リクエスト:強さの決まりごと
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・カオル
「奈美はボクが守る」
悟が死ぬ1年くらい前だろうか。
稽古が始まる前に、道場の裏で悟とそんなことを話していた。
きっかけはなんだったのか覚えていないが、ボクと悟にとっては真剣な話だった。
道着のボクとランドセルを背負ったままの悟が向かい合っていた。
悟は顔をしかめて言い返す。
「姉ちゃんを守るのはオレだよ!」
悟も奈美のことを守りたいのだ。
悟は言葉を継ぐ。
「だってカオルって、姉ちゃんに勝ったことねえし、年下だろ」
「うっ」
胸にグサリと悟の言葉が突き刺さる。
最近になって、やっと「奈美姉ちゃん」から卒業したというのに。
小さい頃から、奈美と悟と常に一緒だが、悟も言うようになったものだ。
奈美だけじゃなく、悟に負けるのだけは避けなきゃいけない。
だけど、言い返すことができない。
言葉が見つからないんじゃない。
言葉はわかってるが、言えないんだ。
悟は心臓が弱いから、と。
その一言は、ボクよりも惨く深く突き刺さるだろう。
だから、言わない。
「……じゃあ、2人で守っていこうよ」
そう言って、笑みを浮かべた。
悟はキョトンとする。
「2人なら、不足している部分も補えるし……」
なぜそう言ったのか理由を話し始めたとき、
「なにを話しているの?」
「「!!」」
声に気付かれたのか、道着姿の奈美がやってきた。
ボクと悟の体がビクッと震える。
誤魔化すために、お互いさらに近付いて無理矢理話をつくった。
「それでクワガタがスイカの下敷きに……」
「その時、カブトムシがバック転……」
慌てすぎた。
「???」
当然、奈美は、話がわからない、って顔をする。
「カオル、稽古始めるよ?」
「は…、は―――い」
道場に向かう奈美の背中についていく。
顔を悟に振り向け、人差し指を口元に当てた。
同じく、悟も同じ真似をする。
*****
稽古では見事に奈美に完敗。
門下生が帰ったあと、ボクはもう一度稽古をつけてもらったが、結果は同じ。
何度床に叩きつけられたことか。
「構えが甘い」
「くっ…」
床にうつ伏せになっているボクに奈美は厳しく言った。
ボクは痛みに顔をしかめながら起き上がる。
その時、目の前に真っ白なタオルが差し出された。
「少し休憩しよう」
「あ…、ありがと…」
タオルを受け取り、顔の汗を拭う。
奈美は自分の首にかけたタオルで汗を拭っていた。
とても、その姿は中学生とは思えないような、おとなの色気というものを漂わせていた。
思わず顔がカッと赤くなる。
「……な…、奈美って、来年受験だけど、どこ受けるかもう決まってる?」
奈美はこちらに振り返って答える。
同時にボクは、顔の紅潮がバレないように、素早くタオルで顔を拭くフリをしてそれを隠した。
「家のこともあるし、近くの女子高を受けようかと…」
それを聞いてボクは密かに胸を撫で下ろす。
よかった。
悪い虫(男)の心配はなさそう…。
奈美は美人だし、男女問わずモテる。
だから心配だったのだ。
門下生の中にも、奈美のことが気になる奴が何人かいるようだし(そんな奴はことごとくボクが稽古で叩きのめしてるけど)。
「さ、続けよう」
「う、うん」
慌てて立ち上がり、位置につく。
そして、奈美の一声で再び2人だけの稽古が始まった。
蝉の声、どこからか聞こえる心地のいい風鈴の音、鹿威しの音、出入り口からわずかに入り込む涼しい風。
この空間にいるだけで、ボクはとても満たされる。
優越感に浸りたくなる。
どうか、この空間を壊さないでほしい。
そう願っていれば、誰も壊しはしないと思っていた。
思っていたのに…。
「悟が…、死んだ…?」
トラックの爆発に巻き込まれ、悟は焼死したらしい。
なんて苦しい死に方だ。
奈美のお母さんはショックのあまり寝込んでしまい、奈美は部屋に閉じこもってしまった。
今まで、奈美と口を利かなかった日なんてあっただろうか。
用がある時でも、ない時でも、構わずボク達は会えない日でも電話などでくだらないことなどを話したりしていた。
葬儀には当然ボクも出席した。
慣れないスーツを着て、参列する。
奈美と、奈美のお母さんは始終泣いていた。
ボクは悟の遺影を見つめる。
そこには、黒い額縁に囲まれた笑顔の悟が写っていた。
悟の亡骸を見ることは叶わなかった。
亡骸は顔がわからないほど真っ黒に焼けてしまっていたからだ。
火葬場へと向かい、悟と最後の別れを済ませてから外へと出る。
火葬場の煙突からは黒煙が上がっていた。
あれが悟なのか。
コブシを握りしめ、目元の熱を静かに感じ取る。
なんでだよ、悟。
一緒に奈美を守っていこうって言ったじゃないか…!
我慢していた涙が一気に瞳から溢れ出た。
隣を見ると、奈美が泣きながらこちらを見つめていた。
ボクは思わず奈美の体を強く抱きしめる。
途端に、奈美はボクの背中に両手をまわし、嗚咽を漏らしてさらに泣いた。
「悟…、悟…っ」
ボクも奈美も何度もその名を口にする。
「!?」
その時、急に奈美がその場に崩れるように倒れた。
「奈美!?」
急いで奈美を抱き起こす。
先生と他の人たちも駆けつけてきた。
「奈美! しっかり…!」
瞳を開けた奈美を見て、思わずドキリとする。
気のせいか、奈美の瞳が妖しく赤く光ったのだ。
とりあえず、体に異常はなかったようだが、次の日からだ。
奈美がボクを避けるようになったのは。
奈美はなにかを追いかけているようにも見えた。
憎しみの目で。
けれど、奈美はなにも言わなかった。
ボクも、聞かなかった。
「なんでもない」とあしらわれてしまいそうで、聞くのを躊躇ってしまったんだ。
そして奈美は、家を飛び出してどこかへと行ってしまった。
*****
それを先生から聞いて道場を飛び出したボクは、街中を捜したが、奈美の姿は見つからなかった。
「どうしていつもボクの先を歩いて行ってしまうんだよ、奈美…! ボクが年下だから!? いつまで経っても勝てないから!?」
走りまわった挙句、街のど真ん中で止まって肩で息をしながらボクは叫んだ。
「ボクじゃ、キミを守れないのか!!?」
.
「奈美はボクが守る」
悟が死ぬ1年くらい前だろうか。
稽古が始まる前に、道場の裏で悟とそんなことを話していた。
きっかけはなんだったのか覚えていないが、ボクと悟にとっては真剣な話だった。
道着のボクとランドセルを背負ったままの悟が向かい合っていた。
悟は顔をしかめて言い返す。
「姉ちゃんを守るのはオレだよ!」
悟も奈美のことを守りたいのだ。
悟は言葉を継ぐ。
「だってカオルって、姉ちゃんに勝ったことねえし、年下だろ」
「うっ」
胸にグサリと悟の言葉が突き刺さる。
最近になって、やっと「奈美姉ちゃん」から卒業したというのに。
小さい頃から、奈美と悟と常に一緒だが、悟も言うようになったものだ。
奈美だけじゃなく、悟に負けるのだけは避けなきゃいけない。
だけど、言い返すことができない。
言葉が見つからないんじゃない。
言葉はわかってるが、言えないんだ。
悟は心臓が弱いから、と。
その一言は、ボクよりも惨く深く突き刺さるだろう。
だから、言わない。
「……じゃあ、2人で守っていこうよ」
そう言って、笑みを浮かべた。
悟はキョトンとする。
「2人なら、不足している部分も補えるし……」
なぜそう言ったのか理由を話し始めたとき、
「なにを話しているの?」
「「!!」」
声に気付かれたのか、道着姿の奈美がやってきた。
ボクと悟の体がビクッと震える。
誤魔化すために、お互いさらに近付いて無理矢理話をつくった。
「それでクワガタがスイカの下敷きに……」
「その時、カブトムシがバック転……」
慌てすぎた。
「???」
当然、奈美は、話がわからない、って顔をする。
「カオル、稽古始めるよ?」
「は…、は―――い」
道場に向かう奈美の背中についていく。
顔を悟に振り向け、人差し指を口元に当てた。
同じく、悟も同じ真似をする。
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稽古では見事に奈美に完敗。
門下生が帰ったあと、ボクはもう一度稽古をつけてもらったが、結果は同じ。
何度床に叩きつけられたことか。
「構えが甘い」
「くっ…」
床にうつ伏せになっているボクに奈美は厳しく言った。
ボクは痛みに顔をしかめながら起き上がる。
その時、目の前に真っ白なタオルが差し出された。
「少し休憩しよう」
「あ…、ありがと…」
タオルを受け取り、顔の汗を拭う。
奈美は自分の首にかけたタオルで汗を拭っていた。
とても、その姿は中学生とは思えないような、おとなの色気というものを漂わせていた。
思わず顔がカッと赤くなる。
「……な…、奈美って、来年受験だけど、どこ受けるかもう決まってる?」
奈美はこちらに振り返って答える。
同時にボクは、顔の紅潮がバレないように、素早くタオルで顔を拭くフリをしてそれを隠した。
「家のこともあるし、近くの女子高を受けようかと…」
それを聞いてボクは密かに胸を撫で下ろす。
よかった。
悪い虫(男)の心配はなさそう…。
奈美は美人だし、男女問わずモテる。
だから心配だったのだ。
門下生の中にも、奈美のことが気になる奴が何人かいるようだし(そんな奴はことごとくボクが稽古で叩きのめしてるけど)。
「さ、続けよう」
「う、うん」
慌てて立ち上がり、位置につく。
そして、奈美の一声で再び2人だけの稽古が始まった。
蝉の声、どこからか聞こえる心地のいい風鈴の音、鹿威しの音、出入り口からわずかに入り込む涼しい風。
この空間にいるだけで、ボクはとても満たされる。
優越感に浸りたくなる。
どうか、この空間を壊さないでほしい。
そう願っていれば、誰も壊しはしないと思っていた。
思っていたのに…。
「悟が…、死んだ…?」
トラックの爆発に巻き込まれ、悟は焼死したらしい。
なんて苦しい死に方だ。
奈美のお母さんはショックのあまり寝込んでしまい、奈美は部屋に閉じこもってしまった。
今まで、奈美と口を利かなかった日なんてあっただろうか。
用がある時でも、ない時でも、構わずボク達は会えない日でも電話などでくだらないことなどを話したりしていた。
葬儀には当然ボクも出席した。
慣れないスーツを着て、参列する。
奈美と、奈美のお母さんは始終泣いていた。
ボクは悟の遺影を見つめる。
そこには、黒い額縁に囲まれた笑顔の悟が写っていた。
悟の亡骸を見ることは叶わなかった。
亡骸は顔がわからないほど真っ黒に焼けてしまっていたからだ。
火葬場へと向かい、悟と最後の別れを済ませてから外へと出る。
火葬場の煙突からは黒煙が上がっていた。
あれが悟なのか。
コブシを握りしめ、目元の熱を静かに感じ取る。
なんでだよ、悟。
一緒に奈美を守っていこうって言ったじゃないか…!
我慢していた涙が一気に瞳から溢れ出た。
隣を見ると、奈美が泣きながらこちらを見つめていた。
ボクは思わず奈美の体を強く抱きしめる。
途端に、奈美はボクの背中に両手をまわし、嗚咽を漏らしてさらに泣いた。
「悟…、悟…っ」
ボクも奈美も何度もその名を口にする。
「!?」
その時、急に奈美がその場に崩れるように倒れた。
「奈美!?」
急いで奈美を抱き起こす。
先生と他の人たちも駆けつけてきた。
「奈美! しっかり…!」
瞳を開けた奈美を見て、思わずドキリとする。
気のせいか、奈美の瞳が妖しく赤く光ったのだ。
とりあえず、体に異常はなかったようだが、次の日からだ。
奈美がボクを避けるようになったのは。
奈美はなにかを追いかけているようにも見えた。
憎しみの目で。
けれど、奈美はなにも言わなかった。
ボクも、聞かなかった。
「なんでもない」とあしらわれてしまいそうで、聞くのを躊躇ってしまったんだ。
そして奈美は、家を飛び出してどこかへと行ってしまった。
*****
それを先生から聞いて道場を飛び出したボクは、街中を捜したが、奈美の姿は見つからなかった。
「どうしていつもボクの先を歩いて行ってしまうんだよ、奈美…! ボクが年下だから!? いつまで経っても勝てないから!?」
走りまわった挙句、街のど真ん中で止まって肩で息をしながらボクは叫んだ。
「ボクじゃ、キミを守れないのか!!?」
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