リクエスト:不運の嵐をそよ風に
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・森尾
食堂に屋敷の全員が集まる。
由良と華音が出入口から入ってきた。
先に席に着いていた勝又さんが2人の様子を見て、「おや?」と声を出す。
「どうしたんだい? その傷は…」
華音は右の人差し指に絆創膏、由良は頭に包帯を巻いていた。
オレも実は、左手のひらに包帯を巻いている。
由良、華音、オレという順番で勝又さんに説明した。
「絵を描いてたら、立てかけておいたキャンバスの下敷きになった」
「爪の手入れしてたら、やすりで人差し指削っちゃった…」
「朝食を作ってたら、包丁で…」
朝からケガをすることなんて滅多にないことだ。
「キミ達は体に傷を負ったからいいよ…」
いつの間にか席に着いていた岡田が言った。
怒りと悔しさで体を震わせている。
「ボクなんか…、ボクなんかっ、お気に入りのフィギュアを尻に敷いちゃって潰しちゃったんだぞ!!」
泣き喚いているが、あえて相手にしなかった。
オレを含め、全員無視する。
「……………」
テーブルの一番端に梅が座ったのが見えた。
明らかに離れすぎだ。
「もう少し、こっちに来なよ」
オレはタオルで手を拭いたあと、オレの席の隣にある空席を引いた。
動かない梅だったが、オレが見つめていると、諦めたように立ち上がり、オレの引いた席へと座る。
オレは梅の分の朝食を片手に持ち、梅の前に置いた。
今日のメニューは、オムレツとソーセージと生野菜だ。
梅はオムレツを見つめたまま、動かない。
「あ…、苦手…だったかな…」
オレは席に着き、梅の様子を窺った。
長い前髪のせいで、どんな目をしているのかわからない。
「……オム…レツ…」
震えたかと思えば、雫がテーブルの上に落ちた。
しゃくりあげるように泣いているのだ。
「う…っ、ひ…、く…っ」
「…好きなの?」
「…か…、母さんが…、よく…作って……」
家では、ちゃんとした食事を与えられなかったのだろうか。
そう思っただけで、なんだか腹が立った。
「おかわり、ほしかったら言って」
「うん…」
背は少し高めだし、ちょっと強気なコだなと思ってたけど、こっちが本当の顔なのかもしれない。
ふと向かい側を見ると、華音が不機嫌な顔であからさまにこちらを睨みつけていた。
*****
食事が終わったあと、華音は突然とんでもない行動を起こした。
梅に近付くなり、突然梅の髪をつかみ、立ち上がらせた。
「ちょっと来て!」
「痛っ!」
そのまま、出入口から出て行く。
「華音!?」
オレはあとを追いかけた。
「華音! なにしてるんだ!」
華音は前を見ながら答える。
「見てて鬱陶しいから、切ってあげるの!」
「痛い痛い!」
痛がる梅をつれ、華音は洗面所に入ってしまった。
オレも中に入ろうとしたが、すぐに追い出されてしまう。
洗面所の扉越しからハサミの音が聞こえた。
ジョキン!
「キャ―――!!」
音からして派手に切っている。
どこかのタチの悪い集団いじめだ。
実際、ひとりで行われているのだが。
覗くのも反則だろうか。
少しだけ扉を開けようとしたとき、
「動くと耳切るわよ!!」
その声にビクッとしてしまい、そのままフリーズした。
「ったく、なんでこんなになるまで手入れしなかったの!? 枝毛だらけじゃん! 前髪も伸びっぱなしで暗い!!」
そのあともジョギジョギという容赦のないハサミ音が聞こえる。
ザ―――ッ!
「イヤ―――!!」
猛烈に洗髪されているようだ。
ブォ―――ン!
「助けて―――!!」
ドライヤーで激しく乾かされているようだ。
再びハサミの音が聞こえる。
「……………」
オレは、扉を開けていいものかと手を彷徨わせた。
扉越しに華音の声が聞こえる。
「まったく、なんで健ちゃんはこのコばっかり優しくするかな! 健ちゃんって、もしかしてブス専………」
途中で華音がなにも言わなくなった。
ハサミの音も聞こえない。
「……華音? ……入るぞ」
ドアノブをまわし、中に入る。
そこには硬直している華音と、ベリーショートの女がいた。
床には髪が散らばっている。
ベリーショートの女は目の前の鏡からこちらに振り返り、泣きそうな目をした。
思わずドキリとする。
「…っ、切られた…」
「梅…!?」
長い前髪の下には大きな瞳があった。
それに、顔の形もいいため、ベリーショートがよく似合う。
「変?」
「に…、似合ってるよ…」
すごく。
「…ホントに?」
「ああ。ウソじゃない…」
答えるたびに、顔が熱くなるのを覚える。
オレは華音に振り向き、声をかけた。
「華音も、髪切るのうまいな」
「ま…、まあね♪」
はっとした華音は、自信あり気な態度をし、ハサミをクルクルとまわす。
しかし、ハサミはまわってる途中で華音の指から離れてしまい、オレの方に飛んできた。
「!!」
スコ!
それはオレの顔のすぐ横の壁に突き刺さった。
冷や汗が額を伝う。
「華音!!」
「殺る気はなかったの!!」
華音は首を横に振って言い訳をする。
「……………」
梅もオレと同じく、額から冷や汗を流していた。
そのあとも、次々とオレに不運が降ってきた。
靴を履き替えようとして、足の小指をベッドの角にぶつけたり、棚の下敷きになったり、扉に手を挟んだり、なにもない廊下で転んだり、フクロウに背後から襲撃されたり(オレはなにもしていない)、ソファーに座ったら後ろに倒れたり、淹れたてのコーヒーを頭からかぶったり…。
午後になった時には、オレは体中包帯だらけだった。
エントランスホールで梅を待ちながら、ムスッとする。
由良と華音もそこにいた。
オレの変わり果てた姿を見た2人は沈黙する。
「……なんていうか…、男前に磨きがかかってんな」
由良としては慰めたつもりなのだろう。
しかし、わかっていても腹が立つ。
「言いたいことはそれだけか?」
唸るように言って、頭の包帯を取った。
多少の傷ならすぐに回復する“能力者”で助かる。
「やっぱさー、あの占いのオバサンが言ってた「不運」って…」
「梅なわけがないだろ!」
思わず怒鳴ってしまった。
華音はビクッと体を震わせ、眉を八の字にする。
「お…、怒らないでよー」
「…いや…」
悪いこと続きで、少し機嫌が悪かった。
右手のひらで顔を覆い、頭を冷やそうとする。
「モリヲ」
しかし、背後から由良に声をかけられ、苛立ちを露わにして振り返った。
「今度はなん…」
苛立ちの声を上げようとしたところで、急に由良に肩をつかまれ、引っ張られる。
ガシャアン!
途端に、目の前にエントランスのシャンデリアが落ちてきた。
オレは足下のシャンデリアを凝視する。
「……………」
「気ィ付けてな」
それから由良に軽く肩を叩かれた。
廊下に、梅の姿を確認する。
*****
オレは梅を助手席に乗せ、街へと向かった。
由良と華音は屋敷で留守番だ。
オレは流し目で梅を見た。
可愛らしい薄桃色のワンピースを着ている。
元は姫のものだが、とてもよく似合っていた。
膝の上には、洗いたての制服が入った紙袋がのせられている。
「!」
ふと左肩部分に火傷のような傷が服からはみ出ているのを見つけた。
「…見ないで…」
「あ…、ごめん…」
思わずじっと見つめてしまった。
梅はそれ以上なにも言わず、自分の髪の毛先をいじる。
やはり、まだ違和感が抜けていないようだ。
右腕の包帯が目の端に映る。
能力者だったら…、すぐに治るのに…。
街が見えてきて、オレは前を向いて運転しながら梅に尋ねた。
「家はどの辺り?」
「……南の方…」
横の窓の向こうを見つめながら、呟くように答える。
信号を越えたあと、オレはハンドルを切って右の曲がり角を曲がった。
だが、今日は日曜日。
車が酷く混んでいた。
「……まいったな…」
背もたれにもたれ、前髪を掻き上げる。
チラリと梅を見ると、梅は隣の窓の向こうにあるものに釘付けだった。
視線を追いかけると、その先にはアイスクリーム屋がある。
オレはすぐそこの脇道を曲がり、適当な駐車場に車を停めた。
*****
車を降りたあと、オレ達は先程のアイスクリーム屋でアイスを買った。
もちろん、オレの奢りである。
食べ終わったあと、肩を並べて歩道を歩いた。
「奢ってもらっちゃって…、ごめん…」
「いいよ。気にしないで」
ここに由良と華音がいれば、間違いなく3~5段のアイスを遠慮なく要求されるだろう。
オレと梅が食べたのは2段。
好みのアイスの味も同じだった。
「おいしかった」
「ああ、いい店だった。…あ…」
梅の顔を見て立ち止まる。
同じく、梅も立ち止まった。
「?」
「動かないで」
後ろポケットから黒のハンカチを取り出し、梅の口の端を拭う。
アイスクリームがこびりついていたからだ。
「ほら、取れた」
「!」
梅は慌てて自分の口元に手を当てた。
恥ずかしそうに顔を赤らめている。
その顔のまま、こちらを上目遣いで見上げた。
「!!」
思わずこちらまで赤くなってしまう。
誤魔化すように咳払いをし、梅の肩に手を置いた。
「い…、行こうか」
「……うん…」
一歩歩き出したとき、
「うわ!?」
目の前の落とし穴、いや、蓋の開いたマンホールに落ちてしまった。
「も、森尾!!?」
上から梅の声が聞こえる。
オレは能力を発動し、這い上がった。
「な…、なんのこれしき…」
梯子につかまり、あとは自力で上がって穴から顔を出す。
普通の人間ならただじゃ済まないところだ。
梅がしょげた顔をする。
呆れられてしまったのだろうか。
それだけはあってはならない。
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食堂に屋敷の全員が集まる。
由良と華音が出入口から入ってきた。
先に席に着いていた勝又さんが2人の様子を見て、「おや?」と声を出す。
「どうしたんだい? その傷は…」
華音は右の人差し指に絆創膏、由良は頭に包帯を巻いていた。
オレも実は、左手のひらに包帯を巻いている。
由良、華音、オレという順番で勝又さんに説明した。
「絵を描いてたら、立てかけておいたキャンバスの下敷きになった」
「爪の手入れしてたら、やすりで人差し指削っちゃった…」
「朝食を作ってたら、包丁で…」
朝からケガをすることなんて滅多にないことだ。
「キミ達は体に傷を負ったからいいよ…」
いつの間にか席に着いていた岡田が言った。
怒りと悔しさで体を震わせている。
「ボクなんか…、ボクなんかっ、お気に入りのフィギュアを尻に敷いちゃって潰しちゃったんだぞ!!」
泣き喚いているが、あえて相手にしなかった。
オレを含め、全員無視する。
「……………」
テーブルの一番端に梅が座ったのが見えた。
明らかに離れすぎだ。
「もう少し、こっちに来なよ」
オレはタオルで手を拭いたあと、オレの席の隣にある空席を引いた。
動かない梅だったが、オレが見つめていると、諦めたように立ち上がり、オレの引いた席へと座る。
オレは梅の分の朝食を片手に持ち、梅の前に置いた。
今日のメニューは、オムレツとソーセージと生野菜だ。
梅はオムレツを見つめたまま、動かない。
「あ…、苦手…だったかな…」
オレは席に着き、梅の様子を窺った。
長い前髪のせいで、どんな目をしているのかわからない。
「……オム…レツ…」
震えたかと思えば、雫がテーブルの上に落ちた。
しゃくりあげるように泣いているのだ。
「う…っ、ひ…、く…っ」
「…好きなの?」
「…か…、母さんが…、よく…作って……」
家では、ちゃんとした食事を与えられなかったのだろうか。
そう思っただけで、なんだか腹が立った。
「おかわり、ほしかったら言って」
「うん…」
背は少し高めだし、ちょっと強気なコだなと思ってたけど、こっちが本当の顔なのかもしれない。
ふと向かい側を見ると、華音が不機嫌な顔であからさまにこちらを睨みつけていた。
*****
食事が終わったあと、華音は突然とんでもない行動を起こした。
梅に近付くなり、突然梅の髪をつかみ、立ち上がらせた。
「ちょっと来て!」
「痛っ!」
そのまま、出入口から出て行く。
「華音!?」
オレはあとを追いかけた。
「華音! なにしてるんだ!」
華音は前を見ながら答える。
「見てて鬱陶しいから、切ってあげるの!」
「痛い痛い!」
痛がる梅をつれ、華音は洗面所に入ってしまった。
オレも中に入ろうとしたが、すぐに追い出されてしまう。
洗面所の扉越しからハサミの音が聞こえた。
ジョキン!
「キャ―――!!」
音からして派手に切っている。
どこかのタチの悪い集団いじめだ。
実際、ひとりで行われているのだが。
覗くのも反則だろうか。
少しだけ扉を開けようとしたとき、
「動くと耳切るわよ!!」
その声にビクッとしてしまい、そのままフリーズした。
「ったく、なんでこんなになるまで手入れしなかったの!? 枝毛だらけじゃん! 前髪も伸びっぱなしで暗い!!」
そのあともジョギジョギという容赦のないハサミ音が聞こえる。
ザ―――ッ!
「イヤ―――!!」
猛烈に洗髪されているようだ。
ブォ―――ン!
「助けて―――!!」
ドライヤーで激しく乾かされているようだ。
再びハサミの音が聞こえる。
「……………」
オレは、扉を開けていいものかと手を彷徨わせた。
扉越しに華音の声が聞こえる。
「まったく、なんで健ちゃんはこのコばっかり優しくするかな! 健ちゃんって、もしかしてブス専………」
途中で華音がなにも言わなくなった。
ハサミの音も聞こえない。
「……華音? ……入るぞ」
ドアノブをまわし、中に入る。
そこには硬直している華音と、ベリーショートの女がいた。
床には髪が散らばっている。
ベリーショートの女は目の前の鏡からこちらに振り返り、泣きそうな目をした。
思わずドキリとする。
「…っ、切られた…」
「梅…!?」
長い前髪の下には大きな瞳があった。
それに、顔の形もいいため、ベリーショートがよく似合う。
「変?」
「に…、似合ってるよ…」
すごく。
「…ホントに?」
「ああ。ウソじゃない…」
答えるたびに、顔が熱くなるのを覚える。
オレは華音に振り向き、声をかけた。
「華音も、髪切るのうまいな」
「ま…、まあね♪」
はっとした華音は、自信あり気な態度をし、ハサミをクルクルとまわす。
しかし、ハサミはまわってる途中で華音の指から離れてしまい、オレの方に飛んできた。
「!!」
スコ!
それはオレの顔のすぐ横の壁に突き刺さった。
冷や汗が額を伝う。
「華音!!」
「殺る気はなかったの!!」
華音は首を横に振って言い訳をする。
「……………」
梅もオレと同じく、額から冷や汗を流していた。
そのあとも、次々とオレに不運が降ってきた。
靴を履き替えようとして、足の小指をベッドの角にぶつけたり、棚の下敷きになったり、扉に手を挟んだり、なにもない廊下で転んだり、フクロウに背後から襲撃されたり(オレはなにもしていない)、ソファーに座ったら後ろに倒れたり、淹れたてのコーヒーを頭からかぶったり…。
午後になった時には、オレは体中包帯だらけだった。
エントランスホールで梅を待ちながら、ムスッとする。
由良と華音もそこにいた。
オレの変わり果てた姿を見た2人は沈黙する。
「……なんていうか…、男前に磨きがかかってんな」
由良としては慰めたつもりなのだろう。
しかし、わかっていても腹が立つ。
「言いたいことはそれだけか?」
唸るように言って、頭の包帯を取った。
多少の傷ならすぐに回復する“能力者”で助かる。
「やっぱさー、あの占いのオバサンが言ってた「不運」って…」
「梅なわけがないだろ!」
思わず怒鳴ってしまった。
華音はビクッと体を震わせ、眉を八の字にする。
「お…、怒らないでよー」
「…いや…」
悪いこと続きで、少し機嫌が悪かった。
右手のひらで顔を覆い、頭を冷やそうとする。
「モリヲ」
しかし、背後から由良に声をかけられ、苛立ちを露わにして振り返った。
「今度はなん…」
苛立ちの声を上げようとしたところで、急に由良に肩をつかまれ、引っ張られる。
ガシャアン!
途端に、目の前にエントランスのシャンデリアが落ちてきた。
オレは足下のシャンデリアを凝視する。
「……………」
「気ィ付けてな」
それから由良に軽く肩を叩かれた。
廊下に、梅の姿を確認する。
*****
オレは梅を助手席に乗せ、街へと向かった。
由良と華音は屋敷で留守番だ。
オレは流し目で梅を見た。
可愛らしい薄桃色のワンピースを着ている。
元は姫のものだが、とてもよく似合っていた。
膝の上には、洗いたての制服が入った紙袋がのせられている。
「!」
ふと左肩部分に火傷のような傷が服からはみ出ているのを見つけた。
「…見ないで…」
「あ…、ごめん…」
思わずじっと見つめてしまった。
梅はそれ以上なにも言わず、自分の髪の毛先をいじる。
やはり、まだ違和感が抜けていないようだ。
右腕の包帯が目の端に映る。
能力者だったら…、すぐに治るのに…。
街が見えてきて、オレは前を向いて運転しながら梅に尋ねた。
「家はどの辺り?」
「……南の方…」
横の窓の向こうを見つめながら、呟くように答える。
信号を越えたあと、オレはハンドルを切って右の曲がり角を曲がった。
だが、今日は日曜日。
車が酷く混んでいた。
「……まいったな…」
背もたれにもたれ、前髪を掻き上げる。
チラリと梅を見ると、梅は隣の窓の向こうにあるものに釘付けだった。
視線を追いかけると、その先にはアイスクリーム屋がある。
オレはすぐそこの脇道を曲がり、適当な駐車場に車を停めた。
*****
車を降りたあと、オレ達は先程のアイスクリーム屋でアイスを買った。
もちろん、オレの奢りである。
食べ終わったあと、肩を並べて歩道を歩いた。
「奢ってもらっちゃって…、ごめん…」
「いいよ。気にしないで」
ここに由良と華音がいれば、間違いなく3~5段のアイスを遠慮なく要求されるだろう。
オレと梅が食べたのは2段。
好みのアイスの味も同じだった。
「おいしかった」
「ああ、いい店だった。…あ…」
梅の顔を見て立ち止まる。
同じく、梅も立ち止まった。
「?」
「動かないで」
後ろポケットから黒のハンカチを取り出し、梅の口の端を拭う。
アイスクリームがこびりついていたからだ。
「ほら、取れた」
「!」
梅は慌てて自分の口元に手を当てた。
恥ずかしそうに顔を赤らめている。
その顔のまま、こちらを上目遣いで見上げた。
「!!」
思わずこちらまで赤くなってしまう。
誤魔化すように咳払いをし、梅の肩に手を置いた。
「い…、行こうか」
「……うん…」
一歩歩き出したとき、
「うわ!?」
目の前の落とし穴、いや、蓋の開いたマンホールに落ちてしまった。
「も、森尾!!?」
上から梅の声が聞こえる。
オレは能力を発動し、這い上がった。
「な…、なんのこれしき…」
梯子につかまり、あとは自力で上がって穴から顔を出す。
普通の人間ならただじゃ済まないところだ。
梅がしょげた顔をする。
呆れられてしまったのだろうか。
それだけはあってはならない。
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