸を下から持ち上げるようにしっかりつかむ。
ゴッ!!
数秒後には、頭に大きなタンコブのあるぐったりした姿の由良がレンに背負われていた。
「……大丈夫か?」と心配してもう一度確認する森尾だったが、レンは怒気を含んだ声で「問題ない」と強く言い切った。
「ぷっ…。なんか安心する…」
相変わらずのやり取りに森尾は小さく噴き出して笑いながら、華音をお姫様抱っこする。
華音は無抵抗だ。夢心地の気分なのか、頬が緩んでいた。
(明日覚えてるかな…、華音…)
今凄くいい雰囲気だぞ、と言いたいが我慢するレン。
「レンちゃーん、またね」
「!」
レンに顔を向けた華音が小さく手を振った。
それに対して恥ずかし気に手を振り返すレン。
「明日な…」
続いて森尾もレンに笑みを向けてそう言った。
「…ああ。また明日」
レンがそう返すと、森尾は「お先に」と華音を連れて背を向け、部屋へと足を向ける。
(………あれ?)
去っていく背中を見つめていると、不意に、心臓がぎゅっと締め付けられる感覚に一瞬襲われ、レンは額に汗を浮かべた。
得体の知れない焦燥感が込み上げる。
(あたしは今…、なにか…選択を……)
もう2度と、森尾と華音に会えない気がしたのだ。
「森…っ」
声をかけようとしたが、森尾と華音の姿は廊下の奥に消えてしまった。
「……………」
「レン…?」
背中の由良に声をかけられ、
「明日…会えるよな…?」
自身に言い聞かせるようにぽつりと呟き、踵を返して部屋へと向かった。
その間、レンは無言だった。
由良は眠い目を擦りながら声をかける。
「どこ行くんだ?」
「…あたしの部屋」
それを聞いてはっとした。
「正式なおさそい…? せめて、もうちょっとオレが元気な時に…」
「バーカ! おまえ自分の部屋壊しただろ。リビングだと寒いだろうからあたしのベッド使えよ。北海道の夜の寒さナメんな!」
悪態をついていると、ちょうどレンの部屋の前に到着し、ドアを開けて中へと入る。
電気と暖房は点けっぱなしにしていたので室内は暖かかった。
レンは由良をベッドに寝かせ、ちゃんと毛布も被せる。
「ほら、ベッド使え。あたしは厚着してソファーで寝るから……」
レンの部屋にもソファーがある。横になっても狭く感じないほどの広さだ。
眩しいだろうと暗すぎないように電気の灯りも少し落とした。
「レンの優しさが身に染みる…。一生面倒見てくれ…」
「はいはいやだやだ」
泣きまねする由良を軽くあしらい、「早く寝ろ」と声をかけてソファーに座る。
持ってきた、余り物が入ったビニール袋を漁ると、結局開封もしなかったチョコレートジュースを取り出した。
(疲れた…。由良じゃないけど、糖分摂取しとくか…)
蓋を開けて少し口に含んだ。
前も口にしているはずなのに、脳の奥が痺れるほどの甘さに驚かされる。
(激甘…。あいつよくこんなのゴクゴクいけるよな…)
眠れるかな、と一抹の不安を抱えながらちびちびと飲んでいると、「あ!」と突然上げられた由良の声に、つまみ食いがバレた子どものように思わず肩がビクッと震えた。
「ずるいぞ。オレも飲むー」
「いや寝ろよ! さっき吐いてた奴がなに言ってんだ。水にしとけ!」
「口直ししてえよ~」
よろよろと起き上がろうとする由良に、レンは「あーもう」と仕方なくジュースの缶を持ったままソファーから立ち上がり、ベッド脇に近付く。
「起きるな起きるな。飲みかけでよかったらやるよ。虫歯になるから、ちょっとだけな」
「んー」
眠そうな由良の手がふらふらと彷徨う。
レンは前屈みになり、由良の手首をつかんでしっかり持たせようとした。
「ったく、しっかり持て。こぼれ………ッ」
言いかけた瞬間、唇を塞がれ、ため息を奪われる。
手から滑り落ちた飲みかけのジュース缶がベッドを転がり、床に落ちた。
大きく目を見開いたレンは、床に広がる染みを気にしている状態ではない。
すぐ目の前には目を閉じた由良の顔。確かな唇同士の感触。止まる呼吸。
軽く吸われ、唇を舐められる感覚に身じろぎすると、由良の顔が離れた。
「……うん…。満足……」
由良は微かに笑って自身の唇を軽く舐めたあと、スイッチが切れたように仰向けに倒れ、寝息を立て始めた。
レンは茫然としたまま動かない。
今起きたことがすぐには理解できなかった。
初めてのキスがあっという間に奪われたのだから当然である。
「……………は?」
床に広がるチョコレートジュースの甘ったるい匂いが部屋を漂う中、由良は呑気によだれを垂らしながら眠り続けた。
.To be continued