リクエスト:強さの決まりごと
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・カオル
それから数カ月して奈美が帰って来た。
それから1ヶ月経つが、ボクは一度も顔を合わせていない。
いつもどおりに学校から帰ってきて道場に行ってもだ。
奈美は稽古場に姿を見せないのだ。
「嫌われてんじゃねーの?」
稽古が始まる前に、そのことを話したら門下生の友達にずばりと言われた。
「……………」
ボクは黙って怒りながら、手加減なく絞め技をかける。
「いだだだだ! バカッ、ジョークだ! ギャ―――!!」
ジョークでも言っていいことと悪いことがある。
子供の門下生達がボクの絞め技を見て騒いだ。
「カオルが怒ってる!」
「怒ってるー」
その時、道着姿の先生がきた。
子供達は騒ぎをやめ、先生の前で並んで正座する。
ボク達もその後ろに並んで正座した。
「相手がいかなる猛者であろうとも、決して取り乱してはならん。常に氷のような冷静さであれ」
先生が心得を話しているとき、ボクは友達に声をかけられた。
もちろん小声でだ。
「奈美ちゃん、たぶん、もうすぐ高校受験だからこっちに出れないんじゃないか?」
「でも、5秒だけでもいいから、電話で話してくれたっていいのに…」
「いや、5秒は無理だろ。つか、それイタ電…」
素早くツッコみを入れる友達。
ふと前を見ると、全員の視線がこちらに集中していた。
「!」
先生の目は、獲物を狙うトラの如く。
「そんなにワシに稽古をつけてほしいか」
立ち上がってボク達を見下ろす姿はクマの如く。
友達もそれを見て真っ青になった。
ボクは先生に「あはは」と怯え気味に笑ってから、怒りをこめて思いっきり友達の脇腹に肘鉄を打ち込んでやった。
それからの先生は都で暴れる竜の如く。
ボクはこれでもかってくらいに床に叩きつけられた。
友達なんか、死にかけだ。
奈美が家出したあと、ボクは余計なことを考えないように、強くなりたいという思いも含め、今までより血が滲むような努力をした。
それからいつの間にか先生を除き、通いの門下生達に勝つことが多くなった。
昨日なんか高校生まで倒せてしまったのだ。
*****
稽古が終わり、先にみんなが出て行ってから、ボクと友達は道着の入ったカバンを持って立ち上がり、道場を出て縁側を並んで渡る。
「おまえってここ数ヶ月でだいぶ変わったよなー」
「そうかな?」
そう言ってもらえて悪い気はしなかった。
「やっぱあれか? 卵パワーか!?」
「それはもうやってない」
以前テレビで、たくましすぎる筋肉質のプロボクサーが、インタビューの時に、アナウンサーの女性から「強さの秘訣はなんですか?」と尋ねられ、「卵を一気飲みする」ときっぱりと満面の笑みで答え、
ジョッキに入った生卵を本当に一気飲みしたのをみて真似したら、
その場で腹を壊して病院行きとなってしまった。
その後はまともに卵を直視できなかったな…。
思い出しただけでも、おなかが痛くなる。
「あ」
突然、友達が前を見て声を漏らした。
ボクも顔を上げて前を見ると、前から奈美がやってくるのが見えた。
奈美もボクに気付いて立ち止まる。
ボクの心臓が、大きく跳ねあがった。
友達はボクと奈美の顔を交互に見たあと、ボクの右肩をポンと叩いてから、「じゃあ、お先」と言って、小走りで行ってしまった。
「あっ」
思わず友達の背中に手を伸ばしたが、友達は奈美の横を通過して、そのまま玄関へと向かっていく。
縁側に取り残されたボクと奈美。
前は飽きるほど喋っていたのに、数ヶ月の間という溝のせいで、なんて話しかければいいのかわからない。
「……カオル」
先に奈美が口を開き、言葉を続けた。
「久しぶり…」
そう言って、笑みを浮かべる。
それにボクはなんと答えるべきなのだろうか。
「久しぶり」と笑い返すべきか、「今までどこ行ってたんだよ」と怒鳴るべきか、もういっそ思い切って抱きつくべきか。
そう考えていると、奈美がこちらにゆっくりと近付いてきた。
表情が少し、曇り気味だ。
「…怒ってるんだろう? 当然だ。なにも言わずに出て行ったのだから…。…ごめん」
ボクが心配していたことはわかってくれたようだ。
奈美がボクの前で立ち止まり、手を伸ばした。
それが頭に触れるのか、頬に触れるのか。
ボクはその手首をつかみ、頬に触れさせた。
頭に触れられるのは、子供扱いされるようで嫌だったからだ。
「奈美、ボクになにか相談することない? できることない?」
「え?」
「もう、どこにも行ってほしくないんだ」
「……カオルは優しいな。それで充分…」
そう言って、奈美は優しく笑う。
それだけじゃ、足りないんだよ
奈美の笑顔が目の前にあるのに、ボクは悲しくなった。
その時、背後から殺気を感じ取った。
「!?」
振り返ると、先生が刀を両手に、殺気立った様子でこちらを睨んでいた。
なにか誤解していらっしゃる。
「伊勢!! 貴っ様あ、娘をたぶらかしよってええええ!!」
「!!?」
相手がいかなる猛者でも、決して取り乱してはならない。
無理です。
さすがに浮足立ってしまう。
「カオル、危ない!」
先生が刀を振り下ろし、奈美がボクを斜めに突き飛ばした。
ボクは庭の方へよろめき、
ゴッ!!
頭から落ちてしまい、しかも落下地点には庭石があった。
「カオル―――!!」
「でかしたぞ、奈美」
*****
座敷で、奈美がボクの頭に包帯を巻いてくれている。
「……すまない」
「や、頭は頑丈だから」
強がってみるが、かなり痛む。
そういえば、と思いだした。
「…昔も、よくこうやって、奈美が手当てしてくれた」
「カオルは外でも内でもケガをしていたから…」
そう言って、2人でクスクスと笑い合う。
もうケガなんてするものかと思っていたが、こういうのも悪くはない。
「小学生と変わんないな、ボク」
「そんなことない」
目を合わせると、奈美は微笑んだ。
「前より背も伸びてることも、声だって変わったことも、知ってる。筋もいいし、いずれカオルは私を抜かすだろう。それでも、私は追いつきたいと思ってる。道場の跡を継ぐからじゃない。自分のためだから」
奈美の瞳は、真っ直ぐな目をしている。
ああ、そうか。
奈美もボクに……。
モヤモヤしていたものが、ボクの中でゆっくりと霧散して、なくなった。
同じだったんだ、ボク達は…
「奈美、稽古つけてよ」
耳を澄ませば、まだ、蝉の声が聞こえる。
.
それから数カ月して奈美が帰って来た。
それから1ヶ月経つが、ボクは一度も顔を合わせていない。
いつもどおりに学校から帰ってきて道場に行ってもだ。
奈美は稽古場に姿を見せないのだ。
「嫌われてんじゃねーの?」
稽古が始まる前に、そのことを話したら門下生の友達にずばりと言われた。
「……………」
ボクは黙って怒りながら、手加減なく絞め技をかける。
「いだだだだ! バカッ、ジョークだ! ギャ―――!!」
ジョークでも言っていいことと悪いことがある。
子供の門下生達がボクの絞め技を見て騒いだ。
「カオルが怒ってる!」
「怒ってるー」
その時、道着姿の先生がきた。
子供達は騒ぎをやめ、先生の前で並んで正座する。
ボク達もその後ろに並んで正座した。
「相手がいかなる猛者であろうとも、決して取り乱してはならん。常に氷のような冷静さであれ」
先生が心得を話しているとき、ボクは友達に声をかけられた。
もちろん小声でだ。
「奈美ちゃん、たぶん、もうすぐ高校受験だからこっちに出れないんじゃないか?」
「でも、5秒だけでもいいから、電話で話してくれたっていいのに…」
「いや、5秒は無理だろ。つか、それイタ電…」
素早くツッコみを入れる友達。
ふと前を見ると、全員の視線がこちらに集中していた。
「!」
先生の目は、獲物を狙うトラの如く。
「そんなにワシに稽古をつけてほしいか」
立ち上がってボク達を見下ろす姿はクマの如く。
友達もそれを見て真っ青になった。
ボクは先生に「あはは」と怯え気味に笑ってから、怒りをこめて思いっきり友達の脇腹に肘鉄を打ち込んでやった。
それからの先生は都で暴れる竜の如く。
ボクはこれでもかってくらいに床に叩きつけられた。
友達なんか、死にかけだ。
奈美が家出したあと、ボクは余計なことを考えないように、強くなりたいという思いも含め、今までより血が滲むような努力をした。
それからいつの間にか先生を除き、通いの門下生達に勝つことが多くなった。
昨日なんか高校生まで倒せてしまったのだ。
*****
稽古が終わり、先にみんなが出て行ってから、ボクと友達は道着の入ったカバンを持って立ち上がり、道場を出て縁側を並んで渡る。
「おまえってここ数ヶ月でだいぶ変わったよなー」
「そうかな?」
そう言ってもらえて悪い気はしなかった。
「やっぱあれか? 卵パワーか!?」
「それはもうやってない」
以前テレビで、たくましすぎる筋肉質のプロボクサーが、インタビューの時に、アナウンサーの女性から「強さの秘訣はなんですか?」と尋ねられ、「卵を一気飲みする」ときっぱりと満面の笑みで答え、
ジョッキに入った生卵を本当に一気飲みしたのをみて真似したら、
その場で腹を壊して病院行きとなってしまった。
その後はまともに卵を直視できなかったな…。
思い出しただけでも、おなかが痛くなる。
「あ」
突然、友達が前を見て声を漏らした。
ボクも顔を上げて前を見ると、前から奈美がやってくるのが見えた。
奈美もボクに気付いて立ち止まる。
ボクの心臓が、大きく跳ねあがった。
友達はボクと奈美の顔を交互に見たあと、ボクの右肩をポンと叩いてから、「じゃあ、お先」と言って、小走りで行ってしまった。
「あっ」
思わず友達の背中に手を伸ばしたが、友達は奈美の横を通過して、そのまま玄関へと向かっていく。
縁側に取り残されたボクと奈美。
前は飽きるほど喋っていたのに、数ヶ月の間という溝のせいで、なんて話しかければいいのかわからない。
「……カオル」
先に奈美が口を開き、言葉を続けた。
「久しぶり…」
そう言って、笑みを浮かべる。
それにボクはなんと答えるべきなのだろうか。
「久しぶり」と笑い返すべきか、「今までどこ行ってたんだよ」と怒鳴るべきか、もういっそ思い切って抱きつくべきか。
そう考えていると、奈美がこちらにゆっくりと近付いてきた。
表情が少し、曇り気味だ。
「…怒ってるんだろう? 当然だ。なにも言わずに出て行ったのだから…。…ごめん」
ボクが心配していたことはわかってくれたようだ。
奈美がボクの前で立ち止まり、手を伸ばした。
それが頭に触れるのか、頬に触れるのか。
ボクはその手首をつかみ、頬に触れさせた。
頭に触れられるのは、子供扱いされるようで嫌だったからだ。
「奈美、ボクになにか相談することない? できることない?」
「え?」
「もう、どこにも行ってほしくないんだ」
「……カオルは優しいな。それで充分…」
そう言って、奈美は優しく笑う。
それだけじゃ、足りないんだよ
奈美の笑顔が目の前にあるのに、ボクは悲しくなった。
その時、背後から殺気を感じ取った。
「!?」
振り返ると、先生が刀を両手に、殺気立った様子でこちらを睨んでいた。
なにか誤解していらっしゃる。
「伊勢!! 貴っ様あ、娘をたぶらかしよってええええ!!」
「!!?」
相手がいかなる猛者でも、決して取り乱してはならない。
無理です。
さすがに浮足立ってしまう。
「カオル、危ない!」
先生が刀を振り下ろし、奈美がボクを斜めに突き飛ばした。
ボクは庭の方へよろめき、
ゴッ!!
頭から落ちてしまい、しかも落下地点には庭石があった。
「カオル―――!!」
「でかしたぞ、奈美」
*****
座敷で、奈美がボクの頭に包帯を巻いてくれている。
「……すまない」
「や、頭は頑丈だから」
強がってみるが、かなり痛む。
そういえば、と思いだした。
「…昔も、よくこうやって、奈美が手当てしてくれた」
「カオルは外でも内でもケガをしていたから…」
そう言って、2人でクスクスと笑い合う。
もうケガなんてするものかと思っていたが、こういうのも悪くはない。
「小学生と変わんないな、ボク」
「そんなことない」
目を合わせると、奈美は微笑んだ。
「前より背も伸びてることも、声だって変わったことも、知ってる。筋もいいし、いずれカオルは私を抜かすだろう。それでも、私は追いつきたいと思ってる。道場の跡を継ぐからじゃない。自分のためだから」
奈美の瞳は、真っ直ぐな目をしている。
ああ、そうか。
奈美もボクに……。
モヤモヤしていたものが、ボクの中でゆっくりと霧散して、なくなった。
同じだったんだ、ボク達は…
「奈美、稽古つけてよ」
耳を澄ませば、まだ、蝉の声が聞こえる。
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