リクエスト:愚痴もほどほどに
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ことの発端は、今朝、レンは、クローゼットを開け、自分が着る服を捜していた。
『あ』
奥から、母の手編みの白のセーターを見つけた。
汚れもなく、着るのがもったいないと感じていたから、着ることは少なかったが、そろそろ冷えてきたため、それに着替える。
『あったかー』
母の思い出に包まれるかのようだ。リビングに向かおうと、扉を開けたとき、
ガシャアン!
額に、バケツがぶつかり、中に入ってた水を頭から派手に被ってしまった。
ただの水ならまだよかったが、筆についた絵の具を落とすために使用していた水だったのだ。
着ていたセーターがごちゃ混ぜの色に染まる。
『あ…、レン…』
犯人は由良だった。
水を替えに行こうとしたとき、誤って手からすっぽ抜けてしまい、ちょうど扉を開けたレンに当たってしまったのだ。
由良に悪気があったわけではない。
あったわけではないが、キレたレンには通じない言い訳だ。
頭にバケツをかぶったまま、大きく息を吸い込み、怒声とともに吐き出した。
『出てけ―――!!!』
*****
「まあ、そういうわけで、朝食も食べる間もなく、無一文で放り出されたわけ」
「……………」
「ん~♪ うめえ~」
太輔と由良は近くのファミレスに来ていた。
窓際のテーブル席に座り、向かい側でイチゴパフェを食べながら経緯を話す由良に、太輔はただただ呆れていた。
レンに同情する。
「そりゃ…、マズいだろ」
「うんにゃ、うめえよ」
「パフェ(そっち)じゃなくて」
太輔は自分が頼んだ、ハンバーグの最後の一切れを口にした。
そろそろ由良も食べ終わるかと思いきや、通りかかったウエイトレスに声をかける。
「チョコパフェとブラウニーパフェ追加~♪」
「おい!」
太輔の奢りだというのに、遠慮の欠片もない。
結局、2つのパフェは追加されてしまった。
先に運ばれたイチゴパフェを食べながら由良が尋ねる。
「タイスケも一時期あいつと組んでたんだろ? キレたりしなかった?」
「おまえは怒らせすぎ」
「そりゃ、オレも悪かったとは思ってるけどさぁ…」
由良は頬杖をついて眉間に皺をよせ、スプーンでグラスの底にあるイチゴを転がす。
もうイチゴパフェがなくなる手前だ。
驚いて、太輔はそのグラスを凝視した。
由良は最後のイチゴを口に放り込み、甘酸っぱい味を堪能する。
ちょうど、ブラウニーパフェも運ばれてきた。
「あんなキレ方することねえじゃん! さすがに理不尽だと思わねえ!?」
突然声を上げた由良に、ウエイトレスがびっくりする。
太輔はウエイトレスを見上げて苦笑いをした。
由良はブラウニーパフェのグラスをつかみ、上にのっていたウエハースを口に放り込む。
「クソッ、イライラする! パフェ(糖分)追加!! 次、バナナパフェ!」
「そういうところにキレられるんだろ!!」
太輔は思わず立ち上がり、両手でテーブルを叩いた。
他の客がこちらに注目する。
コップに入った水が振動でユラユラと揺れた。
「タイスケもレンも、怒鳴るの好きだなー」
その頃、レンは奈美と一緒にカフェに来ていた。
奥のテーブル席で奈美と向かい合い、ホットミルクティーを飲みながら、由良のことについて愚痴をこぼしまくる。
奈美は、レモンティーを飲みながら、相槌を打ちながら黙って聞いていた。
「それで、追いだしたのか…」
引きつった笑みを浮かべる。
「マジでありえないし! 今日という今日だけはカンベンならねえ!」
結局、セーターが着れず、黒のパーカーを着てきたのだ。
あんなことがなければ、母の手編みのセーターで温まりながら、由良と出かけていたというのに。
そう思うだけで、眉間の皺がさらに深く刻まれる。
子供が泣き出しそうな目つきだ。
「久しぶりに会えたと思えば…」
伶達の家からの帰り道、歩道橋の上から街を眺めていたレンと会ったばかりだった。
カフェに入ってから、喧嘩話ばかり聞かされている。
カップをソーサーに置いてレンは尋ねた。
「奈美って、太輔とケンカしたことは?」
「え!? なんで叶が…」
話題に突然名前が出され、手に持っていたカップが傾きかける。
「いいから」
促され、記憶を遡った。
初めて出会った頃から思い出す方が早いだろう。
「…最初は…、まあ、仲が悪かったし、争ったりしたけど…」
そう答える奈美に、レンは意外そうな目を向けた。
太輔と奈美が言い争っているところを、あまり見たことがないからだ。
「最初って、男女みんなそうなのか?」
「うーん…」
アゴに指を当てて考える2人。
みんながみんな、そうとは限らないが、この2人の場合は特別だろう。
考えていたレンは、我に返ったようにはっとした。
「バッカらしー。なんでこんなに悩まなきゃ…」
「そういう気持ちはわかる」
「おお、わかってくれるか、奈美」
理解者ができて、若干嬉しく思う。
奈美は頷き、指を折って挙げていった。
「鈍いし、夜鳴きはうるさいし、頭は悪いし、馬鹿犬だ」
「不潔だし、セクハラはするし、天然だし、エロネコだ」
同時にため息をつき、頬杖をついて遠い目をする。
((なんで好きになったんだろ…?))
悩む理由は自分の気持ちにあるとわかっていても、腑に落ちない2人だった。
同じ頃。
「「ヘックション!!」」
太輔と由良は同時にくしゃみをした。
「バカ犬って言われた気がする…」
「オレなんか、エロネコ呼ばわりされた気がした」
鼻をすするふたり。
太輔は、レストラン内にある掛け時計を見ると、店に入ってから1時間が経過していることに気付く。
茜色だった空が、すっかり夜の色に塗り替えられていた。
その色に染まるまいと抵抗するように、街に明かりが灯る。
由良を見ると、食べ残したブラウニーパフェと睨めっこしていた。
「……で、レンと仲直りは?」
由良の口がへの字になる。
難しい顔をした。
「…ん―――…。オレらって、面倒なとこが似てるからなあー。そもそもこっちが謝る前に追い出したのあいつだし…」
スプーンの先を太輔に向ける。
本当に謝る気があったのか、疑問に思う太輔。
「そう言われても、レンが「帰って来い」って言わねえ限り、おまえ、帰るところないだろ」
由良は手を挙げた。
「はーい、タイスケセンセー、教えてくださーい」
解決方法を求める。
「今なら、コーヒーゼリーがついてくるー」とブラウニーパフェのグラスの底に溜まった苦いコーヒーゼリーをスプーンで指した。
「残しただけだろ」
シロップでもかけないかぎり、甘党の由良には食べられない。
「なんで甘いものに無糖ものを入れるかねー」
スプーンを噛みながら、コーヒーゼリーを睨みつけた。
邪道だと思っている様子だ。
不満げな顔のまま、太輔に視線を上げる。
「謝らずに仲直りする方法教えてくれよー。トモダチだろー」
再び、スプーンの先を向けた。太輔は肩を落とす。
「誰がトモダチだ」
呆れる反面、少し感心した。
(とりあえず、仲直りしたいとは考えてんだな)
「女とケンカしたとき、どうする?」
女と言われ、奈美と恵が脳裏に浮かんだ。
「自然と仲直りに…」
「聞いたオレがアホだった」
方法でもなんでもない。
結局は流れ任せだ。
カチンときた太輔は、青筋を立たせ、引きつった笑みを向けながら脅す。
「本気で奢らねえぞ」
「2人も女いるクセに…」
「けしからん言い方すんな!」
「で、どっちが本命なんだ?」
「は?」
「…ニブい奴」
苛立ち、頬杖をついてそっぽを向いた。
「なに!?」
太輔は勝手に苛立った由良が理解できない。
「ナミとレンって似てるから、ケンカした時の対処方知ってるのかと思ったのに…」
それには同意した。
「あ、そういや、そうだな。野獣なとことか!」
笑顔で人差し指を立てる。
同じく由良も。
「素直じゃねえとことか」
「すぐ怒るとことか」
「胸がデケーとことか」
はははは、と笑う太輔と由良。
このふたりも、似てないようで似てるふたりである。
同じ頃。
「「くしゅん!」」
街中を歩いていると、奈美とレンは同時にくしゃみをした。
なぜか青筋が立つ。
「なんでだろ。対象はわからねえけど、無性に殴りたくなった」
「私も…」
どこかで、笑われながらけなされたような気がしたのだ。
2人は肩を並ばせ、車道沿いの歩道を歩いた。
吐く息は白く、少し早い冬が来ると肌で感じ取る。
ふと、レンは真上を見上げた。
夜空が雲で覆われている。
少し、雨の匂いもした。
「降るかな…」
(もう少し厚着させてから追い出すべきだったか…)
「出てけ」と怒声を上げ、背中を蹴飛ばして追い出してしまったことを思い出す。
ツナギ1枚では寒くないだろうか、と心配してしまう。
「…捜しに来たのか?」
「え」
唐突に声をかけられ、不意に間抜けな顔になってしまった。
奈美は薄笑みを浮かべながら再度尋ねる。
「本当は、捜しに来たんじゃないのか?」
「……弁償代…もらってない…」
「母親の手編みじゃなかったのか? 弁償もなにも…」
「……………」
顔を赤くし、黙りこんだ。
奈美は前を向いて歩きながら、このあとのことを尋ねる。
「帰るのか?」
「…いや、もう少しいる」
「なら、付き合う」
「この不良め」
「人のこと言えない」
2人は顔を見合わせ、笑った。
「もし、ばったり会ったらどうする?」
気を遣ったわけではないが、偶然出会った設定で聞いた。
レンは目つきを鋭くして笑みを浮かべる。
「決まってんじゃん。アバラ骨折れる勢いで、蹴り飛ばす!」
思わず右脚を突き出した。
ガシャン!
突き出された右足は、スーパーの前に駐輪されている自転車に当たってしまった。
端の自転車が倒れ、並んでいた他の自転車も次々と倒れていく。
ドミノ倒しを思い出した。
自転車を置こうとしていた人、取り出そうとした人が驚いて声を上げる。
「「……………」」
全部倒れてしまった自転車を茫然と眺めるふたり。
そのあと、仲良く自転車を立て直していった。
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