10:なにもなくなるのは
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「右京、やーっと見つけた。アハハ。こんなところにいたのね」
瀕死の身体を引きずり、倒れた木々が密集している場所を見つけて到着した左京は、倒木の下敷きになって圧し潰されている右京を発見した。
右京はすでにこと切れていたが、構わず左京は能力の蛾を使用して右京の首回りを溶かし、顔面がほとんど無傷の首を大事に抱える。
「ねぇ、右京、私達が決めたこと、覚えてるわよね? どちらが先に生まれたかわからないから、先に死んだ方を“兄”にしようって…。これでようやく私達、兄と弟に分かれることができたってことかしら…。ヘンな感じー。でも…、死後の美学よりこだわってたものね」
左京はもう痛みも感じなくなっていた。
肩の深手に加え、背中の大きな三日月形の傷口からはいつ内臓がこぼれてもおかしくはない。今も壊れた水道管のように命を流し続けている。
「“兄”が決まったら、残った“弟”がその死体を好きにしていいってことだったけど、右京は埋葬が好きでしょ?」
何も言わない首に話しかけながら、転ばないようにゆっくりと立ち上がり、由良が隠れることに使用した穴へと歩いた。
ちょうどいいものを見つけた、と顔がほころぶ。
辺りが暗くなったせいで穴の底は見えなかった。
「私も…一緒でいいよね。兄ちゃん…」
(私達なら、きっと美しい骨になるでしょ…)
左京は霞む意識と共に右京の首を優しく抱えたまま、ぽっかりと黒い口を開ける穴へと落下した。
再び母親の胎内に戻るように。
「右京…、左京…」
近くの木の影から上半身を出してその光景を目撃していた泉は、息を呑む。
泉は息を弾ませながら影から影へ猛スピードで移動し、山の麓に停車していた黒のバンの運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけようとする手が震えている。
サングラスを失った両目からはとめどなく涙が溢れていた。
「クソ…、クソ…」とこぼしながら痛いほど手で拭い、髪を掻き乱す。
「死んじまった…。みんな…」
ここに来るまでは、騒がしい車内だったというのに。
「こんなこと…オレは若になんて言えば…」
大幅に戦力を失った自身の失態よりも、報告したあとの銀夜の反応を想像すると恐ろしい。
落胆か、憤怒か、憐憫か、冷淡か、嘲笑か。
心臓を握り潰されそうな気持ちに耐えきれず、泉はハンドルを殴りつけた。
「若…」
「ありのままを話せばいい」
突然の背後の声に、はっと顔を上げてルームミラーを見上げる。
ルームミラーに映ったのは、気配もなく後部座席に座っていた勝又の姿だった。
「!! 勝ま」
振り返ると同時に顔面をつかまれる。
泉は振りほどこうともがくが、抵抗も空しく、勝又の手首をつかむ手には力がまったく入らなかった。
「戻るのならばついでに室君に伝言を頼みたいんだ。キミにしかできない…。わかるね?」
勝又の言葉が、頭皮を伝って脳に優しく染み込んでいく。
抗うことも馬鹿らしくなるほどに。
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